命導の鴉

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第二章 遠き日の約束

四幕 「命の捉え方」 二

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 ヴェルノ達は、コモラの火葬を終えてから野営の準備をして、焚火を囲みながらこれまでの経緯をオーべに説明した。

 経緯を聞き終えたオーべは、眉間に皺を寄せる。

「・・・やはりエロワからの捜索依頼だったか。その可能性は考えていたが、それでもあいつが自分の従者だけで処理せず、ヴェルノに声をかけるなんてことは半信半疑ではあったがな」

「多分、コモラの強さがよく分からなかったからだろう。大切な従者を失う可能性があるなら、どうでもいい鴉をあてがうのが一番リスクが低いと考えたんじゃないか」

「あいつならあり得そうだな。それでヴェルノはなんでエロワの依頼を受けた?どちらかというと毛嫌いしていた相手だったと記憶しているが?」

「正直、報酬が魅力的だったってとこだ。剣の修理にまとまったお金が欲しかったからな。依頼を受けると多分ろくなことにならない気もしてたんだが、やっぱりろくなことにならなかったよ。ところでオーべはなんでロムトアにきたんだ?」

 オーべは焚き火を見つめて、一つ息を吐き、長くなるぞと前置きをしてから話を始めた。

「俺はバルタザール卿から直々にロムトアに行ったジョフレの件を処理するようにとの密命を受けて動き始めたんだ。まずはジョフレがロムトアに行った理由から調べたんだが、仕事柄、ロムトアにおける最近のトピックは把握していたから、おそらく翡翠の角狙いだろうということは見当がついていた。裏を取るために自然保護局に行ったら、案の定、ジョフレが頻繁に出入りしていたようで最近翡翠の角の情報を持ち帰ったとの話も聞けた。それで、ジョフレ一行が禁足地ロムトアで密猟するという蛮行に及んでいる可能性が非常に高いと考えて、世間への言い訳用にロムトアでの正式な活動許可を取得すると共に、現地での輝葬にも備えるため、現在王都にいると調べがついていたお前に同行を依頼しに行ったんだ。だが既に出かけた後だったようで拠点には誰もいない。どうしようかと思っていたら隣の家の爺さんが、少し前に高貴な身なりの男と一緒にヴェルノが出かけていったと教えてくれたんだ。その状況と旅立ちのタイミング的に、もしかしたらヴェルノは他の関係者からの依頼でロムトアに向かったのではないかという可能性が頭をよぎった。そうであれば、依頼者として可能性が高いのはエロワだ。本件につながりのある貴族で、ヴェルノと関係があるのはエロワくらいだったからな。もしロムトアに向かったのなら王都外郭西大門に通行記録があるだろうと思って調べたらやはり通過していた。確信とまではいかなかったが、ヴェルノがロムトアに向かった可能性が高いと判断して、急ぎ後を追いかけてきたってわけだ」

 一気にこれまでの経緯を端的に喋ったオーべは喉の渇きを潤すように水を一口飲んだ。

「ねぇお父さん、エロワって誰?」

 アスが話の重要人物と思われるが聞き覚えのないエロワという者について訊ねたが、これにはヴェルノが口をつぐむ。

 そのやりとりに驚いた表情でオーべが口を開く。

「お前、まさか、まだ過去のことを話してないのか?」

「ああ。・・・二人にはじき話すつもりだが、アスが十五になるまでは待って欲しいとお願いしている」

「はぁ~、全部は無理でも少しくらい話してもいいだろうに。というかジゼルにはもう全部話してると思っていたから、そのつもりで色々段取りしてしまったぞ!?」

「おい、段取りってなんだ?何をした?」

 ヴェルノがオーべを鋭い目つきで睨む。

「うーん、強いていうなら遠き日の大切な約束を果たすってとこだな。悪いが何をしたのか今は言えない。だが俺も強い想いがあってやってることだということだけは伝えておくよ」

 オーべもヴェルノに対して強い眼差しを返した。

「・・・そうか、お前がそう言うのならこれ以上聞いても無駄だろうな。とりあえず何をしたのか今は詮索しないことにする。だが、ろくでもないことだったら覚悟しておけよ」

「ああ、分かってる。・・・ところで話をアスの問いに戻すが、エロワのことは話してもいいのか?」

「不必要なことは言うなよ」

「心得た。それじゃあエロワのことについてサラッとだけ二人に共有しよう」

 オーべはもう一口水を喉に流してから話を続けた。

「エロワというのは上級貴族であるバルタザール卿の三男で、ジョフレの弟にあたる。バルタザール卿には男の子供が4人いて、水面下で熾烈な後継者争いを行っているんだ。エロワとジョフレはその候補の内の二人。これまでの話を総合すると、お互いバルタザール卿が所望する翡翠の角を入手して後継者争いで一歩抜きん出たかったってところだろうな」

「じゃあ、コモラはそのくだらない後継争いの犠牲になったってこと?もしそうなら、タラスも許せないけどそのエロワって人も許せない」

 ジゼルがわなわなとしながら拳を握る。

「ところで、なんでお父さんはそんな偉い貴族と知り合いなの?」

 アスが目をぱちぱちさせながらヴェルノに尋ねた。

「・・・そういえばそうね。前から思ってたけど、お父さんの人脈って結構謎よね」

 アスの何気ない質問によってジゼルの思考がとりあえず怒りから切り替わる。

「そうだな、なんと言うか・・・」

「俺とヴェルノは貴族学校でエロワと同級生だったんだよ」

 回答に窮する様子のヴェルノに代わって発したオーべの言葉に、ジゼルが目を丸くする。

「ええぇ!お父さん貴族だったの?」

「おい、オーべやめろ。余計なことを言うな」

 オーべを制すヴェルノの顔が赤らんだ。

「ええ!?この程度のことも駄目なのか・・・って、お前、なんか顔が赤いぞ。お前、もしかして二人に過去のことを話さないのはただ単に恥ずかしいからなんじゃないか?」

「違う、顔が赤いのは焚き火にあたってるからだ!」

 珍しく慌てふためくヴェルノを見てオーべがニヤける。

「ならいいだろ、核心的なことは言ってないんだから。駆け落ちの件とかな」

 ヴェルノの顔が更に真っ赤になる。

 その様子を見たオーべがこらえきれず腹を抱えて笑った。

「おまっ!くそっ!お前はもうしゃべるな!話は終わりだ!」

 声を荒げるヴェルノだったが今度は目を輝かせたジゼルがそれを制す。

「ちょっとお父さんは黙ってて!オーべさん駆け落ちって何!?素敵!」

 笑いながらオーべが二人に話を続けようとするが、ヴェルノが剣の柄に手を当て鬼の形相をする。

「オーべ、・・・片腕くらいなら折ってもいいか?」

「わっ、わかった、わかったから剣を置け。お前が剣を持つとか洒落になってない」

 慌てたオーべが手のひらを前に出し、荒れ狂う獣のような気を放つヴェルノをなだめる。

「ちぇっ。少しくらいいいじゃん。お父さんのケチ!」

 ジゼルが頬をぷぅっと膨らませる。

「みんなすまない、ちょっと悪ノリしすぎた。だが、誤解のないように言っておくが、俺もヴェルノも貴族じゃないよ。むしろその逆で・・・」

 オーべは途中で喋ることを一旦止めて、今度は真剣な表情でヴェルノを見た。

 ヴェルノは小さく頷き、意を決した表情で口を開く。

「俺とオーべは元奴隷だよ」

「えっ?」
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