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騎士への道
王立ベルヘイム騎士養成学校32
しおりを挟むガァキキキィィィン!
激しい金属音が、ニーズヘッグを中心に広がっていく。
「危ねぇ……間一髪だったな!」
「って、何なの? あなた達、味方じゃないの?」
ニーズヘッグの眉間を貫く筈だったゼークの剣は、ガラードの盾によって止められていた。
「すいません。航太さん達を助けたい気持ちも本当なのですが……私達は、彼女とお話する為にここに来たのです。少し紛らわしいのですが……」
ニミュエはゼークに向かって頭をペコリと下げると、航太に向けても軽く会釈する。
「何なの? 航太の知り合い?」
「ああ……だが、ヨトゥンと手を組んでるとは聞いてねぇ……どーゆうこった?」
怪訝な目でガラードとニミュエを見る航太の横まで歩いて来たフェルグスは、まだカラドボルグを収めてはいない。
「さて……奇妙な状況になったな。彼らは別に、ヨトゥンと手を組んでいる訳でもなさそうだ。その証拠に、ニーズヘッグも武器を収めていない。聖剣使いの彼もな……」
フェルグスの言葉通り、ゼークの剣からニーズヘッグを守ったガラードは、そのまま反転し剣を構えていた。
その眼前に立つニーズヘッグも闇の鎌、フラーマ・シュヴァルトを構え臨戦態勢を維持したままだ。
「本当に、奇妙な状況にしてくれましたわね。でも、助けてくれた事にはお礼を申し上げた方がよろしいでしょうか? 助けてくれと、お願いはしておりませんが……」
「いらねぇな。あんたの言う通り、コッチが勝手にやった事だ。だが、出来る事なら少しだけ話を聞いてもらいたいんだが? 一応、致命傷を負いかねない一撃から守ってやった訳だし……」
ガラードの言葉を聞きながら、ニーズヘッグは純白の鎧と盾に目を向ける。
大きな盾の中央に、鮮やかな赤で描かれた鳳凰の紋章が目に入り、視線の動きを止めたニーズヘッグは軽く笑う。
「聖凰の人間ですわね。ベルヘイムの人間では無いから、敵では無いと言いたいのかしら?」
「いや……何とも言えないね。味方になれるかもしれないし、敵になるかもしれない。オレとしては、出来れば戦いたくはないが……まぁ、そうだな」
ガラードは、手にしていた聖剣カリバーンを大地に突き刺した。
「おい、何をしているんだ! ヨトゥンを目の前にして、武器を手放すなどと……正気の沙汰ではないぞ!」
「だから……あんた達にとっては敵かもしれないが、オレ達にとっては敵じゃない!」
二人の間に割って入ろうとしたガラバをガラードは手を広げて制すると、再びニーズヘッグを見る。
「そこの男も言っておりましたが、私はヨトゥンですわよ。丸腰になってしまって大丈夫なのかしら?」
「さて……オレはヨトゥンと話をしたい訳じゃなく、ニーズヘッグという一人の女性と話をしたいんだが? それとも、ヨトゥンだから人間を襲わなきゃならねぇか?」
ニーズヘッグは、カリバーンに大きな盾を立てかけ始めたガラードの行動を見て、少しだけ緊張をほぐした様にも見えた。
「闇の力で戦う者にとって、聖なる力は天敵ですわ。その力を操る聖剣を手放した貴方の話なら聞きましょう。でも、ここには私に敵対する人間もいる。彼らが仕掛けてくれば戦いますし、その攻撃に巻き込まれても文句は言わないで下さいませ」
「ああ、それでいい。航太……わりぃが、少し時間貰うぞ。そっちがニーズヘッグに仕掛けたら、オレはニーズヘッグに手を貸すしかなくなる。察してくれよ」
ガラードは航太に向かって声を上げると、そのままニーズヘッグに向けて足を踏み出す。
「ちょ……航太! 彼は大丈夫なの? ヨトゥンの将に向かって丸腰で向かって行くなんて……普通じゃないわ! 止めないと!」
「ゼーク……オレ達が動けば、ニミュエ……そこにいる綺麗な魔法使いが攻撃してくるぞ。オレも彼女の全てを知っている訳ではないが、かなり高位の魔法使いだ。ガラードを止めるとなると、彼女も敵に回ると考えた方がいい」
純白の修道服に身を包んでいるニミュエは、航太とゼークの視線を感じて軽く頭を下げる……が、魔法の杖の先端に取り付けられた魔法石は、ニミュエの魔力の流れを受けて赤く光っている。
直ぐにでも魔法が発動出来る状態であり、その魔法の杖は航太達に向けられていた。
「仕方ねぇ……ゼーク、それにフェルグス達も状況を見守ってくれ! だが、ガラードが攻撃された直ぐに動けるようにしておいてくれ!」
航太の配慮にガラードは親指を立て、ニミュエはペコリとお辞儀をする。
「私も舐められたモノね。まさか、丸腰の人間が私の目の前まで歩いて来るなんて……一瞬で、頭と身体をバイバイさせてあげる事もできましてよ?」
「だが……それをやらねぇのは、何故だ? ユグドラシルの守護者、ニーズヘッグ!」
ユグドラシルの守護者……その言葉に、ニーズヘッグの顔が険しいモノに変わった。
「ヨトゥンの私がユグドラシルの守護者? おかしな事を言う殿方ですわね。世界樹ユグドラシルは、神の国アースガルズにある。その守護者がヨトゥンである筈がないでしょう?」
「そうだな。ユグドラシルがアースガルズにしかなければ、そうだろう。だが、貴女の主……ウートガルザ・ロキ殿が守っているモノは何か? サタンやルシファーをも騙してまで守りたいモノ……」
そこまで話したガラードの喉元に、フラーマ・シュヴァルトが止まる。
少しでも首を動かせば、フラーマ・シュヴァルトの発する闇に頭と胴体が離れ離れになるであろう……それ程の距離。
「少し、お喋りが過ぎますわね。私の主は、クロウ・クルワッハ様唯一人。そして、今回の任務はベルヘイムを陥落させる事。聖凰の人間は関係ないと思っていましたが……」
「関係ないが、知り過ぎているから殺す……か? なら、今の話は正解って事だな。そして、この話を知っているのはオレだけだと思っているのか? そこのニミュエも知っている。って事は、聖凰騎士は全員知っていると考えた方がいいぜ。そして、貴女の正体は知れ渡る事になる。ってトコで本題だ」
フラーマ・シュヴァルトをガラードの喉元に当てたまま、その話を聞いていたニーズヘッグは、瞳を閉じて大きく息を吐いた。
そして、フラーマ・シュヴァルトから闇が消える。
「悪ぃな……本当は、こんな脅しみたいな事はしたくなかったんだ」
そう言うとガラードは方膝をつき、ニーズヘッグに向けて右腕を伸ばす。
「聖凰騎士団は……キャメロット国は、貴女を迎え入れたい。そして、ウートガルザ・ロキ殿と友好関係を築きたいと思っている。世界を救う為に……」
見下ろすニーズヘッグと、見上げるガラード……
その周囲に、ラタトクスが緑の光を携えて飛んで来る。
まるで蛍が発する光のように……線状の緑光が2人を包み込む。
「ラタトクス……貴方達も、この者に付いて行けと言うの? でも……こんな裏切り行為、クロウ・クルワッハが許す訳がない。ウートガルザ様にご迷惑が……」
いつの間にか、航太達の周りはヨトゥン兵達に囲まれていた。
「ここまで師匠の言う通りになるとはね……ニーズヘッグ殿は、ヨトゥンの部隊に戻って下さい。戦った末、力尽くで捕らえられたのなら問題ないでしょう。ニーズヘッグ殿、我々と全力で戦って下さい。貴女の力を疑っている訳ではありませんが、それでも捕らえてみせます……」
ガラードはそう言うと、勢いよく後転しカリバーンと純白の盾を手に取る。
「らぁぁぁぁぁぁ!」
手にしたカリバーンで、ニーズヘッグに斬りかかるガラード……しかし、黒き翼で空中に舞い上がったニーズヘッグに掠りもしなかった。
「見せてもらいましょうか……聖凰騎士の力……ヨトゥン兵達よ、隊列が整い次第、ベルヘイム騎士及び聖凰騎士を殲滅して下さいませ。容赦する必要はありませんわ!」
号令をかけたニーズヘッグは、フラーマ・シュヴァルトに力を込める。
「聖凰騎士、全力でいかせてもらいますわ。黒き閃光よ……大地を穿て!」
空中から振り下ろされたフラーマ・シュヴァルトから、闇の刃が発生した。
「って、何かヤベェ攻撃が来んぞ! 聖なる力ってヤツで掻き消してくれ!」
「航太……ありゃ、聖剣でどうにかなる力じゃねぇ……闇の力を消しても、圧で吹っ飛ばされるぞ!」
巨大な三日月状の闇が迫る……ガラードとガラバが聖剣に聖なる光を宿した……その瞬間……
三日月状の巨大な闇の刃は四散した。
そして、黄金の閃光が舞う。
正に一瞬だった……黄金の半円が、千以上いたヨトゥン兵を掻き消した。
「なんて力……これが、アーサー王……ロキは、とんでもない化け物を作り上げましたわね……時間制限無しの鳳凰の力……確かに、私の力でどうにかなる相手ではありませんわね……」
ニーズヘッグの視線の先に、鳳凰の翼を携えた赤き瞳があった……
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