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プロローグ
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この日、アメリカ合衆国は――いや、世界は新たな時代を迎えた。
陸軍所属のアレックスは、アメリカ国防総省本庁舎の大ホールにいた。
広いホールには多くのメディアが詰めかけ、所狭しと並べられた椅子に記者やカメラマンが腰掛けている。焚かれ続けるフラッシュ、シャッターを押す電子音、小声で話す記者たちのざわめき。そういったもので溢れていた。
そんな中、彼が立っている場所はホール中央正面、壇上だった。
いつもの仲間たちは舞台裏に控えており、ただ一人だ。正直なところ、たった一人でこのような大舞台に引きずり出されるとは微塵も思っておらず、アレックスは幾ばくかの緊張と、心の何処かで不安、というよりも心細さを抱いていた。
壇上の端では、軍の御偉方がマイクを手に記者たちへ滔々と説明を繰り返している。今回の会見の主題、世界の変貌について説いていた。
アレックスはその少しズレた内容に、馬鹿馬鹿しいと呆れを含んだ気持ちで佇んでいた。
世界が変わっただ?
まったく、随分とつまらない冗談だ。
先日、日本で大きな災害があり、世界は秘匿していた事実を公表することに決めた。どの国も、世界のすべての国が、その事実を公表する道を選んだ。選ばざるを得なかった。
もちろんこのアメリカ合衆国もである。
しかし、あのフジ山の噴火がきっかけで、変貌が起きたのではない。
人々の見ていた世界が事実とは違う、表面的なところばかりだっただけである。
それ故に――
「この時を以ってして、世界は変異したのだ」
――嘘もいいところだと、アレックスは毒づいた。ただし彼も軍人である。もちろん心の中だけでだ。
世界は、人々が見えている範囲がすべてではない。
超能力者や異能力者、人を超えるもの、そして人ならざるモノすら存在しているのだ。
今まではその真実を秘匿し続けてきたが、様々な力の均衡が崩れ、歪さが姿を現し始めた。
このまま秘匿を続けるのは困難だと、各国の政府や関係各所は判断する。
こうして、隠してきた事実を詳らかにする時代が訪れたのだった。
どこの世でも長い御偉方の話が終わり、進行役がマイクを取った。
「我々が有する部隊の一つ、変異した世界に関する事柄への対応を行うのは『対超常部隊』です。中央にいる彼が、アレックス・ローウェル大尉、対超常部隊部隊長です」
それに合わせてアレックスは敬礼する。陸軍の正装で背筋を伸ばし、踵を揃え。多くの者の目には、さぞ経験を積んだ立派な軍人に見えるだろう。何度も練習したのだ。
進行役がアレックスの経歴を話し始めるにあわせて、姿勢戻した。ただ真っすぐ正面を見据えて時を待つ。
しかし心の中では「こんなに待たされるなら、呼ばれたら出てくるでよかったじゃねぇか」と毒づいていた。
それでも『少佐』と呼ばれなかったことに安堵している。この会見の直前、御偉方が「舐められたらいかん、佐官に上げられないか」などと言い始め、一同焦るしかない騒動があったのだ。幸いにもただ階級章を変えるだけではどうにもならないことなので、無事大尉のままだったようだ。
まあ、こんなおっさんの階級や経歴なんぞ、誰も興味ないだろうとも思っていた。
そんな思案を悟られぬよう表情を作りながら、アレックスは口を開く。
「ここからは、私、アレックス・ローウェルが『対超常部隊』について説明をさせていただく」
アレックスは、先程の会見を補足するように話し始めた。
陸軍所属のアレックスは、アメリカ国防総省本庁舎の大ホールにいた。
広いホールには多くのメディアが詰めかけ、所狭しと並べられた椅子に記者やカメラマンが腰掛けている。焚かれ続けるフラッシュ、シャッターを押す電子音、小声で話す記者たちのざわめき。そういったもので溢れていた。
そんな中、彼が立っている場所はホール中央正面、壇上だった。
いつもの仲間たちは舞台裏に控えており、ただ一人だ。正直なところ、たった一人でこのような大舞台に引きずり出されるとは微塵も思っておらず、アレックスは幾ばくかの緊張と、心の何処かで不安、というよりも心細さを抱いていた。
壇上の端では、軍の御偉方がマイクを手に記者たちへ滔々と説明を繰り返している。今回の会見の主題、世界の変貌について説いていた。
アレックスはその少しズレた内容に、馬鹿馬鹿しいと呆れを含んだ気持ちで佇んでいた。
世界が変わっただ?
まったく、随分とつまらない冗談だ。
先日、日本で大きな災害があり、世界は秘匿していた事実を公表することに決めた。どの国も、世界のすべての国が、その事実を公表する道を選んだ。選ばざるを得なかった。
もちろんこのアメリカ合衆国もである。
しかし、あのフジ山の噴火がきっかけで、変貌が起きたのではない。
人々の見ていた世界が事実とは違う、表面的なところばかりだっただけである。
それ故に――
「この時を以ってして、世界は変異したのだ」
――嘘もいいところだと、アレックスは毒づいた。ただし彼も軍人である。もちろん心の中だけでだ。
世界は、人々が見えている範囲がすべてではない。
超能力者や異能力者、人を超えるもの、そして人ならざるモノすら存在しているのだ。
今まではその真実を秘匿し続けてきたが、様々な力の均衡が崩れ、歪さが姿を現し始めた。
このまま秘匿を続けるのは困難だと、各国の政府や関係各所は判断する。
こうして、隠してきた事実を詳らかにする時代が訪れたのだった。
どこの世でも長い御偉方の話が終わり、進行役がマイクを取った。
「我々が有する部隊の一つ、変異した世界に関する事柄への対応を行うのは『対超常部隊』です。中央にいる彼が、アレックス・ローウェル大尉、対超常部隊部隊長です」
それに合わせてアレックスは敬礼する。陸軍の正装で背筋を伸ばし、踵を揃え。多くの者の目には、さぞ経験を積んだ立派な軍人に見えるだろう。何度も練習したのだ。
進行役がアレックスの経歴を話し始めるにあわせて、姿勢戻した。ただ真っすぐ正面を見据えて時を待つ。
しかし心の中では「こんなに待たされるなら、呼ばれたら出てくるでよかったじゃねぇか」と毒づいていた。
それでも『少佐』と呼ばれなかったことに安堵している。この会見の直前、御偉方が「舐められたらいかん、佐官に上げられないか」などと言い始め、一同焦るしかない騒動があったのだ。幸いにもただ階級章を変えるだけではどうにもならないことなので、無事大尉のままだったようだ。
まあ、こんなおっさんの階級や経歴なんぞ、誰も興味ないだろうとも思っていた。
そんな思案を悟られぬよう表情を作りながら、アレックスは口を開く。
「ここからは、私、アレックス・ローウェルが『対超常部隊』について説明をさせていただく」
アレックスは、先程の会見を補足するように話し始めた。
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