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同期という距離
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シャーペンを指の間でクルリと回す。
目の前の企画書には、バツ印とダメ出しが至る所に書き込まれている。
(アクリルキーホルダーは硬すぎる。ぬいぐるみの要素ナシ)などのダメ出しを書いた文字を眺め、ため息をつく。
こんなにアイデアで行き詰まるなんて、久しぶりだ。
広瀬紗世、二十六歳。
『ジョイントイ』子供向けの玩具やカプセルトイなどを企画・製造・販売する会社の商品企画部で働いている。
新しい玩具を考えたり、既存の商品の改良を重ねる日々。
アイデアを生み出すために常にアンテナを張り巡らせる。
待ちゆく人たちの何気ない会話、SNSで発信されるトレンドなど、日常の中に隠されているヒントから企画の種を見つけ出していた。
でも、今はいい案が全く浮かばない。
手元の資料には、我が社の人気商品のひとつである、動物のぬいぐるみをモチーフにしたカプセルトイのキーホルダーが載っていた。
バッグなどにつけて持ち歩けると好評を得ている。
全五種類あり、約十センチの手のひらサイズのキーホルダーになっても、元のぬいぐるみの可愛らしさはそのままだから人気なのも頷ける。
中でも一番人気はピンクのウサギで、耳についている水色のリボンがチャームポイントだ。
私が取り組んでいるのは、このキーホルダーの新バージョンを考えること。
あれこれ思いついたことを企画書に殴り書きしても、納得できるものがなくて絶賛スランプ中。
さっきアクリル素材の案を書いてみたものの、冷静に考えるとぬいぐるみの柔らかさを再現できない時点で論外だった。
別のアイデアを絞り出そうとするけど、シャーペンをまたクルリと回すばかり。
椅子の背もたれに背中を預け、天を仰いだ。
視線の先の白い天井にヒントが書かれているわけでもなく、小さく息を吐く。
「よう、進みはどうだ?」
突然かけられた声に、肩がビクリと跳ねる。
慌てて姿勢を正し、声のした方を見ると、そこには同期の本田慧が爽やかな笑顔を浮かべて立っていた。
彼は黒髪のミディアムヘア、涼やかな目元に形のいい眉、バランスの取れた端正な顔立ちで正統派イケメンだ。
女性人気が高いしモテるけど彼女はいない。
身長は百八十センチ近くあり、服の上からでもわかる引き締まった身体つき。
私が百六十センチだから二十センチも高い。
本田くんと話す時は上を見上げるようになるので、たまに首が痛くなる。
私の顔を見た本田くんは苦笑いした。
「苦戦しているみたいだな」
「その通り。ちょっと行き詰って迷走中。どうもピンとくるものがないんだよね」
「あー、アニマルキーホルダーね」
本田くんは私の企画書を手に取って目を通すとプッと吹き出す。
「書き出したアイデアに、ご丁寧にダメ出し付きかよ。アクリルキーホルダー硬すぎるって……」
そう言って、企画書をデスクの上に戻す。
「ぬいぐるみ特有の柔らかさやあたたかさ、抱きしめた時の安心感はぬいぐるみならではのよさだから、それを大事にしたいんだよね」
企画書に視線を落とす。
「一瞬、アクリルキーホルダーを思いついたけど素材が硬すぎて即却下よ。既存のキーホルダーは柔らかいけど、それとはまた違うタイプにしないといけないから悩むわ」
「確かにそうだな」
せっかく新バージョンを提案するんだから、より良いもので納得できるものがいい。
「ぬいぐるみって、触り心地も大事だよな。それを抱いているだけで安心感を覚えたり、ストレスの緩和にもなるだろ」
本田くんの言葉にある素材の玩具が思い浮かぶ。
「あっ、スクィーズってどうだろう」
「スクィーズって握って形が変わったりする柔らかいやつだよな」
本田くんの言葉に頷く。
「うん。それならぬいぐるみ感も失われないと思うんだけど、どう思う?」
「いいじゃん。それで練り直してみたら?」
「うん、そうしてみる。ありがとう。本田くんのおかげでいいアイデアがひらめいたよ」
笑顔で言うと、彼は少し腰をかがめて私の頭を優しくポンと撫でる。
「俺は普通に話していただけだよ。でも、それが広瀬にいいヒントを与えたみたいでよかったわ」
本田くんの優しい手の温もりが胸の奥にじんわりと広がる。
彼にとっては何気ない仕草なんだろうけど、私にはその温もりが、どうしようもなく切なくて苦しいものでもあった。
不意に、偶然聞いてしまった彼のある言葉がよみがえり、思わずキュッと唇を噛んだ。
目の前の企画書には、バツ印とダメ出しが至る所に書き込まれている。
(アクリルキーホルダーは硬すぎる。ぬいぐるみの要素ナシ)などのダメ出しを書いた文字を眺め、ため息をつく。
こんなにアイデアで行き詰まるなんて、久しぶりだ。
広瀬紗世、二十六歳。
『ジョイントイ』子供向けの玩具やカプセルトイなどを企画・製造・販売する会社の商品企画部で働いている。
新しい玩具を考えたり、既存の商品の改良を重ねる日々。
アイデアを生み出すために常にアンテナを張り巡らせる。
待ちゆく人たちの何気ない会話、SNSで発信されるトレンドなど、日常の中に隠されているヒントから企画の種を見つけ出していた。
でも、今はいい案が全く浮かばない。
手元の資料には、我が社の人気商品のひとつである、動物のぬいぐるみをモチーフにしたカプセルトイのキーホルダーが載っていた。
バッグなどにつけて持ち歩けると好評を得ている。
全五種類あり、約十センチの手のひらサイズのキーホルダーになっても、元のぬいぐるみの可愛らしさはそのままだから人気なのも頷ける。
中でも一番人気はピンクのウサギで、耳についている水色のリボンがチャームポイントだ。
私が取り組んでいるのは、このキーホルダーの新バージョンを考えること。
あれこれ思いついたことを企画書に殴り書きしても、納得できるものがなくて絶賛スランプ中。
さっきアクリル素材の案を書いてみたものの、冷静に考えるとぬいぐるみの柔らかさを再現できない時点で論外だった。
別のアイデアを絞り出そうとするけど、シャーペンをまたクルリと回すばかり。
椅子の背もたれに背中を預け、天を仰いだ。
視線の先の白い天井にヒントが書かれているわけでもなく、小さく息を吐く。
「よう、進みはどうだ?」
突然かけられた声に、肩がビクリと跳ねる。
慌てて姿勢を正し、声のした方を見ると、そこには同期の本田慧が爽やかな笑顔を浮かべて立っていた。
彼は黒髪のミディアムヘア、涼やかな目元に形のいい眉、バランスの取れた端正な顔立ちで正統派イケメンだ。
女性人気が高いしモテるけど彼女はいない。
身長は百八十センチ近くあり、服の上からでもわかる引き締まった身体つき。
私が百六十センチだから二十センチも高い。
本田くんと話す時は上を見上げるようになるので、たまに首が痛くなる。
私の顔を見た本田くんは苦笑いした。
「苦戦しているみたいだな」
「その通り。ちょっと行き詰って迷走中。どうもピンとくるものがないんだよね」
「あー、アニマルキーホルダーね」
本田くんは私の企画書を手に取って目を通すとプッと吹き出す。
「書き出したアイデアに、ご丁寧にダメ出し付きかよ。アクリルキーホルダー硬すぎるって……」
そう言って、企画書をデスクの上に戻す。
「ぬいぐるみ特有の柔らかさやあたたかさ、抱きしめた時の安心感はぬいぐるみならではのよさだから、それを大事にしたいんだよね」
企画書に視線を落とす。
「一瞬、アクリルキーホルダーを思いついたけど素材が硬すぎて即却下よ。既存のキーホルダーは柔らかいけど、それとはまた違うタイプにしないといけないから悩むわ」
「確かにそうだな」
せっかく新バージョンを提案するんだから、より良いもので納得できるものがいい。
「ぬいぐるみって、触り心地も大事だよな。それを抱いているだけで安心感を覚えたり、ストレスの緩和にもなるだろ」
本田くんの言葉にある素材の玩具が思い浮かぶ。
「あっ、スクィーズってどうだろう」
「スクィーズって握って形が変わったりする柔らかいやつだよな」
本田くんの言葉に頷く。
「うん。それならぬいぐるみ感も失われないと思うんだけど、どう思う?」
「いいじゃん。それで練り直してみたら?」
「うん、そうしてみる。ありがとう。本田くんのおかげでいいアイデアがひらめいたよ」
笑顔で言うと、彼は少し腰をかがめて私の頭を優しくポンと撫でる。
「俺は普通に話していただけだよ。でも、それが広瀬にいいヒントを与えたみたいでよかったわ」
本田くんの優しい手の温もりが胸の奥にじんわりと広がる。
彼にとっては何気ない仕草なんだろうけど、私にはその温もりが、どうしようもなく切なくて苦しいものでもあった。
不意に、偶然聞いてしまった彼のある言葉がよみがえり、思わずキュッと唇を噛んだ。
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