星に願えば

木野恵

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29.ほのぼの魔王城

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 歌鏡とユキ、そして私の三人による勇者パーティはついに魔王城へとたどり着いた。

 歌鏡と出会った以外、たいしてハプニングもなにもなく平穏で愉快だけどとても短い旅路だった。

 魔王城は雪鏡が引きこもっていた小屋のあった場所に建てられていて、外から見ただけでも相当立派なものだった。

 城の周りに堀があって、城門にかかる跳ね橋が上がった状態。気軽には入れないようになっている。

 思わず出入り口がなく窓しかなかった小屋が頭に浮かび、相変わらず引きこもり精神が治ってないんじゃないかと少しだけ心配になった。

 魔王城に到着して最初に出迎えてくれたのは雷の精だった。

 跳ね橋を下げずに空からふわふわ飛んで降りてきて、橋の意味はあるのかと聞いてみると、雷の精は「ない!わしの案内がないと忍び込む以外に入る手段はない!久しぶりだな!」と言いながらガハハと笑ってあたたかく出迎えてくれた。

「跳ね橋の意味ないんかい!」

 ツッコミをいれるとみんなクスっと笑ってくれてちょっとだけ怯んでしまった。

 笑ってもらえたのは嬉しいけど、まさか笑ってもらえるとは思っていなかったから。

 照れくさい気持ちから逃げるようにして、雷の精に質問することにした。

「親父は魔王の幹部として立ちはだかってるのか、それとも新築祝いの招待客を接待しに来たのかどっち?」

 冗談めかして質問してみると、雷の精は大笑いしながら「接待だ」と言って答えてくれた。

 あいつら魔王がなにかわかってる?それともこれが新しい路線の魔王か?

 ツッコミを入れたくてうずうずしながらも、ツッコミたい相手がいないので我慢しながら雷の精の案内に従って城の中へと入っていくことになった。

 空から見下ろした城内はとてもよくできていた。

 城は西洋風なのに、城と城門の間には和洋混在で綺麗な植物園がたくさんあるだけでなく、小さな山と川まで作られていて文化が共存しているような庭だった。

 混ぜこぜにしたのによく綺麗にバランスがとれてるなと感心しながら、プロの庭師でも雇ったのかと思わされるような出来栄えだ。

 好きなものの寄せ集めにも見えたけれど、好きだからこそバランスよく取り入れることに成功したのかな?なんてあれこれ考えているうちに、城の真上を飛んでいた。

 城の屋上は普通の屋根がついている部分もあれば、ルーフトップガーデンを思わせる緑の美しい部分もあり、水か氷で作られたのかと思うような透き通った天井もあった。

 あの透明な天井ってなんだろうな?

 気になって目を凝らしていると、中に魚がたくさんいるのが見えてきた。

 まさか水槽?

 興味津々で見ているのがばれてしまったようで、雷の精は立ち寄ってみるか?なんて聞いてくれた。

「他のみんなさえ良ければ」

 ユキも歌鏡も興味があったようで、みんなで透明な天井のある区画へと連れて行ってもらった。

 透明な天井の中をそうっと覗いてみると、水没した都市のように建物の窓や壁はそのままで水がたっぷり入っており、いろんな種類の魚が悠々自適に泳いでいた。

 幻想的な光景に思わず声をあげてしまっていると、どこからともなく影の精がやってきてたくさん頬ずりしてくれた。

 油断しきっていたので驚いてしまったけれど、影の精は悪戯が成功した子供のように無邪気な笑みを浮かべて頭を撫でてくれた。

 ユキと歌鏡に影の精のことを紹介し、影の精には歌鏡を紹介してからユキのことを改めて紹介した。

 影の精はニコニコしながらお辞儀をし、ユキのことを見つめてから首を傾げた。

 すぐそこのでっかい水槽の水を使って文字をつづり「体は作らなかったの?」と聞いてくれた。

 しまった!すっかり忘れてた!

 ユキが喋れるようになったのが嬉しかったのと、修行に明け暮れる日々に夢中になっていてうっかり失念していた。

 ユキに盛大に謝りながら体はどうするか改めて聞いてみると、体はないほうが飛べて便利だし、雪鏡にユキ本人だと気づかれずにすむからなくていいと言うのだ。

「謝ってる私に気を遣ったりしてない?本当にいいの?」

 聞いてみると、ユキは穏やかな声で本当に大丈夫と言ってくれた。

 本当にそれが本音なのだろうか?

 ユキはすごく遠慮するし、気も遣いすぎなくらい遣っていたから、本当にいらないのかどうかがわからなかった。

 相手の気持ちが読めたらどれだけいいだろうか。私にできるのは、できる限り相手の立場を踏まえて気持ちに寄り添って考えるくらいのことだ。

 自分の無力さに打ちひしがれながら、雪鏡がいまのユキを見たら気づいてやれてなかったことがわかってしまうのではないか?という心配も頭に浮かんでいた。

 一応聞くべきかと思ったけれど、ユキは氷で簡単に装飾を作って被り、ご機嫌そうにしていた。

 ある漫画の主人公が被ってる帽子のような氷だ。

 なるほど、今の雪鏡なら確かに気づかないかもしれない。でも、正気に戻ったらさすがに気づくんじゃないか?

 本当にこれで大丈夫なのか心配していると、ユキは「何度もいなくなる経験を味わってほしくない」といっていて不安な気持ちが胸に広がっていった。

 もしかして、精霊にも寿命があるのだろうか?

 一緒に修行し、一緒に語り合い、一緒に寝食をともにしてきた友人がいなくなるのを思うと、不安と心配と寂しい気持ちがこみあげてくるのを抑えられなかった。

「ユキはいなくなっちゃうの?」

 思わず質問してみると、ユキはからっとした笑い声をあげ「生きている間にも一度、タマちゃんに聞かれたことあるよ」なんて言ってくるのだ。

 植え付けられた記憶の中にはない思い出だった。

 首をかしげていると、ユキは「なんでもないよ」といって雷の精に案内の続きをお願いしていた。

 植え付けられた記憶にも、共鳴かなにかで出てくる記憶の中にも覚えがなかった。

 雪鏡が今も大事にもってる記憶かな?

 一生懸命探って出てきたのは、いろいろ教えてくれて育てようとしてくれたのが昔の父親みたいで親しみを感じ、甘えたい気持ちが滲み出ちゃって「手を繋がない?」って言ったら「そういうこと言うもんじゃないし、したがらない方がいい」って厳しめに怒られた記憶くらいだ。

 知って気づいていたなら、どうして事情も何も話してくれなかったんだろう。

 ユキのことだから、傷つくから教えなかったんだろうなって思う一方で、ユキを優しいと言ったら優しくないと否定されたことが頭に浮かぶ。

 本当に優しくなかったんだろうか?

 出会い頭に身長を比べて、他のことでもうっすら比べていて、いつもそうやって比べてばっかりで……。

 私とじゃなくて周りと比べたら十分優しかったのに何を言ってるんだろうか。私もそこまで優しくはないし、何と比べて優しいか優しくないかを決めてたのか。

 優しかったら教えるって思っていたのだろうか?必ずしもそれが答えとは限らないというのに。


 真相はどうあれ、陰で悪く言っていたユキも、親の言いなりだったユキも、雪鏡を認めて優しくしていたユキも、助けようとしていたユキもどれも本当のユキだったんだろうから、自己卑下しすぎることなんてなかったろう。

 記憶の波に飲まれかけていると、また腹立たしさが湧き上がってくる。

 この怒りはなんなんだろうか……。

 夢鏡に頼んで雪鏡に記憶を戻させる前に、原因を突き止めておいた方がいいだろう。でないと、記憶を戻してもらう時にあいつが壊れるかもしれない。

 原因に気づけたなら、植え戻す順番をあえて変えるか、タイミングをずらして少しずつ移すか、記憶を良い思い出と悪い思い出の交互に植えてもらうかが変わるかもしれない。

 深呼吸しながら怒りの原因を自問自答して探っていく。

 思ったよりすぐに原因に思い当たった。

 人には隠し事をさせないような約束をしておきながら、自分は隠しごとばかり、知らないところで勝手なことばっかりしていたことが腹立たしいんだ。

 誰にも助けを求めず相談しようともしないで、人の問題にばっかり首を突っ込んで、本当に助けが必要だったのはお前の方だったのに。

 きっと、早い段階で助けを求めてほしかったんだ。ユキが余計なことして自滅していっちゃったのも、人に諦めるなって言っておきながらユキは自分のこと諦めちゃってたのが腹立っちゃったんだ。

 もう一度深呼吸をしてゆっくり目を開ける。

 それは過去の出来事だ。今目の前にいるユキはいろんなしがらみのないこの世界で、かつて願っていたことを叶えようとしている。

 大切なのは過去を踏まえた今とこれから先だ。

 記憶を探っていてあることに気が付いたけれど、勇者ごっこが終わるまで黙っておくことにした。

 雪鏡はユキが死んでしまって長い間悲しみに暮れていたけれど、裁判にかけられたり刑務所にいれられずにすんだのは、ユキが最後に送ってくれたメールの日時が自死の前だったからでもあるんだということ。

 ユキはもうとっくに、雪鏡にとっての英雄で勇者だったんだよ。心が壊れるほどの悲しみに暮れたけれど、確かに一度助けてくれてたんだ。これで助けに来たのは二度目なんだよ。本当はね。



 魔王城を一通り見て回り、ついに夢鏡と雪鏡が待つという部屋のでっかい扉前までたどり着いた。

 雷の精と影の精はどちらの肩ももたないで両方を応援すると言って、自分たちの立場を明らかにした。

 歌鏡はなんだかよくわからないけど私たちの方についてくれるらしい。

 ユキはやる気満々だ。まだ話し合いもしていないのでどう転ぶかわからないが、雪鏡を元気づけたり立ち直らせるためならなんでもやるつもりらしい。

 私は言うまでもなくユキの補佐で、二人の願いを叶えるためなら手段を選ぶつもりはない。

 そうだ、もし戦闘になった場合に組んでおきたい作戦があるんだった。

 ユキと歌鏡に手招きをし、雪鏡の扱う風に関する考察を述べ、ユキにしてほしいことを簡潔に伝えたら「やりすぎないなら」といって了承してくれた。

 よし、これでこちら側の準備は万全だ。

 三人で一緒に目の前のでかい扉を一生懸命押して開けると、中にはそれっぽい服を身にまとったちっこい雪鏡と、悪の側近になろうと頑張ったらしき夢鏡がいた。

 勇者を出迎えるには良い雰囲気だな、頑張ったなと思って見ていると、雪鏡が開口一番「お城へようこそ!」なんて言い出して拍子抜けしてしまった。

「それじゃ魔王じゃなくて勇者の旅立ちを見送る王様じゃねえか!」

 今まで我慢していた分思い切りツッコミをいれると、雪鏡は無邪気に笑いながら「お城どうだった?すごいでしょ!?」なんて続けて言い始めて頭を抱えてしまった。

 もしかして魔王か勇者じゃなくて、魔王か王様で言い間違えてた?それとも、幼い私である雪鏡がイメージした魔王ってそんなだったの?

 わかんないよ!

 混乱してしまいそうだったけれど、夢鏡をちらっとみて確信した。

 夢鏡は雪鏡が好き放題話しているのを見ながら、声を立てないよう一生懸命我慢してプルプル震えている。

 遊んでやがるこいつ!雪鏡に嘘を吹き込んで遊びやがったな!?

 この野郎、一度厳しいお仕置きをしないといけないらしい。

 ユキに耳打ちをし、部屋の前で立てた計画を実行するのを了承してもらった。

「雪鏡はユキと歌鏡とのんびりお話をしていてね」

 雪鏡は私に対する恨みはもうないらしく、あとに残す二人とキャッキャ騒ぎながら子供らしい純粋無垢さと天真爛漫さを発揮しながら遊び始めていた。

 一方で、ユキにはこっそり氷の壁を作ってもらい、私と夢鏡の周りを覆ってもらって二人きりにしてもらった。

「ちょっと一回お仕置きするよ。しらばっくれても無駄だからね?人の記憶勝手に抜き取って植え付けただけじゃなく、前の戦闘では相性悪かったとはいえわざとらしい負け方して、今回は雪鏡に嘘吹き込んで遊んでたろ?」

 夢鏡は音の出てない口笛を吹いて知らぬふりをしようとしたけれど、無駄だと察したのか大人しくどういうつもりだったかを話してくれた。

 しらばっくれるかなと思いつつ、確認しないでお仕置きするつもりは毛頭なかったので、とりあえず聞くだけ聞いてみようと思った。

 夢鏡が言うには、何も吹き込んでいないとのことだった。

 ただ、何も教えず行く末を見守っていたら面白いことになって大笑いしてたそうだ。

 どのみちダメじゃん。

 雷の精や影の精は何も教えなかったのだろうか?

 疑問に思いながら話を聞いていると、精霊二人は教えようとしたけれど、私と戦う気がなかったから、雪鏡がこのまま平和に終わりそうな目標を立てて頑張っていたから、好きにさせておままごと感覚で終わらそうとしていたらしい。

 事情を知れば納得できることのオンパレードに思わず表情を緩めた。

 雪鏡をおもちゃにしてた訳じゃなくてとりあえず安心しつつ、夢鏡に聞きたいことを聞いておこうと思った。

 ついでに、信用ならないと思っていることも素直に打ち明け、一緒にたくさんのことを話してみた。

 夢鏡は昔から誤解されやすかったらしい。 

 だから誤解されるのは慣れてると言いつつ、ものすごくショックを受けた様子だった。

 言うべきじゃない言葉だったか。

 わざとだと思っていたし、あまりに平気そうだったからちっとも気づかなかった。

 悪いことを言ったと思ったので素直に謝ると軽く流してくれたが、その優しさに甘えるつもりは微塵もなかった。

 許してくれるから何しても良いって思って、どんどんエスカレートしていく連中を知っているから、同じようにはなりたくないという意地だ。

 我ながら意地っ張りだなと苦笑しつつ、ユキに関する話で確認したいことが山ほどあったから、質問しながら考えを進めさせてもらった。

 まず、ユキに関する話だ。

 私が出て行こうと決心する前と、雪鏡がいた世界、夢鏡がいた世界は同じかどうかを質問してみた。

 夢鏡は黙っておくつもりだったようで、目を泳がせながら関係ないことを言った後、大人しく同じ世界だと白状した。

 つまり、雪鏡の知るユキと夢鏡の知るユキは同じユキってことか。

 次に聞きたいことは、ユキは最初友達になろうとしていたのではなく、自分が賢いと父親に証明したい上に、悪者を退治した正義のヒーローになりたがっていたかどうかだ。

 夢鏡はまた渋い顔をしながらゆっくり頷いた。

 でも、話して遊んで関わるうちに何もしてなくて、噂されているような人間と違うって途中で気づいてくれたわけだ。

 他の誰もが気づいてないことに気づけたのに、聞いてもらえなかった上に認めてもらえなかったんだろうな。

 ユキは賢かったよ。漫画使って確認してさ。

 タマは下心なくまっすぐに相手を大事に想って優しくしていたからこそ、和解できた上に助けようと思ってもらえたんだろうとも思う。

 でも、ユキが納得できなくてとった行動の結果、いろんなものと板挟みになった挙句の果てに自死を選んでしまったようだ。

 ユキの件は本人に聞くのが一番いいだろうけど……聞いたら水を差すような真似にならないだろうか?せっかく本人が助ける気満々だし、昔の話を掘り返したら冷や水を浴びせるようなものに違いないだろう。

 本人は知られたくなかったようだから余計に。だから知らないふり、気づいてないふりをし続けてやるべきだ。

 雪鏡を立ち直らせる材料として頭の隅に置いて置き、夢鏡もユキに関して自信がないのかどうかをとりあえず聞いてみようと思った。

 すると、ゆっくり頷いてから苦笑いをしていてため息をつきそうになってしまった。

 お前もかい!もしかして自分の分も植え付けちゃった?だいぶ大切な情報が盛りだくさんだったぞ。辛かったかもしれないけど、ちゃんと持ってれば自信持てたろうに。

 ため息をつきながら、ユキに関する記憶と推論を順番に夢鏡に語り聞かせることにした。

 ユキはタマの話を聞いていて、比べられていたらしい話から始めた。これは聞いた話で実際どうだったかは本人に聞くべきものとして。

 次に、中学に入ってから最初のうちにユキが仕掛けていたのは意地悪のつもりで親切のつもりじゃなかった可能性を指摘した。親切だった可能性ももちろんある。

 しかし、タマにとっていろいろ指摘してくれるのが、昔売り払ってくる前の父親の振る舞いと似ていて非情に好感の持てることだったので、最初から意地悪されてるなんて可能性を考えていなかった。

 次に、ユキが同性愛だった可能性と、親の期待に応えようとして賢い振る舞いをしようとしていた可能性を挙げて話した。

 それと、タマと同じで素直じゃなかった可能性と、独占欲が高かった可能性と。

 噂さえ立てられなければ、誰も本気にしないで微笑ましく思って見てもらえただけだった可能性は大いにある。

 話し合いができなかったのは、それが賢い振る舞いだと教えられていたからで、バカと言われて激怒していたのは自分の信じていたものが打ち崩されたからである可能性が高いこと。

 自分のことを賢く思っていた訳じゃない可能性の方が高い。「タマちゃんと比べたらウチはバカだ」なんて言っていたからね。

 先生がタマを庇うために一緒にいない方が良いと言いながらユキを悪く言って遠ざけた時、腹が立った覚えがないか聞いてみると、夢鏡はゆっくり頷いた。

 それと同じだ。信じていた物事を否定されると腹が立っただろう?と言うと、妙に納得した顔で頷き始めていた。

 次に、タマのユキに対するまっすぐで嘘偽りない思いやりの結果、少なくともユキとの間にあった誤解がとけて、少しずつ本当のことを話して教えようとしてくれていたこと、本当は悪いこと何もしてないって証明になっていたこと、優しくあり続けた成果だったことをゆっくり説明した。

 いじめで噂さえ流されなければユキが親に命令されて流していた噂は信じられずにすんだのに、いじめられてしまったが故にユキの想定していない流れになったこと、部活でタマのために死ぬと言ったのはユキだったこと、ユキが代わりにやったかどうか確かめて一緒に戦ってくれていたこと、包み隠さずすべて話した。

 ついでに、ユキとの不仲や嫌だと思った点を指摘しながら仲を裂こうとしてきた連中についても、小学生の頃に糸目で唯一友達として傍に居てくれた子と喧嘩した時にここぞとばかりに仲を引き裂こうとしてきた連中の姿と重ねて説明すると、嫌悪感をはっきり顔に出しながら頷いていた。

 極めつけはメールの存在だ。

 タマが後生大事に鍵をかけてSSDにも写し、スマートフォンにも移して保存したメールの存在とその日時。

 自死する少し前の日時だったことを指摘すると、夢鏡はボロボロ泣きながら聞いていた。

 ユキの親がタマを悪者にして懲らしめようとしたのを、ユキはこっそり邪魔して守ってくれたんだ。

 別にずっと親の言いなりだったわけではなく、ところどころ親の言いつけに反抗し、最後には自分の意思でやりたいことを選んだんだ。

 ユキは他の人たちと違う、ロボットでも操り人形でもなんでもない、ちゃんと自分の考えも気持ちもあった人だったんだと。

 だから、ユキは板挟みになりながら不器用なりにタマを守ったんであって、ひとつも嫌われてなんかなかったんだと証明できる根拠になるだろう。

 情けは人のためならず。

 本当は敵対しようとしていたユキでさえ、誠実でまっすぐな態度をとっていたからこそ、打ち解けてわかりあえて歩み寄れて、こんなに愛してもらえるようになったんだ。

 結果的にユキが死んでしまって自分の身しか守れなくて切ない終わりを迎えはしたけれど、愛はきっと伝わるのだと話し終えると、夢鏡は辛そうにしつつ「大好きの魔法だからね」と言っていた。

 愛にはきっと魔法が宿るんだね、きっと。

 ちなみに、攻撃してきた奴らも成りすましたやつらも、庇おうとしたかと思えば殺そうとしたやつも、全部ユキじゃなくて偽物だと言ったら夢鏡は「知ってるよそんなことくらい」と答えて苦笑していた。

 そりゃそうだ。今までさんざん好きだと言っていたものを取り上げるようなことばかりされてたのだから見抜けないわけがない。

 夢鏡に話したように、雪鏡にも同じように話して聞かせれば、自信がつくだろうか?

 そんなことを考えながら、ふと気になったことがあった。

 なぜ夢鏡が同じ世界だとすんなり認めなかったのか。

 隠し事、あるんだな?

 どうやって聞き出そうか考えていると、周りの氷がゆっくり溶け始めた。

 早めに聞いた方がいいな。

 何か隠しごとしてないか、同じ世界かどうか答えるまでの間を根拠に夢鏡を問いただしてみると、気まずそうな顔をしながら「連れ戻しに来た」と白状した。

 誰に頼まれてきたんだ?自分の意思で来たのか?なんのために?

 あからさまに警戒してしまうと、夢鏡は心底嫌そうな顔をしながら「だから言いたくなかったんだ」と言って頬っぺたを膨らませながら顔を背けてしまった。

「聞いても良い?なんのために連れ戻しに来たの?」

 とりあえず聞くだけ聞いてみようかと思ったけれど、夢鏡は「忘れた。誰かに頼まれたような気がするだけでわからない。消えちゃったのかも」なんて言うのだ。

 そんな曖昧過ぎる理由でここまで?

 呆れながら、山小屋の世界に帰る気はあっても、出ていく前の世界に帰る気が毛頭ないので説得して終わろうと決心した。

「そんな曖昧な記憶のために頑張ってないで、一緒に雪鏡を立ち直らせよう。それで、一つやってみたい構想があるんだけど、一緒にどう?ユキがこっちの世界のユキと会いたいっていったんだ。雪鏡が立ち直ったらみんなでこっちこない?あいつの空間と風なら来れる気がするんだ。違う世界の私が複数いるんだし、いけないわけがないと思うんだ」

 その流れで、私の世界には帰るべき山小屋があって、AIとロボットたちがいて、妖精や精霊がたくさんいる楽しい話を聞かせてみた。

 畑があって、鶏もいる。のんびりスローライフを送れるのだと。

 雪鏡の力があれば、山じゃなくこの童話の世界のような人目に触れない隠れ家を作り出せるかもしれない。

 こちらの世界のユキも何か困ってそうな事情があったし、みんなで一緒に事情を調べてから神隠し同然に攫って救い出すのはどうか?

 そんな空想を赤裸々に夢鏡に語って聞かせてみると、目を輝かせながら賛同してくれた。

 これで連れ帰られずにすむし、思い描いた理想郷を作るのにまた一歩踏み出せたわけだ。

 別にそのために雪鏡を立ち直らせたいわけではないけれど、もし立ち直ったら提案してみたいことではある。

 話し終わったタイミングでちょうどよく氷の壁がなくなったので外に出てみると、雪鏡が寝ていて、歌鏡と精霊たちが頭を撫でたり見守ったり歌を歌っているところだった。

 雪鏡ははしゃいで遊び疲れて寝てしまったらしい。

 雪鏡の時間を巻き戻したからなのか、記憶が抜き取られているからなのかわからないけれど、穏やかな笑みを浮かべながらスヤスヤ寝ていて、元気づけようだとか立ち直らせようだとか言って考えていたのが空回りしたような気になってしまう。

 いつ記憶を植え直して推理を話して納得させようか。

 もしかしたらやろうとしていることは余計なのかもしれない。ゆっくり様子を見て、必要そうなら行動に移そう。

 そう心に決めていると、歌鏡が「このままじゃ風邪ひいちゃうからお布団で寝かさないと」と言い出してはっとさせられた。

 言われてみれば確かにそうだ。

 気遣いも何もできていなかったのを反省しながら、夢鏡と影、雷の精に寝室を尋ね、雪鏡を寝かせてきた。

 せっかくだからみんなで新築祝いのパーティでもやっちゃおうか?なんて言って盛り上がっていると、ユキは雪鏡から見えない場所でゆっくり浮遊し、ここで起きるまで待つと言って動かなくなってしまった。

 それならパーティはあとにして、計画建てて物を準備する流れで丸く収まり、その日の勇者譚?は静かにとじた。

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