影の多重奏：神藤葉羽と消えた記憶の螺旋

19章

どんでん返し(1)

翠のナイフが、葉羽の胸に届く寸前、銃声が響き渡った。翠は、その場に崩れ落ちた。

銃を構えていたのは、灰塚刑事だった。彼は、息を切らしながら、葉羽たちに駆け寄ってきた。

「…大丈夫か、神藤くん、望月さん？」

灰塚刑事は、二人に声をかけた。

「…ああ、なんとか…」

葉羽は、答えた。

「…しかし、なぜ、あなたがここに…？」

葉羽は、灰塚刑事の出現に驚いていた。

「…君からの電話の後、すぐに廃工場に向かったんだ。だが、途中で、何者かに襲われ、意識を失ってしまった。気がついたら、ここにいた」

灰塚刑事は、説明した。

「…何者かに襲われた…？」

葉羽は、眉をひそめた。一体、誰が、灰塚刑事を襲ったのか？

その時、葉羽は、あることに気づいた。翠が持っていたナイフには、血がついていなかった。

「…翠、お前は、彩由美を殺すつもりはなかったのか…？」

葉羽は、翠に尋ねた。

翠は、意識朦朧とした状態で、かすかに頷いた。

「…私は…黒音様に操られていた…でも、彩由美ちゃんを…殺したくはなかった…」

翠の言葉に、葉羽は衝撃を受けた。黒音は、翠を操り、彩由美を殺させようとしていた。しかし、翠は、最後の最後で、黒音の支配から逃れ、彩由美を助けたのだ。

「…黒音…一体、何者なんだ…？」

葉羽は、呟いた。

その時、工場の奥から、黒音の声が聞こえてきた。

「…フフフ…面白いですね、神藤葉羽くん。あなたは、私のゲームのルールを、まだ理解していないようですね」

黒音は、暗闇の中から姿を現した。彼の顔には、不気味な笑みが浮かんでいた。

「…黒音、貴様の目的は何だ！？」

葉羽は、黒音に詰め寄った。

「…私の目的は、あなたに、絶望を味わわせることです。あなたに、全てを失わせる苦痛を味わわせることです」

黒音は、冷酷な口調で言った。

「…一体、なぜ…？」

葉羽は、理解できなかった。

「…それは、あなたが、私と同じだからです。あなたもまた、多重人格者なのです」

黒音の言葉に、葉羽は、言葉を失った。