対超常部隊隊長が副隊長から請われたこと

青木十

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会見の夜に

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 朝早くに行われた会見は終わり、アレックスたち対超常部隊は解放された。少しの休憩の後は普段通り過ごした。打ち合わせや書類の確認、備品の管理、日課の訓練など、やることは意外と多い。

 しかし、日常どおりのアレックスたちとは裏腹に、各国では新たな世界の始まりを知らせる報道が次々と流れていた。
 午後一番から始まった英国の放送は、とにかく派手で完全なるショーだった。王室も政府も一切関与せず、魔術師塔という魔術師たちの集まりにすべてを任せていた。彼らは自由に自分たちの能力を知らしめることにしたようだ。
 外部からの干渉が一切ない彼らのショーは、ロンドンの空を花火が彩り、ロンドン塔を不可思議に浮かび上がらせた。箒に跨った美男美女が手を振り愛想を振りまきながら、パーティクルと共に空を翔ける。
 世界の魔術師たちに対する第一印象ファーストインプレッションは最高だったろう。

 食堂でそれを見ていたアレックスは、自分たちの会見を思い返しあまりにも地味だったことを猛省しつつも、ならどうしたらよかったのかと頭を抱えた。周りにいた隊員たちも、なんとも言えない顔で放送を眺めていた。皆同じ気持ちなのだろう。
 あの会見は、御偉方から任された職員たちが必死に考えた進行に倣っただけだ。アレックスに割り振られたのは自分と隊員たちへの原稿のみ。その大まかな内容すらも上からの指示だった。アレックスは軍人らしく、上官の指示に従った。指示に問題はなかったし、従うべき内容だったからだ。
 しかし当たり前の話だが、たとえ派手にしたかったと思ったところでやり直せるわけでもない。見栄えを求めるなら、費用もかかる。手間もかかる。人員も必要だ。可能な話であれば最初からそのように連絡が来ていたはずだ。アレックスにできることなど、微塵もなかった。なかったのだ。
 そう思うしかないアレックスは開き直って、ランチのチキンにかぶり付いた。


 その日の夜のことだった。

「おつかれさん、どうした、ダグラス」

 アレックスが自室の扉を開けると、廊下には副隊長のダグラスが立っていた。
 身の丈は2メートル7フィートを超え、180センチメートル6フィート以上のアレックスでも見上げなくてはならない。人二人分近くある広い肩幅に、引き締まりながらもしっかり筋肉のついた肉体は、男女問わず感嘆が零れ落ちるだろう。焼けて浅黒い肌と短く刈った黒髪は精悍な印象で、真面目さを表したような眉は凛々しかった。
 今はプライベート時間。少し体にフィットした黒のTシャツに、ゆったりとした少し丈の短い茶のロングパンツを履いている。ラフな格好だった。

「今日、うまくいった祝いに」

 そう言ってウイスキー瓶を手にして、ダグラスは僅かに笑む。瓶が随分と小さく見えた。アレックスは彼を部屋へと迎え入れる。奥にあるカウチソファへ案内した。
 アレックスは備え付けのキッチンに移動し、二人分のグラスとカシューナッツの袋を用意する。氷はピックで丸く削ることにした。これは退役した前の隊長から教わった素人技だが、長くやっていればそれなりの形が出来上がっていく。どちらにせよ仲間内くらいでしか飲まないのだ。歪で悪いわけはない。アイスペールへ移せば、全てまとめてダグラスが持っていってくれた。
 次にレンジで冷凍ピザを温め始める。この冷凍ピザはすぐ温められてそれなりに美味い。アレックスのお気に入りだ。
 温まるまでの間にサラミとチーズをスライスする。自室でよく飲むアレックスは、酒のつまみスナックだけでなく、軽い食事を兼ねられるくらいは腹に溜まるものを常備していた。

 ソファでは、ダグラスが少し歪な丸い氷の入ったグラスに、ウイスキーを注いでいる。そんな彼に、アレックスは苦く笑いながら切り出した。

「今日はおつかれさん。あれがうまくいったと思ってくれるなら救われるよ」
「事実だろう。上が判断した内容は正しく知らしめた」

 ダグラスは、当然だろうとばかりに頷いてみせる。アレックスはイマイチだったなぁと思っていたのだが、どうやら彼の見解は違ったようだ。
 アレックスは昼の放送を思い出しながら、肩を竦めた。

「英国の魔術師たちはド派手だった」
「あちらはあちらだ。もともと自分たちの興味のあることしかやらない連中だ。上は指示をすることを諦めたんじゃないか?」

 そう言われて、なるほどと思った。アレックスも何度か魔術師かれらと手を組んだことがあるものの、いろいろと個性の強い連中だったと思う。さすが英国、下手なナードの方が数倍マシだったとアレックスが感じた程だ。

「俺は、お前たちが姿を見せることを引き受けてくれただけで、本当にありがたいと思ってるよ」

 ピザを取り出しながらそう伝えると、ダグラスは穏やかに「そうか」と微笑んだ。

 ローテーブルにピザを並べ、一緒に持ってきたスライスのサラミやチーズが載った皿も置く。一度置いてまたどかせば、下から姿を見せた新たな皿へ、カシューナッツの袋を豪快に開けた。ポーンコロコロとナッツが躍り出た。

 ソファへ腰を落ち着けると、アレックスとダグラスは互いにグラスを傾け労いあった。
 ダグラスの持ってきたウイスキーは、彼の部族たちが作っているもので、少量しか出回らず有名ではないのだが、通好みの美味さをしていた。ラベルにはレトロな紋章クレストが描かれているが、何故か中央にいるのはドワーフだった。以前尋ねたら「ドワーフが認めた美味さだからだ」と言っていた。どうやら交流のあったカスケード山脈のドワーフ連中がメインの顧客らしい。

 室内の灯りを受けながら、深い琥珀色がゆったりと揺れた。顔を近づけるだけで、芳醇な香りが漂ってくる。少し口に含めば、奥深い味わいがじっくりと長く持続する。複雑な味ながらまとまった濃厚さがあり、それらが絡み合い口の中で豊かに広がっていった。
 それでいて背筋がぞわりとするくらいに、度数が高い。アレックスは酒に弱いわけではないが、一杯貰えれば十分だと思った。これを常に飲んでいるオーガたちも、水のように空けるドワーフたちも信じられなかった。これも通好みでとどまっている理由だろう。

 サラミを口に放り込みながら、アレックスは尋ねた。

「そういや、何かもじもじしてたろ」
「何が」
「スポーツの話の時に」

 あの会見の直前『超越者たちがスポーツには関与していない』ということは必ず言うようにと急遽指示が出された。しかもダグラスの口から明言するようにとの指定付きでだ。
 これに関しては、選手を見れば分かることであり、全世界でも各国そのように協定が結ばれていた。それ故に、アレックスとしては不要だと思っていたのだが『先んじて明言する』ことが大事だと、ダグラスは引き受けた。「どんなことにも苦情を言う者がいるからな」と説明されれば、納得するしかない。
 当人は、自身の原稿の内容を話し終えた後、スポーツについて明言し使命を無事に終えたのだが、アレックスにはなんだか気恥ずかしそうに見えたのだった。

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