星に願えば

木野恵

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28.変化

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 ユキと旅に出て最初の夜、また夢を見た。

 今度は私が出ていった直後の夢だろうか?なんにせよ悪夢は悪夢だ。

 また夢鏡があいつを甘やかそうとしてるのか?嫌な思い出全部押し付けようとしてない?旅立った私が言えた義理じゃないかもしれないけど……まさか、早い段階から精神的に攻撃してるってことか?

 そういえば……おやつでは雪鏡に容赦しないのに、精神的な痛みには甘いんだな、あいつ。

 いや、やっぱりただ食い意地はってるだけなのではないか?と思いながら、どんな夢かじっくり見てみることにした。



 怖がりながら、挨拶してくれる人たちに怯えながら学校へいっているところだった。

 何があったのか心配そうに聞いてくれて、何があったか言いたいけど父親に言うなと言われていてなかなか言い出せなかった。

 それに、本当に売られたならこうして学校にこれてはない。だから言っても信じてもらえないだろう。怖い目に遭ったといっても、何を言っても誰にも信じてもらえなかったように。

 教室で過ごしていると、「話は聞いたよ」といいながら慰めてくれる人たちがあらわれはじめた。

 みんなあたたかい言葉をくれて庇ってくれたけど、私にはわからなくなっていた。

 お願いを聞いてもらっただけで嘘みたいに態度が変わって、誰から聞いたのか、すぐわらわら集まってきて……またいつ攻撃してくるかわからない。いつ何がきっかけで、好きだった人のように豹変するかわからない。

 わからない、わからない!

 優しいんだなと思う反面、本当に周りの人間全員の中身が人なのかわからなくなっていた。

 みんな一晩のうちに化け物に食われてすり替えられたんじゃないか?

 見た目だけが同じで中身が違うんじゃないか?なんて妄想が止まらなかった。

 じゃないとこんなにコロッと態度も接し方も変わらないだろ?

 ああ、もしかしたらみんなロボットなんだ。だからコロッと変わるんだ。命令が下ってるんだ。

 好きだった人は「学校に来れてる時点で誰も信じない」と言ってきた。私のために何があったか黙っていると言ったけれど、父親のしたことだけは話したらしい。

 わかってるそんなこと。信じてくれないって。でも、なぜ父親のことだけ?

 そんなことを思いながら過ごしている日々を悪夢として見ながら、夢鏡の名前を心の中で呼んでみた。

 夢鏡?またお前が見せてるのか?

 しかし、返事もなにもないままだ。

 起きたら聞いてみるか……。

 憂鬱な気分になりながら、家出した後にあったと思われる出来事を夢で見ながら、いつの間にか目を覚ました。



 川の音を聞きながら目を覚ましたので、童話の世界へ迷い込んだときのスタート地点である流れ小島に戻ったのかと思って慌てて飛び起きた。

 また巻き戻った?!

 寝起きでボケているのもあって、飛び起きてすぐ周りを確認し、ユキと修行しているところだったのを思い出す。

 そうだった。ここも川辺だった。

 額の汗をぬぐい、うなされていたのか背中も首回りも汗がベッタリだったので、川で軽く水浴びをし、ゆっくり落ち着いたあとはユキが起きるまで軽く運動をした。

 ユキは目が覚めてすぐに川を凍らせるのを目標に特訓し始めた。

「そんなに頑張ってつかれない?」

 心配になって尋ねてみると、ユキはあいうえお表の上を飛び、「負けたくない。今度は一緒に勝ちたい。タマを正気に戻したい。今度こそ助けたい」という気持ちを伝えてくれた。

 ふと、夢では見なかったけれど、生えてきたような記憶が脳裏をよぎる。



 ユキとタマが泥棒役をし、主人公がまっすぐな針で金の魚を釣るよう助言する劇の練習中でのこと。

 泥棒役を楽しんでいるタマにたいしてユキが「正義や正しいことはなにか。泥棒なんて誰もやりたがらないのに楽しそうにしているのはなぜか。この役みたいに悪いことしているのに善人の行いをする人」について聞いているところだった。

 タマは自分なりの答えをユキに伝え、ユキはタマの考えに同意しながら「ウチもタマちゃんの正義が好きだな。ウチも正しいことがしたいなあ。みんなタマちゃんみたいな考えだったらいいのに、そういう人ばっかりじゃないから。中には全然人の話聞かないで事実を確かめもせず正義感たっぷりに悪者呼ばわりする人がいる」なんて言って残念そうにしながら、誰かのことを怒りを隠さず悪くいっていた記憶だ。

 これは、タマに喧嘩のこと話しちゃったって打ち明ける前のことか?ユキが言っているのは父親のことだろう。

 ユキはきっと、自分の信じる正しいことを心置きなくやりたかったのだろう。本当は誰かのヒーローになりたかったんだという印象もある記憶だ。

 取り巻く環境が環境だったから、自分の信じている正しいことが通じない環境だってタマが経験談として言っていたのに……。

 これまでの記憶が確かなら、死んでほしくなくて、自分と違って学生生活を楽しく過ごしてほしかったタマと、本当に悪く言われるようなことしちゃって、ずっと言われ続けていたから自分のことは怒りも理不尽さも抱えながら諦めてしまって、タマに希望をもってほしかったユキってところか。

 でも、今いるここでは話が別だ。その正義はきっと通用するさ。

 ここには父親も誰もいないし、ユキの補佐として私が傍にいるんだ。あのバカのこと一緒に立ち直らせて正気に戻そうな。汚名は私だけが被るから、ユキは思う存分あいつのヒーローになってね。

 二人の願いを叶えるために。

 私も頑張らないと。せめて足を引っ張らないようにはしないと。

 不意に夢鏡のことが頭に浮かぶ。

 あんな風にだけはなってたまるか。戦闘音痴とはいえ、なんだか胡散臭くて警戒してしまう。

 決意を新たにしていると、ユキが再び特訓に戻ったので、頑張る姿を見ていると夢で見た一部始終が頭に浮かんだ。



 タマとユキが顧問の先生から休憩するよう言われた間にもずっと練習していたときの記憶だ。

 タマは休憩するのが不安でユキに相談し、ユキと二人で休憩中も練習していた。

 先生が戻ってきて二人を、特にユキのことを注意してしまっていた。

 喧嘩のあとでのことだったから、いじめていると思われたらしい。

 タマが、言い出したのは自分で相手してもらっていただけだと言ったけれど、ユキはいじめてるとか意地悪されてると思われても仕方ないことをしたといって、大人しく怒られていた。

 タマはそれが不服でユキに謝ったり、ユキを庇う言葉を並べ立てていた。



 首を振って見た夢を頭から追い出し、もう一度材料集めに向かった。

 出かけながら雷の精に連絡を取ろうとしたけど返事がなかったので、材料集めに集中する。

 木の実がなっていたところで運良く小鳥やリスを見かけたけれど、捕獲には至らなかった。

 悔しい。あと少しだったのに。

 そういえば、虫取り網でスズメとか捕まえようとしたこともあったな。結局いつまで経っても捕まえられなかったけどね。

 懐かしい思い出に浸りながら、次はどうすれば捕獲できるか考えつつ木の実を少しもいだ。

 食料を確保したあとは、魔法がこもりやすい素材探しだ。

 葉っぱとか、使ったことある植物があれば助かるんだけどな。

 希望を胸に、あちこち探し回ってようやく綺麗な花畑を見つけた。

 ど真ん中で寝たら気持ちが良さそうだし、とてもいい香りがしそう。

 運良く求めていた花の群生地で、一、二本採取して煎じてみた。

 できた液体も花同様、魔法が貯めやすい。確かこいつをカードの素材に使うためにたくさん育てたっけ?

 カードの形成はAIとロボットたちが担当したのでどのように使ってもらったのかはわからないけど、このままでも効能があるから、あとはできる範囲で工夫して活用していく。

 できた煮汁に効能が認められればオーバーフロー解消を期待できる薬品の出来上がりだが、良さそうな容器がない。鍋のまま持ち歩くしかない。

 そういえば、精霊に対して薬として飲ませたり、スプレーとして振りかけたりしたことなかったな。もしこれ飲んだら魔法使えなくなったりしない?

 じゃあ塗り薬かな?

 肝心なのは使い道だった。

 カードの材料で集めて性質を知っているだけで、精霊用に使ったことは皆無だ。

 外用内服……どっちがいいんだろう?いきなり精霊に試すのも憚られるし……。

 とりあえず、ここにこんなものがあったってことは覚えておいて、魔法生物を探すかユキに協力してもらうか……魔王襲来と称して鏡のバカコンビにいきなりぶっかけてくるか。

 実験のしかたを試行錯誤していると、雷の精から連絡が来た。

 雷の精が申し訳なさそうに話すのでなにごとかと思えば、連絡手段があることを理由に、雪鏡から情報は最低限にするようお願いされたそうだ。

 だからかー。こないだ隠し事してそうな様子だったのは。

 納得しながら安心すると、心のどこかにつっかえていた不安がどこかへ消えていくのを感じた。

 夢鏡が私にまた夢を見せてないか聞いてみると、夢鏡本人が応答し、夢なんか見せてないというのだ。

 夢が記憶を共鳴させたかもしれないとは言っているが……そんなことある?

 実は見せてるの隠してるんじゃないかと思いながらも、頭の隅っこに記憶しておいた。

 話が変わり、向こうはすごく楽しくやっているようで、影の精が作ったご飯を夢鏡と雪鏡が取り合ってまた喧嘩したと聞いたときは苦笑した。

 子供相手に……食いしん坊なのか、それほど影の精のご飯がうまいのか……。

 ご飯の話を聞いているとお腹が減ってきた。そういえば、旅に出てからまだ木の実しか食べてない。

 魔王の側近襲来と称して、影の精の作ったご飯をもらいにいこうかな。

 良からぬ考えが頭に浮かび、空腹になると人は道を踏み外すのかもしれないなんてぼんやりと考えた。

 そうしてふと、夢鏡の食い意地が頭に浮かぶ。

 あれとだけは一緒になりたくない!

 一方で、私も食い意地をはってる発想をしていることに気づかされ、あんな風にはなるまいと知恵を絞ることにした。

 川辺に陣取っているのだから、魚をとる罠を仕掛けておくか、木の実のところに罠を作っておくか……。

 修行がどのくらいかかるかわからないのに畑を作るのもどうかと思うし。

 夢鏡のようになってたまるかという意地が原動力のほとんどだった。

 でも、死ぬくらいなら襲撃する。意地の限界を迎えるまでにやれることをやっておきたい。

 とはいっても無力な凡人なので木を切り倒す道具がないし、草を編んで罠を作るにしても作り方を知らない。

 今回の材料集めは花を煮てできた薬剤と、食料の木の実を持ち帰って終わりだ。

 このままじゃ、この薬剤の実験がてら食料を要求しにいくのが一石二鳥の最適解になりかねない。それってもう魔王の側近じゃなくてただの賊では?

 葛藤しながら特訓するユキのもとへ戻ると、川のはしっこが凍りついていた。

 思わず「やったねおめでとう!」なんていいながら走りよると、近寄るだけで凍りつきそうな寒気を感じて足を止めた。

 ユキは近寄らないでほしいのか、自分から離れていっている。

 これってもしかしてユキのオーバーフローかな?

 ユキが距離を保ち、あいうえお表の上を飛んだけれど、近寄らないでと言って川の上に行ってから戻ってこなくなってしまった。

 こんなに都合良く薬剤を使う機会がくるなんて。

 できすぎてないかと思いながら、ユキに良いものがあると話し、薬剤を取り出して川の氷の上に垂らしてみた。

 魔法を込められる効力がしっかりでていれば氷が溶けるはずだ。

 せっかくユキが凍らせたのに、溶かすのはもったいないと思いつつ薬剤を垂らすと、みるみるうちに氷が溶けていった。

「これは魔法を吸収できる薬剤で、カードの素材になったものだよ」

 どのようにしてカードを作ったかユキに説明し、精霊に薬剤を使ったことがないことも包み隠さず全て話した。うっかり忘れてなければ知ってることの全てを。

 ユキは少し間を置いて、あいうえお表の上を飛んだ。

 薬剤を置いてはなれてほしいとのこと。

 煮汁のはいった鍋を地面に置いて離れると、ユキはゆっくり近寄っていった。

 近寄るだけで薬剤が凍りつき、オーバーフローって精霊ごとに症状が違っている上に大変そうだと思わされた。

 凍っても薬剤の効能はあったらしく、ユキから溢れたエネルギーを吸って色が変わっていくのを見届けた。

 かける必要も飲ませる必要もなく、近づけるだけでいいんだ。

 煮汁にしなくても、花畑につれていけば解消できそうだな。花畑が凍り付けになる可能性は高いけど。ふむ、だから加工して使うわけか。

 使い道と、AIが材料を加工した方が良いと言っていた理由に思いを馳せていると、ユキがそっと飛んで近寄ってきた。

 さっきのように凍りつくような感じはなかったので、ここぞとばかりに頭を撫でるようにして、真ん丸なユキの上部分に手を置いた。

 雪鏡を罠にかけて氷漬けにした直後なら手を氷漬けにされていただろうな。

 一緒に言葉を交わしてわかりあい、共通の目標に向かおうとしているユキは大人しく撫でられてくれていた。

 ユキは自分じゃないけど、頭を撫でる練習のついでに、心から労うことはできただろうか?

 気持ちが伝わったか不安になりながら、夢鏡にやらかしたことがフラッシュバックして顔が赤くなり、うまく行かなかったことを考えると頭から血の気が引いた。

 冷たい言葉がくるのを覚悟してユキをみると、かすかに声が聞こえてきた。

 ありがとうっていったように聞こえたそれは、氷を水にいれたときに聞こえる泡のような、ほんのかすかな声だった。

 ユキの成長に目を丸くしながら見つめ返すと、ユキは少し嬉しそうに浮かんでいた。

 やった、しゃべれた。

 そういったように聞こえた。

「素晴らしい成果だ!頑張った甲斐があったね!やったね!おめでとう!」

 ユキの成長が我がことのように嬉しくてその場でピョンピョン跳ねていると、ユキは嬉しそうに体を揺らしていた。

 ひとしきり喜んでいるとお腹がグーっと鳴ってしまい、恥ずかしくて顔をそむけた。

 ユキはかすかな声でお腹すいているのかと聞いてくれて、大人しく白状した。

 すると、ユキは魚がいるあたりの川を凍らせ、氷ごと魚を運んでもってきてくれた。

「どうやって持ち上げたの?」

 素朴な疑問を隠さず口にすると、ユキは凍らせたものなら動かせる力も身に着けたみたいだと嬉しそうに話してくれた。

 なんて便利な……。

 複数いるもう一人の自分をみていても凡人で良かったとしか思えなかったのに、ユキを見ているとちょっと羨ましくなってきて何とも言えない気持ちになる。

 要するに、能力があることに対して羨ましいとか凡人で良かったとか思っているのではなく、ただ自分が恥ずかしくてたまらなかった可能性が高い。

 頭を抱えそうになりながら火をおこし、運んできてもらった魚の周りにある氷を溶かした。

 氷に薬剤をかけて溶かすのも考えたけれど、魚にかかって消えたらちょっと嫌だった。

 この魚が雪鏡が作ったものか、外から吸い込んだものかわからなかったので念のため。川の水は消えてなくならなかったので多分大丈夫だとは思うけれど、念のために。

 試してみる価値もあったけれど、それ以上に腹ペコだった。

 氷を溶かし終わり、魚に串を通して焼いている間、ユキに雷の精の分身を通じた通話について教えながら繋げた。

 許可をとってから教えた方がいいかと思ったけれど、できることを隠す必要がある間柄でもないと思ったからだ。

 実際、雷の精は怒らず快くユキを混ぜて話してくれたけれど、雪鏡に仲良くしているのがばれないかという心配はあった。

 すると、雷の精はまた言いづらそうにしながらコソコソと事情を話してくれた。

 なんと、本当に魔王になると決意していたらしく、今は魔王城を一生懸命作っているところらしい。

 それが前に言ってた隠し事で必要最低限の情報にしてほしいと言われていたことでもあったらしい。

 間違わずちゃんと言えてたパターンか!

 思わず片手で目元をおさえながら父親に幼いころ言われた言葉をもう一度思い出した。

「そんな怒って言われても、普段ちゃんと言えてないのに、いきなりちゃんと言えてもわからない」

 ちゃんと言えてるのかどうか本当にわからないな。

 あの時の父親の気持ちを痛いぐらい噛みしめながら、私たちが魔王として旅立ったことが恥ずかしくてたまらなくなってきた。

 話していてふと、こちら側も話していない事情があるのを思い出した。

 私が魔王ではなくユキが魔王になっていることだ。

 お互いの事情が事情だし、結局ちゃんと言えてないって勘違いした私一人のミスなわけだ。傷はまだ浅いしやり直しはきくだろう。

 せっかくだからユキを勇者に据えなおして魔王城へ行かせてもらうのが一番いい。魔王になってたなんて向こうは知らないのだから今のうちに軌道修正だ。

 雷の精に話をすると、雪鏡に伝えてくれるとのことだった。

 代わりに、魔王城建築の話をばらしたって秘密にしてほしいといわれた。どうやら、隠し事をしている様子だったのはこれが一番の理由だったらしい。

 雪鏡が立派な城を建て、私たちがくるのをサプライズ気味に待っているそうだ。まだ建築途中だからばらされたくなくて口止めをしていたらしい。

 話を聞かせてもらえないまま修行に明け暮れていたら、お互い魔王として相手を待ちぼうけするところだった!危ない!

 勇気を出して話してくれた雷の精に感謝をしながら、私たちは勇者陣営として出直すことを一緒に話を聞いていたユキに伝えると、植え付けられた記憶にある通りの大笑いを披露しながら頷いてくれた。

 楽しい通話の時間が終わり、いい匂いがしてきた魚を一口頬張ったけれど、あまりのまずさに口から吐き出してしまった。

 生焼け生臭くそまずいっ!

 凍ってたから表面にしか火が通っていなかったのだろう……。なんとも言えない味が口に広がる。悪い意味で絶品の焼き魚だ。いくら腹ペコでも食べられないまずさ。

 ユキは驚きながらも心配してくれた。あんなに悪口並べ立てた私に優しくしてくれるのか。

 雪鏡が信じたユキは正しかったよ。

 私は嫌な記憶を植え付けられたとはいえ、ユキの悪い部分しか見て評価していなかったのは良くないことだったんだ。

 良いことも悪いことも人間関係には付きまとうものだし、喧嘩をしても仲直りができて、ユキを信じたいって強い気持ちを持ち続けた雪鏡のことを初めて尊敬できそうになった。

 元の世界に戻ったら……。

 ユキの事情を詳しく調べて、助けがいるようなら保護しよう。その前に雪鏡と勇者ごっこを終わらせてここから出ないとな。

 魚をもう一度火であぶり、今度は表面だけでなく中までしっかり火が通ったのを確認してから頬張った。

 めちゃくちゃうまい。

 美味しそうに食べる私を、ユキは美味しそうに食べるなんて言ってくれたけれど、恥ずかしくなって背を向けてしまった。

 ユキのことだからこのまま黙っていると謝りそうだ。

 そのことに気づいて、食べてるところを見られるのが恥ずかしいと正直に言うと、ユキはやはり謝ってしまった。

 どのみち謝らせてしまうか……。

 素直に美味しそうに食べると言ってもらえたことは嬉しかったというと、今度は謝らずに「そっか」とだけ言って、また修行しに川へと向かったかと思えば、凍った魚を追加で数匹持ってきてくれた。

 私なんかにこんな優しくしてくれるなんて……。お礼になるかわからないけれど、こちらの世界で出会ったユキのことを話してみることにした。

 会った時ボロボロだったことや、今一緒にいる精霊のユキと同じで優しくて気遣いができる子だったこと、こちらでも問題に首を突っ込んでしまっていたこと、遠慮してお菓子に手をつけようとしなかったこと。

 一緒に過ごした時間は少ないけど、思い出をたくさん話していると、ユキの纏う雰囲気が柔らかくなった気がした。

 ここから出たらもう一度会ってみる決心がついたことも素直に打ち明けてみた。

 ユキは黙って聞いていたけれど、遊びに来てみたい、もう一人の自分に会ってみたいと言い出すのだ。

 そういえば、ここを出たら元の世界に戻れる確証がないし、違う世界の人を連れていくことはできるのだろうか?

 もしできるなら雪鏡の力がいるのではないか?空間が入っているし、世界を超える可能性を秘めていないだろうか?

 考え事が止まらなくなりそうだったので、頭を振って一度止める。

 その話は後で考えるべきだろう。まずはユキを勇者にし、その次だ。

 話し合って考え事をしているうちに、植え付けられた記憶から想像できる二人の願いがちょうどよく叶うように頑張っていることに気が付いて苦笑した。

 最初は自分がここから出るためだったのに、不思議だな。

 ユキが無事喋れるようになり、勇者として雪鏡の元へ行くという新しい目標もできて、その日は終わった。



 翌日からは、私は薬剤の材料と木の実を少しとり、動物を捕獲するのは諦めた一方で父親から教わった武術を覚えている範囲で思い返した修行をし、ユキは凍らせた魚を私に運んでくれながら修行をした。

 来る日も来る日も修行をし、ユキとたくさん会話して親交を深めたある日のこと。

 雷の精から魔王城完成の連絡が届いた。

 魔王城が建ってすぐ招待されるなんて、新築パーティじゃねえんだぞとツッコミを入れたくなりながら一生懸命我慢した。

 ユキが「楽しみだね」なんていうので、苦笑しながら「そうだね」と返し、魔王城へ行く道中でのこと。

 どこからともなく音の外れた歌声が聞こえてくるので、聞こえてくる方へ向かっていると、なんともう一人自分がいるではないか。

 ちょっと待て、何人いるんだ私は。

 見聞きしなかったことにして引き返したかったけれど、ユキが一緒にいる以上そういう真似をしづらい。

 どうするか悩んでいると、歌っている私は歌うのをやめて急にこちらを振り向いてきた。

「ドッペルゲンガー?」

 口を開いて出た言葉がそれで、ちょっとはまともな私じゃないかと期待したけれど、その期待はすぐあとで粉々に砕け散ることになる。

 要するに期待なんてするもんじゃないってこと。

 簡単にユキと自分がどんな自分かを紹介し、どんな世界から来たか説明すると、相手はとてもニコニコしながら自己紹介をしてくれた。

 目の前にいる私は歌うのが大好きで、ありとあらゆるすべてのものに愛情を感じる性質らしい。

 元いた世界は、音楽や歌を通して天使がお告げをくれる世界なのだとか。

 世界中、様々な歌や音楽で溢れ、愛情も溢れ、戦争のせの字もない豊かな世界らしい。

 そちらにもユキがいるけれど、幸せそうに生きていてみんなから愛されていて、目の前の私とは親友として大人になってからもずっと一緒なのだとか。

 そんな世界にいってみたいよ。

 思ったけれど、どの世界にも良い面と悪い面があるだろうから、こいつが自覚してないだけで、いってみたらまた違った特殊な地獄があるかもしれないって頭の片隅で考えた。

 お互い自己紹介が終わったところで、今から魔王城へ行くところだというと、目の前にいる私も一緒にきたいというのだ。

 せっかくだから、夢鏡が提案した名前の付け方を教えて、他にどんな私がいるかも教えてみた。

 新しく出会った私は迷わず歌鏡を名乗り、私とユキと他の私に対して抱いた愛情を恥ずかしげもなく語り始めたので、恥ずかしさのあまり土下座して黙ってもらえるようお願いした。

 普段から胸の奥底に隠して表に出してない感情まで口にされてしまっているようで、死にたくなるほど恥ずかしかったからだ。

 ユキは「ふーん。そうなんだ」なんて言いながらクスクス笑っているし、どうして私に恥ずかしがられているのか歌鏡はピンと来てない様子だ。

 これってもしかして気持ちを隠さずドストレートにぶちまける私ともとらえられるな。私との相性は最悪だ。敵に回すのが一番恐ろしい私だ。

 そして、どの世界の私も頭のネジが飛んでるという点で共通していることにも気づかされた。

 ひょっとすると、他の鏡から見た私もどこか飛んでるってことか。うわあ、だったら嫌だな。

 落ち込みすぎて頭が痛くなりつつ、もうこれ以上他の自分が現れないでほしいと心の奥底から願わずにいられなかった。

 さっきのやり取りを見ていたユキは歌鏡にわざわざ本音を聞くようなことはせず「タマちゃんが嫌がることやりたがるわけないでしょ」なんて言って励ましてくれた。

 ユキってやっぱり天使だったんだろうなという気持ちが強くなる一方で、自分が恥ずかしくなり、とても大事になんてできやしないという気持ちが強まりつつある勇者の旅路が再スタートした。

 私は無事にユキを勇者にできるのだろうか。

 いや、是が非でも勇者にしてみせる。それが雪鏡とユキの願いを叶えられて、二人とも救える手段だろうから。

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