推理の果てに咲く恋

3章

図書室の密会

第3章: 図書室の密会

夕暮れ時、学校の図書室に静寂が満ちていた。放課後の薄暗い空間に、本の匂いが漂う。神藤葉羽は、書架の間を静かに歩きながら、目的の本を探していた。

「ここにあるはずなんだが...」

葉羽の指が本の背表紙を一冊ずつ確認していく。その時、背後から軽い足音が聞こえた。

「葉羽くん？」

振り返ると、そこには望月彩由美が立っていた。夕日に照らされた彼女の姿に、葉羽は一瞬、言葉を失う。

「彩由美...こんな時間まで学校にいたのか？」

「うん、ちょっと調べものがあって...」

彩由美の声には、どこか落ち着かない様子が感じられた。葉羽の鋭い観察眼が、そんな彼女の微妙な変化を見逃すはずがない。

「そうか...」葉羽は一旦話題を変えることにした。「実は俺も、ある本を探しているんだ」

「どんな本？」彩由美が興味深そうに尋ねる。

「ああ、これだ」葉羽は手元のメモを見せる。そこには「暗号解読の基礎」という題名が書かれていた。

彩由美の目が少し大きくなる。「暗号...？それって、何かあったの？」

葉羽は少し躊躇したが、彩由美なら信頼できると判断し、拾った紙切れのことを話した。

「X=3、Y=7、Z=?...確かに不思議ね」彩由美が首をかしげる。

二人は図書室の奥にある小さなテーブルに座り、紙切れの謎について話し合い始めた。外の空が徐々に暗くなっていく中、二人の会話は続く。

「もしかして、これって座標を表しているのかな？」彩由美が突然言い出した。

葉羽の目が輝いた。「なるほど！そう考えると...」

彼らの会話は、次第に学校で起きている奇妙な出来事へと移っていった。

「最近、先生たちの様子がおかしくない？」葉羽が慎重に切り出す。

彩由美の表情が一瞬こわばる。「え...そう？私は気づかなかったけど...」

葉羽は彩由美の反応を見逃さなかった。「彩由美、何か知っているんじゃないか？」

緊張が漂う沈黙。彩由美は葉羽の真剣な眼差しに、言葉を失う。

「私は...」

その時、図書室のドアが開く音がした。二人は驚いて振り向く。

そこには学校の用務員、佐藤さんが立っていた。「おや、まだ生徒さんがいたのか。もう閉館時間だよ」

葉羽と彩由美は慌てて立ち上がる。「すみません、すぐに出ます」

二人が図書室を出る時、佐藤さんの目が二人を追う。その視線には、どこか不自然な鋭さがあった。

校門を出た後、葉羽は彩由美に向き直った。「さっきの話の続きだけど...」

しかし彩由美は、急いで話を遮った。「ごめん、葉羽くん。今日はもう遅いから、また今度ね」

そう言って彩由美は足早に去っていった。葉羽は彼女の背中を見つめながら、何かが起きていることを確信した。

「彩由美...君は一体何を隠しているんだ？」

夜の帳が降りる中、葉羽の胸に決意が芽生える。この謎を解き明かすこと、そして彩由美を守ること。その二つの思いが、彼の心の中で固く結びついた。

家路につく葉羽。街灯に照らされた道を歩きながら、彼は今日の出来事を頭の中で整理していた。図書室での会話、彩由美の様子、そして最後の佐藤さんの不自然な態度。

「全てが繋がっているはずだ...」

葉羽は空を見上げた。星々が瞬いている。その光の中に、彼は真実への道筋を見出そうとしていた。明日からの学校生活が、これまでとは全く違うものになることを、葉羽はまだ知らない。

しかし、彼の心の中には、未知の謎への興奮と、大切な人を守りたいという強い思いが、静かに、しかし確実に燃え始めていた。