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第二章 遠き日の約束
六幕 「家族の絆」 四
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アレクシスが手元に届いた自身の剣をゆっくり鞘から抜くと、紫色の美しい刀身が姿を表した。
「最高級の純紫鋼を鍛えて造られた名剣だ。勿論、魔錬刃でもある。これに切られて死ねる者はほんの一握りだ。光栄に思え」
「お待ちください!」
アレクシスが剣を構えてアスに歩み寄り始めたところで、オーべが声を張り上げる。
だが、アレクシスは歩みを止めない。
「今さらの助命嘆願など、聴く余地はない」
「違います。ヴィエルニ家の名誉に関わる話です」
アレクシスがその足を止めた。やはりヴィエルニ家の名誉という言葉が効くようだった。
「ヴィエルニ家の名誉?」
「アスがヴィエルニ家を侮辱したことは許されないことでしょう。ですが、まだ正心の儀も迎えていない十歳の少年を無抵抗のまま殺したとあっては、世間はどう捉えるでしょうか?」
「何も問題ないだろ、やむなしと考えるんじゃないか?」
「噂というものは、面白おかしく尾ひれをつけながら広まっていくものです。真実がどうあれ、ヴィエルニ家にとって好ましい評価はされないでしょう」
「それで?」
「アスは子供です。せめてアスにも剣を与え、正式な決闘の中で処罰してください。同じ殺すという行為にも寛大な慈悲の心があったとなれば、世間の見え方は変わるでしょう。少なくともヴィエルニ家の正当性は確実なものとなります」
「ふーん。俺はこのまま殺しても別にいいとは思うけど、まぁそれも一興か。ニコラスはどう思う?」
「決闘などもってのほか、なりませぬ。もし御身に何かあればどうなさいます?ここは先ほどから言っている通り、この件を私に一任くださいませ」
「・・・あ?どういう意味だニコラス、お前は俺がこんな子供に遅れを取るといいたいのか!?」
オーべの話で幾分か冷静さを取り戻していたように見えたアレクシスの温度感が再度急上昇した。
「そういうわけでは、しかし!」
「もういい、決めた。アスといったな、喜べ!オーべの言った通り子供を相手にするんだからせめてもの慈悲を与えて、この俺との決闘の場を用意してやろう。そこでヴィエルニ家を侮辱したお前を八つ裂きにしてくれる」
「おやめください!万が一ということがございます!」
「黙れ!まだ言うか!万が一などない!」
アレクシスとニコラスのやりとりを見ていたオーべは、ひとまず想定通りの展開によって、アスの命がこの場で失われることがなくなったことに大きく息を吐いた。
だが、まだ最後に重要な一押しが残っている。
オーべは意を決して、その詰めのための一手を放つ。
「決闘となれば、第三者の立ち合いと勝者への報酬を事前に取り決める必要があります。万が一もないとの仰せですが、形だけは整えておきましょう」
「・・・まぁそうもそうだな。確か今日はシモンが来るはずだったな。丁度いい、シモンに立ち会いを任せよう。俺の報酬は・・・」
アレクシスが顎に手をあて少し考える素振りを見せる。
「よし。ヴェルノとオーべの二人は死ぬまで俺の奴隷となり、俺に尽くすということにしよう。それで少年アスはどうする?どうせ死ぬんだからなんでも言っておけばいいぞ」
アレクシスは笑みを浮かべてはいたが、容赦するつもりは全くない様子であった。
アスは物怖じすることなく、一礼する。
「ありがとうございます。僕の願いは決まっています。オーべさんが最初に提示した二つ目と三つ目の条件を履行すること、それで結構です」
アレクシスは目を丸くした。
「もっと俺を驚嘆させるような大きいことを言うかと思ったが、案外控えめな要求だったな。まぁいい、これで決まったな。ニコラス!シモンが来たらすぐに闘技場へ案内しろ。ヴェルノ達はシモンが来るまでの間、貴賓室を使うといい。それまではお互いの準備時間にしておこうか。そんなに時間はないが最後の家族団らんになるだろうから、ゆっくり噛み締めるといい」
そう言い放つとアレクシスは高笑いをしながら謁見の間から去っていった。
アス達が従者に案内されて謁見の間から貴賓室に戻ると、ヴェルノは真っ先にオーべを殴りつけた。
「ちょっと、お父さんやめて!」
大きな音をたてて吹っ飛ばされたオーべにジゼルが駆け寄る。
「こいつの甘い見込みのせいでジゼルは奪われる寸前、アスの命も危ういんだ!殴って当然だろ!」
「・・・そうだな。みんな本当にすまない、間違いなく俺の失態だ」
殴られた頬をさすりながらゆっくりと立ち上がるとオーべは皆に向かって深々と頭を下げた。
「特にアスには決闘を強要する形になってしまった。もっといい案が思い浮かべばよかったんだが、不甲斐ないよ」
アスはゆっくりと顔を横に振ると穏やかな表情をした。
「いいえ、あそこまで状況を悪化させたのは僕のせいでもありますから。むしろあそこから、決闘に勝てば全てがこちらの思うようになる状況を作ってくれたオーべさんに感謝しているくらいです。・・・それで、僕はどうすれば勝てますか?」
一同がこの状況に悲観的な心境になっている中で、アスの目はその輝きを全く失っていなかった。
「どうすれば勝てる・・・か。アスは本当に心根が強いな」
オーべが目を細めてアスの姿を見つめた。
「お父さんとお姉ちゃんも一緒に作戦を考えよう!」
アスが放つ言葉は活力に満ち溢れており、その気にあてられたヴェルノとジゼルの表情も自然と和らいだ。
「・・・そうだな。よし、それじゃあ皆で打倒アレクシスの作戦を考えるぞ」
「うん。・・・アス、ありがとね」
ジゼルが涙を一筋こぼしながら、そっとアスを抱きしめた。
「最高級の純紫鋼を鍛えて造られた名剣だ。勿論、魔錬刃でもある。これに切られて死ねる者はほんの一握りだ。光栄に思え」
「お待ちください!」
アレクシスが剣を構えてアスに歩み寄り始めたところで、オーべが声を張り上げる。
だが、アレクシスは歩みを止めない。
「今さらの助命嘆願など、聴く余地はない」
「違います。ヴィエルニ家の名誉に関わる話です」
アレクシスがその足を止めた。やはりヴィエルニ家の名誉という言葉が効くようだった。
「ヴィエルニ家の名誉?」
「アスがヴィエルニ家を侮辱したことは許されないことでしょう。ですが、まだ正心の儀も迎えていない十歳の少年を無抵抗のまま殺したとあっては、世間はどう捉えるでしょうか?」
「何も問題ないだろ、やむなしと考えるんじゃないか?」
「噂というものは、面白おかしく尾ひれをつけながら広まっていくものです。真実がどうあれ、ヴィエルニ家にとって好ましい評価はされないでしょう」
「それで?」
「アスは子供です。せめてアスにも剣を与え、正式な決闘の中で処罰してください。同じ殺すという行為にも寛大な慈悲の心があったとなれば、世間の見え方は変わるでしょう。少なくともヴィエルニ家の正当性は確実なものとなります」
「ふーん。俺はこのまま殺しても別にいいとは思うけど、まぁそれも一興か。ニコラスはどう思う?」
「決闘などもってのほか、なりませぬ。もし御身に何かあればどうなさいます?ここは先ほどから言っている通り、この件を私に一任くださいませ」
「・・・あ?どういう意味だニコラス、お前は俺がこんな子供に遅れを取るといいたいのか!?」
オーべの話で幾分か冷静さを取り戻していたように見えたアレクシスの温度感が再度急上昇した。
「そういうわけでは、しかし!」
「もういい、決めた。アスといったな、喜べ!オーべの言った通り子供を相手にするんだからせめてもの慈悲を与えて、この俺との決闘の場を用意してやろう。そこでヴィエルニ家を侮辱したお前を八つ裂きにしてくれる」
「おやめください!万が一ということがございます!」
「黙れ!まだ言うか!万が一などない!」
アレクシスとニコラスのやりとりを見ていたオーべは、ひとまず想定通りの展開によって、アスの命がこの場で失われることがなくなったことに大きく息を吐いた。
だが、まだ最後に重要な一押しが残っている。
オーべは意を決して、その詰めのための一手を放つ。
「決闘となれば、第三者の立ち合いと勝者への報酬を事前に取り決める必要があります。万が一もないとの仰せですが、形だけは整えておきましょう」
「・・・まぁそうもそうだな。確か今日はシモンが来るはずだったな。丁度いい、シモンに立ち会いを任せよう。俺の報酬は・・・」
アレクシスが顎に手をあて少し考える素振りを見せる。
「よし。ヴェルノとオーべの二人は死ぬまで俺の奴隷となり、俺に尽くすということにしよう。それで少年アスはどうする?どうせ死ぬんだからなんでも言っておけばいいぞ」
アレクシスは笑みを浮かべてはいたが、容赦するつもりは全くない様子であった。
アスは物怖じすることなく、一礼する。
「ありがとうございます。僕の願いは決まっています。オーべさんが最初に提示した二つ目と三つ目の条件を履行すること、それで結構です」
アレクシスは目を丸くした。
「もっと俺を驚嘆させるような大きいことを言うかと思ったが、案外控えめな要求だったな。まぁいい、これで決まったな。ニコラス!シモンが来たらすぐに闘技場へ案内しろ。ヴェルノ達はシモンが来るまでの間、貴賓室を使うといい。それまではお互いの準備時間にしておこうか。そんなに時間はないが最後の家族団らんになるだろうから、ゆっくり噛み締めるといい」
そう言い放つとアレクシスは高笑いをしながら謁見の間から去っていった。
アス達が従者に案内されて謁見の間から貴賓室に戻ると、ヴェルノは真っ先にオーべを殴りつけた。
「ちょっと、お父さんやめて!」
大きな音をたてて吹っ飛ばされたオーべにジゼルが駆け寄る。
「こいつの甘い見込みのせいでジゼルは奪われる寸前、アスの命も危ういんだ!殴って当然だろ!」
「・・・そうだな。みんな本当にすまない、間違いなく俺の失態だ」
殴られた頬をさすりながらゆっくりと立ち上がるとオーべは皆に向かって深々と頭を下げた。
「特にアスには決闘を強要する形になってしまった。もっといい案が思い浮かべばよかったんだが、不甲斐ないよ」
アスはゆっくりと顔を横に振ると穏やかな表情をした。
「いいえ、あそこまで状況を悪化させたのは僕のせいでもありますから。むしろあそこから、決闘に勝てば全てがこちらの思うようになる状況を作ってくれたオーべさんに感謝しているくらいです。・・・それで、僕はどうすれば勝てますか?」
一同がこの状況に悲観的な心境になっている中で、アスの目はその輝きを全く失っていなかった。
「どうすれば勝てる・・・か。アスは本当に心根が強いな」
オーべが目を細めてアスの姿を見つめた。
「お父さんとお姉ちゃんも一緒に作戦を考えよう!」
アスが放つ言葉は活力に満ち溢れており、その気にあてられたヴェルノとジゼルの表情も自然と和らいだ。
「・・・そうだな。よし、それじゃあ皆で打倒アレクシスの作戦を考えるぞ」
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