命導の鴉

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第二章 遠き日の約束

六幕 「家族の絆」 五

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 それから時間にして1時間、運命の時が訪れた。

 貴賓室の扉がゆっくりと開き、そこに立つニコラスが静かに告げる。

「ラウル教の大司教であられるシモン様が到着され、決闘の立ち会いを正式に受けられた。これより闘技場へ案内する」

 ニコラスがアスに視線を向ける。

「本当にいいのか?誠心誠意謝ると言うのであれば私も力を貸す。だから、今からでも皆で助命を嘆願しないか?子供が命を落とすのはやはり忍びない」

「ありがとうございます。でも、僕たち家族が家族であり続けるために、僕は戦います」

「・・・そうか、そこまで言うなら最早なにも言うまい。アスの戦いを見届けよう」

 ニコラスが敬意を表してアスに一礼してから、踵を返し先導を始めた。

 アスは腰に帯びた剣の柄を強く握り覚悟を決めるかのように深呼吸をすると、まっすぐニコラスの後ろを歩き始めた。

 屋外に設置された闘技場に着くと、アスはすぐに闘技控え室へ向かうよう促された。ヴェルノ達とはここで一旦離れることとなる。

「アス、後のことは考えなくていい。今この瞬間に全てを注ぐんだぞ」

 ヴェルノがアスの頭をポンポンと優しく叩く。

「気持ちを強く持て。アスならできるさ」

 オーべが握りしめた拳を前に突き出す。

 アスは同じく拳を握りしめて突き出されたオーべの拳にコツンと合わせ、頷いた。

「アス・・・、また家族みんなで笑いながら旅をしよう、約束ね」

 最後にジゼルがアスの手を握り、その胸元にそっと額を当てた。

「ありがとう、みんな。行ってくるよ!」

 アスは3人に笑顔で手を振ると案内された控え室に向かって一人歩き始めた。

 控え室についたアスは青白い魔元石のついたピアスを耳につけ、大きく息を吐く。

 これから命を失うかもしれないということは分かっていたが、それでもアスの心は乱れることはなく、むしろいつも以上に落ち着いていた。

 目を閉じると静かな控え室ということもあって、自分の心音が脈打つ音が聞こえてくる。

 目の前の扉がゆっくり開いた。控え室の中を照らすように陽光が差し込む。

「どうぞ、お進みください」

 ヴィエルニ家の従者に声をかけられたアスは目を開くと、闘技場の舞台に向かって光の中をゆっくり歩き始めた。



 闘技場の中央に半径30メートル程度の円形の舞台があり、それを高さ2メートル程度の塀が囲む。

 その塀を越えた場所に一段高い観客席が設けられており、ヴェルノ達はそこからアスを見ていた。

 反対の観客席側にはヴィエルニ家の衛兵が10人程度座っていた。

 アスが視線を足元に落とすと、舞台に敷かれた石畳のいたるところに赤黒い染みがあることに気づいた。

 多分過去の戦いでついた血の跡であろうと思ったアスは舞台の中央に進む道すがら、その一つ一つのシミに思いを馳せた。

 今日ここで、このシミの一つとして刻まれるのか、それとも新たな世界を切り開けるのか。

「アレクシス様が入られます」

 アスが舞台中央に着くと対面に見える扉が開き、そこからアレクシスが現れた。

 ゆっくりとした歩調でアスが待つ舞台中央に向かってきた。

 その顔には少し笑みが浮かんでいるようにも見えた。

「さて、いよいよだが、・・・時間が空いて少し冷静になったことで気づいたよ。この決闘、オーべにまんまと仕組まれたということにな。怒りで見境いがなくなるのは俺の悪い癖だ」

 アスの表情に緊張が走る。

「ああ、気にしなくていいよ。だからといって約束を違える気はないから。俺は自分でもわがままな部類だと認識しているが、さすがに決闘なんだ、その意義は十分に理解している」

 さっきまで我を見失って激昂していた者と同一人物とは思えないほどに、目の前のアレクシスは落ち着いていた。

「最後に確認するが、全身全霊、命をかけて俺に謝罪する気はあるか?」

 アスはアレクシスの顔を見ながら、首を小さく横に振った。

「ありません。たとえあったとしても、あなたがそれで許すとは思えない」

 アレクシスが肩を揺らして笑った。

「よくわかってるな。その通り、一切許す気はない。・・・まぁ話はこのくらいでいいか。シモン、始めるぞ」

 アレクシスが観客席の中にあって、更に一段高く備え付けられた高台の席に目を向ける。そこには白髭を蓄えた年配の男性が座っていた。

 年配の男は立ち上がり、今回戦う二人の顔を順に眺めてから頷いた。

「人類の始祖、ラウルの御名において、大司教シモンが公平に立ち会いを行う。双方悔いのないよう己が信念を全力で示しなさい。・・・互いに魔操を!」

 アレクシスが剣に魔力を込めると、その刀身の色は水氷系の魔力を帯びて青く輝き、更に魔錬刃の性能がその青をより深い青、群青に染める。

 アスも魔操を展開する。全身を青白い輝きが包み、クッションが展開された。

「お前、まさか衛浄系か?イカれてるな、補助系の魔操でこの場に立つなんて」

「何系だろうと関係ない。全力を尽くすのみだ!」

 アスが剣を構えると、それに応じてアレクシスも剣も構えた。

 様子を伺っていたシモンが両者の体勢が整ったと判断して手を上げる。

「・・・始め!」

 シモンが上げた手を振り下ろすと戦いの開始を告げる銅鑼の音が闘技場に大きく響き渡った。
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