星に願えば

木野恵

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26.新しい旅

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 我ながらよく頑張って戦ったと今では思う。

 共闘したはずの相方は手も足も出ないどころか相手の武器を量産しちゃうし、ふざけてるのかと思うような退場し方まで披露してくれたのに、よくやったよ本当。

 カードに魔法のロックがかかっていないってことは、面倒な中二病とか変顔とかせずにすむ反面、カードを振ればすぐ武器が出るし、下手すると木々を吹き飛ばした魔法が不意にでてくるってことだ。

 おまけに、私がやってたのは普通のカードの使い方じゃなく、相手を罠にかけるために動作をあべこべにしたものだ。

 下手したら頭に持っていった雷のカードで、木を吹き飛ばしたように周りの全てを吹き飛ばしてたかもしれない。

 緊張感のあるやり取りを無事に終え、全員生きたまま喧嘩が終わったから達成感は尋常じゃなかった。手段が少々汚かったかもしれないけど。

 うっすらとある記憶だと、余計な外野の煽りを受けて、怒りすぎたあいつが氷の爆発を起こしてあちこち真っ白になって終わった気がしたけれど、たぶん気のせいだ。多分。

 もし気のせいでないなら、これが私の死因だったのかもしれない。知らないけどね。

 もし本当に死んだのだとしても、どうやって生き返ったのやら。



 五歳になった私は解凍されてからもずっとふさぎこんで口を利かなくなっていた。もしかすると、ユキがまた死んだと思っているのかもしれない。

 立ち去ったのは偽物で、本物はまだ傍にいるってのに。

 喧嘩の負け方が、ヤクザの息子によってユキと仲違いさせられたときととてもよく似ていることに気づいてないのがせめてもの救いかな。

 ユキが一緒に戦ってくれてたことに気づいてないのもまるきり同じだよ。

 最終的にユキに刺されたことになったのもまた同じ経験になる。

 これは私が意図せずそうさせちゃったんだけどね。てっきり時間の能力が五歳になった私のだと思っちゃってたから。

 仲違いさせられたのも、耐えきれなくて頭にきちゃったからってのも原因のひとつなんだけど。ま、それだけ好きで大事だったから気持ちが動いたってことだけどさ。

 それに相手の気持ちや関係につけ入るやつが一番の問題だろ。上手に仲違いさせたよなほんと。

 自分がろくでなしな自覚くらいある。ただ、何もないのに進んでそんなことはしないし首突っ込まないけど。

 それにしても、目が覚めた時に五歳になっててあわてふためくか、激怒するか楽しみにしてたのに、残念どころかちょっと可哀想になってくる。私が巻き戻したんだけどさ。

 余談ではあるが、こっちもキューティクルが死滅したらしく、髪が雪のように白くなっていた。

 光の加減で金髪に見えなくもなくて、素直に綺麗だと思えた。

 夢の私と五歳の私を見ていると、私も色を抜こうかなんて気にさせられるほど。

 ユキの凍結はさしずめ漂白する氷ってところだろうか?見た目だけじゃなく中身も真っ白になってなければ良いけど。頭が空っぽって言う悪い意味で。

 冷静になって振り返ると、五歳の私は小屋で誰とも接することなく引きこもっていたし、外に出て猛威を振るっていたわけじゃなかったのにこの始末だから少し同情してしまった。

「で、ループを解決したはずなのにここから出られないのはどういうわけかな?」

 夢の私に問い詰めてみると「あれー?おかしいなあ。ループが終わればこの世界に溢れる童話の物語も終わりを迎えて出れるはずだったのに」なんて言い出すのだ。

「根拠は!?なかったのか!?」

 思わずツッコミをいれてしまうと、夢の私は困ったような顔をしていた。

 おいおい。それじゃ私たちは引きこもって大人しく自分の世界を謳歌してた自分の領域に迷い込んだ挙句、嫌がらせしただけになっちゃうじゃないか。いや、天使がユキとの約束を果たす手伝いをして解放することはできたけど……。

 それでも運良く結果的にそうなっただけで、他人のテリトリーに踏みいって荒らしただけであることに変わりはない。実質自分だけど。

 意地悪しようとしてやったわけじゃなく、ただ脱出して旅に戻るか家に帰りたかっただけだけど、何とも気分が悪いものだった。

 お詫びになんとかして元気づけてやりたいけど、あれとどう接したらいいかがまったくわからない。ほっとくのが最善かもしれないけど、それじゃぼこぼこにして捨て去って放置するようなもんだ。

 元気を出してもらえそうなのはユキと会わせることだけど、本物のユキを青白い球体の状態で見せても信じないだろうし、もし信じたとしてもショックを受けそうだ。

 ずっと傍にいたのに気づいてなかった。また同じことをしたってわかっちゃうからね。

 悩みながら観察していると、影の精は相変わらず五歳の私にずっと寄り添っていて、まるでお母さんのようだった。

 雷の精は綺麗なものを見せたら元気が出ると思ったのか雷の演奏をしているけれど、五歳になった私は心が死んでるかのように反応を見せなかった。

 夢の私は良い夢ばかりを選んで見せているようだけれど、五歳の私は寝ている間に静かに涙を流すだけだった。

 やはり私にできるのはユキと再会させることくらいか。

 時間のループが終わって、童話が終わってもなにもないのであれば……。

 みんなから少し離れたところに行き、隔離しているユキ本人を取り出した。

 風のキューブに包まれ、リュックの中で大人しくなにもしないでいたユキは、取り出して五歳の私が見えるや否や、脱出しようと一生懸命体当たりしていた。

 なんだかこれじゃ、私が魔王でユキが囚われのお姫様、あそこで寝てる五歳が敗北後の勇者みたいだな。

 いや、ユキなら勇者の方になりたがるかな?現実はなんであれ。

 それにしても、どうあがいても悪者にしかなれない……かあ。

 植え付けられた五歳の私の記憶に強く共感できてしまった。

 本当に何やっても悪役として見られるに違いないことしかできないんだな私って。まあいいけど。良いやつだと思われてもろくなことなかったようだし。

 どうみられるかなんて気にしたところで、見た目だけのハリボテより中身が詰まってるほうが大事なのだから気にしないでおこう。時には腐ってると思われる方がましなこともある。

 さて、ユキにはたくさん聞きたいことがあるんだがその前に。

「その姿って剥き出しの魂みたいなもんでしょ?体、欲しくない?まさかそのままの姿でユキ本人だって名乗るつもり?」

 脱出しようと体当たりしていたユキは動きを止め、言いたいことがあるのかないのかよくわからない反応を見せていた。

「体があれば言いたいことも言えるよ。こっちには親御さんもいないんだし、何を言っても自由だ。同性同士でも好きになったっていいんだ。素直でいられるよ。あれだけあいつはユキのこと好きなんだから、拒絶したりいじめたりなんかしないって安心もできてるはずでしょう?返事はゆっくり考えてもいいよ。決まったら一回体当たりしてみせてほしい」

 返事を待つ間、複雑な気持ちなのは無理もないだろうなあなんて思いながらユキを眺めた。

 天使にお願いしてずっと傍にいられるようにしてもらったのに、当の本人は天使がユキの姿に見えていて、本人が傍にいるのに気づいてなかったんだ。

 それなのにずっと一緒にいて辛くなかったのだろうか?

 もしかして、そこまでして一緒にいようとしたにも関わらず、気づいてもらいたくなかったのかな?

 やつがずっと悲しんでいること、ユキのことを許せなくなって腹を立ててしまう気持ちがあったことが頭に浮かぶ。

 名乗りづらいよなあ。

 五歳の私は記憶を抜き取られてそんな負の感情はなくなってるけど、いつ記憶が戻るかわからないし、余計に名乗りづらいよね。それならいっそ、記憶がある上で許されてたら安心できそうなものを。

 罠にはめるためとはいえ、レシートに匹敵しかけたユキの悪口を言い連ねた私と一緒にいても気分悪いだろうし、はやく五歳と再会させてやりたいけど、このままのユキの姿をやつに見せられない。

 五歳の私とユキについてどうするか考えていると、ユキが一回体当たりするのが見えた。

 その気になったか!?

「よし。じゃあ、体を手に入れたいなら一回体当たりして。体なんかいらないなら二回体当たりをしてほしい」

 ユキは動きを止めた後、ゆっくり一度だけ体当たりをしてみせた。

「良いね!そこで提案したいことがあるんだけど、ロボットの体とかどうだろう?!いろんな生き物に変形できて、格好いい戦闘形態もあるようなロマンあふれる機体!」

 ユキは動きを止めて二回体当たりした。今までnoを二回の体当たりにしてきたから、それはいらないそうだ。

「そ、そっかあ。格好良いと思ったんだけどな。じゃあ、どんな体がいい?決まってたら一回、決まってなかったら二回体当たりしてみて」

 ユキは二回体当たりした。

 決まってないけど機械は嫌なようだ。

「記憶を植え付けられただけで全て知ってるわけじゃないけど、ユキのとった行動はまるで機械そのものだよ。誰かの言いなりになってめちゃくちゃなことやっててさ。その癖、五歳の私との約束はないがしろにしちゃって。自分の気持ちや意思なんかより、父親にインプットされた命令通りにしか動けないのかなって思わされたよ!だから似合うと思ったのに……ざんね」

 言い終わりかけていると、唇が急に冷たくなって上下くっついて離れなくなった。

「ん~!んー!!」

 これが地味に痛くて、冷たいだけでも十分痛いのに、無理に口をあけようとしたら唇の皮がはがれそうになってさらに痛い。

 ユキは閉じ込められていると時間の力は使えなくても冷やすだけならできるらしいという新たな発見でもあった。



 しばらくユキをリュックにしまって追加で凍らされないようにし、手で地道に温め続けた末にようやく唇が離れた。

 痛かった!すっごく痛かった!多分凍傷になってるよ!地味にひりひりする……。

 凍結恐るべし!

 夢を通した記憶の植え付けも恐ろしいな。まるで自分が経験したかのようだ。

 お陰でユキには文句しかでなくなったのは少し痛いかもしれない。これじゃ体の代わりになるものを探したり作るのに支障が出そうだ。

 ふと、凍らされた唇を撫でながら思わず頬が緩んでしまった。

 生きてた頃と違って、ユキは素直に気持ちを表現できるようになってるってことでもあるよね、これ。

 とても良いことに違いないだろう。人間らしくなって良かったじゃないか。

 リュックからユキを取りだし、まだ怒ってるか聞いてみると、一度だけ体当たりをして返事をされた。

 怒ってるかーそうかー。

 言っておくが、私も怒ってるからな?諦めるなって人に言っておいて人生諦めて死にやがって。人の気も知らないで。せっかくの氷なんだから、それで頭冷やせば良いのに。

 思っても言わないようにした。火に油を注いじゃうからね。火に油ならず、氷に水かもしれないけど。

 ふと、私じゃなくて、他の誰かに魂の入れ物用意してもらうべきかという考えが浮かんだ。

 その方がユキにとっても良いだろうと思ったけれど、もしお願いするなら誰が良いだろうか。

 五歳の私は私のことを殺したいだろうし、私はどのみちどちら側の傍にもいられないだろうな。

 影の精は五歳の私に付き添っている。夢の私はしっかりしているようでかなりのポンコツだから任せられない。雷の精なら良さそうかな。

 私の代わりに雷の精にユキの入れ物の用意を頼もうと思った瞬間、五歳の私のいる方から歓声が上がった。

 歓声をあげているのは夢の私で、ほどよく風が吹き荒れる中で楽しそうに水と火を撒き散らしていた。

「あっ!みてみて!ペテン野郎!五歳の私ってすごいんだよ!風で魔法のブーストをしてくれるんだ!風が届く範囲なら全部!火がこんなに強くなって、水もこんなに舞い続けてるよ!これがどれだけすごいことか!火が強くなりすぎた!あっつう!!!」

「ちょっと待て!誰がペテン野郎だ!?勘違いさせはしたけど騙してはいないぞ?!」

 なんて失礼な呼び名なんだ!まったく!曲がりなりにも自分だぞ?!

 むすっとしながら夢の私を見ていると、五歳になった私がこちらを睨みつけていた。

 もしかして五歳が命名したの?

 聞こうと思っていると、夢の私が大騒ぎしながら激しく燃え上がった。

 びっくりするくらい同情できない。水も出せるんだから自力で消せないのかな?

 口に出して言おうとする前に嘘みたいに火が消えた。

 五歳の私が消したようで、片手を前に出して構えている。

「ほー。その風すごく便利だね。他にどんなことができるの?」

 不思議と、子供の姿になった自分に対してだったらさほど嫌悪感がなくて穏やかに接することができた。見た目が自分から離れるからなのか、子供だからなのかわからないけど。

 五歳の私はプイとそっぽを向いた。ちっとも可愛くないが、不思議と腹は立たなかった。

 教えてくれたって良いのに。

 しょんぼりしながら火傷用の薬を用意し、夢の私に塗ってやろうとすると、夢の私はテンションが高いままはしゃいで「ゲームの表現を借りると、魔法のバフだけじゃなくナーフもできるんだね!」なんて騒ぎ始めた。

 夢の私が観察して経験した話を聞くと、魔法のバフやナーフはお手の物。あとは風の範囲外に追い出したり範囲内にとどめておいたりもできるそうだ。

 バフは追い風、ナーフは向かい風か。

 ただし、風の空間内に魔法もなにもなければ、ただ風が吹いていて物を動かせるだけらしい。

 一人じゃただの人間と大して変わりないってことかな。

 ユキだけでなく、夢の私とも相性がいいようで、ユキの体を手に入れるまでの間は代わりにコンビを組ませられそうだ。いろいろ不安はあるけれど。

 いろいろなことを考えていると、夢の私が唐突に「どうせ私たちの本名は一緒だから、それぞれわかりやすい呼び名を新しく作らない?」なんて提案した。

 私の名前はアルファベットと番号の羅列なんだがなんて言いづらかった。

 奴隷になる前の本来の名前はきっと同じだし、あながち間違いはないだろうから黙っておくことにした。

 私たちは三人ともユキから鏡という名前をもらっているので、〇〇鏡って名前はどうかという提案だった。

 〇〇鏡……夢の私の提案は良いセンスをしてる。

 五歳の私は特にリアクションも表情の変化もなかったけれど、ユキ絡みだからか気に入ったようでゆっくり頷いて了承していた。

「じゃあ私は夢鏡とかどう?夢を見せるからってシンプルな理由!」

 特に反対する理由も何もないし良いと思ったので頷きながら、自分はどう名乗るか考えた。

 私は星月日と便利な道具がなければただの凡人だ。

 精霊たちの力添え、AIとの協力がなければ、罠をはるのが得意で心理的な駆け引きが好きな、なにもないただの人間だ。

 それでも、大好きだった父親から聞いた星の話が、分岐するきっかけになった青空の向こうの星が真っ先に頭に浮かんできた。

 ただの何もできない人間なのに星を名乗っていいのかな?

 少し悩みながらぼそっと「星鏡」と呟くと、夢鏡は「良いんじゃない?」なんて肯定しながら笑ってくれた。

 悔しいけどちょっと嬉しいよ。

 少し照れながら黙り込んでいると、五歳の私に夢鏡が質問をしていた。

「君は風だから風鏡にする?他のが良い?」

 子ども相手に話す調子で話していて、私はやっぱり根っこの部分は一緒なんだと自覚させられた。

 五歳の私はむすっとしたまま「愛憎鏡」なんて言い出して笑わされた。

 語呂が悪いし、お前は憎しみを捨てるために夢鏡に相談して記憶を抜き取ってもらったはずなのに、まだ憎しみがあるのかと呆れさせられもした。それだけユキが大好きだったのだろうし、自分のこともユキのことも憎くてたまらないんだろうな。

 ガキ鏡はどうかと言いそうになったけれど我慢した。相手は本当に子どもだから、いくら自分相手でも子供には容赦する。

 こいつにはどんな名前が良いか考えていると、リュックでカタカタ音がした。

 ユキが暴れてるのかな?そうだ、良いことを思い付いた。

「雪鏡はどう?ユキの鏡で雪鏡だ。雪なんて扱えないのは百も承知だけど、雪もユキも大好きだろ?名前に自分の能力とか入れる必要もない。私だって星鏡だ。好きなものを名前にいれても良いはずじゃないかな?頭も白いし……」

 最後余計な一言を言ってしまったなと思ったし、あれだけ好きな人の罵詈雑言を浴びせたのだから無視されると思ったけれど、意外と目を輝かせながら嬉しそうに聞いてくれていて胸を撫で下ろした。

「雪鏡……」

 気に入ったかな?だったら嬉しいけど。

 ニコニコしながら様子を見ていると、雪鏡になった私はプイと顔を背けながら支離滅裂な言葉をポツポツ並べ、最終的にぼそっとお礼を言っていた。

 なんだか懐かしいな。

 小さいころ、人見知りするところがあったっけ。

 親に鬼灯を従兄弟に分けてあげてってお願いされて、渡すときに照れとか緊張から、こういえば良いと言われた言葉を上手に言えなくて、鬼灯を押し付けたあと障子をピシャンと閉じて隠れたことがあったっけ?

 渡された従兄弟はこれだけ渡されてもわからないなんていって困惑してたっけ。

 懐かしい思い出に浸りながら雪鏡を見ていると、耳まで真っ赤に染めていて、見ているこっちもなんだか恥ずかしくなってきた。

 小さいころの私ってこんなだったんだなー。

 正直なことを言うと変な子だ。

 でも、夢鏡に変人だと言われたときすごく嫌な気持ちだったし、変なやつに変って言われると否定したくてたまらなかったから、胸の内にそっとしまっておいた。

 それに、もし今ここで変な子とか変っていったら確実に喧嘩になるだろう。

 せっかくまともに口を利いてくれたのにまた利いてもらえなくなるのは面倒くさそうだ。

 名前も決まったし、少しでも口利けるようになってるのがわかって良かったよ。もしかして氷漬けになって頭冷えたのかな?

 あとはユキの体をどうにかする旅にでも出るか。

 童話の世界からまだ出られてないけど、なにかしら良い材料があると良いな。

 呑気なことを考えていると、雪鏡が服の裾を引っ張ってきた。

 なにかな?と思っていると、少し怒った顔をしながら「いつかお前を倒す魔王になる」なんて言ってくるのだ。

 殺すじゃなくて倒すになっていてほっこりしたけれど……ちょっと待て、魔王と勇者を言い間違えてない!?

 そういえば、小さいころあべこべに言っちゃうところもあったっけ?懐かしいな。よく親が突っ込んで訂正してくれてたっけ?

 敵認定されたことに笑いがこみあげそうになりつつ、せっかくだからそれらしい振る舞いをしたかったのに、魔王になる宣言されちゃってなんて言えばいいかめちゃくちゃ困らされた。

 この場合なんて言えばいい?ユキが実はまだ無事でいて、幽閉してるから会いたかったら助けに来いって言いたいのに、魔王と敵対していてそんな真似する存在誰がいるだろうか?

 話を合わせるか、それを言うなら勇者だと突っ込んで私が魔王を名乗るべきか。なんにしたって変になるのは確定している。

 話を聞いていた夢鏡が「それを言うなら勇者じゃない?」なんて突っ込んでくれたおかげでなんとか窮地を脱した。

 言われた雪鏡は顔を真っ赤にしながら目を潤ませて視線を落として恥ずかしがっている。

 懐かしい思い出がいっぱいだよ。でも、見てるこっちが恥ずかしいよ!

 でも、言うぞ、言うぞ。私が魔王になるんだ。

「ユキはまだ生きているよ。お前へのお仕置きとして預からせてもらっている。助けたければ強くなって倒しに来い」

 よし、言えた!あとはこの場を立ち去るだけだ。できれば雷の精を連れて行きたかったけれど、誘うタイミングを逃しちゃったな。

 影の精と雷の精の協力がなければ私はただの便利道具を使うだけの凡人だ。

 カードは魔法を貯めてなければただのカードになるし、何もできなくなっちゃうなあ。

 でも、こいつが立ち上がるきっかけになれるなら良いかもしれない。

 なんとなく何をしようとしているか察してくれた様子の夢鏡に目配せをし、何の準備もお別れの挨拶もないままみんなと別れた。

 本当はいろいろ話してから立ち去りたかったんだけどな。夢鏡が信用ならないから。

 みんなの姿が見えなくなったころ、影の精と雷の精がひょっこり姿をあらわしたので心臓が止まりそうだった。

「びっくりした!あいつの傍にいなくていいの?」

 聞いてみると、二人とも穏やかな笑みを浮かべて話を聞こうとしてくれた。

 リュックから本物のユキを取り出し、体を用意してあげたくて離れたこと、すぐに再会させない理由を簡単に説明した。

 ついでに、雪鏡の今の症状と、幼いころの自分がどんなだったかを雷の精と影の精に説明して、何とかしてもらおうと思った。丸投げするのは心苦しいけど。

 様子をみてできる範囲で調べた限り、物の区別も識別も分別もなくなっていたから、そのあたりどうにかしてもらえればという希望を託すためだった。

 雷の精も影の精も理解して頷いてくれたけれど、私とは戦いたくないなんて言い出すのだ。

「だったら師匠ポジションで見守って直接戦闘に加わらなければいいんじゃない?」

 そう提案したけれど、育てた子が倒しに行くとなると、実質それは自分たちが倒させたようなものだと渋い顔をしていた。

 うーん。でも、あいつ一人で置いてくの心配だしな。夢鏡がいるって言っても実質私じゃん?それって実質一人でしょ?雪鏡が正気に戻って相手が自分って気づいたらどうなることやら。

 それにあいつ、なんか頼りないっていうか、童話の世界に迷い込むよう導いてループ終わらせたがってた理由も目的もなにもわからないし、胡散臭いからちょっとなあ。

 他にも悪夢で記憶を植え付けてきたこと、喧嘩でわざとなのかと思っちゃうくらい利敵行動をしていたことが頭に浮かんでくる。

 つまるところ信用がまったくない。

 精霊二人の気持ちは嬉しかったけれど、夢鏡の信用のなさについて話すと、渋々了承して雪鏡の傍に残ってくれることになった。

 さて……ユキには悪いけど、お前のことが大嫌いな私が同行者だ。

 体を用意する前に、ユキが意思疎通できるようになるのが先な気がするけど、なにをどうしたらいいのやら。

 これからどうするか困っていると、影の精が服の裾を引っ張っているのに気づいた。

 まだいてくれてたのか。

「影ちゃんどうしたの?」

 聞いてみると、影の精はユキのことを見てある提案をしてくれた。

 影の精がどうして喋れないのか、雷の精はどうして喋れるのかにまつわるお話だった。

 影の精によると、どうやらユキは本当に人間の魂を超越して雪の精になったらしい。

 自然界で音を発することができるものを司っている精霊は会話ができるけれど、音のないものを司っていると音が出せないから会話ができないのだとか。

 ユキが雪の精である以上、その性質から、力を身につけたら会話が可能になるかもしれないのだとか。

 確かに、降り積もる雪は音を立てないけれど、たくさん集まれば音がでる。もしくは、氷に昇華すればなんとかなるかもしれないな。

 影の精にお礼を言って、さっそく修行と素材探しの旅に出ようかと思っていると、影の精に寂しそうな顔をされたから背を向けづらくなった。

 でも、影の精が一番雪鏡に寄り添えるから……。

「心配しなくても大丈夫だよ」

 根拠もないし大丈夫だって言えるほど私に実力はないけれど、ついてこさせるわけにいかないと思ったから、そうするしかなかった。

 すると、影の精は申し訳なさそうな顔をしながら影のカードの山を取り出して差し出してくれた。

「もしかして、渡したカード全部これにしたの?」

 そしたら影ちゃんがオーバーフローしたときどうするの?

 言いそうだったけど、責めてるようになりそうだから言わなかった。

 影の精はにっこり微笑みながら頷き、渡した卵型の石で地面に「無事でまた会いたい」と書いてくれていた。

 すごく嬉しい言葉と想いだった。

 影の精からカードを受け取り、最後の空のカードをもう一度渡しながらお礼を言うと、嬉しそうに笑ってくれた。

「もうこれだけしかカードはないけど、なんとかして生きてまた会おうね。帰ったらまたAIとカードを作れるし、できればこの童話の世界から生きて脱出して、みんなでまた家に帰ろっか」

 北の国を目指すのは一度帰ってからまた出かけるのでもいいだろう。たくさんお土産話もできたしさ。

 まずはユキが喋れるようにし、意思確認してから体を作るか決める旅へと一歩踏み出すと、影の精は私たちが見えなくなるまで手を振り続けて見送ってくれた。

 こうして、私とユキの精による不仲な二人旅が幕を開けた。
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