救国の魔女と滅国の皇子～プログラマーは魔法も作れる！？～

激動

７２．プロメテウス

「基本こっちと同じだよ。向こうは科学と医療技術が発達しているから、体内でどんなことが起こっているか解明されてるけど。」

「体内の変化？」

「例えば、脳が溶けたり。」

「脳みそが溶ける？ドラッグで？」

「うん。種類によって、脳以外の場所への影響は様々なんだけど、シンナーってドラッグは脳を溶かすの。ほら、カリエンで目が見えなくなった中毒者も居るって聞いたでしょ？あれはおそらくシンナーと同じ症状が起こって、脳の視覚を司る部分が溶けてしまって目が見えなくなったの。他にも、臓器に悪影響を及ぼして病気を発症したりする。」

「ツバキは中毒者に関わる仕事をしていたのか？」

「ううん。私の国では、子供の頃にドラッグの危険性について学ぶの。だから基礎知識だよ。ドラッグの被害を減らしたいなら、そういう教育が大事なの。」

「この国では難しいな…」

「クロードはドラッグの問題に取り組みたいの？」

「知り合いに何人か中毒者がいる。今はどこで何をしているかわからないが･･･実は、ドラッグに手を出す冒険者は少なくないんだ。」

「どうして？ 」

「一番の多いのは、魔物に立ち向かうのが怖いという理由だ。事情があって仕方なく冒険者になった奴もいる。そういう冒険者は立ち向かおうとする意思が弱く、恐怖を感じやすい。だから戦う時にドラッグを使う事で恐怖心を薄めて立ち向かえる様にするんだ。」

紛争地域の少年兵達は戦いの際にドラッグを摂取させられるとテレビで見た事を思い出した。彼らはドラッグを摂取しているから、脳みそが剥き出しでも向かって来るとアメリカ軍の元兵士が語っていた。

「だから気になった。だが、ドラッグの種類は様々だし、君でも魔法の治癒で中毒まで治すことは困難だ。今まで解決してきた問題とは訳が違う。国が本腰を入れて取り組まなければ根本的な解決には到らない問題だ。」

「そうだね。魔法を開発しても、対処療法止まりだと思う。私は切断されて直ぐならくっつけられるけど、時間が経ってたり、脳が溶ける様な長期間掛けてできた損傷は今のところ復元できないから、これが治癒の限界なんだと思う。これは余程の事が起こった時に取り組まない？」

「賛成だ。ツバキ、俺は人身売買の実態を調べたい。どうせ潰してもイタチごっこだから、解決には到らないだろうが、この街の人身売買の件、どうも気になるんだ。」

「気になる？」

「ああ。冒険者の勘だが、人身売買のグループがいるというだけじゃない気がする。」

「わかった。クロードの勘には従った方がいいもん。」

「ありがとう。ツバキ、そろそろプロメテウスも俺達を見付けだす頃だ。何をしてでもツバキを手に入れようとする筈だから、気を付けよう。」

「わかった。」

プロメテウス、魔管のレジスタンスの組織名だ。 

クロードから聞いたレジスタンス達の活動内容は、とてもじゃないけど、神の名を騙かたるのは烏滸おこがましいものだった。