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25.仲直りと喧嘩
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雷の精と夢の私の三人で、小屋にいる私へのリベンジ作戦を練りつつ、カードの使い方を夢の私に教えたり、使う時の意識で効果を切り替えられないか実験と特訓を続けて何ループ目かしたある日のことだ。
ずっと影の精から連絡も何もないのが心配でならなかった。
私たちが動くのはやはり余計なことかもしれないと思い続けてきたけれど、そろそろ様子を見に行くべきだと覚悟を決めた。
時計塔から小屋まではすぐ近くだ。
雷の精に浮遊させてもらい、時計塔から小屋へと降り立つ。
汗水たらして階段を上ったのが遠い昔のことのようだった。
小屋は初めて来たときと変わりなく、何かひどいことがあったわけじゃなさそうだ。
影ちゃんは無事だろうか?
頭の中はそればかりだ。
みんなで練った作戦もちゃんと頭の中にはあるはずだったけれど、心配が先走りしてしまって不安がどんどん膨らんでいく。
三人で窓からそっと中を覗き込んでみると、小屋の私は椅子に腰かけた状態で眠り込み、偽のユキと影の精が何やら話をしていた。
やつが起きないか心配だったけれど、外から声を掛けてみると、影の精が気づいて手を振ってくれた。
良かった、無事だ。元気そうだ!
影の精が中から影を外に伸ばし、私たちを中に招き入れてくれた。
影ちゃんすごい!しばらく会わないうちにできることが増えてる!
影のカードでいうところの瞬間移動の能力を、力の持ち主である影の精霊本人が使うとこんなことができるってことか。
やつが起きたら騒ぎにならないか心配になりつつ、影の精との再会を心から喜び、偽ユキに確認したいことを確認した。
「ユキじゃないでしょ?」
偽のユキはアホ毛を揺らしながらゆっくり頷いて、椅子で寝ているあいつを見て指さした。
それは何を意味しているのか聞こうとしていると、タイミング悪くあいつが目を覚ましてしまった。
私と夢のあいつを見るや否や、きっと睨みつけてきた。
うわー。まだ怒ってるってことだよなーこれ。
どれだけループしたと思ってるんだろう。しつこいな。
気まずさと面倒くささから目を逸らすと、影の精が慌てて手を振って注意をそらしているのが見えた。
やつの影の精を見る目は私たちへ向ける視線と違ってとても優しかった。
そういえば……。
影の精が宥めてくれている間に、小屋の私を見て思い出したことを夢の私に聞いてみることにした。
多分、隠し事に関わることだ。
夢の私から聞いた話によると、こいつはユキのこと大好きでたまらない気持ちの他に、許せないくらいの怒りを持っていたはずだ。
でも、小屋で偽物ではあるけれど、ユキとずっと一緒に過ごし続けていたはずなのに激しく怒った痕跡は何もない。
「もしかしてお前、ユキに関する怒りを誘発する記憶を抜き取ったんじゃない?」
聞かれないようこっそりと紙に書いて聞いてみたところ、やつは気まずそうに口元をゆがませながらゆっくり頷いた。
ほらね。尻尾を掴んだら素直にうなずくだろ私は。
「その記憶、どこにやった?」
聞いてみると、夢の私は頭の後ろに手を当て、テヘとかいいながら笑った。
やっぱりそういうことか。悪夢を通して私に植え付けてやがったなこいつ!!
やりやがったなと腹が立つ一方で、私のユキに対する気持ちはそこまでだったのだと思い知らされた。
「頼まれたんだ。バカって言っちゃって怒られちゃう前に、『心から先輩のこと愛していて大好きなのに、許せない気持ちが同居していることが許せなくて苦しい。まっすぐな気持ちでずっと好きでいたい』って。だから取り出したんだけど、誰かに植え付けないと持ち主に戻っちゃうから。苦しんでるの見てられなくて、助けたいって思っちゃって」
それが隠し事か。
まったく申し訳ない様子を見せてないならまだしも、悪いことしたなって顔をしながらそんなことを言われたら何も言えなかった。
何も言えなかったけれど、心の中では怒りで煮えたぎっていた。
そこまでして好きでいたかった気持ちには感服するけど、よくもやりやがったな惚けナスどもが!人に植え付けるくらいなら自分に植え付けろよ!この人でなし!ある意味自分に植え付けたわけだけども!!!私って自分に容赦ないなって気づいちゃいたけど本当に容赦ないな!
それにしたって、一方的に怒られて追い出されたのに、よく記憶を元に戻そうと思わなかったよな。私に植え付けやがったことはさておき。
それに、そこまでしてユキのことが大好きだという小屋の私の気持ちを全面的に認めるしかなかった。
私なんかが一時的に抱いていた、ユキに対するすぐ消えちゃう恋心なんかより大事にされてしかるべきものじゃないか……。
応援してやりたいけど、ここにいるのは偽のユキなんだろう?本物は?
立派なアホ毛が生えている偽のユキが、寝ている小屋の私を指さしていたけれど、あれはどういう意味だったんだろう?本物はすぐそこにいるってこと?
わからないことについて推論を進めていると、影の精が小屋の私を宥め終わったようで、小屋の私から話しかけてきた。
夢の私も一緒になって驚きながら振り向くと、むすっとした顔をしながら手を差し出していた。
一時休戦の仲直りといったところだろうか?
恐る恐る手を差し伸べて握ると、そっと握り返してくれた。
握りつぶす勢いで握られることがなくてほっとしていると、夢の私もそっと手を添えてきて、三人で手を繋ぎ合って仲直りをした。
偽ユキと影の精、雷の精が手を叩いて祝福してくれる中、三人して微妙な顔をしながら手をゆっくり離した。
気まずい……。仲直りってこんな感じだったっけ?
小屋の私なんか特に嫌そうな顔をしてたし、また後で何かあったら爆発するんじゃないかな?
仲直りしたはずなのに心が落ち着かないまま、六人でしばらく小屋の生活を送った。
結局、私たちのとった手段は言葉を極力発さずに過ごすことだったある日のこと。
盛大に三人で喧嘩した。
はじまりはほんのささいなことだった。
あまり多くしゃべらないようにし続けるのも限界があり、また同じ話を繰り返して前に進もうとしない小屋の私に腹が立ってバカを連呼してしまったのがきっかけだった。
夢の私が言っていた通り、馬鹿と言っただけじゃ怒りはしなくなっていたので油断していたのと、我慢しすぎたのが大きな原因だろう。
日頃の鬱憤が爆発し、ユキのどこが好きなんだと踏み込んだ文句を言ってしまった結果の大喧嘩だった。
夢の私はあろうことか、夢の私がいた世界のユキに対する自分の好きな気持ちを素直に話しちゃった上に、「いつまでも同じ話をしてたらユキも報われない。ずっと同じ話ばっかりして前に進まないのなら、こっちの世界のユキは私がもらっちゃうぞ」とまで言って挑発してしまっていた。
偽ユキと雷の精と影の精が小屋の外から心配そうに覗き込んでいる。
小屋の中では命のやり取りが行われていた。
小屋の中にある何もかもが凍り付き、冷たい風が吹き荒れ……。
「どうしよう!全然太刀打ちできない!」
私と一緒に小屋の私を相手にしているはずの夢の私は、利敵行為だと思われてもおかしくないことを山ほどしていた。
今から数分前のこと。
喧嘩が始まってすぐ、小屋の私の肩の近くに青白い光が浮かんで見え、小屋が凍り付き始めた。
それでもいくらか理性は残っているらしく、喧嘩相手の私たち二人以外を小屋の外へ避難させていてなかなかやるなと思わされた一方で。
「凍ってるなら溶かせばいいんだ!」
集中的に狙われている夢の私は、カラフルな炎を出して凍り付いた小屋を溶かそうとしたけれど、溶かそうとした傍からまた凍り付くだけでなく、火が燃えるまでに風が強く吹いてかき消されてしまっていた。
「だったら水だ!自分の氷で自滅しちゃえ!」
発射元が自分である以上、出した瞬間氷漬けで届かない上に、風で氷を砕いてたくさん飛ばされていて、結果的に相手の武器を増やしただけになった。
そうして今に至り……。
「どうしよう!全然太刀打ちできない!」
大きなため息をつきながら、一緒に戦う羽目になった相棒の醜態に頭を悩ませた。
もしかしなくても戦闘音痴……?
「おかげさまで私も身動き一つできないよ!わざとじゃないんだろうけど、ゲームではこういうの利敵行為っていうんだよ!」
手も足も出ない夢の私に対して、小屋の私は物凄く怒っているから情けを欠片もかけない様子だ。
さすが私だ。自分自身に容赦ない。
ユキのことを夢の私と一緒になって馬鹿にしちゃったのがそんなに腹が立ったらしい。夢の私に関して言えば寝取る宣言までしちゃったのだから、そっちは消されても仕方ないのかもしれないけど……。
夢の私も、願いの魔法が使えない私同様、夢も火も水も使えなかったらただの凡人のようだ。
逃げ回っているうちに疲れ果てて氷に足をとられて捕まってしまっていた。
小屋の私が凍った床を踏みしめ、パキパキという足音を立てながら夢の私にゆっくり近寄っていく。
「せ、せめて氷漬けだけは……」
哀れな夢の私は最後まで言い終えることなく氷漬けになって動かなくなってしまった。
利敵行為をしたから凍結されたか……。ついでにいうと、攻撃的な発言も入るのかな?
びっくりするくらい同情できない中、手を合わせて冥福を祈り、さすが私だ、容赦ないなんて考えていると、小屋の私がくるっとこちらを振り向いた。
ゲッ!私のことも怒ってるんだ。さすがだ、容赦ない。
「幸せな時間がずっと続けばいいと思っていた。でも、繰り返していると外から良い人も来るけど悪い人もきちゃうんだね。幸せな時間でずうっと止めたいなって今は思うよ」
やべえ、やべえ。このままじゃループが終わって人生も終わる!
「そいつだけにして見逃してくれない?」
軽くお願いする調子で言ったけれど、返事はなにもなかった。
ただ吹き荒れる風の音と、氷を踏みしめる音が響くばかり。
寒さで震えているのか、太刀打ちできない恐怖で震えているのかわからない中、氷のいい音を鳴らしながら歩いてくる小屋の私に対してカードを構えた。
そうだ。元は仲直りしに来たんじゃなくて、ループを終わらせる作戦を練って特訓して備えていたんだ。特訓の内容を思い出せ。
立ち向かう覚悟を決めつつ、雷のカードを武器を出すために振る意識をしながら頭に持っていく。
成功だ。
本来はカードを振らないと出てこない武器だけれど、振る時の気持ちで頭に持っていったから武器にできた。
大切なのは何をしたいかという意志だ。条件なんか関係ない。
特訓の成果に満足しながら、罠を早い段階から紡いでいく。
特訓した時に魔法のカードにかかっているロックも外したからクリアする必要もない。なんたって、真剣勝負だもの。
空のカードを頭にかざせばオーバーフローした力を吸い出せる。オーバーフローしてないやつに使うのは初めてだから、どうなるかついでに実験することになるだろう。
カードが剣の形状に変わるのを見て、さすがにやつも警戒したらしい。
歩み寄るのをやめて周りにある氷を風で砕き、こちらにたくさん飛ばしてきた。
雷の剣で防ぎながら一生懸命走って避ける。
近寄れない!手数が多すぎる!
外れて粉々に砕けた氷を風で舞い上げ、吹き付けてくるだけでもめちゃくちゃ痛いどころか目を開けることもできない。
雷の武器が時間切れですっと消えていく。
雷のカードをもう一度頭に持っていき、魔法を発動させたけれど、手がかじかんでカードが手から滑り落ちていった。
半分わざとで半分本当だ。
落ちたカードは剣になって輝いている。
もう一枚……。
次に手に取ったのは空のカード。もちろんわざと。そうして、取り出すときにわざと空のカードの山をぶちまけ……。
わざと小屋の私に追いつかせた。
体のほとんどが寒さで感覚がない。
「見逃してくれない?私はあの夢バカと違ってユキを寝取ろうなんて微塵も思ってないよ?だって、ユキのことなんか一つも好きじゃないからね。あんな話し合いもできない、先のことも考えられないバカのどこが好きなのか理解できないよ。たいして賢くもない癖に自分は賢いです!なんて思い込みもたいがいにしてくれって話だ。それに自分のこと賢いって思うなんて恥ずかしくて仕方がないだろ。傲慢にもほどがあるわ。余計なことを知らないところでたくさんしやがって余計なお世話だよ!危ない目に遭ってほしくないから一生懸命隠し事してたってのに本当にウケる。友達のこと悪く言われて怒ったら余計悪いことになったから、怒らない方がいいんだってわかったって経験を言っても、正しいことをしたんだって肯定して突っ走っちゃうんだぞ?いくら守ろうとしても自分から危険に身を投じるなんて救いようもない馬鹿たれ以外に評価しようがないっしょ?ゲームで相棒を必死に守ってるのにわざわざ危ない立ち位置に行ったり無警戒に茂みに近寄ってるようなもんだぞ?見限って当然よ。これだから正義感強くて血の気の多いバカは救いようがない。人の気も知らないでさ。思いやりながら守られてるって気づきもしないで猪突猛進。イノシシにでも生まれてた方がまだよかったんじゃない?」
ユキに対して嫌いだと思ったところを長々時間をかけて洗いざらい吐くと、小屋の私は夢の私に対する怒りよりも強い怒りを顔に出しながら雷の剣をとろうとしたけど、時間をかけて罵詈雑言吐いたおかげでスッと消えた。
少しでも悪口が短かったら首をはねられていただろう。ギリギリセーフ。
やつは次に、私がわざとぶちまけた空のカードを一枚手にし、頭に持っていって一言。
「殺す」
思惑通りだけど、目が怖すぎんだろ。怒りで真っ赤っかだぞ!私ってそんな虹彩真っ赤になるの?知らなかったな。
怒り具合からみて、氷漬けにするだけじゃ気が済まないだろう。きっと、首をはねたいくらい腹を立てただろう?
引っ掛けられてるなんて気づきもしないで、挑発にも乗っちゃって。小屋の私も感情的になりすぎて馬鹿なことしようとしてるな。
感情はある方がいいだろう。しかし、手綱を握れない感情であればない方がいいのかもしれないな。
うっすらそんなことを思いつつ、小屋の私の症状について考えた。
人の区別だけでなく物の区別までついてないか、それとも、私同様目が悪くて模様が見えていなかったか……。これだけじゃ判断材料に欠けるけど、知らないより良いだろう。
カードで能力が奪えるかどうか、奪えなくとも消えるかどうか、固唾をのんで見守っていると、頭にカードをかざしたまま小屋の私はピクリとも動かなくなってしまった。
どうしたんだ?
よく見てみると、小屋の私は足元、指先から少しずつ凍り付いていっていた。
そういえば、ずっと凍らずに動けてたけど、どういう原理で動いてたんだろう?
いつの間にか小屋の中で吹き荒れていた風は止み、ただひたすら寒いだけになっている。
小屋の私の肩付近で浮いている青白い光は落ち着かない様子でフワフワ動き始めていた。
つまり……氷はその肩のあたりで光ってる精霊かなにかの力で、小屋の私自身は風を使ってたってことか。
なるほど、凍り付かなかったのは風をまとって自分が凍らないようにしてたわけか。自分の周りの空間だけは温かかった可能性が高いな。だから凍り付いていったと。
オーバーフローじゃないときにカードを使うと、こんな風に一時的に能力が消失したりするって実験結果ともとらえられる。
魔法の源をエネルギーとして例えると、タンクが空っぽになって使えなくなるってことか。
それか、シンプルに授かった能力だった可能性も否定できない。
非常に面白い結果だ。さて、あとは授かり物だったかどうかが気になるところ。
面白がりながら観察していると、やつの肩にいた青白くて丸いやつがいないことに気が付いた。
あれ?どこに……。
周りをキョロキョロ見ていると、背中に冷たいものが勢いよくぶつかってきた。
「ゴフッ!」
倒れ込むと、背中にガンガン体当たりされ続けてさすがに反撃せざるを得ず。
横向きに転がって体当たりを空ぶらせると、床に体当たりしちゃった青白くて丸いのはそのまま大人しくなって、小屋の氷が少しずつ解けていった。
青白いのと小屋の私には悪いけど、無防備なうちにカードをかざしてもう少しサンプルをわけてもらうことにした。さんざんやりたい放題された仕返しされてると思って甘んじて受けてくれ。
小屋の私のカードはキューブのような絵と、風を思わせるうねった線が描かれたものだった。
風の空間かな?お前が時間を操ってたわけじゃなかったのか。
青白い球体のほうはというと、雪の結晶マークに、病院で見かけた覚えのある水時計が描かれていた。
時の水、時の氷?こっちが時間だったのね。
この二枚を見てとっても悪いことが頭に浮かんで口角が自然と上がってしまった。
罰したがりは好きじゃない。やり返す意思もさほどないけれど……。
さすがに迷惑過ぎたのでなにか悪戯じみたことでもしないでいられなかっただけだった。
何事にも楽しく!悪戯心や遊び心は忘れずにいたいもんだね。
外で見守っていた三人が小屋の中に入ってきて、それぞれ心配してくれた。
夢の私は解凍されてすぐ「死んだかと思った!」なんて叫んで元気そうだったので、皮肉たっぷりに「おかげさまで!」と返したら大笑いしていた。
「笑いごとじゃねえよ!相手に武器をたくさん残しやがって。一人で残ったこっちの身にもなってくれ!あれ?頭真っ白だぞ?キューティクル死滅した?」
「え?キューティクル?」
髪が雪のように白くなっていて、夢の私はしばらく固まっていた。
思わずざまあみろと言いたくなったが我慢して、自分の髪も同じになってないか心配しながら確認してみた。
良かった。金髪混じりの茶と黒だ。
他にもいろいろ言いたかったけど胸の内に留めておき、時間のカードを小屋の私に、空間のカードを青白い球体に使ってお仕置きをした。
小屋の私には凍ったまま5歳まで巻き戻ってもらい、青白い球体……推定ユキにはしばらく隔離措置を取らせてもらった。
寝て起きたら5歳になってるってどんな気分なんだろうな?今のお前はわがまま暴君のクソガキだから精神年齢にあっててちょうどいいだろう。それにしても、5歳の私って性別がどっちか本当にわからないな。
起きた時の反応に少しウキウキしながら、偽ユキに改めて話しかけてみた。
事情を聞いてみると、どうやら本物の天使だったらしい。そしてやはり、あの青白い球体は本物のユキだったようだ。
ずっと悲しみに暮れているタマを見かねた本物のユキの霊が、天使にお願いしてずっとそばにいられるようにしてもらったのだそう。
できることならタマの力になれる存在として。
しかし、当のタマは本物のユキに気が付かなかったばかりか、本物の天使がユキに見えていて複雑な状況になっていたらしい。
天使は人によって見えている姿が異なるのだとか。
私も小屋の私も、ユキのことを天使みたいだと思ったから、同じように天使のことをユキの姿として見ていたようだ。
この話、何だか夢衣の話と似てるな?
うっすらそんなことを思いながら、夢の私に偽ユキの姿を聞いてみるとユキだと即答していて、どの世界でも私たちはユキを天使みたいだと評する運命にあったのかもしれないと思わされて爆笑した。
笑いごとじゃないけどな!本物の天使捕まえちゃって、まずいでしょ!
そういえば……保育所に通っていた時期に、網で生き物を捕まえて飼うのが大好きだったっけ。
トカゲにカエル、ヤモリに蝶々……。トンボは素手で捕まえていて、とにかくやんちゃだった。
猫を見かけても、追いかけまわして網で捕まえようとしてたな。
そんなことするより、追いかけないで遠くから見つめて友好的に接した方が触れ合えたのに。
そんでもって「天使も網で捕まえる」なんて言ってたっけ。懐かしいなあ。網じゃなかったけれど、本当に捕まえてしまうだなんて……。小さいころの夢って案外叶うんだな。
分岐する前の記憶だから、これは全員共通して持ってそうな記憶だけれど、夢の私に聞いてみたら覚えてないとのことだった。
そっか、分岐する前でも覚えてなかったりするんだな。
もしかすると、分岐するときに記憶も枝分かれして、持っている個体とそうでない個体でわかれるのかもしれない。
自分について少しずつ興味が湧いてきて、嫌悪感が少しずつ薄くなってくるのが少しだけ楽しかった。
偽ユキ改め、天使は問題が解決したようだし、ユキに託された願いも叶えた。小屋で子守をする必要もないからもう行くとのことだった。
どうか、友達になってもらえないかな?
みんなでお願いしてみると、まさしく天使の微笑みを浮かべて快く頷いてくれた。
天使が言うには私たちの様子を見るのはとても楽しかったそうだ。
また会いたいとも言ってもらえて全員で盛り上がり、盛大なお見送り会を開いて天使にお礼を言ってお別れをした。
さて、これからが大変だぞ。
5歳まで巻き戻した小屋の私をこれからどう育てていくかだ。隔離したユキのことも、どうしていくか……。
みんなで相談し、あんな風にならないように育てて、記憶が戻っても大丈夫なようにしようと力を合わせることになった。
ずっと影の精から連絡も何もないのが心配でならなかった。
私たちが動くのはやはり余計なことかもしれないと思い続けてきたけれど、そろそろ様子を見に行くべきだと覚悟を決めた。
時計塔から小屋まではすぐ近くだ。
雷の精に浮遊させてもらい、時計塔から小屋へと降り立つ。
汗水たらして階段を上ったのが遠い昔のことのようだった。
小屋は初めて来たときと変わりなく、何かひどいことがあったわけじゃなさそうだ。
影ちゃんは無事だろうか?
頭の中はそればかりだ。
みんなで練った作戦もちゃんと頭の中にはあるはずだったけれど、心配が先走りしてしまって不安がどんどん膨らんでいく。
三人で窓からそっと中を覗き込んでみると、小屋の私は椅子に腰かけた状態で眠り込み、偽のユキと影の精が何やら話をしていた。
やつが起きないか心配だったけれど、外から声を掛けてみると、影の精が気づいて手を振ってくれた。
良かった、無事だ。元気そうだ!
影の精が中から影を外に伸ばし、私たちを中に招き入れてくれた。
影ちゃんすごい!しばらく会わないうちにできることが増えてる!
影のカードでいうところの瞬間移動の能力を、力の持ち主である影の精霊本人が使うとこんなことができるってことか。
やつが起きたら騒ぎにならないか心配になりつつ、影の精との再会を心から喜び、偽ユキに確認したいことを確認した。
「ユキじゃないでしょ?」
偽のユキはアホ毛を揺らしながらゆっくり頷いて、椅子で寝ているあいつを見て指さした。
それは何を意味しているのか聞こうとしていると、タイミング悪くあいつが目を覚ましてしまった。
私と夢のあいつを見るや否や、きっと睨みつけてきた。
うわー。まだ怒ってるってことだよなーこれ。
どれだけループしたと思ってるんだろう。しつこいな。
気まずさと面倒くささから目を逸らすと、影の精が慌てて手を振って注意をそらしているのが見えた。
やつの影の精を見る目は私たちへ向ける視線と違ってとても優しかった。
そういえば……。
影の精が宥めてくれている間に、小屋の私を見て思い出したことを夢の私に聞いてみることにした。
多分、隠し事に関わることだ。
夢の私から聞いた話によると、こいつはユキのこと大好きでたまらない気持ちの他に、許せないくらいの怒りを持っていたはずだ。
でも、小屋で偽物ではあるけれど、ユキとずっと一緒に過ごし続けていたはずなのに激しく怒った痕跡は何もない。
「もしかしてお前、ユキに関する怒りを誘発する記憶を抜き取ったんじゃない?」
聞かれないようこっそりと紙に書いて聞いてみたところ、やつは気まずそうに口元をゆがませながらゆっくり頷いた。
ほらね。尻尾を掴んだら素直にうなずくだろ私は。
「その記憶、どこにやった?」
聞いてみると、夢の私は頭の後ろに手を当て、テヘとかいいながら笑った。
やっぱりそういうことか。悪夢を通して私に植え付けてやがったなこいつ!!
やりやがったなと腹が立つ一方で、私のユキに対する気持ちはそこまでだったのだと思い知らされた。
「頼まれたんだ。バカって言っちゃって怒られちゃう前に、『心から先輩のこと愛していて大好きなのに、許せない気持ちが同居していることが許せなくて苦しい。まっすぐな気持ちでずっと好きでいたい』って。だから取り出したんだけど、誰かに植え付けないと持ち主に戻っちゃうから。苦しんでるの見てられなくて、助けたいって思っちゃって」
それが隠し事か。
まったく申し訳ない様子を見せてないならまだしも、悪いことしたなって顔をしながらそんなことを言われたら何も言えなかった。
何も言えなかったけれど、心の中では怒りで煮えたぎっていた。
そこまでして好きでいたかった気持ちには感服するけど、よくもやりやがったな惚けナスどもが!人に植え付けるくらいなら自分に植え付けろよ!この人でなし!ある意味自分に植え付けたわけだけども!!!私って自分に容赦ないなって気づいちゃいたけど本当に容赦ないな!
それにしたって、一方的に怒られて追い出されたのに、よく記憶を元に戻そうと思わなかったよな。私に植え付けやがったことはさておき。
それに、そこまでしてユキのことが大好きだという小屋の私の気持ちを全面的に認めるしかなかった。
私なんかが一時的に抱いていた、ユキに対するすぐ消えちゃう恋心なんかより大事にされてしかるべきものじゃないか……。
応援してやりたいけど、ここにいるのは偽のユキなんだろう?本物は?
立派なアホ毛が生えている偽のユキが、寝ている小屋の私を指さしていたけれど、あれはどういう意味だったんだろう?本物はすぐそこにいるってこと?
わからないことについて推論を進めていると、影の精が小屋の私を宥め終わったようで、小屋の私から話しかけてきた。
夢の私も一緒になって驚きながら振り向くと、むすっとした顔をしながら手を差し出していた。
一時休戦の仲直りといったところだろうか?
恐る恐る手を差し伸べて握ると、そっと握り返してくれた。
握りつぶす勢いで握られることがなくてほっとしていると、夢の私もそっと手を添えてきて、三人で手を繋ぎ合って仲直りをした。
偽ユキと影の精、雷の精が手を叩いて祝福してくれる中、三人して微妙な顔をしながら手をゆっくり離した。
気まずい……。仲直りってこんな感じだったっけ?
小屋の私なんか特に嫌そうな顔をしてたし、また後で何かあったら爆発するんじゃないかな?
仲直りしたはずなのに心が落ち着かないまま、六人でしばらく小屋の生活を送った。
結局、私たちのとった手段は言葉を極力発さずに過ごすことだったある日のこと。
盛大に三人で喧嘩した。
はじまりはほんのささいなことだった。
あまり多くしゃべらないようにし続けるのも限界があり、また同じ話を繰り返して前に進もうとしない小屋の私に腹が立ってバカを連呼してしまったのがきっかけだった。
夢の私が言っていた通り、馬鹿と言っただけじゃ怒りはしなくなっていたので油断していたのと、我慢しすぎたのが大きな原因だろう。
日頃の鬱憤が爆発し、ユキのどこが好きなんだと踏み込んだ文句を言ってしまった結果の大喧嘩だった。
夢の私はあろうことか、夢の私がいた世界のユキに対する自分の好きな気持ちを素直に話しちゃった上に、「いつまでも同じ話をしてたらユキも報われない。ずっと同じ話ばっかりして前に進まないのなら、こっちの世界のユキは私がもらっちゃうぞ」とまで言って挑発してしまっていた。
偽ユキと雷の精と影の精が小屋の外から心配そうに覗き込んでいる。
小屋の中では命のやり取りが行われていた。
小屋の中にある何もかもが凍り付き、冷たい風が吹き荒れ……。
「どうしよう!全然太刀打ちできない!」
私と一緒に小屋の私を相手にしているはずの夢の私は、利敵行為だと思われてもおかしくないことを山ほどしていた。
今から数分前のこと。
喧嘩が始まってすぐ、小屋の私の肩の近くに青白い光が浮かんで見え、小屋が凍り付き始めた。
それでもいくらか理性は残っているらしく、喧嘩相手の私たち二人以外を小屋の外へ避難させていてなかなかやるなと思わされた一方で。
「凍ってるなら溶かせばいいんだ!」
集中的に狙われている夢の私は、カラフルな炎を出して凍り付いた小屋を溶かそうとしたけれど、溶かそうとした傍からまた凍り付くだけでなく、火が燃えるまでに風が強く吹いてかき消されてしまっていた。
「だったら水だ!自分の氷で自滅しちゃえ!」
発射元が自分である以上、出した瞬間氷漬けで届かない上に、風で氷を砕いてたくさん飛ばされていて、結果的に相手の武器を増やしただけになった。
そうして今に至り……。
「どうしよう!全然太刀打ちできない!」
大きなため息をつきながら、一緒に戦う羽目になった相棒の醜態に頭を悩ませた。
もしかしなくても戦闘音痴……?
「おかげさまで私も身動き一つできないよ!わざとじゃないんだろうけど、ゲームではこういうの利敵行為っていうんだよ!」
手も足も出ない夢の私に対して、小屋の私は物凄く怒っているから情けを欠片もかけない様子だ。
さすが私だ。自分自身に容赦ない。
ユキのことを夢の私と一緒になって馬鹿にしちゃったのがそんなに腹が立ったらしい。夢の私に関して言えば寝取る宣言までしちゃったのだから、そっちは消されても仕方ないのかもしれないけど……。
夢の私も、願いの魔法が使えない私同様、夢も火も水も使えなかったらただの凡人のようだ。
逃げ回っているうちに疲れ果てて氷に足をとられて捕まってしまっていた。
小屋の私が凍った床を踏みしめ、パキパキという足音を立てながら夢の私にゆっくり近寄っていく。
「せ、せめて氷漬けだけは……」
哀れな夢の私は最後まで言い終えることなく氷漬けになって動かなくなってしまった。
利敵行為をしたから凍結されたか……。ついでにいうと、攻撃的な発言も入るのかな?
びっくりするくらい同情できない中、手を合わせて冥福を祈り、さすが私だ、容赦ないなんて考えていると、小屋の私がくるっとこちらを振り向いた。
ゲッ!私のことも怒ってるんだ。さすがだ、容赦ない。
「幸せな時間がずっと続けばいいと思っていた。でも、繰り返していると外から良い人も来るけど悪い人もきちゃうんだね。幸せな時間でずうっと止めたいなって今は思うよ」
やべえ、やべえ。このままじゃループが終わって人生も終わる!
「そいつだけにして見逃してくれない?」
軽くお願いする調子で言ったけれど、返事はなにもなかった。
ただ吹き荒れる風の音と、氷を踏みしめる音が響くばかり。
寒さで震えているのか、太刀打ちできない恐怖で震えているのかわからない中、氷のいい音を鳴らしながら歩いてくる小屋の私に対してカードを構えた。
そうだ。元は仲直りしに来たんじゃなくて、ループを終わらせる作戦を練って特訓して備えていたんだ。特訓の内容を思い出せ。
立ち向かう覚悟を決めつつ、雷のカードを武器を出すために振る意識をしながら頭に持っていく。
成功だ。
本来はカードを振らないと出てこない武器だけれど、振る時の気持ちで頭に持っていったから武器にできた。
大切なのは何をしたいかという意志だ。条件なんか関係ない。
特訓の成果に満足しながら、罠を早い段階から紡いでいく。
特訓した時に魔法のカードにかかっているロックも外したからクリアする必要もない。なんたって、真剣勝負だもの。
空のカードを頭にかざせばオーバーフローした力を吸い出せる。オーバーフローしてないやつに使うのは初めてだから、どうなるかついでに実験することになるだろう。
カードが剣の形状に変わるのを見て、さすがにやつも警戒したらしい。
歩み寄るのをやめて周りにある氷を風で砕き、こちらにたくさん飛ばしてきた。
雷の剣で防ぎながら一生懸命走って避ける。
近寄れない!手数が多すぎる!
外れて粉々に砕けた氷を風で舞い上げ、吹き付けてくるだけでもめちゃくちゃ痛いどころか目を開けることもできない。
雷の武器が時間切れですっと消えていく。
雷のカードをもう一度頭に持っていき、魔法を発動させたけれど、手がかじかんでカードが手から滑り落ちていった。
半分わざとで半分本当だ。
落ちたカードは剣になって輝いている。
もう一枚……。
次に手に取ったのは空のカード。もちろんわざと。そうして、取り出すときにわざと空のカードの山をぶちまけ……。
わざと小屋の私に追いつかせた。
体のほとんどが寒さで感覚がない。
「見逃してくれない?私はあの夢バカと違ってユキを寝取ろうなんて微塵も思ってないよ?だって、ユキのことなんか一つも好きじゃないからね。あんな話し合いもできない、先のことも考えられないバカのどこが好きなのか理解できないよ。たいして賢くもない癖に自分は賢いです!なんて思い込みもたいがいにしてくれって話だ。それに自分のこと賢いって思うなんて恥ずかしくて仕方がないだろ。傲慢にもほどがあるわ。余計なことを知らないところでたくさんしやがって余計なお世話だよ!危ない目に遭ってほしくないから一生懸命隠し事してたってのに本当にウケる。友達のこと悪く言われて怒ったら余計悪いことになったから、怒らない方がいいんだってわかったって経験を言っても、正しいことをしたんだって肯定して突っ走っちゃうんだぞ?いくら守ろうとしても自分から危険に身を投じるなんて救いようもない馬鹿たれ以外に評価しようがないっしょ?ゲームで相棒を必死に守ってるのにわざわざ危ない立ち位置に行ったり無警戒に茂みに近寄ってるようなもんだぞ?見限って当然よ。これだから正義感強くて血の気の多いバカは救いようがない。人の気も知らないでさ。思いやりながら守られてるって気づきもしないで猪突猛進。イノシシにでも生まれてた方がまだよかったんじゃない?」
ユキに対して嫌いだと思ったところを長々時間をかけて洗いざらい吐くと、小屋の私は夢の私に対する怒りよりも強い怒りを顔に出しながら雷の剣をとろうとしたけど、時間をかけて罵詈雑言吐いたおかげでスッと消えた。
少しでも悪口が短かったら首をはねられていただろう。ギリギリセーフ。
やつは次に、私がわざとぶちまけた空のカードを一枚手にし、頭に持っていって一言。
「殺す」
思惑通りだけど、目が怖すぎんだろ。怒りで真っ赤っかだぞ!私ってそんな虹彩真っ赤になるの?知らなかったな。
怒り具合からみて、氷漬けにするだけじゃ気が済まないだろう。きっと、首をはねたいくらい腹を立てただろう?
引っ掛けられてるなんて気づきもしないで、挑発にも乗っちゃって。小屋の私も感情的になりすぎて馬鹿なことしようとしてるな。
感情はある方がいいだろう。しかし、手綱を握れない感情であればない方がいいのかもしれないな。
うっすらそんなことを思いつつ、小屋の私の症状について考えた。
人の区別だけでなく物の区別までついてないか、それとも、私同様目が悪くて模様が見えていなかったか……。これだけじゃ判断材料に欠けるけど、知らないより良いだろう。
カードで能力が奪えるかどうか、奪えなくとも消えるかどうか、固唾をのんで見守っていると、頭にカードをかざしたまま小屋の私はピクリとも動かなくなってしまった。
どうしたんだ?
よく見てみると、小屋の私は足元、指先から少しずつ凍り付いていっていた。
そういえば、ずっと凍らずに動けてたけど、どういう原理で動いてたんだろう?
いつの間にか小屋の中で吹き荒れていた風は止み、ただひたすら寒いだけになっている。
小屋の私の肩付近で浮いている青白い光は落ち着かない様子でフワフワ動き始めていた。
つまり……氷はその肩のあたりで光ってる精霊かなにかの力で、小屋の私自身は風を使ってたってことか。
なるほど、凍り付かなかったのは風をまとって自分が凍らないようにしてたわけか。自分の周りの空間だけは温かかった可能性が高いな。だから凍り付いていったと。
オーバーフローじゃないときにカードを使うと、こんな風に一時的に能力が消失したりするって実験結果ともとらえられる。
魔法の源をエネルギーとして例えると、タンクが空っぽになって使えなくなるってことか。
それか、シンプルに授かった能力だった可能性も否定できない。
非常に面白い結果だ。さて、あとは授かり物だったかどうかが気になるところ。
面白がりながら観察していると、やつの肩にいた青白くて丸いやつがいないことに気が付いた。
あれ?どこに……。
周りをキョロキョロ見ていると、背中に冷たいものが勢いよくぶつかってきた。
「ゴフッ!」
倒れ込むと、背中にガンガン体当たりされ続けてさすがに反撃せざるを得ず。
横向きに転がって体当たりを空ぶらせると、床に体当たりしちゃった青白くて丸いのはそのまま大人しくなって、小屋の氷が少しずつ解けていった。
青白いのと小屋の私には悪いけど、無防備なうちにカードをかざしてもう少しサンプルをわけてもらうことにした。さんざんやりたい放題された仕返しされてると思って甘んじて受けてくれ。
小屋の私のカードはキューブのような絵と、風を思わせるうねった線が描かれたものだった。
風の空間かな?お前が時間を操ってたわけじゃなかったのか。
青白い球体のほうはというと、雪の結晶マークに、病院で見かけた覚えのある水時計が描かれていた。
時の水、時の氷?こっちが時間だったのね。
この二枚を見てとっても悪いことが頭に浮かんで口角が自然と上がってしまった。
罰したがりは好きじゃない。やり返す意思もさほどないけれど……。
さすがに迷惑過ぎたのでなにか悪戯じみたことでもしないでいられなかっただけだった。
何事にも楽しく!悪戯心や遊び心は忘れずにいたいもんだね。
外で見守っていた三人が小屋の中に入ってきて、それぞれ心配してくれた。
夢の私は解凍されてすぐ「死んだかと思った!」なんて叫んで元気そうだったので、皮肉たっぷりに「おかげさまで!」と返したら大笑いしていた。
「笑いごとじゃねえよ!相手に武器をたくさん残しやがって。一人で残ったこっちの身にもなってくれ!あれ?頭真っ白だぞ?キューティクル死滅した?」
「え?キューティクル?」
髪が雪のように白くなっていて、夢の私はしばらく固まっていた。
思わずざまあみろと言いたくなったが我慢して、自分の髪も同じになってないか心配しながら確認してみた。
良かった。金髪混じりの茶と黒だ。
他にもいろいろ言いたかったけど胸の内に留めておき、時間のカードを小屋の私に、空間のカードを青白い球体に使ってお仕置きをした。
小屋の私には凍ったまま5歳まで巻き戻ってもらい、青白い球体……推定ユキにはしばらく隔離措置を取らせてもらった。
寝て起きたら5歳になってるってどんな気分なんだろうな?今のお前はわがまま暴君のクソガキだから精神年齢にあっててちょうどいいだろう。それにしても、5歳の私って性別がどっちか本当にわからないな。
起きた時の反応に少しウキウキしながら、偽ユキに改めて話しかけてみた。
事情を聞いてみると、どうやら本物の天使だったらしい。そしてやはり、あの青白い球体は本物のユキだったようだ。
ずっと悲しみに暮れているタマを見かねた本物のユキの霊が、天使にお願いしてずっとそばにいられるようにしてもらったのだそう。
できることならタマの力になれる存在として。
しかし、当のタマは本物のユキに気が付かなかったばかりか、本物の天使がユキに見えていて複雑な状況になっていたらしい。
天使は人によって見えている姿が異なるのだとか。
私も小屋の私も、ユキのことを天使みたいだと思ったから、同じように天使のことをユキの姿として見ていたようだ。
この話、何だか夢衣の話と似てるな?
うっすらそんなことを思いながら、夢の私に偽ユキの姿を聞いてみるとユキだと即答していて、どの世界でも私たちはユキを天使みたいだと評する運命にあったのかもしれないと思わされて爆笑した。
笑いごとじゃないけどな!本物の天使捕まえちゃって、まずいでしょ!
そういえば……保育所に通っていた時期に、網で生き物を捕まえて飼うのが大好きだったっけ。
トカゲにカエル、ヤモリに蝶々……。トンボは素手で捕まえていて、とにかくやんちゃだった。
猫を見かけても、追いかけまわして網で捕まえようとしてたな。
そんなことするより、追いかけないで遠くから見つめて友好的に接した方が触れ合えたのに。
そんでもって「天使も網で捕まえる」なんて言ってたっけ。懐かしいなあ。網じゃなかったけれど、本当に捕まえてしまうだなんて……。小さいころの夢って案外叶うんだな。
分岐する前の記憶だから、これは全員共通して持ってそうな記憶だけれど、夢の私に聞いてみたら覚えてないとのことだった。
そっか、分岐する前でも覚えてなかったりするんだな。
もしかすると、分岐するときに記憶も枝分かれして、持っている個体とそうでない個体でわかれるのかもしれない。
自分について少しずつ興味が湧いてきて、嫌悪感が少しずつ薄くなってくるのが少しだけ楽しかった。
偽ユキ改め、天使は問題が解決したようだし、ユキに託された願いも叶えた。小屋で子守をする必要もないからもう行くとのことだった。
どうか、友達になってもらえないかな?
みんなでお願いしてみると、まさしく天使の微笑みを浮かべて快く頷いてくれた。
天使が言うには私たちの様子を見るのはとても楽しかったそうだ。
また会いたいとも言ってもらえて全員で盛り上がり、盛大なお見送り会を開いて天使にお礼を言ってお別れをした。
さて、これからが大変だぞ。
5歳まで巻き戻した小屋の私をこれからどう育てていくかだ。隔離したユキのことも、どうしていくか……。
みんなで相談し、あんな風にならないように育てて、記憶が戻っても大丈夫なようにしようと力を合わせることになった。
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