47 / 131
第二章 遠き日の約束
六幕 「家族の絆」 一
しおりを挟む
馬車はヴィエルニ家の正門を抜け、さらにしばらく進んでからその動きを止めた。
馬車の到着を待っていたヴィエルニ家の従者が馬車の扉をノックしてから、ゆっくりと静かに扉を開けた。
「お待ちしておりました、どうぞお降りくださいませ」
丁寧にお辞儀をする従者の言葉に従って、ヴェルノ達が馬車を降りると恐ろしく巨大な屋敷が目に飛び込んできた。
バルタザールの屋敷も相当な大きさであったが、それでも比べ物にならないくらいに大きい。
「で、でかいわね。ちょっと圧倒されてきた」
「でかくてもただの建物だ。臆する必要はないさ」
そう言ったヴェルノであったが、やはりこの場所は色々な記憶がよみがえってくるのか、その表情は複雑そうだった。
「中へお進みください。貴賓室へご案内いたします」
そこかしこにいる衛兵や従者の前を横切りながら広い屋敷内を歩き、3階の貴賓室に通されると、そこでやっとヴェルノ達は一息つくことができた。
「なんか気が張って既に疲れてきた・・・。ちょっと風にあたろうかな」
ジゼルが窓に近づき窓を開けると、その頬を撫でるように心地良い風が室内に入り込む。
窓から見える景色もヴィエルニ家の庭園と空の青が相まって美しかった。
ジゼルは胸いっぱいに風を吸い込んでから、アスに視線を向ける。
そして笑顔でこっちにおいでとアスを呼び寄せた。
アスが黙ってジゼルの下に向かうと、ジゼルはそっとアスを抱きしめて小声で囁いた。
「お父さんもオーべさんも今は余裕がないだけだと思うから、気づいてないこと、許してあげてね」
アスの目には、今にも溢れそうな程に涙が溜まる。
「過去も今もこれからも変わらない。アスは私の可愛い弟で、大切な家族だよ」
それは今アスが1番聞きたかった言葉だった。
こんな時でも相手を気遣う姉の優しさを一身に受けたアスは涙をこぼしてありがとうと言った。
そんな中、貴賓室の扉をノックする音が部屋に響く。
オーべがどうぞと声をかけると、扉が開き一人の男性が一礼してから部屋に入ってきた。
「ニコラス・・・」
ヴェルノがそう呟くと、男性は不快な顔をする。
「お前は相変わらず口のきき方がなってないようだな。目上の人物の名前を呼ぶときはせめて敬称をつけろ。・・・オーべ、当主は謁見の間でお会いになる予定だが、例の人物は間違いないんだろうな?」
所作は丁寧であったが、その言葉は威圧的だ。
「はい。彼女がそうです。名はジゼルといいます」
オーべがそう言って紹介したので、ジゼルはできる限り丁寧に頭を下げた。だが、慣れていないこともあって、その動きはぎこちない。
ニコラスは、頭を下げるジゼルを見るやいなや、すぐに目を見開いた。
「ク、クレア様!?」
ヴェルノがゆっくり顔を横に振る。
「・・・違うよニコラス、ジゼルは、クレアの子供だよ」
「まさか、そんな筈は、・・・一体どうなってる!?」
クレアの子だと聞いても半信半疑の表情を見せるニコラスであったが、一方でその姿を懐かしむかのようにうっすらと目に涙を浮かべた。
「ジゼルは間違いなくクレア様の子です。詳細は当主の前でお話しできればと思います」
オーべが丁寧な口調で補足すると、ニコラスは一つ頷いた。
「・・・私たちが関知していない遠縁の者を連れてくるものだとばかり思っていたから、流石にこれは驚いた。だが、確かにこの私が見紛うほどにクレア様の若かりし頃に瓜二つだ。いいだろう、クレア様のお子として謁見の間へ進むことを許可する」
そう言いながら軽く目を拭うとニコラスはジゼルの前に進み、そしてひざまずいた。
「ジゼル様、私はヴィエルニ家執事長のニコラスと申します。どうぞ覚えおきください」
「すごい手のひら返しだな。さっきとは別人だ」
ヴェルノの軽口にニコラスが青筋を立てる。
「そういうお前は本当に相変わらずの不愉快さだな。いいから黙ってろ!」
「はいはい」
喧嘩するような口調で話す二人だったが、険悪というよりはどことなく嬉しそうな、そして懐かしい友にあったかのような雰囲気だった。
ニコラスの案内によって、ヴェルノ達はすぐに謁見の間に通された。
謁見の間は100人が軽く入れそうな広い部屋で、備え付けられた多数の天窓から取り入れられた日光が室内を明るく照らす。
床は全て大理石で、前方には宝石と黄金で装飾された玉座があった。
その玉座を守るように数人の衛兵が立つ。
それらが相まって放たれる重厚感が、一同にただならぬ雰囲気を感じさせた。
「下民が客人としてこの場に入ることは多分初めてだろう。失礼のないように。ジゼル様は無理はなさらなくて良いですが出来るだけ丁寧な所作を心がけください」
「なんか、差別的な扱いだな。俺にも優しい言葉をかけてくれないのか?」
ヴェルノの軽口が止まらない。その姿はどちらかというと喋っていないと落ち着かないという印象が強いようにも感じられた。
「黙ってろと言っただろ。口を閉じられないのならお前だけ退席してもらうぞ」
「・・・お父さん、なんか子供みたい。やめなよ」
「ははは、子供に諭されているようじゃ相当だな」
「一同静粛に、頭をお下げください。ヴィエルニ家、当主アレクシス様が参られます」
従者の声が響き渡ると謁見の間の奥にある扉がゆっくりと開いた。
そして、一人の男がつかつかと椅子に向かって歩み寄り、そのまま椅子に座った。
馬車の到着を待っていたヴィエルニ家の従者が馬車の扉をノックしてから、ゆっくりと静かに扉を開けた。
「お待ちしておりました、どうぞお降りくださいませ」
丁寧にお辞儀をする従者の言葉に従って、ヴェルノ達が馬車を降りると恐ろしく巨大な屋敷が目に飛び込んできた。
バルタザールの屋敷も相当な大きさであったが、それでも比べ物にならないくらいに大きい。
「で、でかいわね。ちょっと圧倒されてきた」
「でかくてもただの建物だ。臆する必要はないさ」
そう言ったヴェルノであったが、やはりこの場所は色々な記憶がよみがえってくるのか、その表情は複雑そうだった。
「中へお進みください。貴賓室へご案内いたします」
そこかしこにいる衛兵や従者の前を横切りながら広い屋敷内を歩き、3階の貴賓室に通されると、そこでやっとヴェルノ達は一息つくことができた。
「なんか気が張って既に疲れてきた・・・。ちょっと風にあたろうかな」
ジゼルが窓に近づき窓を開けると、その頬を撫でるように心地良い風が室内に入り込む。
窓から見える景色もヴィエルニ家の庭園と空の青が相まって美しかった。
ジゼルは胸いっぱいに風を吸い込んでから、アスに視線を向ける。
そして笑顔でこっちにおいでとアスを呼び寄せた。
アスが黙ってジゼルの下に向かうと、ジゼルはそっとアスを抱きしめて小声で囁いた。
「お父さんもオーべさんも今は余裕がないだけだと思うから、気づいてないこと、許してあげてね」
アスの目には、今にも溢れそうな程に涙が溜まる。
「過去も今もこれからも変わらない。アスは私の可愛い弟で、大切な家族だよ」
それは今アスが1番聞きたかった言葉だった。
こんな時でも相手を気遣う姉の優しさを一身に受けたアスは涙をこぼしてありがとうと言った。
そんな中、貴賓室の扉をノックする音が部屋に響く。
オーべがどうぞと声をかけると、扉が開き一人の男性が一礼してから部屋に入ってきた。
「ニコラス・・・」
ヴェルノがそう呟くと、男性は不快な顔をする。
「お前は相変わらず口のきき方がなってないようだな。目上の人物の名前を呼ぶときはせめて敬称をつけろ。・・・オーべ、当主は謁見の間でお会いになる予定だが、例の人物は間違いないんだろうな?」
所作は丁寧であったが、その言葉は威圧的だ。
「はい。彼女がそうです。名はジゼルといいます」
オーべがそう言って紹介したので、ジゼルはできる限り丁寧に頭を下げた。だが、慣れていないこともあって、その動きはぎこちない。
ニコラスは、頭を下げるジゼルを見るやいなや、すぐに目を見開いた。
「ク、クレア様!?」
ヴェルノがゆっくり顔を横に振る。
「・・・違うよニコラス、ジゼルは、クレアの子供だよ」
「まさか、そんな筈は、・・・一体どうなってる!?」
クレアの子だと聞いても半信半疑の表情を見せるニコラスであったが、一方でその姿を懐かしむかのようにうっすらと目に涙を浮かべた。
「ジゼルは間違いなくクレア様の子です。詳細は当主の前でお話しできればと思います」
オーべが丁寧な口調で補足すると、ニコラスは一つ頷いた。
「・・・私たちが関知していない遠縁の者を連れてくるものだとばかり思っていたから、流石にこれは驚いた。だが、確かにこの私が見紛うほどにクレア様の若かりし頃に瓜二つだ。いいだろう、クレア様のお子として謁見の間へ進むことを許可する」
そう言いながら軽く目を拭うとニコラスはジゼルの前に進み、そしてひざまずいた。
「ジゼル様、私はヴィエルニ家執事長のニコラスと申します。どうぞ覚えおきください」
「すごい手のひら返しだな。さっきとは別人だ」
ヴェルノの軽口にニコラスが青筋を立てる。
「そういうお前は本当に相変わらずの不愉快さだな。いいから黙ってろ!」
「はいはい」
喧嘩するような口調で話す二人だったが、険悪というよりはどことなく嬉しそうな、そして懐かしい友にあったかのような雰囲気だった。
ニコラスの案内によって、ヴェルノ達はすぐに謁見の間に通された。
謁見の間は100人が軽く入れそうな広い部屋で、備え付けられた多数の天窓から取り入れられた日光が室内を明るく照らす。
床は全て大理石で、前方には宝石と黄金で装飾された玉座があった。
その玉座を守るように数人の衛兵が立つ。
それらが相まって放たれる重厚感が、一同にただならぬ雰囲気を感じさせた。
「下民が客人としてこの場に入ることは多分初めてだろう。失礼のないように。ジゼル様は無理はなさらなくて良いですが出来るだけ丁寧な所作を心がけください」
「なんか、差別的な扱いだな。俺にも優しい言葉をかけてくれないのか?」
ヴェルノの軽口が止まらない。その姿はどちらかというと喋っていないと落ち着かないという印象が強いようにも感じられた。
「黙ってろと言っただろ。口を閉じられないのならお前だけ退席してもらうぞ」
「・・・お父さん、なんか子供みたい。やめなよ」
「ははは、子供に諭されているようじゃ相当だな」
「一同静粛に、頭をお下げください。ヴィエルニ家、当主アレクシス様が参られます」
従者の声が響き渡ると謁見の間の奥にある扉がゆっくりと開いた。
そして、一人の男がつかつかと椅子に向かって歩み寄り、そのまま椅子に座った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる