嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ

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二人の本音

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「おにぎりを見た瞬間に腹が鳴ったんだ。飯を食っていなかったことに気付いておにぎりの袋を開けてひと口食うと、そのおにぎりが無性に美味くて、一気に三個も平らげた。で、腹が満たされたら妙に頭がスッキリして。さっきまで考えがまとまらなくて悪戦苦闘していたのが嘘のように、スムーズに作業がはかどったんだ。その時に食事って大事なんだなと改めて気づいて、それ以来、飯を抜くことをしなくなった。桜井のお陰だよ」

次の日、つきものが落ちたかのような笑みを浮かべて『ありがとう』と言ったのでいたので、私の行動は無駄ではなく、少しは役に立てたのかなと思っていたんだ。
あれからご飯もちゃんと食べていたみたいだし。

でも、私のお陰だなんて言われるほど大層なことはしていない。
同期として当たり前のことをしただけだ。

「私はなにもしてないよ。おにぎりだって新庄くんはあまり食事をとってなかったみたいだから、お節介かなと思いつつも私が勝手にしたことだし」

「いや、間違いなく桜井のお陰なんだ。実際、あの差し入れをしてもらってから俺は変われたし。いつも然り気ない気遣いに助けられていて、気がついたら桜井のことを目で追うようになっていた」

なにそれ。
そんなこと言われたら勘違いする。
深い意味はないんだと自分に言い聞かせていたら新庄くんは真っ直ぐに私を見つめ、言葉を紡ぐ。

「俺は、桜井のことが好きだ」

言われた瞬間、頭が真っ白になった。
聞き間違いじゃないよね?
続けざまにいろんなことを言われて思考が追いつかず、心臓がバクバクと大きな音を立てる。

ずっと私の叶わない片想いだと思っていたのにこれは一体、なんのご褒美だろう。
自分の気持ちに嘘をついて、諦めていた想いがこんな形で実を結ぶなんて夢みたい。
視界が涙で揺れ始める。

「泣くなよ。調子狂うだろ」

新庄くんは困った表情で私の涙を拭った後、目元に唇を寄せた。
突然のことに驚き、涙も止まる。
新庄くんはフッと笑い、私の頬を両手で包む。

「好きだよ」

そのまま上を向かされると間近に新庄くんの顔があり、ゆっくりと唇が重なった。
柔らかな唇の感触に戸惑いながらも、私は静かに受け入れる。

触れていた唇が離れ、目を開けると私を優しく見つめる眼差しがすぐそばにあった。
そんな表情を向けられ、私の鼓動は一気に加速していく。

「今まで嘘をつかせてごめん。もっと早くホントの事を言えば桜井を傷付けることはなかったんだよな。俺も嘘つかないから、桜井も二度と嘘はつくなよ」

新庄くんの冷たい指先が私の唇をなぞる。
返事の代わりに頷けば、新庄くんは満足げに笑った後「そうだ」と思い出したように呟いた。

「町田さんとあまり親しげに話すなよ」

「えっ?」

予想もしていなかった内容にキョトンとしてしまう。
親しげにってどういうことだろう。
別に普通に話しているだけなんだけど、言葉の意味が分からず首を傾げる。

「えっ、じゃねぇよ。やたら桜井のことを構うし。昨日、町田さんになにかもらってただろ」

新庄くんは眉を寄せ、不機嫌な表情になる。
これってもしかしてヤキモチを焼いてくれているの?
初めての経験にくすぐったくなり、思わずニヤケてしまう。
それを見た新庄くんは「なに笑ってるんだよ」と更に眉間にシワが寄っていく。
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