対超常部隊隊長が副隊長から請われたこと

青木十

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合衆国の会見は

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 この世界は、ただの人間――常人には計り知れない事象や事件が発生している。気付いている者が少ないのは、多くの者の力によって秘匿されているからだ。
 秘匿せざるを得なかった理由は、人々を凌駕する者、そして人ならざるモノが多く存在しているためだった。彼らは常人と大きく違っていた。考え方も生き方も常識も。そして存在が認識されれば、様々な混乱を招くと判断されたのだ。

 合衆国では、彼らのことを『超越者』と名付けた。

 彼らの多くは、自身の価値基準で行動し、時として国民たちに危機をもたらせた。汎ゆる事件が起き、治安がおびやかされた。そして、この先みらいにも起こり得ることだと知らしめるに至る。
 現行の組織では太刀打ちできず、政府は手をこまねいた。そして、それらの事件を解決するため、新たな専門組織を立ち上げることとした。

 今後起こり得る危険な出来事に対応するため、多種多様な組織が設立された。
 その中の部隊の一つが陸軍に所属する『対超常部隊』というわけだ。
 歴史は優に百年は超える。二十世紀初頭には名は違えど同等の組織が存在していた。そして1950年頃、旧陸軍省から国防総省管轄へと移され、名称を対超常部隊へと改めた。

 対超常部隊は、常人と、人の中でも特殊な力を有する者、そして人と共存することを望んだ超越者たちで構成されている。様々な超越者たちと異能力者を主軸に、常人たちは彼らをサポートするべく配属された。アレックスもそのの一人だ。
 隊員たちは、自分と異なる仲間との共存を望み、国民を庇護する立場を選んだ。しかし隊員たちだけで成し遂げることは難しい。だからこそ、様々な立場の者たちが協力し事に当たっている。そして、それを続けていくには、多くの者たちの理解も必要だった。様々な協力や支援で、成り立っていた。

 そうやって長い間、秘密裏に活動していた組織であったが、今回の災害を機に立場を見直し公表する運びとなったのである。


「私たちは、彼らからすれば非力な常人でしかありません。ただ庇護され見ない日々を過ごしてきた。しかし、焦点を合わせ、観測しなければならない時代を迎えたのです」

 アレックスがそう言うと、会場に残っていた僅かなざわめきが消え失せて、ただ沈黙が場を支配する。一度口を横に引き締め、それからマイクに拾われないよう意識して深呼吸した。

「それでは、我らが『対超常部隊APF』を紹介します」

 そう声を張れば、ステージの両脇から人が入ってくる。気配だけだが、信頼する隊員たちだとアレックスには認識できた。
 視界の隅では並ぶ軍関係者が必死に拍手をしてくれている。新たに登場した者たちを視認した会場は、ざわざわと会話を漏らしながら次々にカメラのフラッシュを焚いた。

 壇上へ新たに並んだ者たち――彼らがアレックスが率いる『対超常部隊』の主要メンバーだ。
 後方を確認するわけにはいかないが、背後に仲間の気配を感じてアレックスは心の内で安堵した。一人ではない。そう思えることは、彼に自信を思い出させた。
 アレックスは胸を張った。隊に配属されて十五年以上になる。いろいろなことがあった。様々なことが起きた。皆のお陰でアレックスは生き残れているし、合衆国の平和の一端を担っている。
 それでも、対超常部隊は日陰者シークレットであった。表に出ること能わず。知らしめられぬ評価などに等しい。
 アレックスは常に思っていた。は正しく評価されるべきなのだ。

「超越者たちは、我々が想像するよりも脅威です。しかし彼らは心強い味方と成り得る。私は皆に、そして全ての国民へ伝えたい」

 ザッと音を立てて、隊員たちが一歩前へ出た。ちらりと左を見上げれば、深い茶色の瞳と交わる。微かに口端を緩めたのが見て取れた。
 アレックスは、正面を見据え万感を込めて宣言した。

「超常に対する平和は、この『対超常部隊APF』の隊員たちによって護られているのだと」

 また大きな拍手で沸く。ただこの拍手の殆どが軍関係者によるもののはず。メディア席にも彼らは入り込み、さもメディア関係者がという雰囲気を装っていることだろう。
 拍手が落ち着くと、アレックスは改めて左を見た。

 対超常部隊副隊長――ダグラス・ガラハールを。

 2メートル7フィートを超え身体付きも立派な男が、アレックスの左に立っていた。その向こうには彼に倣うように、他の隊員たちも並んでいる。皆、正しく陸軍の制服を身にまとっていた。
 ダグラスは、アレックスを見て一つ首肯した。彼の落ち着いた眼差し、表情を受けて、アレックスも頷き返す。これからは彼らが手の内を明かす番だった。

「彼ら本来の姿を見て、理解していただきたい。そして信用していただきたい」

 アレックスが宣言すると、隣に並び立つダグラスが敬礼する。制帽を脱ぎ、整えるように息を吐きそして吸った。
 次の瞬間、力が溢れるように彼の身体が大きくなる。ホール全体が一気に騒がしくなった。鋭く短い悲鳴、不快感を含んだ呻き、訝しさを隠しもしない呟き、そういったものが耳に届く。
 アレックスは僅かに眉をひそめつつも、平静を装った。メディアの連中の様子よりもダグラスの勇姿を見守る方が大事だった。この姿は世界へと発信されているのだ。

 元々立派だったダグラスの体躯は、一回り二回りと大きくなった。鍛えられた筋肉は、まだ余裕のあった軍服を押し上げ、胸元も袖もはち切れんばかりだ。額から伸びた二本の角が短く揃えられた黒髪の前に姿を現し、口の端からは発達した犬歯が覗く。
 特筆すべきは彼の肌だ。先ほどまでは日に焼けた少し浅黒い色であったが、今は全く違う。明確に色が変わり、緑と表現したほうがよいだろう。顔も、制帽を胸元へ据える手も少し暗い緑へと変化していた。指先の爪も変色し黒くなり、伸びて鋭くなっている。
 そして、いつも知的な光を宿す深い色の瞳は、輝く太陽のように金色へと変化していた。穏やかな彼の個ではなく、種としての気性を表すかのように、獰猛さを隠しもせずギラリと前を見据えていた。

 会場は未だ静まらない。アレックスは音を立てて踵を揃えた。その鋭い音に皆が壇上へと視線を戻す。アレックスは右後方へと数歩下がった。
 静かになった彼らへ向けて、壇上中央、マイクの前へ立ったダグラスは冷静な声音で言葉を発する。

「私は、対超常部隊副隊長のダグラス・ガラハール。陸軍では少尉を任されている」

 ダグラスの低く聞き取りやすい声に、皆が彼を注視する。外見だけでは伝わらない彼の知性は、声や話し口で分かるはずだとアレックスは祈った。ダグラスは引き続き自身の立場を説明する。

「私は、アメリカに長く住処を定めるオーガ、ガラハール氏族長ダンヴィルドの息子であり、族長からは大隊長の地位を賜っている。合衆国政府との密約により、我々は人に紛れて暮らしている。そして、超常に対する協力のため、私をはじめ何名かが軍に籍を置いているのが現状だ」

 普段どのような訓練を行い、何に備えているか、実際にどのような任務が存在しているかを、丁寧に語っていく。彼の言葉はカメラやレコーダーへと吸い込まれ、記者のペンで手帳へと書き留められた。
 ひと通り話し終えた後、少しの間が空く。どうしたのだとアレックスが視線を送ると、ダグラスは片方の眉を僅かに上げて言葉を足した。

「密約により、我々はスポーツや格闘技の公式な試合には参加してはならないとなっているので、各所関係者は心配しないよう」

 ダグラスは静かに付け足したが、アレックスには何となく彼が恥ずかしそうにしていることが感じ取れた。もしかして忘れていたのかなどとも思ったが、意識を逸らしている場合でもない。

「では他の皆の姿も、確認していただきたい。彼らもまた超越者であり仲間である」

 ダグラスの声に合わせて、並んでいた隊員たちが一歩前へと出る。彼らも敬礼の後、姿を晒した。

 そうやって人を越えた者たちが本来の姿を現し、彼らとともに部隊を支える能力者や常人たちも壇上に並んだ。都合がつく、そして顔を晒しても問題ない部隊員は全員だ。
 これにより支障が出ることもあるだろう。しかしそれ以上に、これからの変化を世界すべてが受け入れていかなければならない。今までのように、人同士でどうこうなどやっている場合ではないのだ。

 アレックスは、再びマイクの正面を譲り受けた。

「彼らを見て恐怖を覚えた者たちもいるだろう。実際に我々対超常部隊は、彼らのような超越者を相手にしている」

 様々なことが脳裏に蘇る。和解できたこともあれば、敵対せざるを得ないこともあった。戦闘になったこともある。アレックス自身、大怪我を負ったこともあった。超越者とは常人からすると計り知れない。

「しかしこれだけは理解してもらいたい」

 アレックスは、正面を見据えた。

「私の仲間たちは皆、この合衆国と国民を守るために、戦っているのだと。彼らは私たちが思うよりも遥かに昔から、私たちの同胞である」

 中央正面奥に据えられたカメラを見つめた。その先の先に向かって敬礼する。自分が言葉を、思いを届けなければならない多くの相手へ向かって。アレックスの敬礼に、隊員の皆が倣う。それを受けて、アレックスは背筋を伸ばし胸を張り、通る声で宣誓する。

「我々はこれからも国のために尽力すると誓おう。我らは合衆国とともにあらん」

 会場は大きな拍手に包まれた。


 こうして、世界が秘匿し続けてきた非現実的アンリアルな事実は、世界にとって現実リアルとなった。

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