命導の鴉

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第四章 星天燃ゆる雪の都

六幕 「星喰と星天と希望の翼」 一

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 ラウルの社を出立した一行は急ぎユフムダルを目指し、通常十日程度かかる道のりを七日で駆け抜けてユフムダルに入った。

 エルダワイス国の中でもユフムダルは王都に次ぐ大きな都であり、人口も多く街中は活気に満ち溢れている。雪の都というだけあって、気温は低くもう春半ばだというのに雪がほんのりとちらつく。街中にはまだ溶け切っていない雪がそこかしこに残っていた。

 目的地であるオグルスピア城に向かって街の本通りを真っ直ぐに進むアスたちは、途中、デュランダ公への謁見に備えるために身なりを整えようということで高級衣服店に立ち寄る。

 そこの店主との雑談の中でアスたちは、デュランダ公の世紀の発見に伴う式典が三日後に開催されることと、参列する貴族達の安全を確保するために明日から一週間近くユフムダルへの往来を禁止する戒厳令がしかれる予定であったということを知った。

 あと一日遅れていたらユフムダルにはしばらく入ることが出来なかったという事実は、何も知らなかったアスたちを驚かせるが、同時にラウルの社からユフムダルまでの雪道を必死で駆け抜けた皆の努力の価値を証明してくれたような気もして、アスたちの疲労を僅かに和らげた。

 費用をモードレッドに立て替えて貰い、衣服を新調した一行はあらためてオグルスピア城を目指し、程なくして城門前に辿り着く。

 オグルスピア城は地上十二階建てで王城フリズレイルに劣らぬほどに美しく厳かな様相をしていた。

 城の警護は厳重であったが、レンのヴィロック家という名とモードレッドの拳聖という立場のおかげで、急な来訪であったにもかかわらず、すぐに謁見の間へ進むことが許された。

 案内役の衛兵に先導されて城の一階大広間を進むアスたちの目には三日後の式典に向けて準備のために慌ただしく右往左往する給仕や兵士の姿が映る。かなり大規模な式典になるのであろうということが伺えた。

 しばらく大広間を進み、城の中央にあるエレベータホールに着くと案内役が衛兵から高貴な身なりの女性に変わる。そしてそこから女性と共にエレベータに乗って一気に十階まで上がった。

 十階に着くとアスたちは案内役の女性に付き従いエレベータホールを抜けて謁見の間へと続く長さ三十メートル、幅十メートル程度の大きな廊下を進む。

 廊下の両側には複数の衛兵が槍を持って等間隔に並んで立っており、鋭い目でアスたちの一挙手一投足を凝視していた。

 廊下と謁見の間を隔てる金で装飾された重厚な大扉の前まで進むと、案内役の女性が振り返りアスたちに対して一礼する。

「これより先はデュランダ公の御前となりますゆえ、私語は謹んでいただきますようお願いいたします。なお、此度は帯刀の許可が出ておりますので皆様そのままお進みいただいて結構でございます」

 女性はアスたちに対して再度一礼をしてから大扉の脇に捌け、大扉を警護する衛兵に耳打ちをする。

 衛兵は一つ頷き、よく通る大きな声を発した。

「レン・ヴィロック様御一行、謁見の間へ入られます!」

 おもむろに目の前の大扉がゆっくりと開く。

 アスの視界には、よく磨かれた光沢のある大理石を基調とした大きな広間と、奥の玉座まで真っ直ぐに敷かれた紅い絨毯が映った。謁見の間には複数の衛兵の姿があったが、玉座にはまだ誰も座っていない。

「どうぞお進みください」

 大扉の衛兵に促されてアスたちは、レンを先頭に紅い絨毯の上を進み、玉座前で膝をついて頭を垂れた。

「デュランダ公が参られます。衛兵一同、敬礼!」

 衛兵が玉座に向かって敬礼すると奥の扉が開き、そこからゆっくりと静かに玉座に向かって人の歩く足音がする。その足音は玉座の前で止まり、続いて着座する音が聞こえた。

「面を上げよ」

 重々しく低い声で発せられた声に応じてアスたちは顔を上げる。一段高い所にある玉座には多数の宝飾品を身につけ初老を思わせる顔付きをした肥満体型の男が座っており、刺すような鋭い目つきでアスたちを見下ろしていた。

 初めて見る六華デュランダ家当主ゼブが放つ底知れぬ威圧感にアスは六華筆頭のアレクシスと対峙した時よりも強い畏怖の念を抱く。人生の経験値が圧倒的に違うことを思わせるその表情や仕草、風格からは、ゼブの狡猾さ、老獪さが滲み出ているような気がした。

 ふとアスたちを見下ろしていたゼブの目元が緩む。

「久しいな、モードレッド。七年前の王都紅前演武会以来になるか」

「はい、お久しぶりでございます、デュランダ公」

「うむ。それでヴィロック家のご令嬢とはそなたで相違ないか?」

 ゼブに視線を向けられたレンは緊張した面持ちで頷く。

「ダヴォン・ヴィロックの末子でレンと申します」

「ほぅ、まだお若いが美しい顔立ちをしておられるな。レンよ、そなたの父とは旧知の仲であるからそんなにかしこまらなくてもよい。さぁ皆立ち上がって楽になされよ」

「お心遣い、感謝いたします」

 レンが丁寧に頭を下げてからその場に立ち上がると、それに続いてアスたちも音を立てないようにゆっくりと立ち上がった。

「さて、火急の用件があると聞いておるがなんであろう?早速話してもらおうか」

「実は・・・」

 モードレッドが話を始めようとした途端、謁見の間の奥にある扉が勢いよく開く。

 皆が驚いて視線を向けるとそこにはアスやエラルと同年代位の若い男が立っていた。目の下にある大きなくまが特徴的で研究者を思わせるような白衣を着込んでいる。

「げっ」

 それを見たエラルが眉をひそめて、隣のアスに聞こえる程度の驚き声を発する。

 ゼブはため息を吐くとおもむろに玉座を立ち上がり、若い男に向かってひざまづいた。

「これはユリクシエ殿下、何かご用でしょうか?」

 ゼブが告げた名を聞いて、この男がジゼルの弟であるユリクシエ王子だということを知ったアスは驚きの表情を浮かべた。
 確かにジゼルに似ている気がする。そう思った途端、アスの心の奥底にある嫉妬の感情が再び大きく膨らんだ。

「あ、うん。ちょっとね」

 ユリクシエは謁見の間につかつかと入りアスたちの顔を見回すと、ある一点で視線を止めて笑みを浮かべた。

「あっ!やっぱりエラルだ!」

 ゼブは振り返るとユリクシエの視線の先にいるエラルを見つめて首を傾げる。

「お知り合いですか?報告ではそこの輝葬師の衛士と聞いておりますが・・・」

「輝葬衛士?はははっ、何言ってるんだよデュランダ公。そいつはお前が失脚させた元六華ノエル家の末子、エランドゥール卿であるぞ?」

 ゼブは眉をピクリと動かし、エラルの方を向いて立ち上がる。

「ほう、ノエル家のエランドゥール卿であられたか。これは失礼した。しかしながら、ユリクシエ殿下、ノエル家が六華でなくなったのは私のせいではなく正確には・・・」

「あー、めんどくさいからそういうのいいよ。デュランダ公、悪いんだけどエラルを連れてくよ」

「殿下、申し訳ありませんがこの者たちは火急の用件があるとのことですので、それは話が終わってからでお願いできませんか?」

 ゼブが困ったようにそう言うと、ユリクシエは明らかに不機嫌そうな顔をする。

「えー、やだよ。どうせつまらない話だろうし、そんなのは年配者同士でやってればいいじゃないか。エラルは譲ってよ」

 ユリクシエの駄々をこねるような言い振りにデュランダ公が大きくため息を吐く。それを見かねたモードレッドが話に割って入った。

「デュランダ公、用件については私からお伝えしますので、殿下の意向に沿っていただいても問題ございませんよ」

「むぅ、モードレッドがそう言うのであれば・・・」

「いいね。決まりだ。エラル!俺と一緒に下の階にあるラボに行くぞ!」

 ユリクシエがすぐにアスたちの入ってきた扉に向かって謁見の間をつかつかと進む。

 一方のエラルはゲンナリとした表情で肩を落とす。

「・・・アス、シオン。悪いけどついてきてくれないか?」

「え?殿下に呼ばれたのはエラルだけだから僕とシオンが行くとまずいんじゃない?」

「いいよ、あいつはそういうの気にしないから。じいさん、アスとシオンも連れていっていいよな?というか連れていかせてくれ、ほんと頼む。一人じゃ無理」

 珍しくエラルが困り果てた顔をしていたためか、モードレッドは苦笑いをしながら頷く。

「うむ。ここはわしに任せて、皆行ってこられるがよい」

「ありがとう、助かるよ!」

 二人がついてくることが決まるとエラルの表情が途端に明るくなった。

「何やってるんだよエラル、早く来いよ!」

「すみません、今参ります!・・・さぁアス、シオン行こう」

 エラルがユリクシエの方に向かって歩き始め、アスとシオンもそれを追従する。

「衛兵二名は階下に向かわれる殿下の護衛をせよ」

 デュランダ公の指示で衛兵二名がアスとシオンの後ろにつき、そのままユリクシエを先頭にアスたちは謁見の間を出た。

 階下にあるというラボに向かう途中、アスはただじっとユリクシエの背中を見つめていた。
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