6 / 131
第一章 輝葬師
二幕 「ラフ・フローゼル」 一
しおりを挟む
レズサイダ山脈に連なる山の中で、このツミスオ山は比較的通行がしやすいこともあって、ギイと王都の間道として昔から多くの人に利用されてきた。
そのため、王都側の山麓にあるイルザ村は間道を利用して旅をする者の休憩地点としてそれなりに栄えていた。
山の奥地から登山道に戻り、休憩もあまりとらずに歩き続けた三人は、日没頃にそのイルザ村に辿り着くことができた。
途中、人を害する獣や蟲等に遭遇しなかったこともあって、予定より大分早い到着だった。
「ふぅ、ちょっと強行軍かとも思ったが、なんとか村まで辿り着けたな」
「そうだね、さすがにちょっと疲れたけど。アス、今日は久々にベッドで寝れそうだね」
父とジゼルの声を聞いて、アスは乱れた呼吸を整えながら笑みを作り頷いた。
二人に比べて体力がまだ劣るアスの疲労はかなり蓄積されていたが、その苦労を差し引いても久々のベッドは魅力的な見返りであった。
「さてと、もう一踏ん張りだ。今日の宿を探そう」
父の言葉に促されるとアスとジゼルは早速、宿の看板を探し始めた。
村の中央に続く本道の脇には点々と明かりが灯されており、通りに面した家屋からこぼれる明かりと相まって、日没後でも足元が見える程度には明るい。
村の中央に向かうにつれて、道を歩いている人をちらほらと見かけるようになってきた。
通りには小さいながらも食事処と酒場があり、そこから人々が談笑する声が聞こえる。
また、それらの店から漂ってくる料理の匂いは、朝食後からろくに食事をしていない三人の食欲を十分に刺激した。
ぐぅ~っと誰かのお腹が鳴る。
「わっ、私じゃないよ!」
アスが音の鳴った方をみるとジゼルが手を振りながら否定する。
しかしその顔は少し紅潮しており、私ですと告白したようにしか見えず、アスは笑いをこらえることができなかった。横では父も既に笑っている。
「私じゃないってば!」
ジゼルは二人の笑う姿を睨みながら怒鳴ると、ぷぅっと頬を膨らませた。
そんな他愛もないやりとりをしながら三人は道を進み、しばらくして宿の看板を見つけた。
宿は、かなり年季の入った木造の二階建て。あまり手入れされていないのか、壁に打ち付けてある板はところどころ腐食していた。
入口脇にある看板の汚れ具合が更にいい味を出している。
「ボロい・・・」
ジゼルが宿を見てポツリとこぼした。
「寝泊まりするだけだから、ここでいいだろう。安そうだし」
父は見た目など全く意に介さず宿を決定しようとしており、その言葉にジゼルは少しげんなりした表情を見せた。
「まぁでも、懐の事情もあるし、しょうがないか。中は綺麗だといいな」
ジゼルは半ば自分を慰めるようかのような口調だ。
「アスもここでいい?」
「うん、僕はここでいいよ。」
二人の了解を得ると、父は宿の扉を開けた。ギィっと軋む音がする。
アスとジゼルも父に続いて中に入る。
宿に入るとすぐに粗末な応接セットが置かれた十畳程度の狭い休憩スペースがあり、その奥にカウンターがあった。
カウンターには愛想の悪そうな店主がいて、新聞を読んでいる。
客の存在に気づいたのか、店主は新聞をカウンターの上に置き、面倒臭そうに三人の方を向いた。
「いらっしゃい。いち、にぃ・・・三人かい?」
「ああ、三人泊まれる部屋をひとつお願いできるか?」
「今はベッドが二つの部屋がひとつしか空いてないよ。それでいいなら代金は前払いで一人三百べトラだ。」
「さ、さんびゃく!」
父の後ろで話を聞いていたジゼルが声を上げる。
「一人三百べトラって王都の中心部クラスの値段じゃない!なんでそんな高いの!?」
店主はわめくジゼルを見て、やれやれといった表情でため息をついてから、視線を父に戻した。
「嫌なら他の宿に行きな。でも多分どこも空いてないぜ。しかもウチよりもっと高い。三百は良心的な価格だよ」
そう言って店主は先ほど置いた新聞を手に取ると続きを読み始めた。
「何かあったのか?」
父が店主に尋ねると、店主は新聞から目をそらすことなく横柄な態度で一連の経緯を喋り始めた。
「俺も詳しくは知らないんだが、この間別の宿で突然亡くなった旅人がいてね、王都から輝葬師がきたんだけど、輝葬してすぐ帰るのかと思ったら、急に王都から軍の中隊を呼び寄せたんだよ。そんで、そいつらがかなりの数の宿を抑えたもんだから、一般人が空いてる宿の取り合いを始めて、結果、この村中の宿の価格が高騰してるってわけさ。それで?今日泊まるの?」
話を聞いた父は思うところがあったのか、少し考え込んでから店主の質問に応えた。
「いやいい、それよりその輝葬師が泊まっている宿はどこか教えてもらえないか?」
しかし、店主は三人が客じゃないと分かった途端、渋い顔をしてさっさと出てけと手を払う仕草をする。
ちょうど別の客が入ってきたこともあって、店主は全く相手にしてくれなくなった。
「仕方ない、とりあえず出ようか」
外に出ると、なにやら騒がしい。
父が近くにいた人に何があったのかを確認すると、先ほどの話にあった中隊が村の外での任務を終えて戻ってきたところだと言った。
「お父さん、どうするの?他の宿も一杯だっていうし・・・お腹も空いたし・・・」
ジゼルは先ほど鳴ってないと言い張ったお腹をさする。
「二人ともすまん。少し気になることがあるから、もう少しだけ時間をくれないか?さっきの話にあった輝葬師を探そうかと思ってる」
「うん、いいよ」
アスは笑顔でそう答えた。もちろんアスも疲れていたため、休みたい気持ちもあった。
しかし、店主の話を聞いている時の父の考え込む顔が気になって、それが何なのかを確認したい気持ちが勝った。
「うう、もう少しだけだよ?」
そういって悲観的な顔をするジゼルをみながら、父はすまんなと苦笑いをした。
そのため、王都側の山麓にあるイルザ村は間道を利用して旅をする者の休憩地点としてそれなりに栄えていた。
山の奥地から登山道に戻り、休憩もあまりとらずに歩き続けた三人は、日没頃にそのイルザ村に辿り着くことができた。
途中、人を害する獣や蟲等に遭遇しなかったこともあって、予定より大分早い到着だった。
「ふぅ、ちょっと強行軍かとも思ったが、なんとか村まで辿り着けたな」
「そうだね、さすがにちょっと疲れたけど。アス、今日は久々にベッドで寝れそうだね」
父とジゼルの声を聞いて、アスは乱れた呼吸を整えながら笑みを作り頷いた。
二人に比べて体力がまだ劣るアスの疲労はかなり蓄積されていたが、その苦労を差し引いても久々のベッドは魅力的な見返りであった。
「さてと、もう一踏ん張りだ。今日の宿を探そう」
父の言葉に促されるとアスとジゼルは早速、宿の看板を探し始めた。
村の中央に続く本道の脇には点々と明かりが灯されており、通りに面した家屋からこぼれる明かりと相まって、日没後でも足元が見える程度には明るい。
村の中央に向かうにつれて、道を歩いている人をちらほらと見かけるようになってきた。
通りには小さいながらも食事処と酒場があり、そこから人々が談笑する声が聞こえる。
また、それらの店から漂ってくる料理の匂いは、朝食後からろくに食事をしていない三人の食欲を十分に刺激した。
ぐぅ~っと誰かのお腹が鳴る。
「わっ、私じゃないよ!」
アスが音の鳴った方をみるとジゼルが手を振りながら否定する。
しかしその顔は少し紅潮しており、私ですと告白したようにしか見えず、アスは笑いをこらえることができなかった。横では父も既に笑っている。
「私じゃないってば!」
ジゼルは二人の笑う姿を睨みながら怒鳴ると、ぷぅっと頬を膨らませた。
そんな他愛もないやりとりをしながら三人は道を進み、しばらくして宿の看板を見つけた。
宿は、かなり年季の入った木造の二階建て。あまり手入れされていないのか、壁に打ち付けてある板はところどころ腐食していた。
入口脇にある看板の汚れ具合が更にいい味を出している。
「ボロい・・・」
ジゼルが宿を見てポツリとこぼした。
「寝泊まりするだけだから、ここでいいだろう。安そうだし」
父は見た目など全く意に介さず宿を決定しようとしており、その言葉にジゼルは少しげんなりした表情を見せた。
「まぁでも、懐の事情もあるし、しょうがないか。中は綺麗だといいな」
ジゼルは半ば自分を慰めるようかのような口調だ。
「アスもここでいい?」
「うん、僕はここでいいよ。」
二人の了解を得ると、父は宿の扉を開けた。ギィっと軋む音がする。
アスとジゼルも父に続いて中に入る。
宿に入るとすぐに粗末な応接セットが置かれた十畳程度の狭い休憩スペースがあり、その奥にカウンターがあった。
カウンターには愛想の悪そうな店主がいて、新聞を読んでいる。
客の存在に気づいたのか、店主は新聞をカウンターの上に置き、面倒臭そうに三人の方を向いた。
「いらっしゃい。いち、にぃ・・・三人かい?」
「ああ、三人泊まれる部屋をひとつお願いできるか?」
「今はベッドが二つの部屋がひとつしか空いてないよ。それでいいなら代金は前払いで一人三百べトラだ。」
「さ、さんびゃく!」
父の後ろで話を聞いていたジゼルが声を上げる。
「一人三百べトラって王都の中心部クラスの値段じゃない!なんでそんな高いの!?」
店主はわめくジゼルを見て、やれやれといった表情でため息をついてから、視線を父に戻した。
「嫌なら他の宿に行きな。でも多分どこも空いてないぜ。しかもウチよりもっと高い。三百は良心的な価格だよ」
そう言って店主は先ほど置いた新聞を手に取ると続きを読み始めた。
「何かあったのか?」
父が店主に尋ねると、店主は新聞から目をそらすことなく横柄な態度で一連の経緯を喋り始めた。
「俺も詳しくは知らないんだが、この間別の宿で突然亡くなった旅人がいてね、王都から輝葬師がきたんだけど、輝葬してすぐ帰るのかと思ったら、急に王都から軍の中隊を呼び寄せたんだよ。そんで、そいつらがかなりの数の宿を抑えたもんだから、一般人が空いてる宿の取り合いを始めて、結果、この村中の宿の価格が高騰してるってわけさ。それで?今日泊まるの?」
話を聞いた父は思うところがあったのか、少し考え込んでから店主の質問に応えた。
「いやいい、それよりその輝葬師が泊まっている宿はどこか教えてもらえないか?」
しかし、店主は三人が客じゃないと分かった途端、渋い顔をしてさっさと出てけと手を払う仕草をする。
ちょうど別の客が入ってきたこともあって、店主は全く相手にしてくれなくなった。
「仕方ない、とりあえず出ようか」
外に出ると、なにやら騒がしい。
父が近くにいた人に何があったのかを確認すると、先ほどの話にあった中隊が村の外での任務を終えて戻ってきたところだと言った。
「お父さん、どうするの?他の宿も一杯だっていうし・・・お腹も空いたし・・・」
ジゼルは先ほど鳴ってないと言い張ったお腹をさする。
「二人ともすまん。少し気になることがあるから、もう少しだけ時間をくれないか?さっきの話にあった輝葬師を探そうかと思ってる」
「うん、いいよ」
アスは笑顔でそう答えた。もちろんアスも疲れていたため、休みたい気持ちもあった。
しかし、店主の話を聞いている時の父の考え込む顔が気になって、それが何なのかを確認したい気持ちが勝った。
「うう、もう少しだけだよ?」
そういって悲観的な顔をするジゼルをみながら、父はすまんなと苦笑いをした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる