命導の鴉

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第三章 受け継がれるもの

六幕 「地下に煌めく光」 二

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 翌朝、アスは以前にアレクシスからもらった両脇に青い差し色の入った黒いコートに袖を通して、エラル、シオン、オーべと共に街の病院を訪れていた。

 ここにはフレアとの戦いで重傷を負ったフォンセが入院している。エラルの軟禁が解かれメルウルハへの帰還が可能となったことから、フォンセも連れて帰るために段取りを進めに来たのだ。

 アス達は病院の入り口で受付を済ませフォンセの部屋へ向かう。

 部屋の中に入るとベッドの上で体を起こし窓の外を眺めるフォンセの姿が目に映った。

「大分よくなったみたいだね」

 エラルが声をかけると、フォンセはハッとした表情で振り返り頭を下げた。

「お越しになっていることに気付かず申し訳ございません」

「いいよ。楽にしてて」

 ニッコリと微笑みかけるエラルにフォンセが畏れ多いともう一度頭を下げる。

「フォンセ、メルウルハに帰還できることになったよ。明朝には皆でここを出発したいと思っているけど容体はどう?いけそう?」

「はい、ロザリエ様の活性魔操のおかげでもう大分良くなっていますので大丈夫です」

「よかった。念の為ロザリエにも大丈夫か確認しておきたかったんだけど、・・・ロザリエは今どこに?」

「もうすぐ健診の時間ですので、まもなくここに来るかと」

「じゃあ、少し待たせてもらおうかな。何か飲むフォンセ?」

 エラルが部屋の冷蔵庫を開ける。冷蔵庫も水氷系の魔元石で動作するアーティファクトだ。

「いえ、そんな、そのようなことは私が行いますゆえ、エラル様はごゆるりとおくつろぎくださいませ!」

「いいから。怪我人のフォンセは楽にしててよ。・・・中には水しかないな。みんな水でいいよね?」

 エラルは冷蔵庫でよく冷えた水を人数分のコップに注ぎ、全員に配ってから自分用のコップを手に取り椅子に座る。そしてその水を気持ちよさそうに一気に飲み干した。

「・・・あっ、喉が渇いてたから丁度いいと思ったけど、よく考えたらみんなは温かいものの方がよかったな」

 皆に向かって苦笑いをしながらそう呟くも、余程喉が渇いていたのか、エラルは自身のコップにおかわりの水を注ぎ始めた。

「あら、今日はエラル様がお越しでしたか」

 ふいに部屋の入り口から女性の声がしたため、皆がそちらに視線を向ける。

 そこにはボルプスの地下通路にてフォンセの救命措置を行なった光武のロザリエが立っていた。

「あ、おはよう、ロザリエ。丁度君を待ってたんだ。少し話せる?」

「おはようございます、エラル様。大変申し訳ありませんが、フォンセ様の健診を優先したく存じますので、少し待ちいただきたく・・・」

 ロザリエがそう言うや、フォンセが割って入る。

「ロザリエ様、私は構いませんので、先にお話しくださいませ」

「いや、いいよフォンセ。健診の結果も踏まえて話をしたいから少し待つよ」

 エラルが立ち上がって部屋を出ると、それに連れ立ってアス達も外に出た。



「フォンセさん大分良くなってたね。ずっと宿から出れなくて話だけしか聞いてなかったから心配してたけど、元気そうな姿が見れて少し安心した」

 シオンが安堵の表情を浮かべる。

「ああ、アスもシオンもフォンセと会うのはあの時以来だもんな」

「うん。・・・そういえば、今さらでなんだけど、ロザリエさんは光武って呼ばれてたよね。光武って何?」

「あれ?シオンは知らないんだっけ?」

「知らないよ。宿でもエラルとアスが当然のように話しているから聞きそびれちゃって」

「うーん、俺も改まって何って問われると詳しく答えられるわけじゃないんだけど、確かエルダワイス大陸から南、海を越えた先の島にある都ラースィアってところに本拠を構えている武闘家の集団で、所属する者は皆、活性系の魔操適正を持ち医療にも長けているんだったかな。活性系の魔操は一般的に傷の再生を促す魔操なんだけど、自身の肉体を強化できる特性もあって実は戦闘にも適しているんだ。・・・簡単にいえば戦えるお医者さんってとこかな」

「へぇー、そうなんだ。じゃあロザリエさんもフレア討伐とかするのかな?」

「どうなんだろ。光武の一部上位層は緋雀並の力を持つらしいけど、大多数は戦闘特化の志征に比べて力は劣ると言われてるから、積極的に戦闘に参加するってことは多分ないんじゃないかな」

「エラル様の仰る通り、光武の任務は基本的に志征からの要請に基づく後方支援が主となりますので、直接的にフレア討伐を行うことはありません」

 エラルの話に聞き入るシオンの横からオーべが口を挟む。

「でも、光武には確か圧倒的な強さを持つ人がいるんじゃなかった?」

 更にアスも話に加わった。

「そうそう、なんて名前だったかな。セロミ、セレロレ?・・・」

「人類最強の男、セロロミゼです。歳は十七ですが、数百年ぶりの『シン適合者』として、その実力は古の四王に匹敵すると言われている人物です」

「・・・シンって人類の始祖ラウルが残したとされる神の力のことだよね?おとぎ話かと思ってた」

 シオンがその切れ長の目を見開いてパチクリとさせる。

「ははは、ずっと適合者がいなかったから、シオンがそう思うのも無理はない。でもシンの力は実在するし、その力も本物だよ。三年前、非公式に行われたラースィアでの闘技試合において鳳三名を相手に圧勝したって記録もあるくらいだからね」

「そんなすごい人がいるんだね。でもなんでそんなに強い人があまり知られていないの?私なんて初めて聞いたよ」

「そういえばそうだね。俺もあんまりその人の活躍を聞いたことないな。なんでだろ?」

 エラルとシオンの素朴な疑問にオーべが眉をひそめて渋い表情をする。

「・・・どうも性格に多少難があるらしい。溺愛する妹がいるらしくて、その妹のこと以外には全くの無関心だから全然人類のために戦ってくれないって話だよ」

「えぇ・・・、何それ・・・」

 予想の斜め上をいく展開にシオンが戸惑いの表情を浮かべたところで、フォンセの病室の扉が開く。そして、中から出てきたロザリエがゆっくりと頭を下げた。

「お待たせしました。健診が終わりましたので皆さん中へどうぞ」

「ああ、了解だロザリエ。皆、とりあえず話は一旦終わりにして中に入ろうぜ」

 皆が部屋の中に入ると、エラルはすぐにメルウルハ帰還とフォンセの容体についてロザリエに確認する。

「そういうことでしたらフォンセ様の傷はほぼ癒えておりますので大丈夫だと思います。ですが念の為、活性系の魔操を使える者を一名連れていくことをお勧めします」

「そうか。オーべ、手配はできそうか?」

「はい、必要になるだろうと思いまして既に手配してあります」

「・・・へぇ、流石だな」

「ありがとうございます」

 オーべがエラルに対して丁寧に頭を下げる。

「では、明日の十時に皆でここを発つ。オーべにはそれまでに出発の準備を整えてもらいたい。輝葬で残るアスは・・・」

 これから父の輝葬の段取りを始めるアスの気持ちを慮ってかエラルの言葉がつまる。

 エラルは真剣な表情でゆっくりと視線をアスに移した。

「アスは輝葬を終えた後、気持ちの整理がついたらメルウルハに向かってくれ。時間がかかっても構わない、メルウルハで待ってるぞ」

「うん、ありがとう。エラル」

「アス、無理はしないでね。エラルと一緒に待ってるよ」

 シオンがニコリと微笑む。

「シオンもありがとう。少し遅れるけど必ずメルウルハに行くよ」

 アスは二人に一旦の別れを告げるとオーべと共に病院を後にして、一路、ヴェルノが眠る地下の礼拝堂に歩を進めた。
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