命導の鴉

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第一章 輝葬師

二幕 「ラフ・フローゼル」 一

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 レズサイダ山脈に連なる山の中で、このツミスオ山は比較的通行がしやすいこともあって、ギイと王都の間道として昔から多くの人に利用されてきた。

 そのため、王都側の山麓にあるイルザ村は間道を利用して旅をする者の休憩地点としてそれなりに栄えていた。

 山の奥地から登山道に戻り、休憩もあまりとらずに歩き続けた三人は、日没頃にそのイルザ村に辿り着くことができた。

 途中、人を害する獣や蟲等に遭遇しなかったこともあって、予定より大分早い到着だった。

「ふぅ、ちょっと強行軍かとも思ったが、なんとか村まで辿り着けたな」

「そうだね、さすがにちょっと疲れたけど。アス、今日は久々にベッドで寝れそうだね」

 父とジゼルの声を聞いて、アスは乱れた呼吸を整えながら笑みを作り頷いた。

 二人に比べて体力がまだ劣るアスの疲労はかなり蓄積されていたが、その苦労を差し引いても久々のベッドは魅力的な見返りであった。

「さてと、もう一踏ん張りだ。今日の宿を探そう」
 父の言葉に促されるとアスとジゼルは早速、宿の看板を探し始めた。

 村の中央に続く本道の脇には点々と明かりが灯されており、通りに面した家屋からこぼれる明かりと相まって、日没後でも足元が見える程度には明るい。

 村の中央に向かうにつれて、道を歩いている人をちらほらと見かけるようになってきた。

 通りには小さいながらも食事処と酒場があり、そこから人々が談笑する声が聞こえる。

 また、それらの店から漂ってくる料理の匂いは、朝食後からろくに食事をしていない三人の食欲を十分に刺激した。

 ぐぅ~っと誰かのお腹が鳴る。

「わっ、私じゃないよ!」

 アスが音の鳴った方をみるとジゼルが手を振りながら否定する。

 しかしその顔は少し紅潮しており、私ですと告白したようにしか見えず、アスは笑いをこらえることができなかった。横では父も既に笑っている。

「私じゃないってば!」

 ジゼルは二人の笑う姿を睨みながら怒鳴ると、ぷぅっと頬を膨らませた。

 そんな他愛もないやりとりをしながら三人は道を進み、しばらくして宿の看板を見つけた。

 宿は、かなり年季の入った木造の二階建て。あまり手入れされていないのか、壁に打ち付けてある板はところどころ腐食していた。

 入口脇にある看板の汚れ具合が更にいい味を出している。

「ボロい・・・」

 ジゼルが宿を見てポツリとこぼした。

「寝泊まりするだけだから、ここでいいだろう。安そうだし」

 父は見た目など全く意に介さず宿を決定しようとしており、その言葉にジゼルは少しげんなりした表情を見せた。

「まぁでも、懐の事情もあるし、しょうがないか。中は綺麗だといいな」

 ジゼルは半ば自分を慰めるようかのような口調だ。
「アスもここでいい?」

「うん、僕はここでいいよ。」

 二人の了解を得ると、父は宿の扉を開けた。ギィっと軋む音がする。

 アスとジゼルも父に続いて中に入る。

 宿に入るとすぐに粗末な応接セットが置かれた十畳程度の狭い休憩スペースがあり、その奥にカウンターがあった。

 カウンターには愛想の悪そうな店主がいて、新聞を読んでいる。

 客の存在に気づいたのか、店主は新聞をカウンターの上に置き、面倒臭そうに三人の方を向いた。

「いらっしゃい。いち、にぃ・・・三人かい?」

「ああ、三人泊まれる部屋をひとつお願いできるか?」

「今はベッドが二つの部屋がひとつしか空いてないよ。それでいいなら代金は前払いで一人三百べトラだ。」

「さ、さんびゃく!」

 父の後ろで話を聞いていたジゼルが声を上げる。

「一人三百べトラって王都の中心部クラスの値段じゃない!なんでそんな高いの!?」

 店主はわめくジゼルを見て、やれやれといった表情でため息をついてから、視線を父に戻した。

「嫌なら他の宿に行きな。でも多分どこも空いてないぜ。しかもウチよりもっと高い。三百は良心的な価格だよ」

 そう言って店主は先ほど置いた新聞を手に取ると続きを読み始めた。

「何かあったのか?」

 父が店主に尋ねると、店主は新聞から目をそらすことなく横柄な態度で一連の経緯を喋り始めた。

「俺も詳しくは知らないんだが、この間別の宿で突然亡くなった旅人がいてね、王都から輝葬師がきたんだけど、輝葬してすぐ帰るのかと思ったら、急に王都から軍の中隊を呼び寄せたんだよ。そんで、そいつらがかなりの数の宿を抑えたもんだから、一般人が空いてる宿の取り合いを始めて、結果、この村中の宿の価格が高騰してるってわけさ。それで?今日泊まるの?」

 話を聞いた父は思うところがあったのか、少し考え込んでから店主の質問に応えた。

「いやいい、それよりその輝葬師が泊まっている宿はどこか教えてもらえないか?」

 しかし、店主は三人が客じゃないと分かった途端、渋い顔をしてさっさと出てけと手を払う仕草をする。

 ちょうど別の客が入ってきたこともあって、店主は全く相手にしてくれなくなった。

「仕方ない、とりあえず出ようか」

 外に出ると、なにやら騒がしい。

 父が近くにいた人に何があったのかを確認すると、先ほどの話にあった中隊が村の外での任務を終えて戻ってきたところだと言った。

「お父さん、どうするの?他の宿も一杯だっていうし・・・お腹も空いたし・・・」

 ジゼルは先ほど鳴ってないと言い張ったお腹をさする。

「二人ともすまん。少し気になることがあるから、もう少しだけ時間をくれないか?さっきの話にあった輝葬師を探そうかと思ってる」

「うん、いいよ」

 アスは笑顔でそう答えた。もちろんアスも疲れていたため、休みたい気持ちもあった。

 しかし、店主の話を聞いている時の父の考え込む顔が気になって、それが何なのかを確認したい気持ちが勝った。

「うう、もう少しだけだよ?」

 そういって悲観的な顔をするジゼルをみながら、父はすまんなと苦笑いをした。
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