命導の鴉

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第四章 星天燃ゆる雪の都

五幕 「邂逅」 六

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 洞窟をしばらく道なりに進むと小さな広間に出た。

 広間の中央には絨毯が敷かれておりその上に人が四人横たわっている。それぞれの胸元には排出された輝核がふわふわと漂っており、それらが遺体であることを示していた。

 遺体の衣服は激しく寸断されており、おびただしい量の血痕も付着していることから、著しく肉体が損壊しているのであろうことは容易に想像できた。

「これがリアスの言っていた遺体か。・・・まずは遺体の検分から行おう。エラル、悪いけど手伝いをお願い。モードレッドさんには検分の立ち会いをお願いします。シオンとレンはあまり見ない方がいいから少し下がってて」

 アスは皆が頷いたことを確認してからゆっくり遺体に近づき手を合わせて祈りを捧げる。

 その横で遺体を見つめるモードレッドがつぶやく。

「志征のコートじゃな。衣服の痛み具合からみて、相当の期間ここに置かれていたように見えるが」

「ええ、詳しいことは後で話しますが、おそらく五年前にお姉ちゃんと行動を共にしていた人達だと思います」
「むぅ、ではこの遺体は五年前からここにあったということか」

 祈りを終えたアスが遺体の顔を確認すると予想通り一人見覚えのある顔があった。五年前にジゼルと一緒にヴィエルニ家を出たヘンリクである。

 それほどの関わりがあったわけではないが、それでもこの変わり果てた姿はアスの心を十分痛ませた。

 アスは気を落ち着かせるために一度大きく息を吐く。それからヘンリクの遺体の横にしゃがみ込むと、モードレッドとエラルに視線を向けて検分を開始しますと小さく呟いた。



 程なくしてアスたちは一通りの検分を終える。

 どの遺体も斬撃の跡が無数にあり、致命傷に至る深い傷が複数確認された。

 死後に追い討ちを受けた形跡はないことから、全て戦いの中でついた傷なのだと推測できるが、逆にそれはこの状況になるまでこの四人は戦い続けたということの証左でもある。

 ジゼルのために命を賭してくれた四名にアスは敬意を表して深く頭を下げた。

「五年もの間ここに捨て置かれていた崇高なる皆さんの輝核を敬意をもって再び双極の輪廻に戻したいと思います。モードレッドさんは公式人として、この四名の輝葬を見届けていただきますようお願いいたします」

 一礼するアスに対してモードレッドは大きく頷き、力強く応じる。

「確かに承った」

「・・・それでは、輝葬を始めます」

 滞りなく輝葬は進んでゆく。一つの輝葬を終える度にヴィエルニ家旧都遺跡で何があったのかの記憶がアスの中に流れ込みパズルのように組み合わさっていく。

 そしてこのホゾの道でどのように四人が散っていったのかも判明していった。

 四つめの輝核が上昇を始める。輝核はしばらく広間を漂うと、洞窟の岩肌を透過して双極に還っていった。

「・・・淀みのない見事な輝葬じゃった。輝核も迷うことなく双極に戻れるじゃろうて」

「立ち会いいただきありがとうございました。四人の記憶を見て色々分かったこともありますが、遺品を整理して先にホゾの道を出ましょう」

「うむ、そうじゃな」

 皆で協力して遺品を整理し終えると、モードレッドは荷物から漆黒の剣を取り出し、リアスに言われた通り大地に突き立てた。

 にわかに地面が発光し突き立てた剣は吸い込まれるように大地の中に姿を消した。

「なんとも奇怪なものじゃのう」

 ここでの色々な驚くべき出来事によって感覚が麻痺しているのか、皆、剣が大地に吸い込まれるという超常的な現象を目の当たりにしても然程驚くことはなかった。

 すぐに岩肌が静かにうねり始め、新たな道が現れる。

 アスたちは最早躊躇することもなくその道を進み、五人が丁度入れる程度の広さがある円形状の広間に辿り着いた。

 真正面の岩壁の下方には黒い紋があり、そこから淡い光を放つ光球が現れる。そして光球からリアスの声が発せられた。

「・・・剣の返却を確認した。これよりお前たちを元来た道へ戻す。だがその前にアス、少しだけジゼルと話していけ。今日は調子が良さそうだから短い時間ならなんとかジゼルも自我を保った状態でアリオンと会話できるだろう」

 その言葉に一気に心音が高鳴ったアスはすぐに光球に駆け寄る。

 少しの沈黙の後、懐かしくそして暖かい、慈愛に満ちた声が聞こえてきた。

「アス、聞こえる?」

 アスの目に一気に涙がたまる。

「うん、聞こえるよ、お姉ちゃん!」

「ごめんね、ここまで来てくれたのに会えることができなくて。でもアスの声が聞けて嬉しいよ。それに大きくなったね、もう私の身長は超えたのかな」

「こっちの姿が見えてるの!?」

「うん、鮮明じゃないけどね」

「僕もお姉ちゃんの姿が見たい・・・。お姉ちゃん、会いたいよ・・・」

「私も会いたい。・・・でもごめんね、今は無理なんだ。リアスから聞いたと思うけど私の中に人類を敵視する星の意思が流れ込んできてて今はそれを抑えきることができないの。このままじゃアスにも危害を加えそうだから・・・」

「星の意思・・・、リアスの言ったことは本当だったんだね・・・」

 アスは悔しそうな表情で強く拳を握った。

「うん・・・。ねぇアス・・・、その・・・」

 ジゼルが少し躊躇うような口調で続ける。

「・・・ここにはいないようだけど、・・・お父さんは?」

 アスの目に溜まっていた涙は堰を切ったかのように一気に溢れ出した。

「ごめんお姉ちゃん、・・・お父さんは、・・・お父さんはもういないんだ」

 溢れ出た涙を拭うと、アスは自分の腕につけられた腕輪を光球に向ける。それはジゼルとアスが誕生日プレゼントとしてヴェルノに渡した黒にシルバーが練り込まれた腕輪だった。

「・・・そう、もしかしてとは思ったけど・・・そっか、お父さんはもう・・・」

 聞き取れないほどにか細くなったジゼルの声の後に、ジゼルの啜り泣く音が続いた。

「ジゼル、そろそろ下がりなさい。これ以上は体の負担が大きい」

 光球からジゼルを慮るリアスの優しい声が聞こえる。

「う、ううぅリアス、・・・お父さんが、・・・ああぁ、お父さん」

「アス、悪いがここまでにするぞ。そろそろ自我の限界も来るだろうし、流石にジゼルの心がもたない」

「待て!リアス、最後に一言だけ。お姉ちゃん、僕が必ず星の意思をなんとかする方法を探すよ。だからお姉ちゃん、その時は、その時は一緒に帰ろう」

「ううぅ、アス、ごめんね・・・。ありがとう・・・」

「さぁジゼル、もう奥へ行って休みなさい。・・・シャトラ、ジゼルを頼む」

 光球越しにジゼルの気配が遠のいていく中、リアスがアスに語りかける。

「・・・アス、現状では星の意思を変えることは不可能だろう。だが、万に一つの可能性があるとすればラウルだ。この星の主であったラウルならば何かしらの方法を知っていたとしても不思議ではない。まぁ方法があったとしてもラウル亡き今、その方法が記録として残っているかどうかも分からんがな。それでも探すか?」

 アスは決意に満ちた表情で光球を睨みつける。

「当然だ、必ず見つけ出す!」

「・・・そうか。では最後に一つだけ。俺たちはユフムダルの戦いの後、アリオンとの長年に亘る因縁に決着をつけるつもりだ。ゆえにお前たちに残された時間はそれ程無いということを覚えておいてくれ」

 その言葉を最後に光球は消失し、同時に目の前の岩肌は音もなくうねるように円筒状の通路を作り出した。

 続いて光の薄い膜でできた球体がアスたちの体を包み込んで浮かび上がる。

 そして、球体は一気に加速してホゾの道の入り口までアスたちを運んだ。
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