歪んだ愛はお断りします ~断罪ルートを回避した悪役令息は、鬼畜寮長に囚われる~

南 コウ

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3章

52.寮長、好きです

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 リオンに拉致される騒動から、二週間が経過した。

 話し合いの結果、リオンは王都から離れた辺境の魔法学校に転校することになった。本来であれば、光属性で将来有望なリオンが学園に残り、僕が去るべきだったが、リオン本人が転校を強く希望したからだ。

 親族はリオンが王都の学園を離れることに反対していたが、最終的には本人の意思を尊重して、転入希望届けにサインをしてくれた。

 ちなみに副寮長のロランも、リオンとともに辺境の魔法学校に転校するそうだ。「彼をひとりにしておけないので……」と震えながらダミアンに報告していた姿は、印象的だった。
 怯えていたように見えたけど、一体何があったのか? ダミアンに尋ねても、はぐらかされてしまった。

 何はともあれ、リオンの傍にロランが付いているというのは、僕としても安心だ。これは僕の想像だけど、ロランはリオンに好意を寄せているんだと思う。このままロランルートに入って、新天地で愛を育んでくれたらと密かに期待していた。
 BL展開を間近で見られないのは惜しいが、遠い地で幸せになってくれるならそれで十分だ。

 それに今は、人の恋路の心配をしている場合ではない。

「おい、何をぼんやりしている。まだ二枚しか書けていないじゃないか」

 もの思いに耽っていると、ぼすんっと頭に本が降ってくる。隣に視線を向けると、不機嫌そうに僕を睨むダミアンがいた。

 そうだ。僕は綺石の館に赴いて、ダミアンの仕事を手伝っていたんだ。ここ最近は、僕絡みのトラブルの対処で、ダミアンの仕事が滞っていた。その遅れを取り戻すため、手紙の代筆を申し出たんだ。

「ご、ごめんなさい! すぐに作業に戻ります!」

 慌ててペンを握り直したものの、ダミアンは依然として眉間にしわを寄せている。

「貴様が何に思い悩んでいるのか、だいたい想像はつく」
「え?」
「リオン・マクミランのことだろう?」

 ギクッと口元を引きつらせると、ダミアンの表情がさらに険しくなる。

「正直、今の貴様を見ていると腹立たしい。俺ではなく、弟のことで気を揉んでいるなんて」
「し、嫉妬深いんですね」

 嫉妬魔人と化したダミアンに怯えていると、おもむろに手を握られる。

「来い」

 そう命じられた直後、僕は正面からダミアンと向き合う体勢になっていた。転移魔法で隣の席から膝の上に移したようだ。なんたる魔力の無駄遣い。

「駄目ですって! 寮長、足を怪我しているじゃないですか」
「ほとんど治りかけている。これくらいなら問題ない」

 ダミアンはそう言っているが、僕としては気がかりだった。

 馬車から突き落とされたダミアンは、脛骨を骨折していた。この数日間は、光の魔導士のもとに通って治療中だ。まだ完全には治りきっていないはずなのに、僕が膝に乗って良いはずがない。

「降ろしてください!」

 自力で降りようとするも、ダミアンに腰に手を回しているせいで動けない。僕が動くと怪我にも影響しそうだから、強くは抵抗できないし……。

「こうしていれば、俺のことしか考えられなくなるだろう?」

 ダミアンはにやりとほくそ笑む。確かにその通りだけど、これは強引過ぎないか?
 ダミアンは、僕との距離を埋めるように抱きすくめる。あまりの近さに、心臓が跳ね上がった。

「いい加減にしてください。まだ仕事も残っているんですよ」
「今は仕事のことも考えなくていい。俺のことだけ考えていろ」

 これでは何しに手伝いにきたのか分からない。ダミアンはより密着するように、ぎゅうぎゅうと抱きしめてきた。

 僕は小さくため息をつく。あの一件以来、ダミアンは余裕がなくなっているように見える。一時的とはいえ、僕が姿を消したことは、ダミアンとしてもショックだったようだ。

 どうしたら安心してくれるのだろうか? 抱きしめられながら考えを巡らせていると、ダミアンから沈んだ声で尋ねられた。

「嫉妬するのは、普通の恋には入らないか?」

 普通の恋。それは以前、僕が言い出したことだ。強引に迫っておきながらも、僕のペースに合わせようとしているのは意外だった。
 嫉妬すらも今は愛おしく思える。ダミアンの気持ちに寄り添うように、背中に腕を回した。

「入りますね。僕も寮長が、他の人のことで頭がいっぱいになっていたら嫉妬します」

 ぴくりとダミアンが反応する。何か言葉が返ってくると思いきや、ダミアンは押し黙ってしまった。

「あの、寮長?」
「……しばらくこのままでいさせてくれ」

 それは命令というよりは、お願いのように聞こえた。
 言われるがままダミアンの膝の上で大人しくしていると、ふうっと息を吐く音が聞こえてくる。

「アレン」
「なんですか?」

 抱きすくめられたまま尋ねると、ダミアンは躊躇いがちに続けた。

「リオン・マクミランにかけたような闇魔法は、俺には使わないと約束してくれ。あれは愛する者からかけられたら酷な魔法だ。愛情と憎悪が入り交じって、自ら手にかけてしまうかもしれない」

 ダミアンが言っているのは、「僕を憎め」とリオンに命じた闇魔法のことだろう。あの時は、リオンと決別するために使用してしまったが、あらためて考えれば酷な魔法だったことが分かる。光属性のリオンにどれほど効果があったかは、今となっては確かめようがないが。

「かけませんよ。寮長には嫌われたくないので」
 
 ダミアンの肩に顎を乗せながら約束する。だけどダミアンは、まだ安心はしてくれていないようだ。縋るように僕を抱きしめ続けている。

 そんな中、肝心なことをまだ伝えていないことに気付いた。
 二人きりで、良いムードになったら伝える。そう決めたじゃないか。今が絶好のチャンスだ。

 あらたまって伝えるのは緊張する。だけど、余裕がなくなっているダミアンを安心させるなら、この言葉がもっとも効果的だろう。
 バクバクと心臓が暴れまわるのを感じながら、僕は覚悟を決めた。

「寮長、好きです」

 口にした途端、ダミアンへの想いが膨れ上がる。僕自身も、ダミアンに抱く感情を真正面から受け止められた気がした。

 ダミアンはゆっくりと僕を離すと、驚いたように僕を見下ろす。このタイミングで「好き」と告げられるとは思っていなかったのだろう。

 そんなに見られら、余計に恥ずかしさが増していくから、やめていただきたい。目を逸らそうとすると、手のひらで後頭部を押さえられた。

 次の瞬間、二人の唇が触れ合う。不意打ちのキスに、僕の頭の中はパニックになった。
 思考が追い付かないうちにも、ダミアンはより深く求めるように舌をねじ込んできた。

「んっ……」

 熱くて柔らかい感触が伝わって、身体の芯から熱を帯びていく。逃げようとしても、ダミアンはしつこく追いかけてくる。結局逃げ場を失って、翻弄されてしまった。

 どうしよう。キスは何度かしてきたのに、今が一番幸せだ。
 想いが通じ合っているからか? 脳がジリジリと焼かれて、このまま昇天してしまいそうになった。

 限界だと訴えるようにダミアンの肩を叩くと、ようやく唇が離れる。ぬらっと濡れたダミアンの唇は、やけに煽情的に見えた。
 ぽやぽやとキスの余韻に浸っていると、ダミアンは真剣な表情で僕の肩を掴む。

「思いは通じ合ったんだ。抱くぞ」

「は、はい? いやいやいや、唐突過ぎませんか? そんなに潔く言っても駄目です! まだ仕事も残っていますし、まだ足だって治っていないでしょう?」

 怪我のことをあげると、ダミアンは表情を曇らせる。足が完治していない状態では、難しいことに気付いたようだ。

「くそっ、リオン・マクミランめ」

 口惜し気に悪態をつくと、ダミアンは僕の肩から手を離す。ひとまずは、この場で本番が始まらずにホッとした。
悔しがるダミアンを宥めるように、頬に手を添える。

「首輪で繋いでおかなくても、僕は逃げたりしませんから。今は怪我を治すことに専念してください」

 そうお願いすると、ダミアンは悩まし気な顔をしながらも頷いた。

「そう、だな……」

 分かってくれたようだ。これで解放してもらえると思いきや、ダミアンは不意に僕の耳元に顔を寄せる。

「怪我が治ったら、たっぷり可愛がってやるから、覚悟しておけ」

 たっぷり可愛がる……。想像しただけでも、脳が沸騰してしまいそうだ。
 耳元から離れて正面で向き合うと、ダミアンは蕩けたように微笑んだ。

「愛しているぞ、アレン」

 どきっと心臓が跳ねる。その笑顔も、その言葉も、原作では一度だって目にしたことがなかった。僕がシナリオを改変したことで、ダミアンの恋愛観が変わったというのか。

 そういうことなら、もうシナリオなんて気にしない。
 僕らは、原作以上に甘くて幸せなハッピーエンドを目指していこう。

【fin】
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