対超常部隊隊長が副隊長から請われたこと

青木十

文字の大きさ
1 / 16

プロローグ

しおりを挟む
 この日、アメリカ合衆国は――いや、世界は新たな時代を迎えた。


 陸軍所属のアレックスは、アメリカ国防総省本庁舎ペンタゴンの大ホールにいた。
 広いホールには多くのメディアが詰めかけ、所狭しと並べられた椅子に記者やカメラマンが腰掛けている。焚かれ続けるフラッシュ、シャッターを押す電子音、小声で話す記者たちのざわめき。そういったもので溢れていた。

 そんな中、彼が立っている場所はホール中央正面、壇上だった。
 いつもの仲間たちは舞台裏バックステージに控えており、ただ一人だ。正直なところ、たった一人でこのような大舞台に引きずり出されるとは微塵も思っておらず、アレックスは幾ばくかの緊張と、心の何処かで不安、というよりも心細さを抱いていた。

 壇上の端では、軍の御偉方がマイクを手に記者たちへ滔々と説明を繰り返している。今回の会見の主題、世界の変貌について説いていた。
 アレックスはその少しズレた内容に、馬鹿馬鹿しいと呆れを含んだ気持ちで佇んでいた。

 世界が変わっただ?
 まったく、随分とつまらない冗談コーニーなジョークだ。

 先日、日本ジャパンで大きな災害があり、世界は秘匿していた事実を公表することに決めた。どの国も、世界のすべての国が、その事実を公表する道を選んだ。選ばざるを得なかった。
 もちろんこのアメリカ合衆国もである。

 しかし、あのフジ山の噴火がきっかけで、変貌が起きたのではない。
 人々の見ていた世界が事実とは違う、表面的なところばかりだっただけである。
 それ故に――

「この時を以ってして、世界は変異したのだ」

 ――嘘もいいところだと、アレックスは毒づいた。ただし彼も軍人である。もちろん心の中だけでだ。


 世界は、人々が見えている範囲がすべてではない。
 超能力者や異能力者、人を超えるもの、そして人ならざるモノすら存在しているのだ。

 今まではその真実を秘匿し続けてきたが、様々な力の均衡が崩れ、歪さが姿を現し始めた。
 このまま秘匿を続けるのは困難だと、各国の政府や関係各所は判断する。

 こうして、隠してきた事実を詳らかにする時代が訪れたのだった。


 どこの世でも長い御偉方の話が終わり、進行役がマイクを取った。

「我々が有する部隊の一つ、変異した世界に関する事柄への対応を行うのは『対超常部隊APF』です。中央にいる彼が、アレックス・ローウェル大尉、対超常部隊部隊長です」

 それに合わせてアレックスは敬礼する。陸軍の正装で背筋を伸ばし、踵を揃え。多くの者の目には、さぞ経験を積んだ立派な軍人に見えるだろう。何度も練習したのだ。
 進行役がアレックスの経歴を話し始めるにあわせて、姿勢戻した。ただ真っすぐ正面を見据えて時を待つ。

 しかし心の中では「こんなに待たされるなら、呼ばれたら出てくるでよかったじゃねぇか」と毒づいていた。
 それでも『少佐』と呼ばれなかったことに安堵している。この会見の直前、御偉方が「舐められたらいかん、佐官に上げられないか」などと言い始め、一同焦るしかない騒動があったのだ。幸いにもただ階級章を変えるだけではどうにもならないことなので、無事大尉のままだったようだ。
 まあ、こんなおっさんの階級や経歴なんぞ、誰も興味ないだろうとも思っていた。

 そんな思案を悟られぬよう表情を作りながら、アレックスは口を開く。

「ここからは、私、アレックス・ローウェルが『対超常部隊』について説明をさせていただく」

 アレックスは、先程の会見を補足するように話し始めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

お腹いっぱい、召し上がれ

砂ねずみ
BL
 料理研究家でαの藤白蒼は幼なじみで10個下のΩ晃と番になった。そんな二人の間に産まれた照は元気いっぱいな男の子。泣いたり、笑ったり、家族の温かみを感じながら藤白家の日常が穏やかに進んでいく。    そんな愛する妻と愛する息子、大切な家族のお腹いっぱい喜ぶ顔が見たいから。蒼は今日も明日もその先も、キッチンに立って腕を振るう。  さあ、お腹いっぱい、召し上がれ。

最愛の番になる話

屑籠
BL
 坂牧というアルファの名家に生まれたベータの咲也。  色々あって、坂牧の家から逃げ出そうとしたら、運命の番に捕まった話。 誤字脱字とうとう、あるとは思いますが脳内補完でお願いします。 久しぶりに書いてます。長い。 完結させるぞって意気込んで、書いた所まで。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

冷酷なミューズ

キザキ ケイ
BL
画家を夢見て都会へやってきた青年シムは、「体液が絵の具に変わる」という特殊な体質を生かし、貧乏暮らしながらも毎日絵を描いて過ごしている。 誰かに知られれば気持ち悪いと言われ、絵を売ることもできなくなる。そう考えるシムは体質を誰にも明かさなかった。 しかしある日、シムの絵を見出した画商・ブレイズに体質のことがばれてしまい、二人の関係は大きく変化していく。

処理中です...