命導の鴉

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第二章 遠き日の約束

二章終幕 「その声をもう一度」 三

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 ヴェルノ達が着替えを終えて応接室に入ると少し遅れてアレクシスもやってきた。

 その後ろにはニコラスともう一人、白に緋色の模様が入ったコートを纏う若い男性が追従する。見覚えのあるコート、志征だ。

「揃ってるな。みんな座ってくれ」

 アレクシスに促されて一同が広い応接室にある豪華なソファに腰をかけるが、ニコラスと志征の若者はアレクシスの後ろに立った。

「それじゃあ話を始めるぞ。まず、出立は明朝だ」

「明日?早すぎないか?」

 ヴェルノの発言にアレクシスは眉を少しあげた。

「とりあえず、話を全部聞け。数日前に第三師団が旧都解放の名目で出陣したのは知っているな?本来ならあのタイミングでヴィエルニ家も人を出す必要があったんだ。だが、生憎動ける者が当主である俺しかいないってことで先送りとなっていたんだ。王や他の六華からも早く代替案を出せと急かされていたから、早く動きたいんだ」

 アレクシスはジゼルに目を向ける。

「それで、調査団のメンバーはジゼルとこの後ろに立っている志征で緋雀のヘンリク、あと他の六華から派遣されてくる立会人3名になる。多分それぞれの息がかかった緋雀が送り込まれてくるだろう。その5名で現地に向かってもらう。調査期間は6ヶ月程度になるだろう」

「俺とアスも行くぞ?」

 アレクシスはおもむろに大きなため息をつく。

「駄目だ。これは俺個人の意見じゃない。旧都の機密エリアには重要なアーティファクトや文献等が残っている可能性があって、それを独占秘匿することを避けるための六華協定によるものだからだ。ヴィエルニ家からの護衛は1名のみしか許可されない。それも志征であることが条件だ。鴉のお前は論外で、旧都に近づくことも許されない」

「だったら話は無しだ。ジゼルだけを連れて行かせるわけにはいかない」

「・・・ヴェルノ、流石にもうそんな局面の話じゃないってことぐらい分からないのか?」

 アレクシスは怒りを通り越して呆れたような表情でヴェルノを見た。

「それでも、俺は納得しない」

「いいよ、お父さん」

 ジゼルが二人に割って入る。

「私も調査に協力すると言った以上はその約束は守りたいし、多分アレクシス様が提示した条件はやむを得ないものだと思うから。・・・だからお父さん、私だけで行くよ」

 ジゼルの決意に、ヴェルノはそれ以上言葉を発することができず押し黙った。

「よし、決まりだな。ニコラス、ジゼルの旅支度を整えてやれ。ジゼルは準備ができたら家族と共に残りの時間を自由に過ごすといい。ヘンリクは明日からのことを話したいから俺について来てくれ」

 アレクシスはソファから立ち上がるとヘンリクを連れて、部屋を退出した。

「では、ジゼル様はこちらへどうぞ」

 次にニコラスがジゼルを連れて、別室へ向かった。

 残されたヴェルノは大きく息を吐いてソファにもたれかかった。

「ジゼルだけ行かせるってのは、やっぱり不安だ。オーべなんとかできないか?」

 問いかけられたオーべは笑みをこぼす。

「正心の儀を終えてジゼルはもう立派な大人になったんだ。その意思は尊重してやらないとな。いつまでも子供にベッタリってのもなんだし、今回は子離れする練習だと思って受け入れるしかないな」

「そうはいってもなぁ」

「ヴィエルニ家の後押しもあるし、緋雀が4名も護衛につくんだ。きっと大丈夫だよ」

 ヴェルノは自分の気持ちを整理するためか腕を組んで、そのまま黙り込んだ。

「とりあえず、仕事も溜まっているし俺はこれで一旦失礼するよ。明日の朝は見送りに来るつもりだから、また明日な」

 そう言ってオーべも部屋を後にした。

 しばらく沈黙していたヴェルノが横に座るアスに目を向ける。

「・・・ジゼルが決めたことだし、今回はしょうがないか。アス、明日からはしばらく二人で過ごすことになるがどっか行きたいところとかあるか?」

 アスは少し考えてから、首を横に振った。

「特にはないかな。でもこれまでいったことがない場所に行ければうれしいかな」

「そうか。じゃあ西の都メルウルハにでも行くか」

「メルウルハ?それって六華のノエル家が統治する都だったよね」

「ああ。もしかしたら知ってるかもしれないが、ノエル家は元セレンティート国の三煌と呼ばれる大貴族で、統一戦争で敗色濃厚となった際、セレンティート国王の首を手土産にエルダワイス国に降り、戦争を終結させた功績をもってエルダワイスの六華となった家だ」

「確か、賛否両論があるんだよね。人類史上最低の裏切りだとか、戦争を早期終結させた立役者だとか」

 ヴェルノは静かに頷く。

「その通りだ。当時どういう経緯があったのか真実は今でも定かになってはいないが、現在ノエル家がエルダワイスの六華となり、セレンティート国民の人権回復に尽力しているのは事実で、奴隷だった俺がエルダワイスで活躍する場を得られたのもノエル家が定めた優秀者救済制度のおかげでもある」

 アスにはヴェルノが奴隷という言葉を発するときに少し寂しそうな顔をしたように見えた。

 もしかしたら故郷のことを思い出しているのかとも感じた。

「そんなノエル家の尽力もあって、メルウルハには小さいながらもセレンティート国民だけで構成される自治特区が存在しているんだ。アスにはしばらくそこでセレンティートの文化を学んでもらおうかと思っている。俺の故郷の文化を少しでも知ってもらいたくてな」

 ヴェルノは照れたように笑みを浮かべて鼻をかく。

 それから、少し間を空けて真剣な表情に戻った。

「あと、アスの生い立ちについてだが、決闘の日からそのまま触れずにいたことはすまなかった。俺なりに色々考えていたんだが、そんな中で何も言わずに待ってくれたアスには感謝している。・・・以前、全てを話すのは正心の儀まで待ってくれとは言ったが、状況もかなり変わった。だから、調査を終えてジゼルが戻ってきたタイミングでアスのことも全て話そうと思っている。すぐにでも話そうかとも思ったんだが、話すならみんな揃ってからで、かつメルウルハが一番いい気がしてな。勝手な話だが容赦してほしい」

 ヴェルノがアスに向かって深々と頭を下げる。

「うん、大丈夫だよ。実は過去から漠然とした不安にかられることもあったんだ。でも今はスッキリしているし、色々な話を素直に受け入れられそうな気がする。ある意味で今回の出来事は色々なことを整理する機会にもなったから、僕にとってすごく良かったことだったと思ってる。だから急がないし、お父さんのタイミングで話してくれればそれでいいよ」

 アスが穏やかな口調でそう言うと、ヴェルノはありがとうと言って優しく微笑んだ。
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