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三十歳を前に母親から『結婚はどうするの』と言われ始めた。
仕事が忙しかったので、そういった恋愛関係は後回しにしていたというか、それどころではなかったというのが実情だ。
働き始めた頃はコンペに負けるし、クライアントからダメ出しを何度もくらい、そのたびに自分の実力不足を痛感した。
一人前になるべく、たくさん経験を積んでスキルアップを目指して、とにかくがむしゃらに働いた。
資格だっていろいろ取得するために勉強し、全てにおいて努力を惜しまない。
そのかいあって、今ではクライアントから直接オファーをもらえるようになった。
仕事に夢中になると徹夜だってざらになり、生活が不規則になって他のことがおろそかになる。
こんなことの繰り返しなので、恋人と呼べる存在がいなくなって何年たったか思い出せないぐらいだ。
そんな時、うちの会社に伊藤さんが就職した。
俺は美桜ちゃん以降、新しく入ってくる女子社員の名前呼びを改めた。
その理由は、哲平を見ていてなんとなくやめようと思ったんだ。
哲平は美桜ちゃんのことを何よりも大切にしていた。
『俺以外のヤツが馴れ馴れしく美桜のことを呼んでほしくない』とか言って俺に文句を言うぐらい。
名前を呼ぶぐらいいいだろと思ったけど、それすらも嫌だと言って独占欲を滲ませる。
美桜ちゃんも恥ずかしそうにしながらも、哲平のことをよく目で追っていた。
そんな二人を見て、むず痒くなるのと同時に羨ましくもあったんだ。
今まで名前で呼んでいた人に急に苗字で呼び直すのには違和感があったので、そこは変えなかったけど。
ある日、お袋が『香澄ちゃんがお嫁さんだったらいいのに』と言い出した。
急にどうしたんだと理由を聞けば、伊藤さんが家庭的だということを知ったらしい。
お袋は社員と食事に行くことが楽しみらしく、男女問わず昼飯を食べていた。
仕事となれば容赦なく、冷徹で敏腕女社長に早変わりだけど普段は社長ぶらない。
うちは他の会社より、社長と社員の距離が違いと思う。
最初は緊張していた社員も、回を重ねるごとに楽しそうにお袋(社長)と一緒に数人でランチに行く姿を目にしていた。
つい最近、伊藤さんとサシで飯を食べる機会があって、その時に話をして彼女のことをさらに気に入ったみたいだ。
『香澄ちゃん、真面目だし家事全般が得意なんですって。海里の面倒を見てくれないかしら』
『無理だと思うよ。俺、彼女の苦手なタイプだと思うから』
『それは海里が会社で軽い発言ばかりするからでしょ。いい加減、それを止めなさいって言っているのに』
『だから、女子社員の名前呼びを止めただろ』
『そういう問題じゃないのよ』
お袋はプリプリと怒る。
今さら彼女の俺への印象は変わることはないだろうから、お袋に余計なことは言わないでくれよと念を押していた。
仕事が忙しかったので、そういった恋愛関係は後回しにしていたというか、それどころではなかったというのが実情だ。
働き始めた頃はコンペに負けるし、クライアントからダメ出しを何度もくらい、そのたびに自分の実力不足を痛感した。
一人前になるべく、たくさん経験を積んでスキルアップを目指して、とにかくがむしゃらに働いた。
資格だっていろいろ取得するために勉強し、全てにおいて努力を惜しまない。
そのかいあって、今ではクライアントから直接オファーをもらえるようになった。
仕事に夢中になると徹夜だってざらになり、生活が不規則になって他のことがおろそかになる。
こんなことの繰り返しなので、恋人と呼べる存在がいなくなって何年たったか思い出せないぐらいだ。
そんな時、うちの会社に伊藤さんが就職した。
俺は美桜ちゃん以降、新しく入ってくる女子社員の名前呼びを改めた。
その理由は、哲平を見ていてなんとなくやめようと思ったんだ。
哲平は美桜ちゃんのことを何よりも大切にしていた。
『俺以外のヤツが馴れ馴れしく美桜のことを呼んでほしくない』とか言って俺に文句を言うぐらい。
名前を呼ぶぐらいいいだろと思ったけど、それすらも嫌だと言って独占欲を滲ませる。
美桜ちゃんも恥ずかしそうにしながらも、哲平のことをよく目で追っていた。
そんな二人を見て、むず痒くなるのと同時に羨ましくもあったんだ。
今まで名前で呼んでいた人に急に苗字で呼び直すのには違和感があったので、そこは変えなかったけど。
ある日、お袋が『香澄ちゃんがお嫁さんだったらいいのに』と言い出した。
急にどうしたんだと理由を聞けば、伊藤さんが家庭的だということを知ったらしい。
お袋は社員と食事に行くことが楽しみらしく、男女問わず昼飯を食べていた。
仕事となれば容赦なく、冷徹で敏腕女社長に早変わりだけど普段は社長ぶらない。
うちは他の会社より、社長と社員の距離が違いと思う。
最初は緊張していた社員も、回を重ねるごとに楽しそうにお袋(社長)と一緒に数人でランチに行く姿を目にしていた。
つい最近、伊藤さんとサシで飯を食べる機会があって、その時に話をして彼女のことをさらに気に入ったみたいだ。
『香澄ちゃん、真面目だし家事全般が得意なんですって。海里の面倒を見てくれないかしら』
『無理だと思うよ。俺、彼女の苦手なタイプだと思うから』
『それは海里が会社で軽い発言ばかりするからでしょ。いい加減、それを止めなさいって言っているのに』
『だから、女子社員の名前呼びを止めただろ』
『そういう問題じゃないのよ』
お袋はプリプリと怒る。
今さら彼女の俺への印象は変わることはないだろうから、お袋に余計なことは言わないでくれよと念を押していた。
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