影の多重奏：神藤葉羽と消えた記憶の螺旋

1章

日常と影

朝。澄み渡る青空の下、葉羽はいつものように学校へと向かっていた。隣には、幼馴染の彩由美がいる。

「ねえ、葉羽くん、昨日の数学の宿題、できた？」

彩由美の明るい声が、葉羽の重苦しい心を少しだけ軽くする。

「ああ、簡単だったよ。何か分からないところがあったのか？」

「ううん、別に。ただ、葉羽くんがどんな風に解くのか、ちょっと気になっただけ」

彩由美は、少し照れくさそうに頬を染めた。葉羽は、そんな彼女を見て、思わず微笑んだ。

「そうか。なら、後で一緒に答え合わせでもしようか」

「うん！」

彩由美は、満面の笑みで頷いた。

葉羽は、彩由美の笑顔を見つめながら、昨夜の出来事を思い出していた。あの黒い箱は、本当に幻覚だったのだろうか？それとも…。

その時、校門の近くで、生徒たちが何やら騒いでいるのが聞こえてきた。

「…聞いた？最近、学校で奇妙なことが起こってるんだって」

「…ああ、幽霊が出るって噂、知ってる？」

不吉な言葉が、葉羽の耳に届く。彼は、嫌な予感を覚えながら、騒ぎの方へと近づいていった。人だかりをかき分け、葉羽は騒ぎの中心へと近づいた。すると、数人の生徒が怯えた様子で話し合っているのが見えた。

「…昨日、夜遅くまで学校に残ってたんだけど、急に電気が消えて…」

「…それで？何か見たのか？」

「…いや、何も見てないんだけど…誰かの視線を感じて…すごく怖かった」

別の生徒が口を開いた。

「…私も、この前、図書室で本を読んでたら、急に寒気がして…まるで、誰かに見られてるような気がしたの」

葉羽は、彼らの話を聞きながら、昨夜の出来事を思い出していた。あの黒い箱、そして窓の外の気配。もしかしたら、これらの出来事は全て繋がっているのかもしれない。

「…幽霊なんているわけないだろ」

葉羽は、冷静を装いながら言った。しかし、内心では、得体の知れない不安が渦巻いていた。

「…でも、最近、こういう話がすごく多いのよ。もしかしたら、本当に何かいるのかも…」

彩由美は、不安そうに葉羽の腕にしがみついた。彼女の怯えた様子を見て、葉羽は決意を固めた。

「…分かった。少し調べてみるよ」

葉羽は、彩由美の頭を優しく撫でながら言った。

「…でも、葉羽くん、気をつけてね。あまり無理しないで」

「ああ、大丈夫だよ。心配するな」

葉羽は、力強く頷いた。

放課後、葉羽は図書室に向かった。彼は、学校の歴史や怪談について書かれた本を探し、手がかりを見つけようとしていた。

図書室は静まり返っており、葉羽以外には誰もいなかった。窓の外からは、夕日が差し込み、長い影が床に伸びている。静寂の中、葉羽はかすかな物音に気づいた。それは、まるで誰かが本棚の奥で何かをしているような音だった。

葉羽は、音を頼りに本棚の奥へと進んでいった。すると、そこには、小さな黒い箱が置かれていた。それは、昨夜、葉羽の部屋にあったものと全く同じだった。

葉羽は、息を呑んだ。これは、現実なのか？それとも、また幻覚を見ているのだろうか？

その時、背後から、冷たい手が葉羽の肩に触れた。