同期と私の、あと一歩の恋

松本ユミ

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同期という距離

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あれは半年前のこと。

芹沢せりざわ部長から企画書の不備を指摘され、少し落ち込んでいた。
自分でも理由は分かっている。
分析が甘く、ターゲットとなる子供の年齢層を絞り切れていなかったことが原因だ。

『広瀬のことだから原因は分かっていると思う。方向性は間違っていないから、もう少しデータやリアルな声を聞いてみるといい。次はいい企画書になると思う』

芹沢部長の言葉は本当に的確で、私のことをちゃんと理解してくれている。
言葉の隅々から彼からの期待を感じ、次こそは完璧な企画書を作って応えたいという気持ちが込み上げてきた。

一度、疲れた頭をリフレッシュしようと企画部のフロアを出た。
うちの会社には休憩スペースとリフレッシュルームがある。

休憩スペースは社内に数ヶ所設けられている。
窓際に小さな円卓が二つ、入り口には目隠しの作用もある観葉植物が置かれたこぢんまりとした空間。
部屋の隅にはウォーターサーバーとコーヒーメーカーがあり、簡単な打ち合わせをしたり仕事で疲れた時に一息つくにはもってこいの場所。

リフレッシュルームはカフェのようなお洒落な内装で、社員が仕事の合間に気分転換したり、他部署の人とコミュニケーションをとるために設けられた多目的スペースだ。
マッサージチェアが設置されたり、その名の通りリフレッシュするには最高だと思う。


そして、私が向かったのは休憩スペース。
足を踏み入れようとした瞬間、先客がいることに気づく。

あれは営業部の新入社員と本田くんだ。 
可愛らしいショートボブの子で、何度か打ち合わせの時に見かけたことがある。

目隠しの観葉植物があるため、向こうからは私の姿は見えていないはず。
こんなところで、二人はいったいなにをしているんだろう。
息を潜めて見ていると、女性が口を開いた。

「私、本田さんのことが好きなんです。付き合ってくれませんか?」

彼女の言葉を聞いた瞬間、心臓がドクンと嫌な音を立てる。
観葉植物の間から、本田くんが驚いたような顔をしているのが見えた。

「気持ちは嬉しいけど、君とは付き合えない」

「どうしてですか?」

「好きな人がいるから」

彼の言葉が胸に突き刺さった。
本田くん、好きな人がいたんだ……。
その事実にショックを受けている私がいた。

『好きな人がいるから』と言った彼の声色はとても優しかった。
きっとその人のことを想いながら言ったんだろう。

私も本田くんのことが好きだった。
入社してからずっと、同期として切磋琢磨してきた。
仕事でミスをして落ち込んでいる時や困っている時、いつも本田くんはさりげなく気遣ってくれる。
仕事中の真剣な眼差し、ふとした時に見せる笑顔や優しさに気づけば惹かれていた。

でも、私は自分から告白すらできない臆病者だ。
その理由には、過去のある出来事が関係している。

中学生の頃、席が隣の男友達がいた。
名前は仮にAくんとしよう。

Aくんは文武両道で優しいクラスの人気者。
そんな彼が異性の友達として、よく話をしている相手が私だった。

何度も目が合ったり、話していても楽しくて気が合うなと思っていた。
次第に彼のことが気になり始め、友達から『絶対に紗世のこと好きだから告白してみなよ』という後押しされた。

期待と不安が入り混じる中、私はドキドキしながら勇気を振り絞って想いを伝えた。
でも、返ってきた返事は想像とはかけ離れていた。

『ごめん。俺は広瀬さんのこと友達だと思っていた』

それを聞いた瞬間、胸がギュッと絞めつけられショックで言葉が出なかった。

全部、私の勝手な勘違い。
もしかして、なんてうぬぼれていた自分が恥ずかしい。
彼にとって私はただの友達でしかなかったんだ。
告白後、私たちは元の関係に戻ることはなく、会話もなくなって気まずいまま卒業の日を迎えた。

それ以来、誰かに好意を抱いても自分の気持ちを伝えるのが怖くなった。
また、あの時のように勝手に勘違いして、傷付くのが嫌で『好き』という気持ちを心の奥に閉じ込めていた。

さっきの告白の場面を見て昔の自分と重なり、胸の痛みを思い出した。
自分の気持ちを相手に伝えるのは、本当に勇気のいることだ。
私の時と状況は違うけど、彼女もきっと、どうしようもない気持ちに押しつぶされそうになっているのかもしれない。

胸がざわつき、休憩スペースに足を踏み入れることができず、私はそっと背を向けた。
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