命導の鴉

isaka+

文字の大きさ
79 / 131
第三章 受け継がれるもの

五幕 「紅前会議」 三

しおりを挟む
 一通りの発言を終えたゼブが着席する。

 少しの間をおいてから、ディオニージが小さい声でかしこまりましたと応じてその場に起立した。

 表情は相変わらず暗いままであり、その視線は円卓中央の床一点に向けられていた。

「私の浅慮による軽率な判断によって、デュランダ公に多大なる心労をおかけし、更には陛下、六華当主、三府会の皆様の貴重な時間を頂戴してしまったことをまずは謝罪いたします」

 ディオニージは卓に触れるギリギリまで深く頭を下げる。それからゆっくりと頭を上げ、顔をゼブに向けた。

「では、順次問いに回答させていただきます。一つ目の黒フレアの襲来についてですが、これは予期していたのではなく単純にリメリト村の黒フレア出現を受けて、万一に備えるべく鳳を手配しただけのものであります」

 ゼブが椅子の背もたれに体重をかけ、眉間に皺を寄せる。

「・・・確証はないが、危険そうだから手配したと?」

「左様です。ですが結果として襲来はあったので、手配しておいてよかったと思っています」

「結果論でいえば確かにそうだな。だが、ボルプスには御身の護衛のために緋雀が三名いたはずで、さらに軍施設の兵力も考慮すると、その程度の曖昧な理由で我が国に十名程しかいない鳳を三名も動かしたというのは、あまりにも過剰な要請であったと考えられるがいかがか?」

「おっしゃる通り、要請に至る理由は不適切であったと考えております」

「・・・巷では聡明と名高いディオニージ卿らしからぬ軽率な行動であるな。まぁいい。とりあえずは要請理由には非があったということだな。では、シオンの件に移ってもらおう」

「はい。・・・シオンは発見当初、満身創痍の状態であったため、治療のためボルプスへ搬送いたしました。搬送先を軍施設にしたのは重要人物であるという認識があったためです。ですが事情聴取の結果、特に有益な情報はなかったので報告書にはボルプスに運び込んだということ以外は記載不要として修正を指示しいたしました」

「なんと!?重要人物に関する報告事項を貴卿の一存で書き換えたとは。それで、修正をさせた者の名は?今の話が相違ないかを確認したい」

「いずれかの兵士だったとは思いますが名前までは記憶にございません。本件、記録の改ざんとも取れる軽率かつ不適切な行動であったと深く反省しております」

「名前を覚えていないとはにわかには信じ難い。兵士の風貌も覚えていないのか?」

「・・・申し訳ございません」

「むぅ、そう言われるとどうしようもないな。やむを得ぬ、話を先に進めよう」

「それでは最後の問いに回答いたします。リアスとの結託についてはあり得ません。なぜならボルプスでは私もフレアに襲われ命を失うところであったのですから。そして、フレアが軍施設を直接狙った理由も皆目検討がつかないところであります。勿論、私が何かを有していたということもありません。私からの回答は以上となります」

 ゆっくりとディオニージは着席し、置かれた水を一口喉に流し込んだ。

 表情は暗いままなのは変わらないが、話を終えて以降からのディオニージの瞳には覚悟に満ちた力強さがあるようにも見えた。

 眉間に皺を寄せたままのゼブが再び発言するために立ち上がる。

「ディオニージ卿の回答、確かに承った。最後に一点追加で確認したい。フレア襲来の際に軍施設の地下からフレアと同質の強烈な輝波が発せられていたというものだ。輝波の発生があってからすぐにフレアの襲撃があったことから、当該輝波がフレアを呼び寄せた要因の一つと考えて差し支えないだろう。その輝波は軍施設内部から放たれていることから、発生源は我々人側にあったことは容易に推測できる。よもや輝波に気付かなかったということはないと思うが、この話を踏まえても、フレアが軍施設を狙った理由に心当たりはないか?」

 ディオニージがゆっくりとした動きで再び視線をゼブに向けると、力強く一言、ございませんと答えた。

「そうか、ならば致し方ない。さて、質問は以上となるが、ここまでの話を皆々様はどう思われただろうか?納得のいく説明であったと感じただろうか?少なくとも私にはディオニージ卿が何か重大なことを隠しているようにしか思えなかったところである。そこで私の見解を単刀直入に申し上げよう。ディオニージ卿はリアスと結託し何らかの方法でボルプスにフレアを呼び寄せ、更に我が国の主力ともいうべき鳳を削るためにボルプスに鳳を招聘しフレアと相対させたというものだ。恐らくだが今後もその手法を用いて各地の戦力を削いでいくつもりなのであろう。ノエル家は元セレンティート国の三煌であることから、王位継承者のリアスと結託してエルダワイスに報復しようという動機があっても不思議ではない。先ほどのディオニージ卿の話はその疑いを晴らすに足りず、動向の疑わしいノエル家が国家の中枢である六華に居座ることは後に大きな禍根を残すことになるとしか思えない。これがノエル家の六華権限剥奪とお家取り潰しを審理事項として提案させていただいた理由である」

「・・・僭越ながらデュランダ公」

 コルトハード家当主ラグブルの名代であるプラウが口を開く。

 一見すると可憐な少女のようにも見えるプラウはその姿から想像するよりもずっと大人びた声で意見を述べ始めた。

「確かにディオニージ卿の発言は不可解、そうですね私の中でしっくり来る言い方をすれば『らしからぬ点』が多かったと思われます。ですが、証拠もない中で疑わしいから直ちに罰するというのは行き過ぎではないでしょうか?それに本件において疑わしいのはディオニージ卿本人のみであり、ノエル家全体の問題として語るのは極端ではないでしょうか?」

「プラウ卿の仰る通り、現段階においては証拠はない。だが限りなく疑わしいことも事実である。もし隠している事項が我が国にとって致命的なことであればどうなります?判明した時に手遅れとなっていてはどういたします?本件は我が国、ひいては我が国民全体の安全を脅かす恐れがあるため、その影響度合いを考えればリスクを最大限にとってノエル家全体の関与も疑って然るべきでしょう。特にリアスとの結託が事実であったならば、ボルプス事変のような悲劇が何処かで再び繰り返される可能性もあるのですぞ」

「それはそうですが、それでも・・・」

 プラウが若干伏し目がちになる。

「ああ、プラウ卿、勘違いしないでいただきたい。私には貴方の意見を責める意図はないので気を悪くなされぬように。証拠が必要だというプラウ卿は正しいし、私もその旨は重々理解しているつもりだ。そこで、本件について証拠を得るために一つ、皆様の同意をいただきたいことがある。それは、ボルプス事変で亡くなった者の内、ディオニージ卿と行動を共にしていた緋雀三名と輝葬師一名について、複数名の輝葬師による深淵輝葬を実施することである。知っての通り、輝葬を行った輝葬師が発言する内容についてはその真偽を直ちに確認する術がないために原則、証拠能力はないものとして扱っているところであるが、深淵輝葬による複数輝葬師の発言が一致すればその証拠能力は担保されるだろう。更に通常の輝葬よりも記憶をより深く読み取ることも可能となるため、本件の是非を判断するに足る情報を得られる可能性が高いと考えている」

 ゼブの提案にプラウが再び気色ばむ。

「それはなりません!深淵輝葬は故人の『記憶』がつまびらかになることから、人の尊厳を侵す反倫理的行為として禁止されております。よって、証拠は生存者の証言から集めるべきで・・・」

「それでは遅いのです!」

 本会が始まって以来、一番の激しい口調でゼブがプラウの発言を遮った。

「生存者の証言を集め、精査するだけでもかなりの時間を要します。ましてや真実を語ってくれる保証もない。国家の大事に関わるかもしれないという中でそのような悠長なことをしてはいられない。深淵輝葬は倫理に反することは当然分かってはいるが、信憑性、迅速性という観点からやむを得ず提案しているのだという我が苦しい心情をご察しいただきたい!」

 ゼブに気圧されたプラウが再び口をつぐむ。

「その他の皆様もよろしいか?それでは最終整理をさせてもらおう。ディオニージ卿に近しかった者4名の深淵輝葬を実施し、その結果、ディオニージ卿又はノエル家に国家反逆につながる行為が確認された場合、ノエル家を六華から除名するとともにお家取り潰しとすることを此度の審理事項として審理多数決の実施を賜りたい。なお、私とノエル公は当事者であるため、多数決には参加しないこととする。さて、ここまで特に発言のなかったノエル公であるが、当事者として最後に何か言うことはあるか?」

「いや、特にない。ディオニージと我が身の潔白を証明しようと尽力されるデュランダ公に感謝しよう」

 ドローレンスが悠然と芯のある声で答えたが、皮肉にも聞こえるその発言が癇に障ったのかゼブの眉がピクリと反応する。

「・・・よろしい。それではここからは六華筆頭であるヴィエルニ公に審理多数決の進行をお願いいたそう」

 ムスッとした表情でゼブは席についた。

 このまま審理多数決に進むという空気が場に流れる中、アレクシスが一つの不安を胸に、口を開く。

「デュランダ公、審理多数決に移る前に一つ確認したい。深淵輝葬の対象者について、分かっていれば参考までにそれぞれの名前を伺いたい」

「対象者の名前?どこかに記載があったとは思うが・・・」

 ゼブは少し面倒くさそうな顔をしながら手元の資料をパラパラとめくった。

「あったあった。対象者はえーっと、緋雀のナシオ、ジーモー、フロイラン、そして輝葬師は・・・んー、ヴェルノとかいう鴉だな。はて、この鴉の名前最近どこかで聞いたような気がするが」

 資料を片手に首を傾げるゼブをよそに、やはりそうであったかとアレクシスは小さく息を吐く。

 平静を装うように努めてはいたが、その内心は激しく揺さぶられていた。

 それはヴェルノの安否がどうというよりは、ヴェルノが深淵輝葬の対象となっており、クレアのことが公になる恐れがあるということに起因していた。

「デュランダ公、ヴェルノとは確か例のリアス一味に誘拐されたヴィエルニ家旧都調査団員の捜索に関わっている者で、六華協定の管理対象となっていた輝葬師ですよ」

 横からエレアノルト家当主のロルダーがゼブに囁きかける。

「おお、そうであった!エレアノルト公は流石であるな。喉に刺さった小骨が取れたような感覚で誠に爽快であったぞ」

「それは何よりでございます」

 得心がいったゼブが愉悦の表情をしながらロルダーと共に笑い声を上げる中、アレクシスはめんどくさそうな表情をしながら絞り出すような小さな声で呟いた。

「・・・さて、どうしたものか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

勇者辞めます

緑川
ファンタジー
俺勇者だけど、今日で辞めるわ。幼馴染から手紙も来たし、せっかくなんで懐かしの故郷に必ず帰省します。探さないでください。 追伸、路銀の仕送りは忘れずに。

処理中です...