雫物語~Myth of The Wind~

くろぷり

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紅の剣士と恐怖の剣

紅の少年と恐怖の宿りし神剣

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エストは、しっかり言葉を聞けないぐらい心に余裕がなかった。

しっかり聞いてれば「よくしてもらってた」の言葉に疑問を持てる筈だった。

父親を目の前で殺されたエストの叫びは、村人の繋ぎ止めてた糸を切るのに充分だった……

わぁぁぁぁあああ!!

村人がガイエンの両親を取り囲むように人垣を作る。

「親父!!母さん!!」

ガイエンが叫ぶが、村人に弾き出される。

「ガイエン!!お前は逃げろ!!」

ゲインの声が聞こえた後、アリアの声が村人の雄叫びに混じって微かに聞こえてきた。

「ガイエン。教会に行きなさい。神父様なら貴方を守ってくれるわ!そして………」

最後の声は、村人の声に掻き消されて聞こえなくなっていた。

「やめて……何なの??何が起きてるの??ゲインさんやアリアさんが何したの!!」

ティアがエストに…村人に止めるように言うが、もはや止まらなかった。

ティアの様子をチラっと見たガイエンだったが、意を決して教会に向かって走り出した。

その時!!

「アリア!!」

ゲインの大きな声の後に……

「ぐああぁぁぁ!!」

ゲインの断末魔のような絶叫!!

そして………

「きゃああああぁぁ!!」

アリアの絶叫……

背中から聞こえる両親の声に涙を堪える事も出来ず……だが振り向かず教会に走る!!

ガイエンの心に、深い哀しみと怒りが込み上げていた。

教会に着いて、ガイエンは涙を両手で拭った。

そして教会を見ると……

「えっ……」

教会は燃えており、その炎は終息に向かっていた。

ガイエンは絶望に耐えられず、その場にうずくまり、大泣きした。

突然の両親の死………

そのきっかけを作った、幼なじみの大好きな女の子……

ガイエンは、何がなんだか分からなくなっていた……

どれぐらい泣いていただろう。

ガイエンは、最後の一滴の涙を拭った。

教会は完全に焼け落ちていた。

灰が風でブワっと舞う。

焦げた臭いが、ガイエンの鼻につく。

「教会………」

ガイエンは虚ろな目で、まだ火が燻っている焼け落ちた教会の廃墟に入っていった。

母、アリアの言葉がガイエンの背中を押すように……

キラっ

燻っている火より、さらに深い赤の光がガイエンの目に入る。

操られるように、ガイエンは光に近く。

そこには、深紅の剣が落ちていた。

教会を焼き尽くす業火の中、輝きを失う事なく、傷一つ無い剣に、無意識にガイエンは手を伸ばす。

持ち上げようとするが、子供の細腕ではうまく持ち上がらない。

「はぁ……」

ガイエンは力を抜いて剣を手放そうとした時………体に力が漲り、剣が急に軽くなった。

「凄い………お前、オレの哀しみと怒りに答えてくれるのか??」

その剣【ヘルギ】は答える変わりに、その赤き刀身を光らせた。
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