命導の鴉

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第二章 遠き日の約束

四幕 「命の捉え方」 三

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 元奴隷という予想外の言葉に整理が追いつかないのか、ジゼルは驚いた表情で絶句した。

「うーん、そうだな。ジゼルは約八十年前の統一戦争のことを知っているかい?」

 そう問いかけるオーべの方を見てジゼルが頭を振る中、アスがおずおずと手を上げる。

「・・・確か、東西にある大陸の国家間で起こった戦争で、結果は僕たちのいる西大陸の国家、エルダワイスの勝利。敗北した東大陸の国家、セレンティートは戦後八十年経った今も戦争の責を負って国としての発展を禁止されており、王家は行方不明。また、セレンティートにはエルダワイスからの一般渡航が禁止されており、禁断の地とも呼ばれている。・・・だったかな」

「む、無理、頭が痛い」

 ジゼルが拒絶反応を示しながら頭を抱えた。

「ははは。アスはよく知っていたな。俺とヴェルノはそのセレンティートから小さい頃に奴隷としてエルダワイスに運ばれてきたんだ。奴隷といっても優秀な者は貴族の従者として働くことができる可能性もあったから、国家としての体をなしていない敗戦国の民としてはそんなに悪い話でもなかったと思ってる。そして、俺たちは運良く六華ヴィエルニ家の目にとまり、従者の末席に選ばれつつ、さらに下民として国籍も賜ったんだ」

「なんか想像もつかない話ね。・・・だからオーべさんとお父さんは貴族学校にも通わせてもらえたの?」

「いや、本来なら通えるはずもない。だが、更に運が良かったというか、ヴィエルニ家には丁度年頃のご令嬢がいてな、年が近かった俺達はそのご令嬢に気に入られて、貴族学校での護衛に大抜擢されたんだよ。結果、一緒に学校に通うことになって、その際にエロワとも知り合いになったんだ」

「そうだったんだ。・・・オーべさんありがとう。色々丁寧に説明してくれて」

「どういたしまして」

 頭を下げてお礼を言うジゼルとアスに対して、オーべがニッコリ微笑んだ。

「とりあえず過去の話はそれくらいでいいだろ。・・・それで、オーべはこれからどうするんだ?」

 オーべは焚き火に視線を移し、少し思案する様子を見せた。

「そうだな・・・。ヴェルノ、一つ確認だが、エロワへの結の報告はどこで行う予定なんだ?」

「俺は今でも貴族達が住む王郭内には出入り禁止となっているから、内郭のどこかになるだろうな。内郭内のホテルの一室を連絡用の場所に定めていて、そこに常駐している連絡員からエロワに連絡が行き、落ち合う場所が決まるって流れになってる。だが、翡翠の角という目的を達成した以上、エロワは来ないだろう。多分、来るならタラスあたりか・・・」

 その名前にジゼルがピクッと反応するが、握っていた拳を更に強く握りしめるだけで二人の会話に割り込まず黙っていた。

「なるほどな。じゃあお前達についていこう。少し予定が狂ったが調整できそうだ。俺がいれば多分みんなまとめて王郭内にあるバルタザール卿の屋敷に招待されるだろう」

 ヴェルノが怪訝な顔をする。

「何かあてがあるのか?」

 オーべが不適な笑みを浮かべて鞄から一つの紙切れを出した。

「なんだそれは?」

「俺の切り札だよ。エロワもバルタザール卿も喉から手が出るほど欲しいものさ。現に翡翠の角が手元に入った今なら尚更な」

 紙には『特定希少自然保護物保有許可証』と記載されており、対象は特定保護種コモラ変異型頭角、許可者は六華ヴィエルニ家当主アレクシス=ヴィエルニとなっていた。

 しっかりと当主の輝印も押されている。

「おいおい、そんなものよく手に入ったな」

「なかなかの切り札だろう?ジョフレとエロワは甘く考えていたようだが、翡翠の角の保有許可はバルタザール卿の力を持ってしても簡単には手に入らないから、今のままじゃ密猟の汚名と大罪による罰は免れない。エロワはバルタザール卿が安易に翡翠の角の獲得に動いていない理由を理解できていなかったんだろうな。・・・だから、これがあれば必ず飛びついてくるさ」

 オーべが許可書を丁寧に鞄にしまいつつ、鞄の中にあるもう一つの紙を見つめて残念そうな顔をした。

「実は翡翠の角の採取許可証も取得していたんだ。今回の件がなくても、いずれあのコモラは誰かに狩られていただろう。だから標的となる角だけを採取してしまえばその命を守ってやれると思ってな。しっかり要員と戦術を準備すればそれが十分可能だった筈なんだが・・・」

「そうだったのか。今更嘆いてもしょうがないが、もっと良い結末にたどり着けていた可能性があったと考えると残念ではあるな。・・・まぁ、何にせよ今回の総決算だ」

 オーべの切り札を知ったヴェルノがジゼルに視線を向ける。

「オーべが作ってくれたチャンス。最後にエロワ達を引き出して一発かませそうだが、どうするジゼル?」

「当然、タラスも黒幕のエロワも一発ぶん殴る!!」

 ジゼルは先ほど握りしめた拳を前に突き出し、怒気を孕んだ声で言い放った。



 ヴェルノ達は王都に戻ると早速、連絡要員に事の次第を伝える。

 オーべの読み通り、しばしの時間をおいて連絡要員から、王郭内にあるバルタザール卿の屋敷へ来るようにと伝達があり、王郭通行許可証と臨時召喚書が手渡された。

 連絡要員からの話では、結の報告にバルタザール卿も同席するとのことだった。

「これで出禁のヴェルノも王郭内に入れるな。早速向かおう」

「・・・厳かな感じね。なんか緊張してきた」

 渡された許可証を眺めながらジゼルが不安感を吐露する。

「そうか?多分入ってみれば大したことないと思うんじゃないかな。大体、本来は王郭に入ること自体はそんなに難しいことじゃないんだよ。王城や双極本部もあるし、勤務している人たちや双極本部に用がある人なんかは一般人でも普通に許可書を取得して通行している。むしろ出禁になる方が難しい位だ。・・・アスは大丈夫か?」

 ヴェルノは自虐的ともいえる発言をしながらアスを見た。

「うん、門を通るだけだし、特に何も感じてないかな。多分、お姉ちゃんはこれから貴族を殴りに行くから、そのことで緊張している部分が強いんじゃないかな」

「・・・確かにそうね。上手く殴れるかしら」

 ジゼルは自分の拳を丁寧にさすった。

「ははは、どうなるか楽しみだな。さぁみんな行こう!」

 オーべがワクワクしたような声を上げながら、一行に出発を促した。
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