命導の鴉

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第二章 遠き日の約束

三幕 「翡翠の角」 五

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 コモラが息を引き取ってから、アス、ヴェルノ、タラスの三人は手分けして遺体の捜索や遺品の回収を開始する。

 ジゼルはコモラのことが尾を引いて、かなり憔悴しているようであったため、気持ちが落ち着くまでは休憩させることにしていた。

 捜索を開始してから程なくして、丘陵地帯でエドとアグアイと思われる遺体を、そしてパウラの遺体を発見した場所の近くでジョフレと思われる遺体を発見する。

 だが、グリプの遺体だけはどうしても見つからなかったため、三人は一旦丘陵地帯に集合した。

 相談の結果、もしかしたらグリプは生存しているのかもしれないということで、とりあえず先に発見した三名を輝葬し、その上でグリプの輝波があるか確認しようという流れになった。

「それじゃあ、エドの遺体から順次輝葬していこう。ジョフレの遺体はここから少し離れているし、最後だな」

 ヴェルノは、ジゼルに目を向ける。

 ジゼルはあれからずっとコモラの親子の近くに座り、ぼーっとその亡骸を眺めていた。

「・・・ジゼルはまだ無理そうか。アス、悪いが輝葬中の守りをタラスと共に頼む」

 輝葬中は完全に無防備となるため、本来であれば輝葬衛士がその最中の警護を行うのだが、ジゼルの様子を見るに、ヴェルノはまだ難しいと判断した。

 かといって、信用の置けないタラスだけに後ろを任せるのは不安が残るため、今回はやむなくアスを輝葬補助から外した。

 タラスが何かしらの行動を起こすならこのタイミングだと読んでいたヴェルノだったが、そんなヴェルノの不安をよそに、エドとアグアイの輝葬は何事もなく終わる。

「・・・次はジョフレのとこだが、流石にジゼルだけを置いていくわけにはいかないな」

 ヴェルノはボーッと座っているジゼルの肩を叩き、ジョフレのところまで移動しようと声をかける。

 ジゼルは頷くとゆっくり立ち上がり、コモラの親子に祈りを捧げてからヴェルノ達の後を歩き始める。その目は真っ赤に充血していた。

 四人は森の中に入ると、誰も声を発することなくジョフレの遺体を発見した場所まで歩く。

 途中の経路には所々血痕が残っており、怪我を負っていたジョフレがコモラから逃げるために必死に這いずったものと思われた。

「ごめん、今回は無理かな」

「ああ、分かっているよ。もう少し休んでいなさい」

 遺体の前まで来たジゼルは、コモラに酷い仕打ちをしたジョフレが視界に入ることを拒み、少し離れた場所の横倒しになった枯れ木に腰を掛けた。

「アス、周囲の警戒を頼む」

 ヴェルノは目を閉じ、早速ジョフレの輝葬に取りかかる。この無防備の時間を少しでも短くしたいと考えていたのか、いつもより焦った様子が伺えた。

 アスは周囲を警戒しつつ、タラスの行動にも目を配っていたが、特に動きは無い。

 思い過ごしなのか。アスがそう思った矢先、弦を弾くような音と共にヴェルノの背中に向かって一本の矢が放たれた。

 咄嗟にアスがその矢を剣で弾くが、その衝撃でその矢の先端に括り付けられていた柔い袋が弾け、袋に入っていた粉がヴェルノとアスに降りかかる。

 (毒!?)

 アスがすぐに口を覆い、衛浄系の魔操を発動する。

 衛浄系はクッション等で守りを固める他に、各種毒素を浄化する力もあった。

「大丈夫!?」

 異変を察知したジゼルが剣を抜いて、駆けつける。

 アスとジゼルがタラスを挟んで相対した。

「毒じゃありませんよ」

 タラスがにっこり微笑む。

「何をした!?」

 ついに行動を起こしたのかと考えたアスはタラスを睨みつけた。

 しかし、タラスの手には弓矢らしきものはない。矢の飛んできた方角もタラスのいる位置とはズレている。

「ご覧の通り私は何もしてませんよ。でも、射った者は私の仲間であることは認めます。ふふ、皆さんの探していた人物ですよ」

 アスがハッとした表情でタラスを見返す。その脳裏には一人の人物が浮かび上がっていた。

「グリプ・・・」

「はい、その通りです。実はグリプさんは我々の派閥からジョフレ派に送り込んだスパイでしてね、ジョフレ様の一行がコモラ討伐に失敗した際に単独で王都に帰還していたんです。山で起こった一部始終を本来の主に報告するためにね」

「それで?なぜ僕たちを攻撃した?」

 タラスはゆっくりとアスに近づく。

 剣を握るアスの手に自然と力が入った。

「足止めですよ。多分あなた方は私達の任務を阻害するでしょうから。ただ、誤解のないように言っておくと先程の矢は当たらないように配慮して射られています。アスさんが矢を弾いて粉がかかるようには仕向けましたが」

 アスは、自分にかけられた粉を一瞥してから再びタラスに目を向ける。粉からはほのかに刺激感のある香りが漂う。

「・・・任務って?」

「手練れのあなた方をあてがってコモラを討伐し、翡翠の角を持ち帰ることです」

 その言葉にピクリと反応したジゼルが魔力を込めた剣の切先をタラスに向けた。

「そう・・・、あなたも結局翡翠の角狙いなのね。でも、あのコモラには指一本触れさせない」

 タラスがニヤリとした表情をする。

「なぜ、急にペラペラと秘密にしていたことを喋っているか分かりますか?・・・もうここでやるべきことは完了したからですよ。先程の矢が最後の一手。翡翠の角を手にグリプは既に下山を開始しているでしょう。私は最後に皆様にお礼を申し上げるためにここにいるのです。輝葬並びにコモラ討伐ありがとうございました」

 タラスが優雅に頭を下げる。

 そのふてぶてしい態度が癇に障ったようで、アスとジゼルが強烈な圧を発した。

「お前もグリプも逃さない。お前を倒した後にグリプにもすぐに追いついてみせる!」

「言ったでしょう。その粉は足止めであると。私に集中し過ぎて周りがよく見えていらっしゃらないようですね」

「どういうことだ?」

 アスとジゼルが周囲に注意を向け、愕然とした。

「囲まれてる・・・」

「いつのまに・・・」

「ドゥーランです。先程の粉はドゥーランを強烈に刺激し寄せつける匂いを放ちます。皆さんの実力なら十分処理できるとは思いますが、・・・時間はかかるでしょうね」

 タラスは微笑みながらアスに対してもう一度頭を下げる。

「それでは皆さん、私は一足先に王都に戻らせていただきます。後日、結の報告をされると思いますので、その際にまたお会いいたしましょう」
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