命導の鴉

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第三章 受け継がれるもの

五幕 「紅前会議」 二

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 紅前の間に入ると既に参加者の半数以上が集まっており、中央にある円卓の周りで会議開催までの僅かな時間を雑談しながら過ごしていた。

 その雑談の中心には得意顔で話をしているゼブの姿があったため、アレクシスはあまり関わらないように皆に軽く会釈だけをして早々に円卓上座にある自身の席についた。

 円卓は全部で十席あり、上院紅貴会の代表である六華当主の席が六つ、下院三府会の代表である各府長官の席が三つ、定例参加者以外で招聘された者が情報提供や意見陳述をする際に使用するための席が一つという構成になっていた。

 それぞれの席には後方に関係者用の席が設けられていて、ニコラスとイルタはアレクシスの座席後方にある、その関係者用の席に座る。

 程なくして、紅侍従(べにじじゅう)と呼ばれる王専属の従者数名が紅前の間に入り、会議の開始を告げる金の鐘をコーンコーンと鳴らす。

 その鐘の音に応じてヴィエルニ家、ノエル家、デュランダ家、マリュス家、コルトハード家、エレアノルト家の六華当主と軍総府国衛長官、統政府執政長官、司法府法理長官が中央の円卓席に着いた。

「皆様、臨時のご参集を賜りありがとうございます。まもなく王が参られますので、ご起立し王台に向かって低頭くださいませ」

 全員が着席したことを確認してから、先ほど鐘を鳴らした紅侍従が皆に深々と頭を下げる。

 その言葉に応じて参加者一同はその場に立ち上がると、紅前の間の最奥にあって円卓を見下ろせる一段高い正方形の王台と呼ばれる玉座が置かれた台座に向かって頭を垂れた。

 静寂の中、王台を囲うように備え付けられた御簾がスルスルと降りる音がする。

 その後、玉座に一人の人物が座った。エルダワイスの国王、クラウツハイム・クロラスである。

「一同、大義である。面を上げ着席せよ」

 クラウツハイムの声は威厳に満ちており、同時に場を包み込むような温かさもあって王の風格を十分に感じさせた。

「此度の会議はデュランダ公が発起人である。議事進行は任せる故、デュランダ公から本会の趣旨を説明せよ」

「かしこまりました」

 王の指名を受けてゼブが起立すると、ノエル家当主であるドローレンスを一瞥してから、用意しておいた手元の資料を読み上げる。

「今回の議題は一点のみ。二週間前に我が領内で起こったボルプス事変に基く、ノエル家の六華権限剥奪及びお家取り潰しの是非を問うものである」

 淡々と文章を読み上げるゼブとは対照的に、場内には一気に言いようのない極度の緊張感が張り詰めた。

 六華が権限を剥奪されて更に取り潰されるなど前代未聞のことではあったが、臨時で紅前会議を開催し、本件を議題としたことから、ゼブが本気でノエル家を潰すつもりだという強い覚悟が伺えた。

 一方、今年で齢五十二となるノエル公ドローレンスは、年相応に刻まれた顔のしわを微動だにすることなく、まるでこうなることを予期していたかのように平然とゼブを見つめていた。

「ふむ。ノエル家の弾劾ということか。・・・ではデュランダ公、続けてその言についての妥当性を示してもらおう」

 場の緊張感とは対照的に動じることなく次の言葉を促す王に対して、デュランダ公が深く頷いて応じる。

「勿論でございます。ですがその前に、今回の重要人物であるノエル家の長子、ディオニージ卿の入室を許可願います。事前にこのことはノエル公にも伝えてあるため、ディオニージ卿には既に紅前の間の外に控えてもらっております」

「うむ、それが必要なのであれば許可しよう」

「ありがとうございます。それでは皆、今しばらく時間を頂戴する」

 王の許可の下、すぐに紅侍従が外で待機しているディオニージを招き入れるために動き始めた。

 本件を事前に伝えていた。それでドローレンスに際立った反応がなかったのかと合点がいったアレクシスは、これからディオニージが入室してくるであろう扉に視線向けつつ、新たな思考を巡らせた。

 本件、最後は王の意思によって決定されるだろうが、その決定に本会で行われる審理多数決の結果が大きく影響することは間違いない。

 当事者のゼブとドローレンスは投票権無し、マリュス家とエレアノルト家はゼブ派であるから賛成二票、三府会はおそらく棄権、コルトハード家は当主名代のプラウが出席しているから読めないが、人類平等の信念からセレンティート国民の人権回復を謳っており、ノエル家と懇意にしていることから反対に投じる可能性が高い。

 ともすれば、アレクシスの一票が絶大な意味を持つことになる。

 票数が拮抗した場合、六華筆頭の意見が優先されるからだ。

 反対を投じてドローレンスに恩を売るか、賛成を投じてゼブの覚えをめでたくするか。

 アレクシスがどうしたものかと一人めんどくさそうな顔をする中、紅前の間にディオニージが入室し、王台に向かって一礼してから円卓の最後の席に着いた。その表情は暗い。

「ディオニージ卿には忙しい中、御足労いただき感謝する。それでは役者も揃ったところで、話を再開しよう」

 ゼブがにんまりとした表情でコホンと一つ咳払いをする。

「さて、ここにいる皆においては知っている内容もあるとは思うが、先ずは状況整理と認識統一のため、ここ最近の動向を簡単におさらいしよう」

 そう言うと、ゼブは手元の資料を一枚めくった。

「先日、我が領内のリメリト村が複数体のフレアに襲われ壊滅し、その被害者の一人であるブリットという女性を輝葬することで紅い眼の男リアスと大剣を持つ男ウィルマという怪しい二人組の存在が明らかとなった。そしてリメリト村の封陣石が特権認証を経て破壊されていたことから、リアスはセレンティート国の王位継承者であると同時に封陣石の破壊によってフレアを村に招き入れたという疑惑が持たれている」

 資料を見ながら喋るゼブは、ちらりとドローレンスに視線を向けて、再び資料に目線を落とす。

「ちなみにこの二名は、旧都ヴィエルニ家の調査団の一名を連れ去った容疑者でもあり、これらのことからリアスがフレアを利用してこの国を陥れるために各地で暗躍しているという仮説が生まれた。もしこれが事実であればセレンティート国の復興を推進するノエル家にとっては大きな逆風となる。よって、その仮説を精査することを目的に、ノエル家の長子であるディオニージ卿が我が領内に入ることになった、というところまでが前回会議の決定である。まずはよろしいか?」

 ゼブのここまでの発言に異論はなく、その言を肯定するかのようにしばしの沈黙が流れた。

「・・・それでは続けよう。次はボルプス事変についてだ。ディオニージ卿は調査のために入ったボルプスにてすぐに六華権限で鳳三名の出撃要請を出した。理由は黒フレアの襲撃に備えるためというものである。事実、要請があってから数日で黒フレアはボルプスに現れた。それも白フレアを七体も引き連れてだ。襲撃を受けたのはボルプスの軍施設であったが、要請を受けた鳳は豪雪の悪天候で到着が遅れていたこともあって既存の戦力だけで応戦することになる。遅れて到着した鳳の活躍によって、なんとか黒フレアと白フレアを退けられたものの結果は惨憺たるもので、死傷者205名、内死者が89名、軍施設は機能停止に陥るなど、近年において類を見ないほどの大きなフレア被害となった。この報を受けた私は事が事だけに本件は六華協定に基づく公式調査が必要であると判断して、志征に対して現場保存とボルプス一帯の情報統制を要請し、現在は詳細調査に向けて段取りを進めているところである。」

「ボルプスがそれほどのことになっていたとは、誠に痛ましいことであるな」

「王のおっしゃる通りで、私も心が痛みます」

 ゼブは大袈裟に頭を振りながら悲観的な表情を浮かべるが、それはどこか白々しい演技にも見えた。

「さて、ここから本題に入っていくが、ここまで話した内容には不可解な点が三つある。まずはディオニージ卿が黒フレアの襲来を予期した点だ。なぜそれが分かったのか?そして、今回は街が襲われず軍施設だけが標的となった点。なぜフレアは軍施設を直接狙ったのか?最後にフレアの数だ。明らかに多すぎる。私はここから導き出される可能性を二つ考えた。一つはディオニージ卿がリアスと結託してフレアを招き入れたというもの、もう一つはディオニージ卿がフレアの求める『何か』を有していたのではないかというものだ」

 ここまで全体に向かって話をしていたゼブがディオニージに視線を向ける。

「不信感を抱いた私はボルプス事変が起こるまでに作成された報告書をつぶさに確認して気になる情報を見つけた。それはリメリト村の生き残りで、かつ先に申したブリットの娘であるシオンという少女がボルプスの軍施設に運び込まれたというものだ。ブリットの娘ということから、シオンも重要人物の一人と考えるのは自然だろう。ところが、報告書にはシオンがボルプスの軍施設に運ばれた経緯や理由の記載はなく、意図的にその重要性を隠すかのように瑣末的な扱いとなっていた」

 ゼブの発言に呼応するかのように、黙って話を聞いていたディオニージの眉がピクリと動いた。

「この報告書の最終査閲者はディオニージ卿であったという点を申し添えたうえで、ここからディオニージ卿への問いに移ろう。黒フレアの襲来予期の件、シオンの件、リアスとの結託とフレアを招き寄せる何かの保有の件について、それぞれご説明いただきたい。・・・分かっているとは思うがこの場で虚偽の発言は許されない。虚偽が発覚した場合は重罪として取り扱うゆえ、心して発言してくれたまえ」
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