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3章
消えた証拠
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俺の目覚めは、病院のベッドの上だった。
「葉羽くん!」 病室の椅子に座っていた彩由美が飛び上がる。 「よかった...やっと目を覚ましたんだね」
「どれくらい...」 喉が乾いていた。
「三日よ」 彩由美が水の入ったコップを差し出す。 「私は一日で目が覚めたんだけど、葉羽くんはずっと...」
三日。その間、俺の意識は量子の檻の残像と現実との境界をさまよっていたのかもしれない。
「彩由美、あの時の...」
「うん」 彼女は俺の言葉を遮るように頷く。 「私も全部覚えてる。でも...」
彼女はスマートフォンを取り出し、ニュースサイトを見せた。
『霧島研究所で不審な装置発見されず』 『警察、事件性なしと判断』 『水沢真理助手、事情聴取で「通常の研究活動だった」と証言』
「これは...」 俺は身を起こそうとして、激しい頭痛に襲われた。
「気をつけて!」 彩由美が慌てて支える。その時、彼女の腕に奇妙な模様が目に入った。
「その痣...」
彼女の腕には、まるで量子の軌道を描いたような幾何学模様が浮かび上がっていた。
「葉羽くんにもあるの」 彩由美が静かに言う。 「背中に」
ベッドに備え付けられた小さな鏡を手に取り、背中を確認する。確かにそこには、同じような幾何学模様が。しかし、その模様は時間と共に変化しているように見えた。
「これって...」
その時、病室のドアが開いた。
「お二人とも、ご気分はいかがですか?」
白衣を着た中年の医師...のはずだった。しかし、その姿が一瞬、水沢真理の姿と重なって見えた。
「!」 俺と彩由美は思わず顔を見合わせる。
「あの...先生」 俺は慎重に言葉を選ぶ。 「私たちの検査結果は?」
「ああ」 医師はカルテに目を落とす。 「すべて正常です。むしろ、異常なほど健康な数値ですね」
そう言いながら、医師は俺たちの体に現れた模様には一切言及しない。まるで、それが見えていないかのように。
医師が去った後、俺は即座にスマートフォンを手に取った。三日前の記録を確認しようとしたが...
「消えてる」 記録は完全に削除されていた。写真も、メモも、録音も。まるで、あの夜の出来事が最初から存在しなかったかのように。
「私のも」 彩由美も同じ状況のようだった。
しかし、部屋の隅に置かれていた装置のことは、俺の記憶に鮮明に残っている。あれは確かに...
「葉羽くん、聞いて」 彩由美の声が震えていた。 「昨日の夜、夢を見たの。でも、夢じゃなかったかもしれない」
「どんな...?」
「水沢さんが現れて、こう言ったの」 彩由美は深く息を吸って続けた。 『観測は継続中。あなたたちは既に実験の一部。逃げることはできない』
その瞬間、病室の照明が明滅した。わずか1秒の出来事。しかし、その間に俺たちは確かに見た。
空間が歪み、別の次元が覗いているような光景を。
「葉羽くん、私たち...」 彩由美の声が途切れる。
「ああ」 俺は静かに頷いた。 「まだ終わっていない。むしろ、本当の実験はこれから始まるんだ」
そして、俺たちの体の模様が、かすかに輝きを放ち始めた...。夜の病院は、異様な静けさに包まれていた。
「おかしい」 俺は廊下に耳を澄ませる。 「看護師の巡回の気配がない」
病室を出てすぐ、俺たちは違和感に気付いていた。人の気配が全くない。まるで、この階全体が異次元に切り離されたかのように。
「葉羽くん、見て」 彩由美が窓の外を指さす。
外の景色が、微かに歪んでいる。街灯の光が不自然に曲がり、建物の輪郭がぼやけている。そして...
「星が...消えてる」 夜空には一つも星が見えない。漆黒の虚無だけが広がっていた。
その時、俺たちの体の模様が再び輝きを放つ。
「うっ...」 彩由美が苦しそうに体を折り曲げる。 「頭の中で...声が」
俺にも聞こえ始めた。複数の声が重なり合う、量子の共鳴のような音。その中に、はっきりとしたメッセージが混じっている。
『実験データ収集中...被験者の量子状態、安定。次相への移行準備完了』
「逃げるぞ!」 俺は彩由美の手を取り、非常階段へと駆け出した。
しかし、階段を降りるたびに、空間がより歪んでいく。5階、4階、3階...
「ちょっと待って」 彩由美が立ち止まる。 「この階...さっき通ったよね?」
確かにそうだった。いや、それ以上に...
「ループしてる」 俺は気付いた。 「俺たちは同じ空間を何度も通過している」
その瞬間、廊下の突き当たりに人影が現れた。白衣を着た水沢真理。しかし、その姿は半透明で、まるでホログラムのよう。
「よく気付きましたね」 彼女の声が、空間全体から響く。 「これが量子の檻の真髄です。観測による現実の固定化」
「どういうことだ?」 俺は彩由美を守るように前に立つ。
「あなたたちの体に現れた模様」 水沢が続ける。 「あれは量子もつれの痕跡。あなたたちは既に、観測者であり被観測者。実験の一部であり、実験そのものなのです」
その時、俺の記憶が急速に整理されていく。研究所で見た装置、消えた証拠、そして今の状況...全てが繋がった。
「まさか」 俺は震える声で言った。 「霧島教授は成功していた。人間の意識を量子状態で保存することに」
「そう」 水沢の姿が徐々に実体化していく。 「でも、それは副産物に過ぎない。本当の目的は...」
突然、病院全体が激しく振動し始めた。壁が溶け、床が波打ち、天井が消失していく。
「葉羽くん!」 彩由美の声が遠のく。
俺は必死で彼女の手を掴もうとしたが、既に遅かった。空間が完全に崩壊を始めている。
最後に見たのは、水沢の完全な姿。そして、彼女の背後に広がる無数の式と数字の渦。その中に、決定的な情報が含まれているはずだった。
意識が闇に沈む直前、俺は確信していた。
これは終わりではない。 むしろ、本当の実験の始まり。
そして、俺たちの体の模様は、その鍵を握っているはずだ...。
「葉羽くん!」 病室の椅子に座っていた彩由美が飛び上がる。 「よかった...やっと目を覚ましたんだね」
「どれくらい...」 喉が乾いていた。
「三日よ」 彩由美が水の入ったコップを差し出す。 「私は一日で目が覚めたんだけど、葉羽くんはずっと...」
三日。その間、俺の意識は量子の檻の残像と現実との境界をさまよっていたのかもしれない。
「彩由美、あの時の...」
「うん」 彼女は俺の言葉を遮るように頷く。 「私も全部覚えてる。でも...」
彼女はスマートフォンを取り出し、ニュースサイトを見せた。
『霧島研究所で不審な装置発見されず』 『警察、事件性なしと判断』 『水沢真理助手、事情聴取で「通常の研究活動だった」と証言』
「これは...」 俺は身を起こそうとして、激しい頭痛に襲われた。
「気をつけて!」 彩由美が慌てて支える。その時、彼女の腕に奇妙な模様が目に入った。
「その痣...」
彼女の腕には、まるで量子の軌道を描いたような幾何学模様が浮かび上がっていた。
「葉羽くんにもあるの」 彩由美が静かに言う。 「背中に」
ベッドに備え付けられた小さな鏡を手に取り、背中を確認する。確かにそこには、同じような幾何学模様が。しかし、その模様は時間と共に変化しているように見えた。
「これって...」
その時、病室のドアが開いた。
「お二人とも、ご気分はいかがですか?」
白衣を着た中年の医師...のはずだった。しかし、その姿が一瞬、水沢真理の姿と重なって見えた。
「!」 俺と彩由美は思わず顔を見合わせる。
「あの...先生」 俺は慎重に言葉を選ぶ。 「私たちの検査結果は?」
「ああ」 医師はカルテに目を落とす。 「すべて正常です。むしろ、異常なほど健康な数値ですね」
そう言いながら、医師は俺たちの体に現れた模様には一切言及しない。まるで、それが見えていないかのように。
医師が去った後、俺は即座にスマートフォンを手に取った。三日前の記録を確認しようとしたが...
「消えてる」 記録は完全に削除されていた。写真も、メモも、録音も。まるで、あの夜の出来事が最初から存在しなかったかのように。
「私のも」 彩由美も同じ状況のようだった。
しかし、部屋の隅に置かれていた装置のことは、俺の記憶に鮮明に残っている。あれは確かに...
「葉羽くん、聞いて」 彩由美の声が震えていた。 「昨日の夜、夢を見たの。でも、夢じゃなかったかもしれない」
「どんな...?」
「水沢さんが現れて、こう言ったの」 彩由美は深く息を吸って続けた。 『観測は継続中。あなたたちは既に実験の一部。逃げることはできない』
その瞬間、病室の照明が明滅した。わずか1秒の出来事。しかし、その間に俺たちは確かに見た。
空間が歪み、別の次元が覗いているような光景を。
「葉羽くん、私たち...」 彩由美の声が途切れる。
「ああ」 俺は静かに頷いた。 「まだ終わっていない。むしろ、本当の実験はこれから始まるんだ」
そして、俺たちの体の模様が、かすかに輝きを放ち始めた...。夜の病院は、異様な静けさに包まれていた。
「おかしい」 俺は廊下に耳を澄ませる。 「看護師の巡回の気配がない」
病室を出てすぐ、俺たちは違和感に気付いていた。人の気配が全くない。まるで、この階全体が異次元に切り離されたかのように。
「葉羽くん、見て」 彩由美が窓の外を指さす。
外の景色が、微かに歪んでいる。街灯の光が不自然に曲がり、建物の輪郭がぼやけている。そして...
「星が...消えてる」 夜空には一つも星が見えない。漆黒の虚無だけが広がっていた。
その時、俺たちの体の模様が再び輝きを放つ。
「うっ...」 彩由美が苦しそうに体を折り曲げる。 「頭の中で...声が」
俺にも聞こえ始めた。複数の声が重なり合う、量子の共鳴のような音。その中に、はっきりとしたメッセージが混じっている。
『実験データ収集中...被験者の量子状態、安定。次相への移行準備完了』
「逃げるぞ!」 俺は彩由美の手を取り、非常階段へと駆け出した。
しかし、階段を降りるたびに、空間がより歪んでいく。5階、4階、3階...
「ちょっと待って」 彩由美が立ち止まる。 「この階...さっき通ったよね?」
確かにそうだった。いや、それ以上に...
「ループしてる」 俺は気付いた。 「俺たちは同じ空間を何度も通過している」
その瞬間、廊下の突き当たりに人影が現れた。白衣を着た水沢真理。しかし、その姿は半透明で、まるでホログラムのよう。
「よく気付きましたね」 彼女の声が、空間全体から響く。 「これが量子の檻の真髄です。観測による現実の固定化」
「どういうことだ?」 俺は彩由美を守るように前に立つ。
「あなたたちの体に現れた模様」 水沢が続ける。 「あれは量子もつれの痕跡。あなたたちは既に、観測者であり被観測者。実験の一部であり、実験そのものなのです」
その時、俺の記憶が急速に整理されていく。研究所で見た装置、消えた証拠、そして今の状況...全てが繋がった。
「まさか」 俺は震える声で言った。 「霧島教授は成功していた。人間の意識を量子状態で保存することに」
「そう」 水沢の姿が徐々に実体化していく。 「でも、それは副産物に過ぎない。本当の目的は...」
突然、病院全体が激しく振動し始めた。壁が溶け、床が波打ち、天井が消失していく。
「葉羽くん!」 彩由美の声が遠のく。
俺は必死で彼女の手を掴もうとしたが、既に遅かった。空間が完全に崩壊を始めている。
最後に見たのは、水沢の完全な姿。そして、彼女の背後に広がる無数の式と数字の渦。その中に、決定的な情報が含まれているはずだった。
意識が闇に沈む直前、俺は確信していた。
これは終わりではない。 むしろ、本当の実験の始まり。
そして、俺たちの体の模様は、その鍵を握っているはずだ...。
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