救国の魔女と滅国の皇子~プログラマーは魔法も作れる!?~

一条弥生

文字の大きさ
15 / 72
プログラマー、魔法技術者に転職する

15.取り分

しおりを挟む
「来たか嬢ちゃん。」

「お待たせして申し訳ありません。 」

「俺達が集まった時点で嬢ちゃんが着いてたら人間じゃないだろ。」

「そうですね...」

昼間に走った時の自分を思い出して苦笑いをした。

ラルさんが隣のイスを軽く叩いた。

村長のコンザさんの向かいであるその席に座った。

「昨日は挨拶ができなかったが、彼は補佐のハンソンだ。」

初老のハンソンさんの目は 私を訝しんでいた。

「昨日ご挨拶できず申し訳ありませんでした。椿、近衛です。」

「あんた、記憶が無いんだってたな。」

「はい。」

訝しげるのは当然だ。

何も警戒せず受け入れてくれたラルさん達の方が珍しい。

「サウルタイガーで得た金は、本当に分配でいいのかい?」

「はい。仕留めたのも解体して売ったのも村の方々ですし、素性の知れない私を助けてくださいましたから。」

「この国の金や物のことも覚えていないんだろ?」

「あっ。」

「説明してやるよ。この国の通貨の単位はネルクだ。金は4種類ある。鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、大金貨だ。鉄貨1枚が1ネルク。銅貨1枚が100ネルク、銀貨1枚が1,000ネルク、金貨1枚が10,000ネルク、大金貨1枚が100万ネルクだ。大金貨は金庫に金を入れる時のかさを減らすくらいでしか使われない。」

話を聞いているだけなのに、ハンソンさんの視線が痛い。

「この村の1人あたりの月収が1,700ネルク前後。サウルタイガーは金貨284枚で売れた。」

ラルさんから村の月収8ヶ月分くらいと聞いた時はピンとこなかったけど、物凄い額だ。

「嬢ちゃんはどうしたい。」

「あまり持っていると危険なので少額にしたいです。まずは金貨を1枚いただいて、街で必要な物を買い揃えます。その際に、長期滞在ができる宿の予約と物価の調査をします。準備に使った分と宿に払う分を差し引いて、銀貨1枚をもらえれば十分です。買い物はできる限り金貨1枚で押さえますし、あまればお返しします。」

もらいすぎだろうか。顔色を伺っていたら、村長が困りげに頭を掻いた。

「それだけでいいのか?」

「村の方の収入を考えると貰いすぎだと思ったんですけど...」

「ラル。この子には欲張るってことを教えてやれ。こんなお人好しじゃ、身ぐるみ剥がされちまう。」

「おい、本当にそれだけか?後で要求するんじゃないだろうな。」

「ハンソンさん!嬢ちゃんはそんな子じゃない!」

「二日で何がわかる。俺達を騙す気何じゃないのか。」

「疑われるのは当然です。ですが、その疑心暗鬼は論理的ではないと思います。」

「なんだと?」

「もし仮に私が村の皆さんを騙してお金をせしめる気なら、割に合わないと思いませんか?サウルタイガーは金貨284枚で売れたんですよね。村の月給8ヶ月分も儲かったというのは、逆に言えば、サウルタイガー討伐の8分の1しか収入がないんですよ。見た感じ、村に貯金があるとは思えませんし、旨味はほとんど無いでしょう。サウルタイガーをあの場所まで連れて来て倒し、自分で瀕死の怪我を偽装して助けられ、記憶のない演技をする。騙し取るにも時間が掛かるので、村の人を騙してお金を奪うなんて合理的ではありません。」

ハンソンさんはムッとした顔で黙り込んでしまった。

「ハンソン、この子の言う通りだ。うちの村を騙したところで利益があるとは思えん。」

ハンソンさんはもそもそ私の事が気に食わないんだ。

そっぽを向いてしまったのを見てそう思った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...