命導の鴉

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第一章 輝葬師

六幕 「戦いの後で」 一

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 孤独な暗闇の中で、フワフワと意識だけが漂うような感覚の中にアスはいた。

 この暗闇でどれくらいの時間が経ったのだろうか。

 僅かな時間なのか、それとも悠久の時が流れたのか。

 何も感じない暗闇にあって、朦朧とする意識がアスから時間という概念を喪失させていた。

 突如、一筋の小さな光が出現した。

 光は流れ星のように暗闇の中を突き進み、光の残滓がその軌跡を描いた。

 その光をただぼんやりと捉えていたアスの意識が徐々に覚醒していく。

 意識がかなり鮮明になってくると暗闇の遥か彼方に巨大な光球があることに気付いた。

 今まで気付かなかったことが不思議なくらいに、その光球は力強く慈愛に満ちた光を放っていた。

 先ほどの小さな光はその光球に向かって暗闇の中を進む。

 やがて光は光球に到達し、優しく包まれるかのようにその中に溶け込んでいった。

 アスはその光景に何故か神秘的な美しさを感じていた。

 しばらくその感情の余韻に浸っていたアスだったが、次第に意識が遠のいていく。

 絶えず輝き続ける光球の心地良く温かい光に身を委ねるかのようにアスはそっと眠りについた。



 心地良い眠りの中、ふと聞こえてきた小鳥のさえずりによってアスは再び意識を取り戻した。

 ゆっくりまぶたを開けたアスの視界には天井の梁が映る。

 頭はぼーっとしており夢か現実か意識が定まらない。
 アスは横になったまま首を回し、虚な眼で周囲を見渡す。

 どうやらここはどこかの建物の一室で、自分はベッドの上にいるようだった。

 窓からは陽光が差し込み、部屋の中を明るく照らしている。

 ベッドの横にある小さなナイトテーブルには花が活けられた花瓶が置いてあり、ほのかに香りがした。

 とりあえず起きあがろうと体に力を入れると左肩に激痛が走った。

 アスは顔をしかめながらゆっくりと体を起こすと、着ていた病衣をまくり肩を確認する。

 肩には仰々しく包帯が巻かれており、さするとその手には固められた石膏の感触があった。

 途端に朦朧としていた意識が覚醒し、アスはフレアとの戦いで強烈な一撃を喰らったことを思い出す。

 しかし、その先の記憶は朧気だ。一体あの後どうなったのだろうか。

 不安感が募る中、ギィっと軋む音と共に部屋のドアが開いた。

 アスがドアに視線を向けると水の入った桶を抱えたジゼルが驚いた表情をして佇んでいた。その目には涙が浮かんでいる。

「アスっ!目が覚めたんだね!」

 ジゼルは持っていた桶を床に落とすと、一目散にアスに駆け寄り抱きついた。

「よかった!あれから全然目を覚さないから私・・・」

 姉の目からは大粒の涙が溢れる。

「お姉ちゃん、心配かけたみたいでごめんね」

「ううん、もう大丈夫なの?どこか痛いとこはない?」

 ジゼルは体を離し涙を拭うと、アスの顔を慈しむように覗き込んだ。

「うん、肩が少し痛むけどその他は、・・・多分大丈夫かな」

「そう、よかった。でもまだ無理はしちゃ駄目だよ」

 ジゼルはアスの頭を優しく撫でると、立ち上がって先ほど落とした桶を片付け始めた。

「お姉ちゃん、その・・・フレアはどうなったの?お父さんとニリルさんは?」

 片付けをしていた姉の背中に向かってアスが問いかける。

 もしかしたらという考えが頭をよぎるアスの口調は重い。

 ジゼルは振り返ると心配そうな顔をするアスに笑顔を見せた。

「安心して。二人とも怪我はしたけど大丈夫。お父さんとニリルさんは今手分して、村の状況を確認するために出かけてる。フレアはあの後なんとか討伐できたよ。ほんとギリギリだったけどね」

「そっか、よかった」

 とりあえず皆が生きているということを聞けたアスは安堵して大きく息を吐いた。

「そうそう、ニリルさんと一緒にいたエツィオさんって分かる?」

「馭者の?」

「うん。あの後、戦いに参加して大怪我したんだ。命に別状はなくて意識もハッキリしてるんだけど、今は安静にしてないとってことで隣の部屋で療養してるよ」

「そうなんだ。・・・ねぇ、お姉ちゃん。僕が気を失った後、どうやってフレアを討伐したのか詳しく教えてほしいんだけどいいかな?」

 非戦闘員の馭者まで戦うってことは相当に切迫した状況になったのだと思われたが、それでもフレアを討伐し更に全員が生還したという事実がアスの好奇心を強く刺激した。

 その目は先程まで意識を失っていた人とは思えないくらいに輝いている。

 ジゼルはいつも通りの好奇心旺盛な姿を見せるアスに自然と笑みが溢れていた。

「ふふふ、いいよ。でも、とりあえず先にこれを片付けさせてね」

 ジゼルは桶を持つ手とは反対の手で、先程濡らした床を指すと、バツが悪そうに苦笑いをした。
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