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第4話 魔物殺しの聖剣ルーペ
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それならそれで生き方もある。僕は頭蓋骨を放り投げてノマドの手を掴む。
「どうせ僕たちを追って来るんだ。こんなとこで時間稼いでもしょうがないよ」
村民だって散り散りになってしまった方が追いかける方も手間だ。
「バ……バ……バカ。誇り高き王国騎士が何もせずに逃げるなんて出来るか!」
ノマドは真っ赤になって腕をふりほどく。
「なにもせずっていうか、きっちりやって壊滅までしたんでしょ。それなら堂々と敗走しようよ」
「はっきり言わないでよ!」
僕の言葉に、ノマドは勢いよく首を振る。
「ていうかこれ、国王家に伝わる秘宝なのよ。簡単に捨てないで」
話題を変えるようにノマドは床の頭蓋骨を拾い僕に渡した。
「王都に行けばこれを使える戦士もいると思うわ。貴方は騎士団本部を訪ねて団長に庇護を求めなさい」
覚悟が決まっている者特有の眼でノマドは立っている。
「ダ!」
ユーシが声をあげ、片手を天井に向けて突き出した。
「おお、マリア様の御子。貴方が逃げる時間は私が命を懸けてでも稼いで見せます。母上のように強く立派な戦士になるんですよ」
慈しむ眼で手を伸ばしたノマドは直前で異常な高温を思い出したのか手を止める。
「キャ!」
寝返りも打てないユーシの手が、ノマドの持つ頭蓋骨に触れた。
瞬間、まばゆい光が放出されて地鳴りのような音が響いた。
「これは!」
ノマドが驚いて叫ぶのだけど彼女の体が邪魔で何が起こっているかさっぱり見えない。すぐに光が消えると、ユーシの横には鞘のない長剣が置かれていた。
「せ……聖剣ルーペが目覚めた! ユーシ殿は聖剣士だ!」
驚くより先にすることがあるだろ!
僕はノマドを押しのけ、甥っ子の横から刃物を取り上げた。
「危ないじゃん、子供に刃物を近づけないでよ」
抗議をしながら剣を放ると、ノマドは慌てて避けた。
「ちょ、どっちが危ないのよ。それ、その剣が落ちた床、焦げてるんですけど!」
言われてみれば、聖剣ルーペは猛烈な熱気を放ち、落ちた床は真っ黒に炭化している。
「ダ!」
抱き上げろというユーシを担ぎ上げ、もう片方の手で聖剣を拾い上げる。
なるほど、聖剣か。不思議と使い方がわかる。
「平気なの?」
「まあ、ちょっとしたコツかな」
僕が曖昧にごまかしたとき、家が揺れた。
「この気配は、魔将軍よ!」
ノマドはすぐに剣を取り出し、玄関に走っていく。
僕もついて行って玄関脇の採光窓から覗くと、そこにいた。
青黒く光る巨大な魔物。周囲を睥睨し吐く息は空を飛ぶ鳥をバタバタと落としている。なるほど、多少腕が立とうが人間の敵う存在ではない。それこそ姉のように選ばれし者が努力をして初めて可能性が出てくる。そんな絶望の怪物は潜んで見ている僕の方に指を伸ばした。
『そこの陰に隠れている者、出てこい。さもなくばこの村を焼き払うぞ』
脅しではないだろう。眼前の魔族にとってそれはほんの児戯に等しいのは一見してわかる。たまたま、今そうなっていないのだってこの家が村はずれにあるからに他ならない。
「アンタは隠れていなさい」
ノマドは僕の耳元でささやいた。その体臭が甘く、心地よいなんて場違いな感想を脳裏から蹴り出すと、僕も彼女の耳元でささやき返す。
「多分、大丈夫。こっちには魔を滅する聖剣ルーペと、英雄マリアの息子がいるから」
驚いた顔をするノマドを押して玄関から外に出る。
魔将軍は眼前にすると一際巨大で恐ろしかった。
『見つけた! その赤子が天界の……!』
御託を並べる魔将軍に向けて剣を振ると、圧縮された魔力斬が巨大な手足を断ち切った。そのタイミングでこう振ればいいというのは聖剣から脳裏に伝わってくる。魔物殺しの聖剣は膨大な魔力を消費し、蓄積している知識を使う者に伝えるのだ。
変換効率の問題で、吸収されたのち利用できなかった魔力は熱となり刀身を赤光させていく。
いきなり押しかけて来たのだ。魔将軍もまさか卑怯とは言うまい。
地響きをたてて崩れる魔将軍に三度、剣を振ると聖剣も十分だと判断した。
『我を難なく倒すとは……貴様、転生者だな。神に送り込まれし魔殺しどもめ、まだ生き残りがおったか』
それだけ言うと、魔将軍は絶命した。
上位魔族は本来なら体液の一滴まで猛毒であるのだけど、ユーシの魔力が込められた聖剣の一撃は過剰な程加熱しており、死体のほとんどが炭化して流出を妨げられていた。このまま埋めれば大丈夫だろう。
「ちょっと、アンタすごいじゃない! なんで隠してたのよ!」
用が済むと聖剣は再び頭蓋骨に戻り、ユーシは満足そうにアブアブとやっている。
興奮したノマドは僕の背中を叩くのだけど、僕としても別に隠したつもりはない。
「これはね、ユーシの魔力とそれを元にした聖剣の力。僕はその両方を手に持っていただけなの。本当に荒事はダメなんだから」
「でも魔将軍も言っていたじゃない。アンタって転生者だったの?」
そんなのは前世の記憶があるというだけの話で、それも淡い夢のようなものである。価値観や知識もあるけれど、あればあるほど、あったからってどうにもならないということが見えてくるものだ。
「転生者ってなにか特異な能力を持っているんでしょう。アンタはどんな能力を持っているのよ?」
昂奮して早口になったノマドは少年の様な瞳で僕を見る。
「別にいいけどさ、君の空間魔術の方がよほど便利だよ。僕の能力は『熱伝導自在《ザ・デーモン》』。触れたものから熱を吸いあげ、他の場所から捨てることが出来るんだ。ほんのそれだけ」
熱の塊のようなユーシがいるから、湯を沸かしたりは便利だけれどもそれが戦闘能力に結びつくことは無かった。ほんの今まで。
「なに言ってるのよ。高温のユーシ殿とさらに高温になる聖剣を振り回せるのなんてアンタだけよ!」
ユーシ自身が成長すれば僕もお役御免なんだけど、現時点ではそうかもしれない。
「今回、王国騎士団は大きな痛手を被ったわ。魔族の侵攻は進んでいるというのにそれを押し戻すのは、現状の戦力では困難なの」
ノマドは大きく息を吸うと、僕の手を掴んだ。
「私と一緒に旅に出て。魔物殺しとしてアンタの力が必要になる場面がこれから沢山くるわ」
まっすぐの眼は、間近にすると神々しく光り、僕は反論できずに頷く。
今まで、英雄の弟として失望混じりに見られたことは多かったのだけど、こんなに力強い期待のまなざしを向けられたことはなかった。
いずれにせよ魔族に狙われる以上、一つところに定住することは難しい。
それならば王様の支援を受けながら仕事を請け負っていった方が安全だし、ユーシを守れる可能性も高いだろう。
こうして、僕とユーシ、ノマド、それに聖剣ルーペの不思議な旅は始まるのだけれど、それはまた別のお話。
「どうせ僕たちを追って来るんだ。こんなとこで時間稼いでもしょうがないよ」
村民だって散り散りになってしまった方が追いかける方も手間だ。
「バ……バ……バカ。誇り高き王国騎士が何もせずに逃げるなんて出来るか!」
ノマドは真っ赤になって腕をふりほどく。
「なにもせずっていうか、きっちりやって壊滅までしたんでしょ。それなら堂々と敗走しようよ」
「はっきり言わないでよ!」
僕の言葉に、ノマドは勢いよく首を振る。
「ていうかこれ、国王家に伝わる秘宝なのよ。簡単に捨てないで」
話題を変えるようにノマドは床の頭蓋骨を拾い僕に渡した。
「王都に行けばこれを使える戦士もいると思うわ。貴方は騎士団本部を訪ねて団長に庇護を求めなさい」
覚悟が決まっている者特有の眼でノマドは立っている。
「ダ!」
ユーシが声をあげ、片手を天井に向けて突き出した。
「おお、マリア様の御子。貴方が逃げる時間は私が命を懸けてでも稼いで見せます。母上のように強く立派な戦士になるんですよ」
慈しむ眼で手を伸ばしたノマドは直前で異常な高温を思い出したのか手を止める。
「キャ!」
寝返りも打てないユーシの手が、ノマドの持つ頭蓋骨に触れた。
瞬間、まばゆい光が放出されて地鳴りのような音が響いた。
「これは!」
ノマドが驚いて叫ぶのだけど彼女の体が邪魔で何が起こっているかさっぱり見えない。すぐに光が消えると、ユーシの横には鞘のない長剣が置かれていた。
「せ……聖剣ルーペが目覚めた! ユーシ殿は聖剣士だ!」
驚くより先にすることがあるだろ!
僕はノマドを押しのけ、甥っ子の横から刃物を取り上げた。
「危ないじゃん、子供に刃物を近づけないでよ」
抗議をしながら剣を放ると、ノマドは慌てて避けた。
「ちょ、どっちが危ないのよ。それ、その剣が落ちた床、焦げてるんですけど!」
言われてみれば、聖剣ルーペは猛烈な熱気を放ち、落ちた床は真っ黒に炭化している。
「ダ!」
抱き上げろというユーシを担ぎ上げ、もう片方の手で聖剣を拾い上げる。
なるほど、聖剣か。不思議と使い方がわかる。
「平気なの?」
「まあ、ちょっとしたコツかな」
僕が曖昧にごまかしたとき、家が揺れた。
「この気配は、魔将軍よ!」
ノマドはすぐに剣を取り出し、玄関に走っていく。
僕もついて行って玄関脇の採光窓から覗くと、そこにいた。
青黒く光る巨大な魔物。周囲を睥睨し吐く息は空を飛ぶ鳥をバタバタと落としている。なるほど、多少腕が立とうが人間の敵う存在ではない。それこそ姉のように選ばれし者が努力をして初めて可能性が出てくる。そんな絶望の怪物は潜んで見ている僕の方に指を伸ばした。
『そこの陰に隠れている者、出てこい。さもなくばこの村を焼き払うぞ』
脅しではないだろう。眼前の魔族にとってそれはほんの児戯に等しいのは一見してわかる。たまたま、今そうなっていないのだってこの家が村はずれにあるからに他ならない。
「アンタは隠れていなさい」
ノマドは僕の耳元でささやいた。その体臭が甘く、心地よいなんて場違いな感想を脳裏から蹴り出すと、僕も彼女の耳元でささやき返す。
「多分、大丈夫。こっちには魔を滅する聖剣ルーペと、英雄マリアの息子がいるから」
驚いた顔をするノマドを押して玄関から外に出る。
魔将軍は眼前にすると一際巨大で恐ろしかった。
『見つけた! その赤子が天界の……!』
御託を並べる魔将軍に向けて剣を振ると、圧縮された魔力斬が巨大な手足を断ち切った。そのタイミングでこう振ればいいというのは聖剣から脳裏に伝わってくる。魔物殺しの聖剣は膨大な魔力を消費し、蓄積している知識を使う者に伝えるのだ。
変換効率の問題で、吸収されたのち利用できなかった魔力は熱となり刀身を赤光させていく。
いきなり押しかけて来たのだ。魔将軍もまさか卑怯とは言うまい。
地響きをたてて崩れる魔将軍に三度、剣を振ると聖剣も十分だと判断した。
『我を難なく倒すとは……貴様、転生者だな。神に送り込まれし魔殺しどもめ、まだ生き残りがおったか』
それだけ言うと、魔将軍は絶命した。
上位魔族は本来なら体液の一滴まで猛毒であるのだけど、ユーシの魔力が込められた聖剣の一撃は過剰な程加熱しており、死体のほとんどが炭化して流出を妨げられていた。このまま埋めれば大丈夫だろう。
「ちょっと、アンタすごいじゃない! なんで隠してたのよ!」
用が済むと聖剣は再び頭蓋骨に戻り、ユーシは満足そうにアブアブとやっている。
興奮したノマドは僕の背中を叩くのだけど、僕としても別に隠したつもりはない。
「これはね、ユーシの魔力とそれを元にした聖剣の力。僕はその両方を手に持っていただけなの。本当に荒事はダメなんだから」
「でも魔将軍も言っていたじゃない。アンタって転生者だったの?」
そんなのは前世の記憶があるというだけの話で、それも淡い夢のようなものである。価値観や知識もあるけれど、あればあるほど、あったからってどうにもならないということが見えてくるものだ。
「転生者ってなにか特異な能力を持っているんでしょう。アンタはどんな能力を持っているのよ?」
昂奮して早口になったノマドは少年の様な瞳で僕を見る。
「別にいいけどさ、君の空間魔術の方がよほど便利だよ。僕の能力は『熱伝導自在《ザ・デーモン》』。触れたものから熱を吸いあげ、他の場所から捨てることが出来るんだ。ほんのそれだけ」
熱の塊のようなユーシがいるから、湯を沸かしたりは便利だけれどもそれが戦闘能力に結びつくことは無かった。ほんの今まで。
「なに言ってるのよ。高温のユーシ殿とさらに高温になる聖剣を振り回せるのなんてアンタだけよ!」
ユーシ自身が成長すれば僕もお役御免なんだけど、現時点ではそうかもしれない。
「今回、王国騎士団は大きな痛手を被ったわ。魔族の侵攻は進んでいるというのにそれを押し戻すのは、現状の戦力では困難なの」
ノマドは大きく息を吸うと、僕の手を掴んだ。
「私と一緒に旅に出て。魔物殺しとしてアンタの力が必要になる場面がこれから沢山くるわ」
まっすぐの眼は、間近にすると神々しく光り、僕は反論できずに頷く。
今まで、英雄の弟として失望混じりに見られたことは多かったのだけど、こんなに力強い期待のまなざしを向けられたことはなかった。
いずれにせよ魔族に狙われる以上、一つところに定住することは難しい。
それならば王様の支援を受けながら仕事を請け負っていった方が安全だし、ユーシを守れる可能性も高いだろう。
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