影の多重奏：神藤葉羽と消えた記憶の螺旋

15章

葉羽の推理(2)

廃工場内に仕掛けられた謎解きは、どれも難解なものだった。暗号、パズル、そして、論理問題。葉羽は、持てる限りの知識と推理力を駆使して、一つずつ謎を解き明かしていった。

しかし、葉羽は、次第に違和感を覚え始めた。謎解きの難易度が、不自然に高く、まるで、わざと解けないように作られているかのように思えたのだ。

「…これは、ミスリードだ…」

葉羽は、呟いた。犯人は、葉羽に偽の手がかりを与え、彼を迷宮へと誘い込もうとしている。

葉羽は、一度冷静になり、これまでの出来事を振り返った。黒い箱、囁き声、催眠術、多重人格、5年前の失踪事件、謎の男、そして、廃工場の謎解き。これらのピースを繋ぎ合わせることで、真犯人の正体、そして、その目的が見えてくるはずだ。

葉羽は、深呼吸をし、集中力を高めた。彼は、偽の手がかりに惑わされず、真実を見抜くために、論理の糸を紡ぎ始めた。

そして、ついに、葉羽は、一つの結論にたどり着いた。

「…犯人は、鴉羽黒音だ。彼は、催眠術を使って、複数の人格を作り出し、操っている。そして、黒い箱は、その催眠術を増幅させるための装置だ」

葉羽は、確信に満ちた声で言った。

「…しかし、彼の目的は何だ？なぜ、このような複雑な方法で、人々を操っているんだ？」

葉羽は、自問自答した。

その時、彼は、5年前の失踪事件の被害者、佐倉茉莉の日記に書かれていた複数の名前を思い出した。そして、それぞれの名前の横に書かれていた言葉、「もうすぐだ…」

「…もうすぐだ…一体、何がもうすぐなんだ…？」

葉羽は、考え込んだ。

その時、廃工場の奥から、微かな光が漏れているのが見えた。葉羽は、光の方へと向かった。

光は、小さな部屋から漏れていた。葉羽は、ドアノブに手をかけ、ゆっくりとドアを開けた。

部屋の中央には、椅子に縛り付けられた彩由美の姿があった。そして、彼女の目の前には、鴉羽黒音が立っていた。

「…彩由美！」

葉羽は、叫んだ。

黒音は、葉羽に気づくと、不気味な笑みを浮かべた。

「…ようこそ、神藤葉羽くん。私のゲームへ…」