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プロローグ
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その日は異常だった。
8月であるものの朝から日本全国が大雨で雷が鳴り響く。昼を過ぎると洪水や土砂崩れの被害が各地で発生し夕方には小さな震度の地震が全国で何度か起きた。
「まったくどうなっているんだ?」
日本国総理大臣の平沢淳太郎は総理官邸地下1階にある危機管理センターで入ってくる全国からの被害報告や気象の変化に困惑していた。
地震や水害などの自然災害に遭うのは珍しい事ではないが今日はずっと異常な現象が続くのが不気味でならない。
「宮城県の被害報告です」
平沢の秘書がA4用紙にまとめた報告書を平沢に渡す。
「あそこが土砂崩れか。すぐに見舞いに行こう」
平沢は宮城県の選挙区出身である。その地元の被害状況を秘書が調べてまとめたのだ。平沢は支持者の居る地域が被害に遭っていると分かると帰郷して見舞いをするスケジュールを秘書に立てるように指示する。
「総理。このまま被害が全国規模で拡大しますと災害派遣に出ている自衛隊員だけでは対応が厳しくなります。予備自衛官の招集を検討しましょう」
防衛大臣の永安光三が平沢に求めた。
洪水や土砂災害の発生で自衛隊は自治体の要請で捜索救難や住民避難の支援に当っていた。だが全国規模で災害が発生し現在では各地の陸自部隊が出動していた。このまま被害が広がればより人員を投入する必要もあるし交代要員が必要になる。そこで自衛隊の予備戦力たる予備自衛官の招集を求めたのだ。
「そうだな。必要な時はいつでも出せるようにしよう」
そう答えた平沢であったがこの災害はそんなに長引かないだろうと根拠は無いが楽観していた。明日には日本の上空から忌々しい雨雲が消えて青天になるだろう。そうなればすぐに選挙区である地元へ帰り支持者を見舞い、軽井沢で夏休みだと考えていた。
「気象庁より緊急です!震度6以上の地震が発生します!」
危機管理センターの職員が叫ぶ。
(冗談じゃないよ!)
平沢は心中で毒づく。
「震源は北海道沖から沖縄沖の太平洋です」
危機管理センターにあるモニターには震源の位置が映し出されている。
「これはどうなっているんだ?」
誰もがそう思った。震源はまるで帯のように北海道の釧路沖から本州の太平洋岸に沿い沖縄県の最南端まで続いている。こんな震源は見た事がない。
「すぐに地震が来るぞ!」
「警報はもう出ているのか?」
センター内では職員達が迫る危機に慌てながら対応に追われている。平沢はそんな様子を呆然と見守る。
(これじゃ地元へすぐに帰れんな)
平沢にはそれしか今は考えられなかった。
ほどなく地震の揺れが徐々に室内を揺らし始めた。机やPCからガタガタと音を立てる。その揺れが一段と大きくなる時だった。
意識が暗転するように真っ暗になった。
この意識の暗転は平沢だけではなく平沢の周囲に居る閣僚や危機管理センターの職員もであったが、実は日本列島全体に居る人達皆がそうであった。
いきなり失神のように意識が暗転した。
それは地震発生と同時に一斉にであった。日本中が意識を失った時に日本中の時間も止まっていた。何もかもが止まっていた。人や物だけではなく雨粒も雷も動きを止めて宙に浮いているようになっている。
自然から人間にまで及んだ異常現象は次の段階へと進む。
日本中の人々が意識を取り戻した時も急であった。
それぞれが持つ時計は5秒から10秒ぐらいしか進んでいない。しかし突然意識が飛んだような感覚を誰もが抱いていた。
それは疲れが溜まり気を緩めた時に一瞬だけ寝ていたような感覚だ。そんな感想を抱きながら人々は寝ぼけたように自分の起きた事と周囲に変化が無いか確かめる。
まず分かったのは雨と雨を降らせた雲が無くなり晴れている事だ。地方では星空が見え災害をもたらした雨雲が消えた爽快な気分を人々に与えた。
「どうなっているんだ?」
官邸危機管理センターでは事態をよく理解できていなかった。
集まる情報を整理すると大雨を降らせた日本列島を覆う雨雲が一瞬にして消滅した。発生した筈の大地震での被害は確認されていない事も分かった。
「何だがキツネに化かされたとでも言う気分だ」
官房長官の岸野一雄はこの奇妙な事態を言い表した。一瞬で雲が消えて起きた筈の地震が無かったようになっている。大雨で生じた洪水と土砂崩れは残ってはいるが。
「まあ、鎮まったんだ。良かった良かった」
平沢は困惑気味ながらも忌々しい災害から解放された事を喜んだ。
「後は専門家さんの仕事ですな」
岸野も考えても答えが出ない現象について考えるよりも災害の収束に安堵した。
「では休ませて貰おうかな。明日は早いし」
平沢は現時点で一番大きな土砂災害が起きている熊本県へ視察に行く事が決まっていた。
「今日はご苦労様でした」と岸野は平沢を見送った。
「総理の性格が羨ましいですな。私もあんなマイペースでありたいよ」
永安が皮肉のように言う。
「いやいや、ああ見えて結構焦る人だよ」
平沢に近い岸野は否定した。
総理大臣平沢は良く言えばマイペースであり悪く言えば鈍感な性格である。この性格が国会での論戦では野党の質問をのらりくらりと返すのに助かっている。
「さて、私らも後は任せて戻りますかな」
岸野と安永は危機管理センターで指揮を執る内閣危機管理監と内閣副官房長補に後を任せる事にした。岸野は官邸での記者会見の準備に入り安永は防衛省へ戻った。
災害がこれ以上進まないと判断したのは午後9時だった。
けれどもより大きな災厄が迫っている。いや既に異常な事態になっている事をまだ日本のに居る多くの者達はまだ知らない。
異変をまず感じたのはインターネットで海外のニュースサイトやツイッターを巡るネットサーフィンをしている人達だった。
ロシア関係の部分を見るとソビエトの単語が現在のニュースでやたらにある。「ソ連の動向は」と現在進行の出来事で記事が書かれている。見た日本人はジョークだとまず笑い、ジョークにしては数が多くどう見ても真面目な記事で戸惑いはじめた。
また日本国外の無線を傍受するアマチュアや自衛隊や在日米軍の通信部隊はロシアからの無線発信が乏しい事に気づく。ロシアの極東地域が異様に静かなのだ。
こうしたロシアに関するおかしい部分は他の国でもだった。大統領や首相・国王などの様々な国の国家元首が違う人物であることが分かり、歌手や俳優・作家など有名人が知らない者たちばかりだった。こうした日本の外でのおかしな様子はネット界隈でしかまだ騒がれていなかった。
日本全体がこのおかしな様子に気づくのはまだ少し先である。
おかしな様子にネットと無線で気がついたのが午後9時30分から午後10時にかけてであり日本全体はこの日に朝から起きていた一連の災害についてしかまだ気が回ってないからだ。
迫る災厄を知る最初の日本人は間宮海峡の公海で哨戒任務を行っている潜水艦「せとしお」だった。軍備の近代化、とりわけ海軍の増強に熱心である中国への備えが重視されつつあるがロシアも仮想敵として自衛隊は警戒を緩めてはいない。
この間宮海峡に潜行している「せとゆき」は極東ロシア軍の動きを監視する任務も帯びていた。
そんな「おやしお」の艦長は睡眠中のところを当直に当っている副長に起こされた。
「5分前に大規模な艦隊を探知しました。我が艦より10時方向です」
発令所へ副長は艦長を発令所へ連れて行きながら探知したと言う艦隊についての情報を報告する。
「さて艦隊を見ようじゃないか」
艦長は発令所に着くとすぐに潜望鏡へ取り付く。
「せとゆき」は深度20メートルで露頂哨戒していた。露頂哨戒は潜望鏡やESM(電波探知機)を出しながら行う哨戒活動である。
「せとゆき」は深度を変えず潜望鏡の向きを変えるだけで迫る艦隊を見ることが出来た。時間は午前2時である。赤外線の暗視装置で近づく艦隊を見る。
「あれは珍しいな。ゲパルド級だ」
艦長は潜望鏡に映る艦影を見て驚いた。艦隊の先頭を進むのはカスピ海にだけ配備されてる筈のロシアのフリゲイト艦「ゲパルド」であったからだ。
「ゲパルドの後ろにグリシャ級だ。対潜部隊が前衛だな」
ゲパルドもグリシャ級も対潜艦である。特にゲパルド級は大型ソナーを備えている。
「見つかってますな」
副長はそう言うが軽い口調である。日露は戦争状態にはない。公海上でこういう哨戒任務をしているからと攻撃される事はないからだ。
「だろうな。挨拶でもしてやるか」
艦長は冗談を言いながら潜望鏡でロシア艦隊を見つめる。
「対潜部隊の後ろはソブレメンヌイにウダロイか。まだまだいる。副長、潜水隊艦隊司令部へ報告しろ。ロシア太平洋艦隊が東進中」
そう指示した時だった。艦長の目に「グリシャ」級の艦橋の前が幾度も光るのを見た。
「おい・・・・まさか」
「グリシャ」級の前部には多連装の対潜ロケット発射機RBU-6000が2基ある。艦長の見た光は対潜ロケット弾が連続して発射された瞬間だった。
だが艦長はこれがどこへ向けて発射されたものか何故撃ったのか分からなかった。
その逡巡が「せとゆき」の運命を決めた。
放たれた対潜ロケット弾は「せとゆき」の頭上へ降り注ぎ5発が「せとゆき」の船体に直撃して炸裂した。
そこへ「せとゆき」の周りの海中で炸裂する衝撃も加え「せとゆき」は浅い海で潰されるように沈められた。艦長以下乗員の誰もが何が起こったか理解できぬまま。
これが迫る災厄での最初の犠牲者だった。
次に迫る災厄に向き合うのは「せとゆき」の撃沈から1時間40分後の午前3時40分だった。
「奥尻島と礼文島のレーダーサイトが沈黙!ミサイルらしきものが接近と報告がありました」
青森県三沢基地にある航空自衛隊北部航空方面隊の司令部では北海道の西にある二つの島に置かれたレーダーサイトが攻撃を受けたらしいと言う情報を受けて緊迫していた。
方面隊司令の伊東謙祐空将が当直より携帯電話ですぐに起こされ三沢市内の自宅から急いで向かう。基地まで5分ほどだが事態は更に進行していた。
北海道北部の稚内にあるレーダーサイトもミサイルらしきものを探知した報告があった直後に連絡は絶えた。代わりに稚内の消防署から稚内のレーダーサイトが炎上していると言う連絡が来た。
北海道西部の警戒監視網に穴が開いた状態に司令の代わりに指揮を執っている副司令の井本勝典空将補は背筋が凍る思いになった。無防備な穴が開いたのだ。国籍不明機が侵入しても探知ができないのだから。
(E-2Cを飛ばすべきだな)
井本は破壊されたレーダーサイトの穴埋めに早期警戒機のE-2Cを飛ばすべきだと考えた。
「司令。奥尻・礼文・稚内のレーダーサイトがやられました。穴埋めにE-2Cを飛ばそうと思います」
井本は携帯電話で基地から迎えに出た業務車3号もといセダンに乗っている伊東へ意見具申した。
「いいぞ。すぐに飛ばせ」
伊東はすぐに許可を出した。だがE-2Cは三沢基地にある。北海道北部まで少し時間が必要だ。
(この間に侵入されたらマズイな)
井本はレーダーサイトの攻撃が外敵による侵攻を狙ったものだと理解していた。外敵の接近を見張る目であるレーダーサイトを潰して進軍するのが侵攻作戦の基本だからだ。
「司令。千歳基地に警戒態勢を命じたいのですが」
井本は携帯電話でセダンの伊東へ許可を求める。
「いいだろう。高射も飛行隊も臨戦態勢だ。弾薬の支給も許可する」
伊東もレーダーサイトが攻撃されたのは外敵の襲来の兆しと思っていた。
「それとすぐにアラートの戦闘機を出そう。千歳と三沢の待機している全部だ。千歳基地の上空で警戒に当たらせろ」
伊東も指示を出す。
アラートはは緊急出動のスクランブルができるようにしている待機の事を指す。この場合のスクランブルは国籍不明機が領空侵犯した場合に出動する事だ。空自では2機づつ5分待機と30分待機の二組に分かれて待機している。
伊東の命令を受けた千歳基地と三沢基地から戦闘機が離陸する。まずは5分待機の2機である。千歳からは第201飛行隊のF-15Jが三沢基地からは第3飛行隊のF-2が飛び立つ。
残る30分待機の2機の出動準備が両基地で大急ぎで進められる。
「副司令!千歳空港の管制から連絡です。北海道の西から接近する編隊について問い合わせています」
「千歳基地の警戒隊が国籍不明機を探知!数は100機以上!領空まで10マイル」
民間空港と千歳基地のレーダーが国籍不明機を捉えたのだ。
「来たか。航空総隊司令部へ連絡は?」
三沢基地に到着した伊東は井本へ北部航空方面隊を指揮下に置いている空自戦闘部隊の一元統括する司令部である航空総隊司令部へこの事態を連絡したのか問う。
「国籍不明機接近を含めてしてあります」
「よし。これで防衛省と総理のところへ連絡は行っているな」
伊東はこの事態が防衛省と総理大臣へ少しでも早く知らせるべきだと思っていた。そうしなければ全力での応戦ができない。できるのは基地上空に達した場合の防戦ぐらいだろう。
「不明機はロシア機だろうな。北朝鮮や中国の空軍じゃ北海道には来れんだろう」
「そうであっても何故ロシアが攻撃を?」
伊東も井本もそこが腑に落ちない。日露間は北方領土問題があるとはいえ対立状態にはない。ロシア軍の爆撃機で日本近海の上空を飛び回り、日本の領海近くを艦隊で通るなどの示威行為は受けるが米ソ冷戦時代のような睨み見合いはしていない。
「ロシアが中国軍に基地を貸している。いやそれはないですね」
井本は自分で考え自分で否定した。
「そんな大きな動きならとっくに知っている筈だからな」
伊東が言う知っている理由は中国から中国軍機が数多くロシア軍の基地へ移動するとなれば自衛隊のレーダーや通信傍受・情報収集衛星でその動きを察知できているだろうし米軍の情報でより裏づけられる。
「ロシア軍だとしても作戦準備の兆候はありませんでしたよ」
「そこが妙なんだ。100機以上の機体が動くのを全く掴めないなんて現代にあるか?」
着々と迫る100機のロシア軍機らしき不明機。100機の軍用機が動くとなれば基地に集結する時の無線交信や物資の移動などで動きを掴める。だがそんな情報は無くいきなりの襲来である。伊東も井本も納得が出来ない。
伊東と井本が100機の不明機の正体について論じている間にその不明機の編隊は積丹半島沖の領空に入った。即座に不明機は領空侵犯をした侵犯機と認定された。
「警告をせねばな。バッターを侵犯機の編隊へ向かわせろ」
伊東は千歳基地から発進した2機のF-15。コールサインがバッターの2機に積丹半島から北海道の上空へ侵入しようとする侵犯機へ接近し警告せよと命じた。
「ただし。侵犯機が攻撃をしてきた場合はすぐに回避し不明機から離れよ」
たった2機に対して100機である。レーダーサイトを攻撃される事態である。いきなり撃たれる可能性は高い。
「侵犯機の編隊が分離。数は4機。バッターへ向かいます!」
レーダーの画面は侵犯機の編隊の塊から飛び出すように4機が速度を上げてバッターへ向かう様子が報告と共に見えた。
「こちらから攻撃してはならんぞ」
伊東は釘を刺すように言う。まだ政府から防衛出動命令は出ていない。攻撃を受けていない状況でも無い今では警告射撃しかできない。
「warning!warning!Japanese territorial airspace is invaded.!(警告!警告!日本の領空を侵犯している!)」
司令部のオペレーターが無線で侵犯機へ向けて英語とロシア語で交互に警告する。だが侵犯機から返事は無いし進路を変える様子も無い。
「バッターに迫る4機は攻撃する気ですよ。バッターから警告はできない」
井本の重い声。だが伊東は分かっていると「だろうな」と応える。
「バッターより侵犯機からのミサイル発射!」
伊東と井本は息を呑んだ。バッターのF-15が侵犯機が発射したミサイルを探知したのだ。
「バッター、すぐに離脱せよ!」
反射的に伊東は命じた。
対するバッターの2機はすぐに急旋回して離脱にかかった。追跡する4機から放たれたミサイルが手や爪のようにバッターへと突き進む。バッターの2機はレーダーを撹乱する欺瞞紙であるチャフを撒きミサイルの矛先をかわす急機動を繰り返す。
「三沢へホームインと行こう」
バッターのフライトリーダーである高梨三等空佐は僚機の中里一等空尉へ三沢基地への退避を命じた。その命じ方はコールサインのバッターに違わぬものだ。
「侵犯機なおも接近中!」
レーダーの画面は三沢基地へと向かうバッターを追う4機の影を映す。
「ドラムにバッターの救援に向かわせましょう」
井本が伊東へ提案した。ドラムは三沢基地から発進した2機のF2戦闘機のコールサインである。
「そうしよう」
伊東はすぐに許可した。
「バッターはドラムと合流せよ。もしも侵犯機がなおも攻撃した場合は回避し三沢基地へ退避せよ」
4機対4機になったかと言っても空戦をさせる気は伊東には無かった。
「もう我々はミサイル攻撃を受けています。応戦しましょう」
井本は伊東へ交戦許可を求めた。
「いかん。バッターがドラムに合流できて交戦し2機か4機を落として撃墜されては意味が無い。何よりこっちは予備戦力が無いんだぞ」
伊東はこれから戦いが続くと思っていた。一度だけの戦闘で貴重なパイロットと機材を失いたくないと考えていた。
また空自に予備戦力なるものはない。機材とパイロットが失われても補充はされない。他の航空方面隊から飛行隊を援軍に寄越して貰うしかない。
「捲土重来を期すのだ。次の戦いは北空の全力でやるために」
司令部に居る皆やバッターとドラムのパイロットへ向けて伊東は言った。まだ北部航空方面隊はおろか自衛隊そのものが戦闘状態にはないのだから。
伊東の意志を聞いたバッターとドラムからは了解の返答がした。
「侵犯機がバッターより離れます」
バッターを追う4機の侵犯機は編隊の方へ戻っていく。ほっと安堵したいところだがレーダーの画面はより緊迫の様子を映し出す。
「侵犯機。積丹半島上空に侵入。南下中です」
とうとう侵犯機が北海道の上空に入った。
「千歳基地の対空戦闘準備は?」
「現在、弾薬を弾庫より出す作業中で戦闘準備は整っていません」
「そうか仕方ない」
弾薬を常に装弾している訳ではない。平時であるからこそ実弾は弾薬庫に置いてあるのだ。
「侵犯機が千歳基地へ進路を向けた場合は戦闘よりも避難だ。北海道庁への連絡をしてくれ。それと千歳市にもだ」
攻撃を受けるだけだと分かった伊東は北海道の行政に危険を報せようと考えた。
「すぐに繋がるでしょうか?こちらからの直通回線も連絡するようになっていません」
国民保護に関わる連絡や指示は政府から送られる。だが自衛隊から自治体へ有事が発生すると連絡する取り決めは無い。
「この危機を分かっているのは俺たちだけだ。やるしかない」
だが一般の電話回線からの連絡はなかなか繋がらない。
「侵犯機が羊蹄山で進路を東へ変えました」
侵犯機の編隊は一直線に千歳基地へ向かっているのがはっきりと分かった。
「司令。これで開戦ですか?」
井本が問う。
「そうであってほしくない」
伊東は拒むように答えた。
8月であるものの朝から日本全国が大雨で雷が鳴り響く。昼を過ぎると洪水や土砂崩れの被害が各地で発生し夕方には小さな震度の地震が全国で何度か起きた。
「まったくどうなっているんだ?」
日本国総理大臣の平沢淳太郎は総理官邸地下1階にある危機管理センターで入ってくる全国からの被害報告や気象の変化に困惑していた。
地震や水害などの自然災害に遭うのは珍しい事ではないが今日はずっと異常な現象が続くのが不気味でならない。
「宮城県の被害報告です」
平沢の秘書がA4用紙にまとめた報告書を平沢に渡す。
「あそこが土砂崩れか。すぐに見舞いに行こう」
平沢は宮城県の選挙区出身である。その地元の被害状況を秘書が調べてまとめたのだ。平沢は支持者の居る地域が被害に遭っていると分かると帰郷して見舞いをするスケジュールを秘書に立てるように指示する。
「総理。このまま被害が全国規模で拡大しますと災害派遣に出ている自衛隊員だけでは対応が厳しくなります。予備自衛官の招集を検討しましょう」
防衛大臣の永安光三が平沢に求めた。
洪水や土砂災害の発生で自衛隊は自治体の要請で捜索救難や住民避難の支援に当っていた。だが全国規模で災害が発生し現在では各地の陸自部隊が出動していた。このまま被害が広がればより人員を投入する必要もあるし交代要員が必要になる。そこで自衛隊の予備戦力たる予備自衛官の招集を求めたのだ。
「そうだな。必要な時はいつでも出せるようにしよう」
そう答えた平沢であったがこの災害はそんなに長引かないだろうと根拠は無いが楽観していた。明日には日本の上空から忌々しい雨雲が消えて青天になるだろう。そうなればすぐに選挙区である地元へ帰り支持者を見舞い、軽井沢で夏休みだと考えていた。
「気象庁より緊急です!震度6以上の地震が発生します!」
危機管理センターの職員が叫ぶ。
(冗談じゃないよ!)
平沢は心中で毒づく。
「震源は北海道沖から沖縄沖の太平洋です」
危機管理センターにあるモニターには震源の位置が映し出されている。
「これはどうなっているんだ?」
誰もがそう思った。震源はまるで帯のように北海道の釧路沖から本州の太平洋岸に沿い沖縄県の最南端まで続いている。こんな震源は見た事がない。
「すぐに地震が来るぞ!」
「警報はもう出ているのか?」
センター内では職員達が迫る危機に慌てながら対応に追われている。平沢はそんな様子を呆然と見守る。
(これじゃ地元へすぐに帰れんな)
平沢にはそれしか今は考えられなかった。
ほどなく地震の揺れが徐々に室内を揺らし始めた。机やPCからガタガタと音を立てる。その揺れが一段と大きくなる時だった。
意識が暗転するように真っ暗になった。
この意識の暗転は平沢だけではなく平沢の周囲に居る閣僚や危機管理センターの職員もであったが、実は日本列島全体に居る人達皆がそうであった。
いきなり失神のように意識が暗転した。
それは地震発生と同時に一斉にであった。日本中が意識を失った時に日本中の時間も止まっていた。何もかもが止まっていた。人や物だけではなく雨粒も雷も動きを止めて宙に浮いているようになっている。
自然から人間にまで及んだ異常現象は次の段階へと進む。
日本中の人々が意識を取り戻した時も急であった。
それぞれが持つ時計は5秒から10秒ぐらいしか進んでいない。しかし突然意識が飛んだような感覚を誰もが抱いていた。
それは疲れが溜まり気を緩めた時に一瞬だけ寝ていたような感覚だ。そんな感想を抱きながら人々は寝ぼけたように自分の起きた事と周囲に変化が無いか確かめる。
まず分かったのは雨と雨を降らせた雲が無くなり晴れている事だ。地方では星空が見え災害をもたらした雨雲が消えた爽快な気分を人々に与えた。
「どうなっているんだ?」
官邸危機管理センターでは事態をよく理解できていなかった。
集まる情報を整理すると大雨を降らせた日本列島を覆う雨雲が一瞬にして消滅した。発生した筈の大地震での被害は確認されていない事も分かった。
「何だがキツネに化かされたとでも言う気分だ」
官房長官の岸野一雄はこの奇妙な事態を言い表した。一瞬で雲が消えて起きた筈の地震が無かったようになっている。大雨で生じた洪水と土砂崩れは残ってはいるが。
「まあ、鎮まったんだ。良かった良かった」
平沢は困惑気味ながらも忌々しい災害から解放された事を喜んだ。
「後は専門家さんの仕事ですな」
岸野も考えても答えが出ない現象について考えるよりも災害の収束に安堵した。
「では休ませて貰おうかな。明日は早いし」
平沢は現時点で一番大きな土砂災害が起きている熊本県へ視察に行く事が決まっていた。
「今日はご苦労様でした」と岸野は平沢を見送った。
「総理の性格が羨ましいですな。私もあんなマイペースでありたいよ」
永安が皮肉のように言う。
「いやいや、ああ見えて結構焦る人だよ」
平沢に近い岸野は否定した。
総理大臣平沢は良く言えばマイペースであり悪く言えば鈍感な性格である。この性格が国会での論戦では野党の質問をのらりくらりと返すのに助かっている。
「さて、私らも後は任せて戻りますかな」
岸野と安永は危機管理センターで指揮を執る内閣危機管理監と内閣副官房長補に後を任せる事にした。岸野は官邸での記者会見の準備に入り安永は防衛省へ戻った。
災害がこれ以上進まないと判断したのは午後9時だった。
けれどもより大きな災厄が迫っている。いや既に異常な事態になっている事をまだ日本のに居る多くの者達はまだ知らない。
異変をまず感じたのはインターネットで海外のニュースサイトやツイッターを巡るネットサーフィンをしている人達だった。
ロシア関係の部分を見るとソビエトの単語が現在のニュースでやたらにある。「ソ連の動向は」と現在進行の出来事で記事が書かれている。見た日本人はジョークだとまず笑い、ジョークにしては数が多くどう見ても真面目な記事で戸惑いはじめた。
また日本国外の無線を傍受するアマチュアや自衛隊や在日米軍の通信部隊はロシアからの無線発信が乏しい事に気づく。ロシアの極東地域が異様に静かなのだ。
こうしたロシアに関するおかしい部分は他の国でもだった。大統領や首相・国王などの様々な国の国家元首が違う人物であることが分かり、歌手や俳優・作家など有名人が知らない者たちばかりだった。こうした日本の外でのおかしな様子はネット界隈でしかまだ騒がれていなかった。
日本全体がこのおかしな様子に気づくのはまだ少し先である。
おかしな様子にネットと無線で気がついたのが午後9時30分から午後10時にかけてであり日本全体はこの日に朝から起きていた一連の災害についてしかまだ気が回ってないからだ。
迫る災厄を知る最初の日本人は間宮海峡の公海で哨戒任務を行っている潜水艦「せとしお」だった。軍備の近代化、とりわけ海軍の増強に熱心である中国への備えが重視されつつあるがロシアも仮想敵として自衛隊は警戒を緩めてはいない。
この間宮海峡に潜行している「せとゆき」は極東ロシア軍の動きを監視する任務も帯びていた。
そんな「おやしお」の艦長は睡眠中のところを当直に当っている副長に起こされた。
「5分前に大規模な艦隊を探知しました。我が艦より10時方向です」
発令所へ副長は艦長を発令所へ連れて行きながら探知したと言う艦隊についての情報を報告する。
「さて艦隊を見ようじゃないか」
艦長は発令所に着くとすぐに潜望鏡へ取り付く。
「せとゆき」は深度20メートルで露頂哨戒していた。露頂哨戒は潜望鏡やESM(電波探知機)を出しながら行う哨戒活動である。
「せとゆき」は深度を変えず潜望鏡の向きを変えるだけで迫る艦隊を見ることが出来た。時間は午前2時である。赤外線の暗視装置で近づく艦隊を見る。
「あれは珍しいな。ゲパルド級だ」
艦長は潜望鏡に映る艦影を見て驚いた。艦隊の先頭を進むのはカスピ海にだけ配備されてる筈のロシアのフリゲイト艦「ゲパルド」であったからだ。
「ゲパルドの後ろにグリシャ級だ。対潜部隊が前衛だな」
ゲパルドもグリシャ級も対潜艦である。特にゲパルド級は大型ソナーを備えている。
「見つかってますな」
副長はそう言うが軽い口調である。日露は戦争状態にはない。公海上でこういう哨戒任務をしているからと攻撃される事はないからだ。
「だろうな。挨拶でもしてやるか」
艦長は冗談を言いながら潜望鏡でロシア艦隊を見つめる。
「対潜部隊の後ろはソブレメンヌイにウダロイか。まだまだいる。副長、潜水隊艦隊司令部へ報告しろ。ロシア太平洋艦隊が東進中」
そう指示した時だった。艦長の目に「グリシャ」級の艦橋の前が幾度も光るのを見た。
「おい・・・・まさか」
「グリシャ」級の前部には多連装の対潜ロケット発射機RBU-6000が2基ある。艦長の見た光は対潜ロケット弾が連続して発射された瞬間だった。
だが艦長はこれがどこへ向けて発射されたものか何故撃ったのか分からなかった。
その逡巡が「せとゆき」の運命を決めた。
放たれた対潜ロケット弾は「せとゆき」の頭上へ降り注ぎ5発が「せとゆき」の船体に直撃して炸裂した。
そこへ「せとゆき」の周りの海中で炸裂する衝撃も加え「せとゆき」は浅い海で潰されるように沈められた。艦長以下乗員の誰もが何が起こったか理解できぬまま。
これが迫る災厄での最初の犠牲者だった。
次に迫る災厄に向き合うのは「せとゆき」の撃沈から1時間40分後の午前3時40分だった。
「奥尻島と礼文島のレーダーサイトが沈黙!ミサイルらしきものが接近と報告がありました」
青森県三沢基地にある航空自衛隊北部航空方面隊の司令部では北海道の西にある二つの島に置かれたレーダーサイトが攻撃を受けたらしいと言う情報を受けて緊迫していた。
方面隊司令の伊東謙祐空将が当直より携帯電話ですぐに起こされ三沢市内の自宅から急いで向かう。基地まで5分ほどだが事態は更に進行していた。
北海道北部の稚内にあるレーダーサイトもミサイルらしきものを探知した報告があった直後に連絡は絶えた。代わりに稚内の消防署から稚内のレーダーサイトが炎上していると言う連絡が来た。
北海道西部の警戒監視網に穴が開いた状態に司令の代わりに指揮を執っている副司令の井本勝典空将補は背筋が凍る思いになった。無防備な穴が開いたのだ。国籍不明機が侵入しても探知ができないのだから。
(E-2Cを飛ばすべきだな)
井本は破壊されたレーダーサイトの穴埋めに早期警戒機のE-2Cを飛ばすべきだと考えた。
「司令。奥尻・礼文・稚内のレーダーサイトがやられました。穴埋めにE-2Cを飛ばそうと思います」
井本は携帯電話で基地から迎えに出た業務車3号もといセダンに乗っている伊東へ意見具申した。
「いいぞ。すぐに飛ばせ」
伊東はすぐに許可を出した。だがE-2Cは三沢基地にある。北海道北部まで少し時間が必要だ。
(この間に侵入されたらマズイな)
井本はレーダーサイトの攻撃が外敵による侵攻を狙ったものだと理解していた。外敵の接近を見張る目であるレーダーサイトを潰して進軍するのが侵攻作戦の基本だからだ。
「司令。千歳基地に警戒態勢を命じたいのですが」
井本は携帯電話でセダンの伊東へ許可を求める。
「いいだろう。高射も飛行隊も臨戦態勢だ。弾薬の支給も許可する」
伊東もレーダーサイトが攻撃されたのは外敵の襲来の兆しと思っていた。
「それとすぐにアラートの戦闘機を出そう。千歳と三沢の待機している全部だ。千歳基地の上空で警戒に当たらせろ」
伊東も指示を出す。
アラートはは緊急出動のスクランブルができるようにしている待機の事を指す。この場合のスクランブルは国籍不明機が領空侵犯した場合に出動する事だ。空自では2機づつ5分待機と30分待機の二組に分かれて待機している。
伊東の命令を受けた千歳基地と三沢基地から戦闘機が離陸する。まずは5分待機の2機である。千歳からは第201飛行隊のF-15Jが三沢基地からは第3飛行隊のF-2が飛び立つ。
残る30分待機の2機の出動準備が両基地で大急ぎで進められる。
「副司令!千歳空港の管制から連絡です。北海道の西から接近する編隊について問い合わせています」
「千歳基地の警戒隊が国籍不明機を探知!数は100機以上!領空まで10マイル」
民間空港と千歳基地のレーダーが国籍不明機を捉えたのだ。
「来たか。航空総隊司令部へ連絡は?」
三沢基地に到着した伊東は井本へ北部航空方面隊を指揮下に置いている空自戦闘部隊の一元統括する司令部である航空総隊司令部へこの事態を連絡したのか問う。
「国籍不明機接近を含めてしてあります」
「よし。これで防衛省と総理のところへ連絡は行っているな」
伊東はこの事態が防衛省と総理大臣へ少しでも早く知らせるべきだと思っていた。そうしなければ全力での応戦ができない。できるのは基地上空に達した場合の防戦ぐらいだろう。
「不明機はロシア機だろうな。北朝鮮や中国の空軍じゃ北海道には来れんだろう」
「そうであっても何故ロシアが攻撃を?」
伊東も井本もそこが腑に落ちない。日露間は北方領土問題があるとはいえ対立状態にはない。ロシア軍の爆撃機で日本近海の上空を飛び回り、日本の領海近くを艦隊で通るなどの示威行為は受けるが米ソ冷戦時代のような睨み見合いはしていない。
「ロシアが中国軍に基地を貸している。いやそれはないですね」
井本は自分で考え自分で否定した。
「そんな大きな動きならとっくに知っている筈だからな」
伊東が言う知っている理由は中国から中国軍機が数多くロシア軍の基地へ移動するとなれば自衛隊のレーダーや通信傍受・情報収集衛星でその動きを察知できているだろうし米軍の情報でより裏づけられる。
「ロシア軍だとしても作戦準備の兆候はありませんでしたよ」
「そこが妙なんだ。100機以上の機体が動くのを全く掴めないなんて現代にあるか?」
着々と迫る100機のロシア軍機らしき不明機。100機の軍用機が動くとなれば基地に集結する時の無線交信や物資の移動などで動きを掴める。だがそんな情報は無くいきなりの襲来である。伊東も井本も納得が出来ない。
伊東と井本が100機の不明機の正体について論じている間にその不明機の編隊は積丹半島沖の領空に入った。即座に不明機は領空侵犯をした侵犯機と認定された。
「警告をせねばな。バッターを侵犯機の編隊へ向かわせろ」
伊東は千歳基地から発進した2機のF-15。コールサインがバッターの2機に積丹半島から北海道の上空へ侵入しようとする侵犯機へ接近し警告せよと命じた。
「ただし。侵犯機が攻撃をしてきた場合はすぐに回避し不明機から離れよ」
たった2機に対して100機である。レーダーサイトを攻撃される事態である。いきなり撃たれる可能性は高い。
「侵犯機の編隊が分離。数は4機。バッターへ向かいます!」
レーダーの画面は侵犯機の編隊の塊から飛び出すように4機が速度を上げてバッターへ向かう様子が報告と共に見えた。
「こちらから攻撃してはならんぞ」
伊東は釘を刺すように言う。まだ政府から防衛出動命令は出ていない。攻撃を受けていない状況でも無い今では警告射撃しかできない。
「warning!warning!Japanese territorial airspace is invaded.!(警告!警告!日本の領空を侵犯している!)」
司令部のオペレーターが無線で侵犯機へ向けて英語とロシア語で交互に警告する。だが侵犯機から返事は無いし進路を変える様子も無い。
「バッターに迫る4機は攻撃する気ですよ。バッターから警告はできない」
井本の重い声。だが伊東は分かっていると「だろうな」と応える。
「バッターより侵犯機からのミサイル発射!」
伊東と井本は息を呑んだ。バッターのF-15が侵犯機が発射したミサイルを探知したのだ。
「バッター、すぐに離脱せよ!」
反射的に伊東は命じた。
対するバッターの2機はすぐに急旋回して離脱にかかった。追跡する4機から放たれたミサイルが手や爪のようにバッターへと突き進む。バッターの2機はレーダーを撹乱する欺瞞紙であるチャフを撒きミサイルの矛先をかわす急機動を繰り返す。
「三沢へホームインと行こう」
バッターのフライトリーダーである高梨三等空佐は僚機の中里一等空尉へ三沢基地への退避を命じた。その命じ方はコールサインのバッターに違わぬものだ。
「侵犯機なおも接近中!」
レーダーの画面は三沢基地へと向かうバッターを追う4機の影を映す。
「ドラムにバッターの救援に向かわせましょう」
井本が伊東へ提案した。ドラムは三沢基地から発進した2機のF2戦闘機のコールサインである。
「そうしよう」
伊東はすぐに許可した。
「バッターはドラムと合流せよ。もしも侵犯機がなおも攻撃した場合は回避し三沢基地へ退避せよ」
4機対4機になったかと言っても空戦をさせる気は伊東には無かった。
「もう我々はミサイル攻撃を受けています。応戦しましょう」
井本は伊東へ交戦許可を求めた。
「いかん。バッターがドラムに合流できて交戦し2機か4機を落として撃墜されては意味が無い。何よりこっちは予備戦力が無いんだぞ」
伊東はこれから戦いが続くと思っていた。一度だけの戦闘で貴重なパイロットと機材を失いたくないと考えていた。
また空自に予備戦力なるものはない。機材とパイロットが失われても補充はされない。他の航空方面隊から飛行隊を援軍に寄越して貰うしかない。
「捲土重来を期すのだ。次の戦いは北空の全力でやるために」
司令部に居る皆やバッターとドラムのパイロットへ向けて伊東は言った。まだ北部航空方面隊はおろか自衛隊そのものが戦闘状態にはないのだから。
伊東の意志を聞いたバッターとドラムからは了解の返答がした。
「侵犯機がバッターより離れます」
バッターを追う4機の侵犯機は編隊の方へ戻っていく。ほっと安堵したいところだがレーダーの画面はより緊迫の様子を映し出す。
「侵犯機。積丹半島上空に侵入。南下中です」
とうとう侵犯機が北海道の上空に入った。
「千歳基地の対空戦闘準備は?」
「現在、弾薬を弾庫より出す作業中で戦闘準備は整っていません」
「そうか仕方ない」
弾薬を常に装弾している訳ではない。平時であるからこそ実弾は弾薬庫に置いてあるのだ。
「侵犯機が千歳基地へ進路を向けた場合は戦闘よりも避難だ。北海道庁への連絡をしてくれ。それと千歳市にもだ」
攻撃を受けるだけだと分かった伊東は北海道の行政に危険を報せようと考えた。
「すぐに繋がるでしょうか?こちらからの直通回線も連絡するようになっていません」
国民保護に関わる連絡や指示は政府から送られる。だが自衛隊から自治体へ有事が発生すると連絡する取り決めは無い。
「この危機を分かっているのは俺たちだけだ。やるしかない」
だが一般の電話回線からの連絡はなかなか繋がらない。
「侵犯機が羊蹄山で進路を東へ変えました」
侵犯機の編隊は一直線に千歳基地へ向かっているのがはっきりと分かった。
「司令。これで開戦ですか?」
井本が問う。
「そうであってほしくない」
伊東は拒むように答えた。
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