53 / 131
第二章 遠き日の約束
二章終幕 「その声をもう一度」 一
しおりを挟む
決闘から二日経った。
アスはヴィエルニ家の一角にある大聖堂の控え室で、両脇に青い差し色の入った黒いコートの袖に腕を通していた。
今日はジゼルの正心の儀を行う予定で、そこに参列するアスのためにアレクシスが輝葬師の正装である黒いコートを用意してくれたのだ。
ヴェルノとオーべは既に正装に着替え、大聖堂に向かっている。
二人はアスが正装を纏った姿を大聖堂でお披露目してほしいようで、着替えは見ないとのことだった。
ヴィエルニ家の従者が丁寧にアスの着付けを行なってくれて、それなりに格好はついた。
「少し大きいですね」
アスが着付けを手伝ってくれた従者の女性に声をかけると、その女性はニッコリ微笑んだ。
「アレクシス様が長く来て欲しいということで、大きめのサイズを用意されたようですよ。今は大きいですが、大人になればピッタリになりますよ」
「そうだったんですね。そこまで考えてくれているなんて恐縮です」
「ふふふ、アレクシス様はアス様を大分お気に召したようですからね」
従者の言う通り、あの決闘以降、アレクシスのアスへの態度は激変していた。
時間さえあればアスのところにきて本当に楽しそうに他愛もない話をするし、昨日に至っては奥方と二歳になる子供も連れてきてアスに紹介した程だった。
「ありがたいですが、正直少し重いですね・・・」
アスが照れるように鼻をかく。
「まぁ、そんなこと言うとアレクシス様が悲しみますよ。今このときにはもう戻れないのですから、何事も十分に楽しんでくださいませ。・・・さぁ、大聖堂へご案内いたします」
従者に案内され、大聖堂に入るとヴェルノとオーべが真っ先に駆け寄ってきた。
「おお!似合ってるじゃないか!ヴェルノよりも様になってるぞ!」
「最後の一言は余計だろ。・・・アス、よく似合っているぞ。さぁ前の方の席に行こう。次はジゼルのお披露目の番だからな」
「うん」
大聖堂の最前列の席には既に正装である宮廷服を着たアレクシスが座っており、アスを手招きする。
「来たか。アス、俺にも見せてくれ」
アスの姿を見たアレクシスはその姿に納得するかのようにうんうんと頷いた。
「俺が手配しただけあって、すごくいいぞ。ヴェルノよりも様になってる」
同じ言葉を吐く大人二人のボキャブラリの程度に呆れるかようにヴェルノは大きく溜め息をついた。
「ん、ヴェルノどうした?もしかして傷付いたのか?冗談だぞ冗談。そんなこともわからないのか?」
笑うアレクシスを見て、ヴェルノはもう一つ溜め息をついた。
「まぁそんなことはどうでもいいか。アス、お前は俺の横だ」
アレクシスは自分の横の椅子をパンパンと叩く。
「いやいやアレク、アスはこっちに座らせる」
「駄目だ。ヴェルノとオーべはそっち、アスはこっちだ」
「あ?」
「あ?」
二人のやりとりを見てオーべが頭を抱える。
「ヴェルノ、今回は譲っておけ」
「オーべはよく分かっているな。ヴェルノが譲れ」
腕を組んでふんぞりかえるアレクシスを尻目にオーべがヴェルノの耳元に顔を近づけて小声で囁いた。
「機嫌を損ねたらジゼルの正心の儀をやめるとか言い出すかもしれないだろ。ここは我慢しろ」
「・・・分かったよ」
ムスッとした表情でヴェルノはアレクシスが先程指差した席にオーべと並んで座った。
アスが席に座ると程なくして大司教であるシモンが入場し、アス達が見つめる先、前方の祭壇前に歩を進めた。
今回の正心の儀、せっかくだから大司教に立ち会いをお願いしようということで、あの決闘の後、アレクシスがシモンに声をかけてくれていたのだ。
大司教が個人の立ち合いをするなど王族や六華当主並みの待遇である。
更に、オーべによると大司教であるシモンの予定は超過密であり、本来であればこれだけ急な立ち合いなど不可能なのだが、急ぎでなんとかしてほしいというアレクシスのたっての願いということで、依頼から二日という短期間での実現に至ったとのことだった。
アスは横に座るヴィエルニ家当主、アレクシスの影響力の強さを改めて実感するとともに、そんな人物と決闘をしたという事実を思い出して少しだけ身震いした。
シモンは祭壇前に着くと、祭壇に向かって一礼してから参列者の方に振り返った。
参列者は、ヴェルノ、オーべ、アレクシス、アスの四名だけ。
他には執事長ニコラスの指揮の下、大聖堂を警護する従者の姿はちらほらと見受けられる程度であった。
「一同、ご静粛に。ラウルの御名の下、これよりジゼル・ミュルジェの正心の儀を始めます。一人の人間が個として成熟し、このレヴァリアスの一員として自立するための尊い儀式となります。参列者の皆様におかれましては、この儀式を最後まで見届けていただきますようお願いいたします」
シモンは参列者に向かって一礼してから、大聖堂の入口に立つヴィエルニ家の従者に手を挙げて合図を送る。
合図を受けた従者が入口の大きなドアを開くと同時にパイプオルガンの荘厳な音が大聖堂に鳴り響き、従者の先導を受けながらジゼルが大聖堂に入場してきた。
アスはヴィエルニ家の一角にある大聖堂の控え室で、両脇に青い差し色の入った黒いコートの袖に腕を通していた。
今日はジゼルの正心の儀を行う予定で、そこに参列するアスのためにアレクシスが輝葬師の正装である黒いコートを用意してくれたのだ。
ヴェルノとオーべは既に正装に着替え、大聖堂に向かっている。
二人はアスが正装を纏った姿を大聖堂でお披露目してほしいようで、着替えは見ないとのことだった。
ヴィエルニ家の従者が丁寧にアスの着付けを行なってくれて、それなりに格好はついた。
「少し大きいですね」
アスが着付けを手伝ってくれた従者の女性に声をかけると、その女性はニッコリ微笑んだ。
「アレクシス様が長く来て欲しいということで、大きめのサイズを用意されたようですよ。今は大きいですが、大人になればピッタリになりますよ」
「そうだったんですね。そこまで考えてくれているなんて恐縮です」
「ふふふ、アレクシス様はアス様を大分お気に召したようですからね」
従者の言う通り、あの決闘以降、アレクシスのアスへの態度は激変していた。
時間さえあればアスのところにきて本当に楽しそうに他愛もない話をするし、昨日に至っては奥方と二歳になる子供も連れてきてアスに紹介した程だった。
「ありがたいですが、正直少し重いですね・・・」
アスが照れるように鼻をかく。
「まぁ、そんなこと言うとアレクシス様が悲しみますよ。今このときにはもう戻れないのですから、何事も十分に楽しんでくださいませ。・・・さぁ、大聖堂へご案内いたします」
従者に案内され、大聖堂に入るとヴェルノとオーべが真っ先に駆け寄ってきた。
「おお!似合ってるじゃないか!ヴェルノよりも様になってるぞ!」
「最後の一言は余計だろ。・・・アス、よく似合っているぞ。さぁ前の方の席に行こう。次はジゼルのお披露目の番だからな」
「うん」
大聖堂の最前列の席には既に正装である宮廷服を着たアレクシスが座っており、アスを手招きする。
「来たか。アス、俺にも見せてくれ」
アスの姿を見たアレクシスはその姿に納得するかのようにうんうんと頷いた。
「俺が手配しただけあって、すごくいいぞ。ヴェルノよりも様になってる」
同じ言葉を吐く大人二人のボキャブラリの程度に呆れるかようにヴェルノは大きく溜め息をついた。
「ん、ヴェルノどうした?もしかして傷付いたのか?冗談だぞ冗談。そんなこともわからないのか?」
笑うアレクシスを見て、ヴェルノはもう一つ溜め息をついた。
「まぁそんなことはどうでもいいか。アス、お前は俺の横だ」
アレクシスは自分の横の椅子をパンパンと叩く。
「いやいやアレク、アスはこっちに座らせる」
「駄目だ。ヴェルノとオーべはそっち、アスはこっちだ」
「あ?」
「あ?」
二人のやりとりを見てオーべが頭を抱える。
「ヴェルノ、今回は譲っておけ」
「オーべはよく分かっているな。ヴェルノが譲れ」
腕を組んでふんぞりかえるアレクシスを尻目にオーべがヴェルノの耳元に顔を近づけて小声で囁いた。
「機嫌を損ねたらジゼルの正心の儀をやめるとか言い出すかもしれないだろ。ここは我慢しろ」
「・・・分かったよ」
ムスッとした表情でヴェルノはアレクシスが先程指差した席にオーべと並んで座った。
アスが席に座ると程なくして大司教であるシモンが入場し、アス達が見つめる先、前方の祭壇前に歩を進めた。
今回の正心の儀、せっかくだから大司教に立ち会いをお願いしようということで、あの決闘の後、アレクシスがシモンに声をかけてくれていたのだ。
大司教が個人の立ち合いをするなど王族や六華当主並みの待遇である。
更に、オーべによると大司教であるシモンの予定は超過密であり、本来であればこれだけ急な立ち合いなど不可能なのだが、急ぎでなんとかしてほしいというアレクシスのたっての願いということで、依頼から二日という短期間での実現に至ったとのことだった。
アスは横に座るヴィエルニ家当主、アレクシスの影響力の強さを改めて実感するとともに、そんな人物と決闘をしたという事実を思い出して少しだけ身震いした。
シモンは祭壇前に着くと、祭壇に向かって一礼してから参列者の方に振り返った。
参列者は、ヴェルノ、オーべ、アレクシス、アスの四名だけ。
他には執事長ニコラスの指揮の下、大聖堂を警護する従者の姿はちらほらと見受けられる程度であった。
「一同、ご静粛に。ラウルの御名の下、これよりジゼル・ミュルジェの正心の儀を始めます。一人の人間が個として成熟し、このレヴァリアスの一員として自立するための尊い儀式となります。参列者の皆様におかれましては、この儀式を最後まで見届けていただきますようお願いいたします」
シモンは参列者に向かって一礼してから、大聖堂の入口に立つヴィエルニ家の従者に手を挙げて合図を送る。
合図を受けた従者が入口の大きなドアを開くと同時にパイプオルガンの荘厳な音が大聖堂に鳴り響き、従者の先導を受けながらジゼルが大聖堂に入場してきた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる