命導の鴉

isaka+

文字の大きさ
29 / 131
第一章 輝葬師

一章終幕 「その目に映るもの」

しおりを挟む
 翌日の正午前、空は晴天。

 暑い日差しが降り注ぐ村の広場に志征のコートを羽織ったニリルと両脇に青い差し色の入った黒いコートを羽織るヴェルノの姿があった。

 各々、怪我をしている側の腕は袖を通していないため、時折吹く柔らかな風によって袖がはためく。

 二人の後方には輝葬衛士であるジゼルが腰に剣を帯びて立っており、彼女もまたヴェルノと同様の黒いコートを羽織っている。

 そして、その三人が見つめる先、広場の中央には予定の四名を超える六名分の棺が置かれていた。

 朝方、輝葬を断っていた遺族からの輝葬依頼が追加で二件あったためだ。

 広場には輝葬に参列する遺族や村の住人達も集まっており、棺が置かれた広場中央に距離をとって、その周りを取り囲んでいた。

 故人を偲ぶ声や先日の惨事を語り合う声がそこかしこから聞こえてくる。

 しばらくして広場に隣接した集会所から正午を知らせる鐘の音が村に鳴り響いた。

 参列者には正午の鐘を合図に輝葬を開始する旨を事前に案内してあったため、集まった人々は私語を慎み、静かに棺がある広場の中央に目線を向けた。

 鐘が鳴り終わり、広場に静寂が訪れる中、ヴェルノとニリルは集まった人たちに深く一礼をしてから、ゆっくりと一つ目の棺に歩を進めた。

 二人が棺のそばまで来ると、棺の横で待機していた双極分枝の職員二名が丁寧に棺の蓋を開ける。

 中にはフレアによって激しく損壊した遺体が収められており、その胸元には淡く美しい光を発する輝核がフワフワと浮かんでいた。

 ニリルが一通り遺体を検分してから目で合図すると、ヴェルノは小さく頷いて輝核の上に左手をかざす。

 そして集中するために静かに目を閉じた。

 ピリピリと大気が振動し、にわかに遺体の輝核が激しく発光する。

 ニリルの立ち会いの下、厳かに輝葬が始った。



 アスは怪我の兼ね合いから今回の輝葬に参加せず、参列者に混じって輝葬の様子を伺っていた。

 遠目なので輝核の流れを感じることはできないが、それでも輝葬師としての所作を学ぼうと、アスは輝葬を行う父の一挙一動をしっかりと目に焼き付ける。

 父が輝葬を開始してから程なくして、輝核と遺体を結んでいた光の糸が切れ、輝核の激しい発光が収まった。

 父の掌の上でフワフワと漂う輝核は青空に向かってゆっくりと上昇を始め、集会所の屋根の高さを越えると一気に加速し、南東方面、王都の双極に向かって弧を描くように飛んでいった。

 輝核を失った棺の中の遺体は光の粒子となって霧散する。

 その一連の流れの中、参列者は皆、手を合わせて祈りを捧げていた。

「へぇー、思ったよりもずっと幻想的な光景だな」

 後ろから男の呟く声が聞こえた。

 アスがその声につられて後ろを振り返るとフードが付いたベージュのコートを纏う長身の男が立っていた。

 男はフードをかぶっており周囲からは顔が見えない格好ではあったが、まだ小さいアスは下から覗く形となったために、その顔がよく見えた。

 男は黒く艶やかな長髪で見惚れるほどの端正な顔立ちをしていた。

 だがそれ以上に際立っていたのは全てを吸い込むかのように深紅に染まった両眼であった。

 その紅い眼がアスの姿を捉える。

「ん、俺の顔に何かついてる?」

「あ、いえ。すみません」

 男の声色に圧のようなものを感じたアスは咄嗟に目を背けた。

「リアス、もういいか?行くぞ」

 横から別の男が紅い眼の男に向かって声をかけてきた。

 アスが声の主の方にそっと目を向けると、紅い眼の男と同様にフードを被った男が立っていた。

 リアスと呼ばれた紅い眼の男もその声に応じるように、アスから視線を移す。

 アスの位置からでは角度が悪く声をかけてきた男の顔は見えなかったが、腰の使い込まれた大剣がかなりの威圧感を放っていた。

「ああ、もういいよ。時間を取らせて悪かったな」

「全くだ。こんなもの見て何になるんだか」

「ははは、そう言うなよ。色々学んで知見を広めておくことは重要だぞ」

「そういうのいいよ、俺は興味ないから」

 大剣の男は渋い顔をしながら広場を背にして歩きだすと、紅い眼の男は笑いながらそれを追いかけるように歩き出した。

 アスは去っていく二人からなんとなく目が離せず、後ろ姿をじっと見つめていた。

 ふと赤い眼の男が振り返る。

 丁度二つ目の輝核が双極に向かって加速を始めたところだったようで、視線は上を向いていた。

 やがてその視線が下りてきて、二人を見つめていたアスの視線と合わさる。

 その視線には先ほどと同様の圧が感じられた。

 距離が空いていたため、今度は目を逸らさずに紅い眼の男を見返すが、アスの心音は高鳴り、緊張で発した汗が頬を伝っていた。

 紅い眼の男は、フッと鼻で笑うようにアスを一瞥すると、再び前を歩く大剣の男を追った。

 そのまま歩を進める二人の姿は建物の影に入り、じきに見えなくなった。

 アスはふぅと大きく息を吐いて緊張を緩めると、無意識に怪我をした左肩をさすりながら、広場の方向に顔を戻した。

 相変わらずの暑い日光が照りつける広場では、三つ目の輝核が上空に上がり始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

勇者辞めます

緑川
ファンタジー
俺勇者だけど、今日で辞めるわ。幼馴染から手紙も来たし、せっかくなんで懐かしの故郷に必ず帰省します。探さないでください。 追伸、路銀の仕送りは忘れずに。

処理中です...