命導の鴉

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第一章 輝葬師

五幕 「白」  二

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 突如、村の北側から轟音が鳴る。

 北側といっても東西に細長いこの村にあっては、もはやすぐそこと思えるほどに近い。

 アス達が音の鳴った方を向くと上空にレンガや石壁の破片が無数に舞い上がっており、それらが落下を始めていた。

 広場にいた青年達がこっちにも落ちてくるぞと叫んで逃げ惑うなか、破片は大きな音をたてて村の各所に落下した。

 あまりにも唐突のことだったため、アスとジゼルはそれらの破片が強い力によって無造作に破壊された建物の一部だということを認識するまでに少しの時間を要した。

 やがて村のいたるところから悲鳴が聞こえてくる。

 更に家庭用の熱火系魔元石が暴発したのか火の手も上がり始め、村は一気に極度の混乱に陥った。

「なに、これ?」

 眼前に広がる光景に不安な表情を浮かべたジゼルがアスの服の袖を掴む。

 アスもただ黙って目の前の光景を見つめていた。

「ジゼルっ!アスっ!どこだ!?」

 ヴェルノが叫びながら広場に駆け込んできた。

 焦る様子で広場を見回したヴェルノはすぐに二人の姿を確認できたようで、広場の片隅で立ちすくんでいるアスとジゼルの元に駆け寄った。

「怪我はないか!?」

 ヴェルノが確認すると、二人は少し間を置いてから大丈夫だよとそれぞれ頷く。

 二人の無事な姿を確認したヴェルノはひとまず安堵の表情を浮かべた。

「ここは危険だ。とりあえず退避するぞ」

 退路を確認しようと広場周辺に目線を移したヴェルノが、白地に緋色の模様が入ったコートを着る女性に気付き、その場に立ち止まった。

「あれは・・・、志征か!?」

 先ほど馬車に乗り込んだ女性が、異変に対処すべく既に広場に戻ってきており、大声で村人達に避難を呼びかけていた。

「村の東西どちらでもいいから、とにかくこの場から離れることを優先するんだ!力があるものは出来るだけ怪我人も連れて避難してくれ!」

 しかし、女性の叫び声は虚しく響くだけで、混乱している村人達の避難は遅々として進まない。

 今現在、何が起こっているのか見当もついていない様子の女性は、この状況に苦々しい表情を浮かべていた。

 程なくして、馭者が持てるだけの荷物を抱えて女性のもとに駆けつける姿も見えた。

「お父さん、どうしたの?」

 アスが立ち止まったままの父に声をかけるも、ヴェルノはアスの言葉には反応を示さず、何かを思案するかのように、ただ黙って女性と馭者の様子を見ていた。

 北の方から再度、轟音が鳴り響き、建物の破片が宙に舞う。

「なんとかいける・・・か?」

 その破片が落下し村中の悲鳴がより一層強くなる中、ヴェルノは女性のもとに近寄った。

「何をしている!早く逃げるんだ!」

 イライラが募っていた女性は、こんなときに避難もせず、逆に近寄ってきたヴェルノに怒りをぶつける。

「大変な状況なのは分かるが、落ち着いて聞いてくれ。いいか、あれはフレアによるものだ」

「なっ!?」

 いきなり近寄ってきた男が思いもよらない言葉を口にしたこともあって、女性の温度感が更に上昇する。

「馬鹿な!?フレアは昨日間違いなく討伐したんだ。それに村は封陣石で守られている。そんな筈がないだろう!」

「落ち着いてほしいと言っている。輝葬師がフレアの輝波を感じられることくらい、貴方なら知っているだろう?今は可能性じゃなく事実の話をしている」

 女性をまっすぐに見据えたヴェルノの目の色が青いことに気付き女性は愕然とした。

 しかし、その代わりに異変の原因が分かった女性は幾分か冷静さを取り戻していた。

「・・・そうか、では私が対処するしかないか」

 女性は重い口調でそう言うと、腰に帯びた剣の柄に手を当て、北の方を向いた。

「お一人では無理です!」

 馭者が慌てて女性を引き止める。

「足止めくらいはできるさ。エツィオ、悪いが村人の避難は任せた」

 馭者に向けられた女性の目は、既に死を覚悟しているように見えた。

「違う!早まるな!」

 ヴェルノが二人に割って入る。

「いいか、三点確認するぞ。魔吸石は残っているか?熱火と衛浄の魔元石に予備はあるか?剣型の魔錬刃に予備はあるか?」

 矢継ぎ早に確認するヴェルノの真意が読み取れない女性は困惑の表情を浮かべた。

 また轟音が鳴り響く。

 先ほどの位置から少し東に逸れた場所の建物が吹き飛んでいた。

「時間がない、村が壊滅するぞ!いくつある!」

「魔吸が2、熱火は3、衛浄はなし、剣型の魔錬刃は1だ!それがなんだ!」

 馭者のエツィオが困惑する女性の代わりに怒鳴るように答えた。

「よし、それならいける!エツィオといったか。すぐに今言った物を全部ここに出してくれ!」

「出してどうする!?」

「被害を抑えるために、ここでフレアを討つ!」

 ヴェルノの言葉に女性とエツィオが一瞬呆気にとられる。後ろで聞いていたアスとジゼルも同様だった。

「今は輝葬師の出る幕じゃないだろ!」

 ハッと正気に戻ったエツィオは戸惑いと怒りが混じったような表情でヴェルノを睨みつけ怒鳴った。

「勝算は十分ある」

ヴェルノは鋭い目でエツィオを睨み返す。

「うっ、ニリル様、どうします?」

 エツィオはその目に気押されたのか、助けを求めるように女性の方に視線を逸らし意見を求めた。

 また建物が轟音と共にひとつ吹き飛ぶ。

「・・・わかった。どうすればいい?」

 ニリルと呼ばれた女性は深く息を吸うとヴェルノに望みを懸ける決意を示した。

「ニリルさん、でよかったかな。ありがとう」

 ヴェルノがニリルに向かって頭を下げる。

「ああ。私のことは呼び捨てで構わない。貴方の名前も伺っておこう」

「ヴェルノだ」

「ヴェルノか・・・。それでは、話を続けてくれ」

 ヴェルノは頷き、説明を始めた。

「やること自体は単純だ。後ろにいる俺の娘ジゼルと俺に熱火の魔元石を渡してくれ。ジゼルには魔錬刃も頼む。二人の魔力が充填されたら、魔吸石でフレアをここに呼び寄せる。やってきたフレアを俺とニリルの二人で削り、ジゼルが魔錬刃でトドメを刺す」

 エツィオが明らかに落胆の色を見せた。

「なんだそりゃ。お前達にフレアと戦うだけの実力がないと話にならない作戦じゃないか!」

 喚くエツィオにヴェルノは再び鋭い目を向ける。

「そうだ。俺達にはそれが出来る実力があると言っているんだ。もう時間を無駄に使いたくない。やるならさっさと始めよう」

 ヴェルノの圧に萎縮したエツィオは、再度ニリルを窺う。

 ニリルがそれでいいと頷いたため、エツィオは渋々準備を始めた。
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