命導の鴉

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第二章 遠き日の約束

六幕 「家族の絆」 二

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「面をあげよ」

 思いのほか若い声。

 その言葉に応じてアスが顔を上げるとそこには、声から推察した通りの若い男が座っていた。

 多分20代後半くらい、少なくともヴェルノよりは若いだろう。

 アレクシスはヴェルノとオーべを見るとニヤッと笑った。

「久しぶりだな。15年前の一件で父上にヴィエルニ家を追放されて以来か?まさかこんな形で再開するとは思わなかったよ」

「お久しぶりでございます。アレクシス様」

 六華の当主ということもあってか、流石のヴェルノも珍しくかしこまって丁寧にお辞儀をする。

 その姿を見たアレクシスは声をあげて笑った。

「ははは、かしこまらなくてもいいよ。懐かしい面々が揃ったんだ。今日だけは昔クレア姉様と一緒に遊んだ頃のようにアレクと呼んでくれて構わない」

「アレクシス様!それはなりませぬぞ!」

 ニコラスが声を張り上げるが、アレクシスは耳を指で塞いで眉間に皺を寄せた。

「そんなでかい声出さなくても聞こえてるよ。俺がいいって言ってるんだからいいんだよ。ニコラスはほんと頭が固いな」

 顔を赤らめて怒った表情を見せるニコラスに向かって、アレクシスはケタケタと笑った。

 六華当主と言うわりにはあまりにも軽いノリの男でアスもジゼルも呆気に取られた。

「それで?うちの縁故だという者はどこだ?」

 アレクシスが足を組んで尊大な態度でニコラスに尋ねる。

 ニコラスは頷くと、ジゼルに視線を向けて、どうぞ前へと勧めた。

 ジゼルは戸惑いながらも勧めに応じて一歩前に出る。

「えっと。・・・私です。ジゼルといい、あっ、申します」

 辿々しく自己紹介をするジゼルを見たアレクシスが途端にその表情を変える。

「驚いたな。昔の姉様がそのまま目の前に現れたようだ。ニコラス、これはどういうことだ?遠い縁故の者がくるんじゃなかったのか?」

「信じがたいのですが、クレア様のお子だとのことです。私も驚きましたが、見ての通りクレア様に瓜二つですので信憑性は高いかと。詳しくはオーべとヴェルノが説明いたします」

 ニコラスの言葉に従い、ヴェルノが説明のために一歩前に出た。

「俺とクレアの子だ。それで大体分かるだろアレク」

 ヴェルノは臆することなく、先ほどアレクシスが言った通りアレクと呼びながら端的に言い放った。

「貴様、本当にいい加減にしろ!アレクシス様になんて口のきき方だ!」

「えっ?さっきアレクがいいって言ってただろ?」

「いいからニコラスは少し黙ってろ。ヴェルノ、本当に姉様の子供なのか?」

「ここまで来て嘘を言うと思うか?」

「ははは、これは愉快だ。もしかしてあの駆け落ちの時か!まさか子供がいたとはな」

 アレクシスが笑いながら椅子の肘掛けをバンバンと叩く。

「ああ、そうだ。王が派遣した追手に捕まってそのまま記録を抹消されたから、俺を追放した先代も多分知らなかっただろう」

 アレクシスは上機嫌な様子で、クレアにそっくりと評したジゼルを見つめた。

「じゃあ、血の濃さとしては申し分ないな。ジゼルはヴィエルニ家に迎え入れよう。・・・姉様の隠し子ってなると世間体も悪いから遠縁の者として扱うことになるかな。これで遺跡調査の認証問題も解決だし、家族も増えてよかったよかった」

「待てアレク、オーべから遺跡調査への協力にあたっての条件を伝えてあったはずだ。それは守ってもらうぞ」

 話をまとめて場を辞そうとするアレクシスをヴェルノが慌てて静止する。

「条件?ニコラス、なんか条件ってあったっけ?」

 アレクシスがキョトンとした顔でニコラスを見る。

「翡翠の角の所有許可証の件、ヴィエルニ家の聖堂で正心の儀を行う件、ジゼル様の意志を尊重する件の3つです。なお一つ目の翡翠の角の件は履行済みです」

「ふーん、そう。正心の儀は姉様の子ならすればいいし問題無いとして、ジゼルの意志って何?」

 アレクシスの問いかけに、ジゼルは深呼吸をして、心を落ち着けてから先ほど馬車の中で語った思いをそのまま告げた。

「遺跡調査には協力します。・・・でも、ヴィエルニ家との縁はそれっきり。調査が完了したら、私はヴェルノ・ミュルジェの子として生きていきます。それを認めてください」

「・・・あ?」

 アレクシスは先ほどまでの友好的な態度から一変して威圧的な低い声を放つ。

 場の緊張感が一気に高まった。

「なんだそれ、駄目だろ。お前はヴィエルニ家の血を引いているんだろ?だったらヴィエルニ家に命を尽くせよ」

 アレクシスは冷徹かつ無機質な目でジゼルを睨みつけた。

 ジゼルはアレクシスの急な豹変ぶりについていけず、萎縮して言葉を失った。

「・・・アレクの悪い部分が出てきたな。昔とちっとも変わってない」

 オーべが小声で呟く。

「やっぱり、条件を違えてきたな。だから不安だったんだ。だが、アレクのあの超絶わがままな気質は分かってたんだから、もちろんオーべはこうなることも予想してたんだろ?手はあるよな?」

 ヴェルノが尋ねるとオーべは頭を振って小声で返した。

「・・・予想の範囲ではあるがすまない、俺がどうこうすることは出来ない」

「な、オーべ、本気で言っているのか?」

「あの状態になったら俺たちの声は届かないだろう。この場で唯一アレクシスに条件を履行させる可能性がある者がいるとしたら、それは多分ヴィエルニ家の血を引くジゼルだけだ。打てる手は全て打ったから、あとはジゼルに任せて祈るしかない」

「おまっ、ふざけるなよ!?」

「もう賽は投げられたんだ。ヴェルノも祈れ」

「くそ、失敗したら、俺はヴィエルニ家全部を相手にしてでも、ジゼルを連れ戻すからな!オーべ、お前も一緒に責任取れよ!」

 ヴェルノとオーべがお互いに事態の好転を祈る中、萎縮していたジゼルが意を決して口を開いた。

「残念ですが条件を認めていただけないのであれば、遺跡調査へのご協力はできません。これで失礼いたします」

 ジゼルが今できる精一杯の虚勢を張りながら深く頭を下げた。

 その姿を見たアレクシスは眉をひそめて大きく息を吐いた。

「何か勘違いしているようだが、姉上の汚点ともなりうるお前やヴェルノ、その他関連する者は、俺が認知した時点で本来であれば排除するところなんだ。わかるか?遺跡調査の件での利用価値があるという一点のみがお前達をギリギリ生かしている。つまりお前の発言次第でヴェルノ、オーべ、あとそこの・・・、えーと、誰だ?」

 アレクシスがアスを見て首を傾げる。

「まぁいい、そこの名も知らぬ子供も一緒に命を失うことになる。その辺を十分にわきまえて言葉を発するんだな」

 家族の命を天秤にかけられたジゼルはそれ以上どうすればよいのか分からないといった様子で黙りこくる。

「よし、分かったようだな。それではジゼルは今日からヴィエルニ家だ。ヴェルノとオーべはここまでお疲れ様だったな。もう帰っていいぞ。褒美が欲しければニコラスに言ってくれ。これで話は終わりだ!」

 ここまでの様子を静観していたヴェルノとオーべに焦りの表情が浮かぶ。

「くそっ、やっぱり駄目じゃないか」

「・・・都合よく正心の儀だけを行わせてもらおうなんてことはそもそも無理な話だったか」

「どうするんだオーべ?」

「すまないヴェルノ。最早、ここは一旦引き下がるしか・・・」

 そんな中、アスが手を上げて前に出た。
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