同期と私の、あと一歩の恋

松本ユミ

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同期という距離

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企画書のアンケート準備まで終え、今日の仕事を切り上げた。
解放された気持ちで向かったのは、企画部と営業部の合同懇親会が開かれる大衆居酒屋だ。

営業部の人とは打ち合わせや懇親会などで何度も顔を合わせるうちに、何人か親しくなった人もいる。

いつも利用している居酒屋で、事前に予約して奥の座敷を貸し切った。
座敷は広々とした空間が広がり、足元が掘りごたつになっているテーブルが六つ並んでいる。
参加者たちは、各々が好きな場所に座って和気あいあいと談笑していた。

あらかじめ、料理を早く提供してとお願いしていたおかげで、着席するとすぐにコース料理が次々と運ばれてきた。
大皿に盛られた唐揚げや刺身、焼き鳥などもテーブルに並べられ、食欲をそそる香りが広がっていく。

隣に座っていた本田くんが、無言で焼き鳥が数本乗ったお皿を差し出してきた。

「広瀬、酒飲む前になにか腹に入れた方がいいからこれ食べろ」

「ありがとう」

お皿の中からモモを一本取りながらお礼を言う。

以前、本田くんと飲んだ時にすきっ腹でお酒を飲んでしまい、酷く酔っ払って迷惑をかけたことがある。
それ以来、なにかと気にかけてくれるようになった。

そもそも、彼と一緒に飲む機会は少なくない。
同期会やお互いの企画が通った時など、何かとよく飲みに行っていた。

いつもさり気ない気遣いができて、スパダリか!と心の中で突っ込みながらも、胸はチクリと痛む。
好きな人がいる本田くんに片想いしている私としては、彼の優しさは嬉しいけど苦しくもあった。

いつものように本田くんと他愛のない話で盛り上がる。
高校の部活の話になって、私が茶道部だったと言うと彼は驚いた顔をした。

「え、広瀬って茶道部だったのか?」

「そうだけど。私にピッタリでしょ」

「いや、うーん、ピッタリ……なのか?」

本田くんは微妙な表情で腕組みをし、首をひねる。
彼の反応に、ちょっとイラっとするのはなぜだろう。

「なにが言いたいの?」

「いや、なんかこう違う感じがして……。どうせ、広瀬のことだからまんじゅうとか食べれるから入ったんじゃないのかと思って」

本田くんの言葉が図星過ぎて、思わず眉間にシワを寄せた。

「最悪なんだけど」

「えっ?」

「その通りだよ! いろんな種類のお饅頭が食べれたり抹茶が飲めるって聞いたから入ったの」

「あはは、やっぱり。単純すぎるし、食い意地張りすぎだろ」

半ばやけっぱちのように本当のことを言うと、本田くんはゲラゲラと笑い出した。

「食い意地張ってるとか失礼にもほどがある! でも、それだけじゃないからね。ちゃんと茶道具買って家でもお茶点てたりしてたんだから」

お饅頭につられたのは、否定しないけど。

乾杯の挨拶からしばらく経ち、場の雰囲気も盛り上がって徐々に席を移動している人が増える。

私たちの会話は、最近のお気に入りのアーティストの話になっていた。
すると、近くにいた周りの人も会話に加わってくる。
その輪はテーブル全体に広がり、自分の推しを熱く語る人の話がすごく面白くて、夢中になって聞いていた。

ふと、話しかけようと隣に目をやると、本田くんの姿はそこにはなかった。
離れたテーブル席で、営業の人たちに囲まれて話している姿が目に入る。
そこには営業部長や女性の営業担当の人たちがいた。

あ、まずい。
今日は本田くん潰されるかも。
彼がいるテーブルには、営業部でもナンバーワンの酒豪と言っても過言ではない、森沢美鈴もりさわみすずさんがジョッキ片手に笑っている。
彼女につられて飲んでいたら、間違いなく潰される。
どうにかうまいこと切り抜けられたらいいけど、と焼き鳥を一口かじりつつ、同期の心配をしていた。

「広瀬さん、飲んでる?」

そう声をかけてきたのは、営業部の山田さん。
彼はムードメーカーでいつも明るく、飲み会の時はビールのジョッキ片手にテンション高く次から次へとテーブルを回っている。
この光景を見たのは何度目か分からないけど、慣れたものだ。
 
「飲んでますよ、これ三杯目です」

ジョッキを持ち上げてビールを飲んで見せると、山田さんは満足そうに笑って違うテーブルへと移っていった。
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