運命のパズル

2章

彩由美との出会い直し

第2章: 彩由美との出会い直し

図書室の静寂を破るように、彩由美の声が響いた。葉羽は思わず身を硬くした。幼なじみとはいえ、最近はほとんど話をしていなかった彼女が、なぜここにいるのか。
「彩由美...」葉羽は小さく呟いた。
彩由美は柔らかな笑顔を浮かべながら、葉羽の座る机に近づいてきた。彼女の長い黒髪が揺れ、かすかな花の香りが漂う。
「久しぶりね、葉羽くん。いつも見かけるけど、なかなか話す機会がなくて...」
彩由美は少し照れくさそうに言った。葉羽は、彼女の大きな瞳に吸い込まれそうになりながら、慌てて視線をそらした。
「ああ、そうだな...」葉羽は素っ気なく返事をした。しかし、心の中では動揺を隠せずにいた。
彩由美は葉羽の隣の椅子に座り、彼が読んでいた本に目をやった。
「また難しそうな本を読んでるのね。葉羽くんって、昔から頭良かったもんね」
「別に...」葉羽は言葉を濁した。彼女の優しい言葉に、どう反応すればいいのか分からなかった。
「ねえ、葉羽くん。実は、あなたに相談があって...」
彩由美の声のトーンが少し変わった。葉羽は思わず顔を上げ、彼女をまっすぐ見た。
「相談？」
「うん...実は、学園祭の実行委員に選ばれちゃって...」彩由美は少し困ったような表情を浮かべた。「でも、私にはそんな才能ないし...葉羽くんなら、きっと素晴らしいアイデアを出せると思って...」
葉羽は眉をひそめた。学園祭なんて、彼にとっては興味のない行事だった。しかし、彩由美の真剣な眼差しに、何か言わざるを得ない気がした。
「僕は...そういうのは得意じゃない」葉羽は言った。「それに、推理小説を読むのに忙しくて...」
「そっか...」彩由美の表情が曇った。「ごめんね、無理なお願いをして...」
彩由美が立ち上がろうとしたその時、葉羽の中で何かが動いた。
「待って」葉羽は思わず彩由美の手を掴んでいた。「...考えてみる」
彩由美の顔が明るくなった。「本当？ありがとう、葉羽くん！」
葉羽は自分の行動に驚きながらも、彩由美の笑顔に心が温かくなるのを感じた。
「じゃあ、明日の放課後、図書室で会おう。学園祭のアイデアを一緒に考えよう」
彩由美は嬉しそうに頷いた。「うん、約束ね！」
彩由美が去った後、葉羽は深いため息をついた。なぜ自分がそんなことを言ったのか、理解できなかった。しかし、彼女との約束を思い出すと、不思議と胸が高鳴るのを感じた。
その夜、葉羽は久しぶりに推理小説以外のことを考えていた。彩由美との思い出、そして明日の約束。彼の心に、小さな変化が芽生え始めていた。
翌日の放課後、葉羽は約束通り図書室に向かった。彩由美はすでに到着しており、明るい笑顔で彼を迎えた。
「葉羽くん、来てくれたんだ！」
彩由美の声には、安堵と喜びが混ざっていた。葉羽は少し照れくさそうに頷いた。
「約束したからな...」
二人は向かい合って座り、学園祭のアイデアについて話し合い始めた。最初は気まずい雰囲気だったが、徐々に会話が弾んでいく。
「ねえ、葉羽くん。推理小説の要素を取り入れた企画はどうかな？」彩由美が突然提案した。
葉羽は驚いて顔を上げた。「推理小説？」
「うん。葉羽くんの大好きな推理小説の要素を使って、謎解きイベントみたいなのをやるの。来場者みんなで謎を解いていく...」
彩由美の言葉に、葉羽の目が輝いた。彼の頭の中で、様々なアイデアが浮かび始める。
「それは...面白いかもしれない」
葉羽は久しぶりに、推理小説以外のことに興味を持った。彩由美との会話を通じて、彼の閉ざされた世界が少しずつ開いていく。
そして、彼らはまだ気づいていなかった。この学園祭の企画が、思いもよらない事件の引き金になることを...。