命導の鴉

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第四章 星天燃ゆる雪の都

三幕 「鴉の品格 後」 六

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 無事に輝葬を終えたアス達は、村の広場を離れ、事後処理のためマールトン宅に赴いていた。

 リンザとオレリアは席を外し、マールトンだけが応接間でアス達の応対をしている。事後処理は最終段階に差し掛かっていた。

「・・・確かに、捜索費用として千ベトラを受領いたしました。それでは、こちらの捜索完了証明に輝印をお願いいたします」

 マールトンは一つ頷いてから、アスが差し出した紙を受け取り輝印を押印する。

「あと、こちらが輝葬証明となりますのでお納めください。それから・・・」

 アスは輝葬証明の他にもう一枚の紙を取り出しマールトンに差し出した。

「これは?」

 マールトンが首を傾げる。

「ラナセスさんの最後の言葉を記してあります。オレリアさんに向けての言葉となりますが、どのタイミングでオレリアさんにお伝えするかはお任せしたいと思います」

「私が見ても問題ないのでしょうか?」

「ええ、差し支えないと判断しています」

 アスからその紙を受け取り、内容を読んだマールトンの瞳からは一筋の涙がこぼれた。

「分かりました。これは時期をみて私の方からオレリアに伝えておきます」

「よろしくお願いいたします。・・・これで捜索及び輝葬は全て完了となりますので、我々は失礼いたしますが、もし何か不明な点があれば双極分枝へお問い合わせください」

「急な依頼にも関わらず迅速にご対応いただいたこと感謝しております。ありがとうございました。・・・アスさんのお怪我が早く良くなることを祈っております」

 アス達は一礼してから、マールトン宅を辞去するとそのまま村の出口に向かう。

 村の案内板のところまで来ると、そこにはベーガとライの姿があった。

「・・・よう、輝葬ご苦労さん。早速で悪いが約束の報酬を貰おうか」

 ベーガは素っ気ない態度で手を差し出す。

 アスは頷くと先程マールトンから受け取った捜索完了証明と千ベトラを鞄から取り出しベーガに手渡した。

「内容を確認するからちょっと待ってろ」

 ベーガは捜索完了証明を一通り眺めて一つ頷くとアスに向かって笑みを浮かべた。

「よし、ちゃんと俺が双極で輝葬報酬を受け取れるように代理輝葬者に署名して輝印も押してあるな」

 そう言ってベーガは証明書を懐にしまう。

「それで、お前達はこれからどこに向かうんだ?昨日話した通り、ここからはお前達とは違う道を進みたい。俺達は特にあてのない旅をしているから、お前達が行く方とは逆に進むよ」

 アスは少し間を置いてから返答をした。

「ユフムダルへ向かいます」

「となると北か。それなら俺達は南に向かおう」

 ライとベーガは足元に置いてあった鞄を背負い、もう一度アスの顔を見る。

「街道の分岐までしばらく一本道になるが、そこまで一緒に歩くのも正直落ち着かない。俺達は方角を譲ったんだから、お前達は出発時間を譲って三十分後に出発しろ。いいな?」

「ええ、構いません」

「よし、それじゃあライ。出発するぞ」

「ああ」

 ライの頷きを確認してからベーガがゆっくりと歩き始めるも、すぐにアスがベーガの名を呼んだ。

 その声に応じてベーガとライはアスの方を振り返る。

「なんだ?もう用はないだろう?」

「すみません。最後にお礼を言いたくて。医療セット、ありがとうございました。ベーガさんとライさん、それに教会にいる孤児達にご多幸があらんことをお祈りいたします」

 その言葉にベーガは目を丸くする。それから横で笑みを浮かべるライの様子を見て眉をひそめた。

「ライ、お前が喋ったのか?」

「さあ、どうだろうな」

「くそっ、余計なことを。アス、医療セットはたまたま余ってた物を渡しただけだから礼はいらん。それに教会のことはお前達には関係・・・」

 ニッコリと微笑むアスの顔を見て毒気が抜かれたのか、仏頂面のベーガはそこで言葉を止めて、大きく息を吐いてから口元を緩めた。

「まぁいいか。・・・最後の言葉に関してはありがたく頂いておくよ」

 少し照れくさそうに頭をかくベーガを見て、アスは微笑みを浮かべたまま頷く。

「ベーガさん、ライさん、お達者で」

「ああ、お前達もな」

 それからベーガとライは再び街道に体を向けて歩き始める。

 その背中を見送るアスの横でシオンが呟いた。

「アスは大人だね、正直私はまだ気持ちの整理がついてないよ」

 伏目がちのシオンに対してアスは首を横に振った。

「そんなことない。僕だって全てを許せたわけじゃないからね。だけどあの人達の考えが全くもって間違っていると思えないのも事実だから・・・」

「俺達は俺達、あの人達はあの人達でそれぞれ己が信念の道を征くだけ。そう割り切ろうってことだろ?」

 話に割って入ったエラルがニコッと笑みを浮かべてアスとシオンを見つめる。

「うん。大体そんな感じかな」

「そっか・・・」

「ところでさ、出発まで少し時間が空くことになったけどどうする?」

「うーん、そうだね・・・。丁度いいから、二人にラナセスさんの記憶で見た人物のことを話しておこうかな」

「えっ?あの森にラナセスさん以外の誰かがいたのか?」

「うん。ラナセスさんの遺体を発見した場所から少し離れたところに、数えきれないくらいのニードルリーパーの死骸があったよね。ラナセスさんの死の間際の映像にその大量の死骸を生み出した人物の姿が映ってたんだ」

「まさか、あれを人がやったってのか?・・・信じられない、どう考えてもなんらかの戦術兵器を使ったとしか思えないような惨状だったんだぞ?」

「ラナセスさんの視界は毒でボヤけてたから、何をしたのかまでは分からなかったけど、やったのは間違いなくその人だよ。ラナセスさんを助けるためにたった一人で、しかも十秒程度で・・・」

「じゅっ、えっ?嘘だろ?。何者なんだよそいつ。そんなの鳳でも不可能なレベルじゃないか!?」

 血相を変えて狼狽するエラルであったが、一方でアスは落ち着いた様相を見せていた。

「一人だけ、心当たりがあるんだ・・・」

「えっ?誰だよ?」

「その人、光武特有の橙黄色の服を着てたように見えたから、おそらく・・・」

「セロロミゼ?」

 シオンが呟くようにそう言うと、アスはゆっくりと頷いた。

「うーん、人類最強の男、セロロミゼか・・・。なるほどな、確かに今聞いた話から考えるとそれ以外考えられないか。でもなんでセロロミゼがこんなところにいるんだ?」

「それは分からない。『レン』っていう人物を追って北に向かっているようだったけどね」

「レン?誰だろう、知らない名前だな」

 エラルが腕を組んで首を傾げる。

「今は推測することしかできないけど、もしセロロミゼだとすれば敵対する相手じゃないしあまり危惧する必要もないかなとは思ってる。今の話は念のための情報共有位に思ってくれればそれでいいよ」

「・・・そうか。とりあえずあの惨状の原因が悪意によるものじゃなかったってことが分かっただけでもよかったかな」

「うん、そうだね」

「ねぇ、その人って北に向かっているんだよね?なら、行く先は一緒だしもしかしたらどこかで出会うかもだね」

「そうかも知れないね。ただ・・・」

「ん?他に懸念でもあるのか?」

「いや、懸念っていうか、その・・・、その人が立ち去った方角は西だったんだよね」

「西?なんだそりゃ?」

「方角が分からないってことも言ってたし・・・、おそらく極度の方向音痴なんだと思う」

 緊迫した表情でアスがそう言うと、少しの沈黙を挟んでシオンとエラルがこらえきれない様に笑い出した。

「あははは。ちょっと、アス!真顔で変なこと言わないでよ!」

「ほんと、そんな真剣な顔で言うから何事かと思ったよ。なんだよ極度の方向音痴だと思うって。くくく、あっはっは」

「えっ?いや、そんなつもりじゃなくて」

「流石アスだな。重要なことを言うのかと思いきや最後の最後にぶっ込んでくるんだからな」

「そんなに笑わないでよ・・・」

 真面目な話をしていたつもりだったが二人が余りにも笑うので、アスは次第に恥ずかしくなってきて顔が真っ赤に染まった。

「・・・おそらく極度の方向音痴なんだと思う」

 唐突にキリッとした表情をしてアスのモノマネをするエラルを見て、シオンがお腹を抑えながら更に笑った。

「ちょっとエラル、やめてってば。笑いすぎてお腹が痛い!」

「もう!二人とも出発するよ!」

 赤面するアスは珍しく大声を上げると、荷物を持ってスタスタと歩き始めた。

「待てよアス、まだ約束の三十分は経ってないだろ?」

「いいよもう!それなりに待ったからすぐ出発!」

「はいはい、分かったよ。・・・あっアス!」

「なに!?」

「間違えて西に向かっちゃダメだぞ?」

「ぷっ」

 エラルの悪ふざけにシオンが肩を揺らしながら再び腹を押さえた。

「ふざけるのはもういいから!」

「ごめんって、そんなに怒るなよアス」

 ムスッとした表情で先を行くアスの背中を追って、エラルとシオンが笑いをこらえながら歩き始める。

 無事にユージャ村の輝葬を終えた三人は次の目的地である雪の都ユフムダルへと進路を向けた。
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