命導の鴉

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第三章 受け継がれるもの

六幕 「地下に煌めく光」 三

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 オーべの案内の下、軍施設を通って地下の礼拝堂に着いたアスは、天井に空いた大穴から注ぐ陽光に目を細めた。

「想像してた以上に凄まじい光景だな」

 オーべが大穴を見上げて呟く。

「この穴はなんでできたんですか?」

「ん?アスは聞いてないのか。駆けつけた三名の鳳が黒を後一歩というところまで追い詰めたんだが、黒が逃走するために残る魔力を全て天井に向けて放ったためにできたらしい。鳳もまさか猪突猛進のフレアが逃げるための行動をとるなんて思ってもなかったから、膨大な魔力での攻撃と誤認してしまい、一旦退避した間に逃げられてしまったんだと。すぐに二名が追撃したが残念ながらそのまま取り逃してしまったそうだ」

「・・・そっか」

 アスはもの悲しげな様子で天井の穴から視線を下ろすと、首のないラウル像の足元へ進む。

 そこにはあの時見た光景のまま、像の足元に寄りかかって座るヴェルノの姿があった。

 込み上げる感情が抑えきれず、アスは一筋の涙を流す。

「ヴェルノ・・・」

 ヴェルノの変わり果てた姿を見たオーべもそれ以上の言葉はなく、ただ押し黙った。

「・・・お父さんは少し横柄なところはあるけど、強くて、優しくて、いつも一番に僕とお姉ちゃんのことを考えてくれて、僕の憧れでした。」

 オーべが静かに頷き、そうかと一言返す。

 アスはその場に片膝をつくと、ただ眠るように目を閉じるヴェルノの顔をじっと見つめた。

「未練も後悔もあるけど自ら選んだ道の果てだから責任は自分で受ける、だったよね。お父さんのこの言葉、大切なことだと思った。この先の人生、どうなるかは分からないけど、その言葉を胸に精一杯強く生きるよ」

 アスの決意を聞いたオーべが、アスの肩に手を添えて優しく言葉をかける。

「アスの言葉、ヴェルノにしっかり届いただろう。・・・さて、今日は輝葬場の検分だけを予定していたが、まだ他に見て回りたいところはあるか?」

「いえ、大丈夫です」

「そうか。では今後の予定を再度確認しておこう。輝葬は公式調査団が到着する明後日に行う。それまでは軍施設の一室を借りているからそこで寝泊まりするといい。もし、明後日までにここに立ち入る必要がある場合は俺に言ってくれ」

 アスが分かりましたと頷いて応じると、オーべは礼拝堂を出るために扉に向かって歩き始める。

 アスもその背を追うように歩き始めたが、オーべの動きがすぐに止まった。

 不思議に思いながらアスがオーべの背中を見つめていると、オーべがアスの方を振り返り、逡巡した様子を見せてから口を開いた。

「・・・これは言うかどうか迷っていたんだが、やはり伝えておこう。ヴェルノから聞いたアスの輝葬に関する特徴についてだ」

「僕の輝葬の特徴・・・?」

「ああ、輝葬の時に見える死者の記憶だが、アスは・・・鮮明に見え過ぎているらしい」

「見え過ぎている?」

 どういう意味か分からずアスは首を傾げる。

「俺も輝葬師ではないから違いを詳しく説明できないが、本来輝葬の際に見える死者の記憶はノイズのようなものが入っており、かなり不鮮明なものらしいんだ。その点、アスは細部まで鮮明に見ることができており、だからこそ没入感が異常に高まって輝葬時に自分の意識を保つことが困難になっているのではないかとヴェルノは言っていた」

 見え過ぎているということに、あまりピンとこないアスではあったが、今思えば確かに輝葬で見た記憶のことを話しているときに、父が訝しげな表情をしていたことを思い出した。

「もしかしたらアスが見え過ぎていることを知れば変にそれを意識してしまい、更に輝葬が上手くいかなくなるかもと思ったヴェルノは、言うか言うまいかずっと悩んでいたようだ。だが、今回は初めての単独輝葬になるから、自身の特性は知っておいた方がいいだろう。・・・ついでにもう一つ、後で言おうと思っていたんたが明日双極からフランケという熟練の輝葬師がアスを訪ねてくることになってる。輝核損壊に至った者の輝葬は記憶の見え方が少し特殊らしいから指南を受けておいてほしい」

「フランケさんですね、了解しました。オーべさん色々手配いただきありがとうございます」

「俺に出来ることはこれくらいしかないからな。当日は俺も輝葬を見届けにくるよ。アス、アイツのこと頼んだぞ。・・・しっかり送ってやってくれ」

 アスはオーべの目に涙が溜まっていることに気付く。

 気丈に振る舞ってはいるものの、ヴェルノと共に奴隷としてエルダワイスにやってきて、数多の時間をヴェルノと過ごしたオーべもまた、大きな悲しみに打ちひしがれているのだろう。

 その想いに気付いたアスは、オーべの視線を真っ直ぐに見据え、ゆっくりと深く頷いた。



 翌日の昼前、軍施設の一室で精神を落ち着けるために一人瞑想していたアスの下へ、双極の輝葬師を名乗る男がやってきた。

 多分、この人がオーべから聞いていたフランケであろう。

 思ったよりも老齢であり、白い髭を貯えている。輝葬師特有の青い差し色の入った黒いコートは着ておらず、代わりに寒さ対策のために厚手のベージュ色のコートを羽織っていた。

「こんにちわ、フランケです。」

 フランケがゆっくりとした所作でコートを脱いでからお辞儀をした。

「アスです。オーべさんから話は伺っております。どうぞ部屋の中へ」

 杖をつきながら部屋の中に入るフランケの姿を見て、アスはすぐに椅子を勧めた。

「ありがとう、助かるよ。年を取るとどうにも足腰が弱くなってかなわん」

 椅子に深々と腰を掛けたフランケは、ふぅーと大きく息を吐いてから優しげに青い瞳をアスに向ける。

 目元には多くの皺が刻まれていたが、その目には年齢を感じさせない程に強い光が宿っているように見えた。

「アスさん、この度はご愁傷様です」

 フランケが深く頭を垂れる。それに応じてアスも頭を下げた。

「さて、早速ですがアスさん。今日は損壊した輝核の輝葬についてお話しをさせていただきにきました。アスさんは輝葬八景の危険性についてはご存じかね?」

 すぐに話が始まると思っていなかったアスは、慌ててもう一つの椅子をフランケの正面に据えて座る。そして問われた内容を頭の中で反復してから答えた。

「輝葬の際に見る記憶は七つまでが限度であり、それを超えると死者と輝葬師の輝核が融合を始めてしまい、輝葬師の輝核も一緒に双極へ飛ばされてしまう可能性がある、と認識しています」

「左様。世間的には『もっていかれる』という言葉で定着しているが、輝葬師はその七つ目の記憶が場面転換する前までに輝核と肉体を結ぶ光の糸を切らなければならない。大部分の輝葬師は安全策をとって、記憶の三つ目か四つ目あたりで光の糸を切っていることだろう」

 アスはこれまで見た父の輝葬を思い出す。確かに父も多くて四つ目の映像で光の糸を切っていた。

「だが、輝核を損壊した者の輝葬にあっては、輝核の不安定さから短い時間で目まぐるしく記憶の場面転換が起こるために輝葬八景の危険性が適用されず、どのタイミングまで許容されるかが不明瞭となってしまうのです。そのため、転換の回数ではなく輝葬の時間で輝核融合が始まるタイミングを推し量ることが肝要となります。時間にしておよそ五分、これを超えると危険域に入ると認識いただきたい」

「五分・・・」

 まだ、輝葬中に意識を保つことが出来ていないアスにとっては非常に短い時間に感じられた。

 アスの不安そうな表情を見たフランケがニッコリと微笑む。

「まぁそう心配なされるな。それ以外は通常の輝葬と何ら変わらないため、落ち着いて行えば大丈夫ですよ。場面転換が極端に多いことさえ認識していれば慌てることもないでしょう」

 アスは伏目がちに頭を振った。

「いえ、実は単独輝葬は初めてで、その、・・・輝葬中に意識を保つことも出来てなくて」

 辿々しくアスがそう言うとフランケの目が見開かれた。

「なんと!?まだ意識乖離の段階であられるのか?アスさんは輝葬資格を有していないため、特例措置による輝葬になるとは聞いていたが、その段階では流石に危険すぎる。・・・悪いことは言わないから今からでも辞退しなさい」

 フランケがアスの両肩に手を添えて心配そうな顔でそう諭した。だが、アスは首を横に振ってから、じっとフランケの青い目を見返した。

「これまでお父さんに付き添って何十回と練習してきましたが、毎回死者の記憶に没入してしまって意識が保てませんでした。だから、フランケさんの言う通り辞退した方がいいのかも知れません。それでも今回の輝葬は僕にとって特別なものなので、なんとかやり遂げたいと考えています」

「かなりの危険を伴うのですぞ」

「それでも、辞退するつもりはありません」

「・・・ふむぅ、決意は固いようですな」

 フランケは髭をさすりながら少し考え込み、しばらくしてから再度口を開いた。

「それでは、輝葬の際に意識を取り戻すための最終手段としてまじないの言葉を授けましょう。・・・『赤い兎、黒い獅子、青い馬、白い鹿、四魂(しこん)の交わりをもって今まさに回帰せん』です。気休めかも知れませんが、輝葬中にこの言葉を唱えてみてください。もしかしたら効果があるかもしれません」

「不思議な言葉ですね。赤い兎、黒い獅子、青い・・・?」

「馬、です。輝葬まではまだ時間はありますのでゆっくり覚えるといいでしょう」

「ありがとうございます。明日までに覚えて、もしもの際には唱えてみます」

「ああ、上手くいくことを願っておるよ」

 フランケはもう一度自身の髭を摩ると、目を細めて頷いた。
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