怪奇•ドッペルゲンガー

草彅剣

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奇妙奇天烈

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「今日も大学行くの面倒だなぁ~」

そう言って、いつも通り大学に向かって車を走らせていた。
普段と何も変わらない道路と景色。

毎度お馴染みのミニストップに寄って、クランキーチキンを買って食べながら車を発進させる。
「クランキーチキンまじうま過ぎ」

あの時の僕は毎朝クランキーチキンを食べていた。
あのクランキーチキンというクランキーチキンを食べるのを我慢していたら、一体いくらの現金が手元にあったのだろう…

…話が脱線した。「クラチキうま過ぎてまじやべぇ」の話は次の機会に譲るとしよう。まじでおすすめですぜ。

クラチキを無心で頬張りながら、鼻歌を歌いながら走った。
あの時はKinKi Kidsの「愛のかたまり」にハマっていた。大学までの1時間弱、ひたすらに歌い続けた。
あの愛のかたまりという愛のかたまりを歌うのを我慢して、勉強していたら…いや、やめておこう。うん、しつこい。

話は数日前に戻る。
大学の友達と話していたんだ。
「ドッペルゲンガーって知ってる?」
僕は答えた。
「うん、知ってるよ~!!、あのクレしんの映画みたいなやつでしょ??笑」
「そうそう笑、最近この手の話にハマっててさ、つるぎ(作者)は信じるか?」
「いや~、…ないない!ないっしょ!!
 あれだよ、世界に3人は顔がそっくりな  
 人がいるっていうじゃん!」
「だよな~、けどほんとにあったら面白そうだよな」
「ほんとにあったら怖いだろ笑」
「それな!笑、てか3時間も空きコマあるのまじだるいよな~、しかも…」

まぁ、至って普通の会話だ。
この時の僕は当然知らなかった。自分があんな摩訶不思議な体験をするとは。

時を戻そう。(ぺこぱ大好き)

「おもいきり~抱き寄せられるとこころー!」
僕は運転しながら愛のかたまりを熱唱していた。
大学はもう近い。信号に引っかかった。
何気なく向かいの道路を見た。
「全く同じ車いるやん」

ここまではよくある話だ。
プレートナンバーはよく見えなかったが、信号が青になって走り出した。
なんとなく、同じ車をみていた。
僕と同じ車に乗るのは、どれほどのセンスあるイケメンなのだろうと気になったのだ。

しかし、そんな僕の戯言はすぐにかき消された。
目を疑った。
ハンドルを外しそうになった。

その車には僕と全く同じ顔、服装の何かが僕と同じくこちらをじっと見つめていた。
「……?!?!」

心臓がバクバクしていた。
先日友達と話していた時、ドッペルゲンガーについて実はもう少し話していた。
「ドッペルゲンガーに会った人は、神隠しにあったように消えてしまうらしいよ。そんで偽物の方が本物に成り代わってしまうんだって」
「ドラマの見過ぎだろ~!!笑」

………。

…いや、死にたくないよ?!?!
なんか、よくわかんないけど、それが本当だとしたら、俺は神隠しに合うってことかい?!
神隠しなんて厨二っぽく格好良く言ってるけど、つまりは死ぬってことだろ??

あの時のぼくの心拍は恐らく200を超えて、顔にかっこいい模様が浮かび上がっていたことだろう。夜だったら鬼退治に向かっていたことだろう。

僕は勇気を出して反対車線に入った。
馬鹿にする人は馬鹿にしても良いが、その時の僕なんていうのは本気で「やられる前にやってやる」
こう考えていた。
頭の中には半沢直樹のBGMが流れていた。…はい、冗談です。

少し走ったところで、僕の心にこんな言葉がよぎった。
「まって、まじで怖くね??これ、反撃に遭うのがオチだよね??これまでのドッペルゲンガーの被害者もこうしてやられたんじゃね??」…笑

こうして僕はまた大学へとつづく道に戻った。
ドッペルゲンガーを追った時間は体感1時間、実質30秒だった。
「だいたいさ!このまま大学行けば友達もみんないるし、殺されようがなくね??笑」
こんな言葉を放ちながら時速オーバー気味で走った。

不思議なことが起こった。
僕はまたドッペルゲンガーと鉢合わせた信号に引っかかった。
向かいを見たら…またあの同じ車が?!

…なーんてベタな展開は起こらないから安心してください。

そんな車は全然見当たらず、愛のかたまりを熱唱しようとしたその瞬間。

「ドッカーーーン!!!」

目の前で車同士がぶつかったのだ。
えーーー!ってなもんだ。

周りにいたドライバーたちはみんな車から降りて駆けつけた。
僕ももちろん駆けつけた。そこで事故を起こしてしまっていたのは…僕にドッペルゲンガーの話をしてきたあの友達だったのだ。
友達は奇跡的に無事でした。本当に良かった。

さて、何が不思議だったのだろう。
今回の事故について軽く話そう。

図がないとわかりにくいかもしれないが、想像力を働かせながら読んで欲しい。

現場は十字路だ。僕は信号が赤で停まっていた。友達は信号が青側から走ってきた。
ぶつかったのは信号が赤にも関わらず、信号無視してしまった車が僕の真横を通り抜けていったために起きたのだ。

後に友達が無事だった理由を僕に話してくれた。
「あの時、信号に停まってるつるぎがみえたんだよ。それでブレーキ軽く踏んで、気持ちゆっくり走ったんだ。おかげで直撃を免れた!ありがとな笑」
「…まじで俺、最高やん!!笑」


あの時、僕のドッペルゲンガーが現れなかったら、僕はそのまま走りあの交差点に停まっていなかった。つまり友達は俺を見つけ、スピードを緩めることはなかった。それがなければ、もしかしたら友達は…。

これは後付けになってしまうが、あのドッペルゲンガーは俺に何かを訴えようとしてた気がするといえば、するかもしれない。
相当見てきてたからね笑

とにもかくにも、それ以降僕のそっくりさんには会ってないし、僕も友達も元気に生活している。

ドッペルゲンガーは本当は自分や自分の大切な人の危機の直前に現れてそれを伝えてくれる存在なのか。
少なくとも僕が出会ったドッペルゲンガーはそうだった。

まぁ、あいつを追った30秒の間に入れ替わってしまっているのかもしれないが。








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