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第四章 星天燃ゆる雪の都
四章終幕 「東へ」 七
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黒フレアとの戦いから三日後、アスは歩ける程度まで回復したエラルとシオンと共に、デュランダ公が準備してくれた馬車に乗ってユフムダルを発ち、それから八日後、雪の都ユフムダルと東の都ブロエーラルのちょうど中間に位置する港町キフに到着した。
馬車を降りたアスたちの視界に海の景色が広がり、心地よい潮風がほんのりと海の香りを漂わせる。
キフは軍港を擁する中核都市の一つで、ユリクシエの申し出を受けたアスはここからデュランダ公の手配した船に乗ってセレンティートに渡る手筈となっていた。
「まずはキフの軍施設に向かうんだったよな?うーん、あのでかい建物かな?」
「そうだね、私も多分そうだと思う」
辺りを見回しながらそう言うエラルとシオンの体には、いたるところに痛々しいほどの包帯が巻かれている。
活性系の魔操は多用すると細胞の著しい劣化を招く恐れがあるため、できるだけ自然治癒を優先することが推奨されているのだ。
「二人とも怪我は大丈夫?あまり無理はせず、ゆっくり向かおう」
心配そうな顔をするアスにエラルとシオンがニッコリと笑みを返す。
「大丈夫、大丈夫。骨はもうくっついてるから、過度な心配は無用だよ。な、シオン」
「うん、さぁ行きましょう」
二人はそう言うと、先程見据えた軍施設と思われる大きな建物に向かって歩き出し、アスもそれを追った。
それから一行は、潮風が香り活気に満ち溢れたキフの街中を進み、しばらくして軍施設の受付に辿り着く。
既に話は伝わっているようで、アスたちはすぐに施設内の応接間に通された。
アスたちが並んでソファに座ると、まもなくして応接間に二人の男性が入ってくる。
一人は年配で髪にうっすらと白髪が混じっており、もう一人は志征のコートを纏った長いまつ毛が特徴的な長髪の若者だった。
アスたちが立ちあがろうとするのを見た年配の男性は、柔らかい口調でそのままでいいと言ってから対面に座り、志征の男がその後ろに立つ。
「エラル卿とアス、それからお嬢さんがシオンだね。私はエルダワイス海軍第三艦隊副都督のケイネスと申します。皆さんが特務でセレンティートに向かうということは、既にデュランダ公から聞いております。渡航の準備はほぼ終わっておりますので明日にはキフを出立できるでしょう。そして、そちらも聞いていると思いますが、この後ろにいる志征が、セレンティートに護衛として同行する予定のイオリです」
ケイネスに紹介されたイオリは、何故か眉間に皺をよせており、敵対心を感じさせるような表情でアスたちに視線を向けた。
「・・・鳳のイオリ・リートベルクだ」
その名を聞いたアスたちは目を丸くする。
「リートベルク!?もしかして、三煌のリートベルクか!?」
中でも特に大きな驚きを見せたエラルがそう尋ねると、イオリはあからさまに不機嫌な様子となった。
「今そう言っただろ。・・・あとお前はあまり俺に話しかけるな。裏切り者と交わる気はない」
「なっ!?、どういう意味だよ!」
イオリの裏切り者という言葉に、エラルが顔を紅潮させてつっかかる。
「セレンティートを裏切ったノエル家は目障りだと言っているんだ。いいから黙ってろ」
「貴様!」
「エラル、落ち着いて!」
アスの制止する声も聞かずにエラルは立ち上がり、イオリに詰め寄って、その胸ぐらを掴みながら睨みつけた。
「双方、おやめなさい」
ケイネスが静かに、だが体の芯に響くような低い声で二人を嗜める。艦隊の副都督というだけあって、その圧は相当のものであった。
「過去のことは今、持ち出す話ではないでしょう。エラル卿もイオリも今回の特務を遂行することに専念していただきたい」
「・・・くそっ!」
エラルが口惜しそうにイオリの胸ぐらから手を離すと、イオリはめんどくさそうな顔で乱れた襟を直し、再び背筋を伸ばした。
エラルがソファに戻るとケイネスが再び穏やかな声色で話を再開する。
「さて、話を続けましょうか。出発は明朝十時を予定しておりますので、皆さんは時間までに第二埠頭までお越しください。あと、本日は街に宿を取ってありますので、そこで旅の疲れを癒していただければと思います。イオリ、悪いが宿への案内を頼む。・・・それでは仕事がありますので、私はこれで失礼いたします」
ケイネスはそう言って立ち上がり、アスたちに礼をしてから応接間を去っていった。
「・・・ついてこい。宿まで案内する」
残されたアスたちに、イオリがぶっきらぼうに声をかける。その発言と態度がエラルの怒りを再び煽ったようで、エラルはイオリを鋭い目で睨みつけた。
「偉そうな態度をとるなよ」
「なら、お前は来なくていい。家に帰れ」
「ああ、もう!ほんとにいちいちムカつく奴だな!」
「エラル、もうよしなよ」
アスは、猛るエラルを制しつつ、半ば呆れたような表情でイオリを見た。
「イオリさん、同行いただくのはありがたいですが、輪を乱す言動は控えてください。今回の特務は僕が責任者となりますので、もし目に余るようならイオリさんには外れてもらうことになりますよ?」
「外したければ外せばいい。・・・さぁ行くぞ」
イオリはアスたちを一瞥してから、つかつかと応接間を出て行った。
「なんなんだよ、あいつは!」
「はぁ、これから先が思いやられるわね」
怒り心頭のエラルの横でシオンがため息をつくと、アスは苦笑いをしながらそうだねと頷いた。
馬車を降りたアスたちの視界に海の景色が広がり、心地よい潮風がほんのりと海の香りを漂わせる。
キフは軍港を擁する中核都市の一つで、ユリクシエの申し出を受けたアスはここからデュランダ公の手配した船に乗ってセレンティートに渡る手筈となっていた。
「まずはキフの軍施設に向かうんだったよな?うーん、あのでかい建物かな?」
「そうだね、私も多分そうだと思う」
辺りを見回しながらそう言うエラルとシオンの体には、いたるところに痛々しいほどの包帯が巻かれている。
活性系の魔操は多用すると細胞の著しい劣化を招く恐れがあるため、できるだけ自然治癒を優先することが推奨されているのだ。
「二人とも怪我は大丈夫?あまり無理はせず、ゆっくり向かおう」
心配そうな顔をするアスにエラルとシオンがニッコリと笑みを返す。
「大丈夫、大丈夫。骨はもうくっついてるから、過度な心配は無用だよ。な、シオン」
「うん、さぁ行きましょう」
二人はそう言うと、先程見据えた軍施設と思われる大きな建物に向かって歩き出し、アスもそれを追った。
それから一行は、潮風が香り活気に満ち溢れたキフの街中を進み、しばらくして軍施設の受付に辿り着く。
既に話は伝わっているようで、アスたちはすぐに施設内の応接間に通された。
アスたちが並んでソファに座ると、まもなくして応接間に二人の男性が入ってくる。
一人は年配で髪にうっすらと白髪が混じっており、もう一人は志征のコートを纏った長いまつ毛が特徴的な長髪の若者だった。
アスたちが立ちあがろうとするのを見た年配の男性は、柔らかい口調でそのままでいいと言ってから対面に座り、志征の男がその後ろに立つ。
「エラル卿とアス、それからお嬢さんがシオンだね。私はエルダワイス海軍第三艦隊副都督のケイネスと申します。皆さんが特務でセレンティートに向かうということは、既にデュランダ公から聞いております。渡航の準備はほぼ終わっておりますので明日にはキフを出立できるでしょう。そして、そちらも聞いていると思いますが、この後ろにいる志征が、セレンティートに護衛として同行する予定のイオリです」
ケイネスに紹介されたイオリは、何故か眉間に皺をよせており、敵対心を感じさせるような表情でアスたちに視線を向けた。
「・・・鳳のイオリ・リートベルクだ」
その名を聞いたアスたちは目を丸くする。
「リートベルク!?もしかして、三煌のリートベルクか!?」
中でも特に大きな驚きを見せたエラルがそう尋ねると、イオリはあからさまに不機嫌な様子となった。
「今そう言っただろ。・・・あとお前はあまり俺に話しかけるな。裏切り者と交わる気はない」
「なっ!?、どういう意味だよ!」
イオリの裏切り者という言葉に、エラルが顔を紅潮させてつっかかる。
「セレンティートを裏切ったノエル家は目障りだと言っているんだ。いいから黙ってろ」
「貴様!」
「エラル、落ち着いて!」
アスの制止する声も聞かずにエラルは立ち上がり、イオリに詰め寄って、その胸ぐらを掴みながら睨みつけた。
「双方、おやめなさい」
ケイネスが静かに、だが体の芯に響くような低い声で二人を嗜める。艦隊の副都督というだけあって、その圧は相当のものであった。
「過去のことは今、持ち出す話ではないでしょう。エラル卿もイオリも今回の特務を遂行することに専念していただきたい」
「・・・くそっ!」
エラルが口惜しそうにイオリの胸ぐらから手を離すと、イオリはめんどくさそうな顔で乱れた襟を直し、再び背筋を伸ばした。
エラルがソファに戻るとケイネスが再び穏やかな声色で話を再開する。
「さて、話を続けましょうか。出発は明朝十時を予定しておりますので、皆さんは時間までに第二埠頭までお越しください。あと、本日は街に宿を取ってありますので、そこで旅の疲れを癒していただければと思います。イオリ、悪いが宿への案内を頼む。・・・それでは仕事がありますので、私はこれで失礼いたします」
ケイネスはそう言って立ち上がり、アスたちに礼をしてから応接間を去っていった。
「・・・ついてこい。宿まで案内する」
残されたアスたちに、イオリがぶっきらぼうに声をかける。その発言と態度がエラルの怒りを再び煽ったようで、エラルはイオリを鋭い目で睨みつけた。
「偉そうな態度をとるなよ」
「なら、お前は来なくていい。家に帰れ」
「ああ、もう!ほんとにいちいちムカつく奴だな!」
「エラル、もうよしなよ」
アスは、猛るエラルを制しつつ、半ば呆れたような表情でイオリを見た。
「イオリさん、同行いただくのはありがたいですが、輪を乱す言動は控えてください。今回の特務は僕が責任者となりますので、もし目に余るようならイオリさんには外れてもらうことになりますよ?」
「外したければ外せばいい。・・・さぁ行くぞ」
イオリはアスたちを一瞥してから、つかつかと応接間を出て行った。
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