天才の孤独と推理の始まり

2章

運命の再会

第2章: 「運命の再会」

翌日の放課後、神藤葉羽は学校を出ると、自然と彩由美のことが頭に浮かんでいた。あの「鍵」に関する違和感が、一晩経っても消えなかったのだ。彩由美の家には、特に怪しいものはないはずだ。彼女の家族は至って普通の家庭だし、彩由美自身も、どこか秘密を持つような性格ではない。それでも、なぜあの鍵だけが妙に引っかかるのか。

葉羽は、推理小説を読みすぎたせいで、些細な出来事に敏感になっているのかもしれない、と自分を落ち着かせようとした。だが、頭の片隅で「何か」がこの鍵を中心に動き出していると感じていた。普段は冷静な葉羽だが、今回ばかりはその直感を無視することができなかった。

そんなことを考えながら、葉羽は家路につく途中、偶然にも彩由美を見かけた。彼女は、小さなカフェの前で誰かを待っているようだった。葉羽は、少し躊躇したものの、自然と彼女の方に足を向けた。彩由美が気づく前に、彼女の手元にあるスマートフォンの画面に目が留まった。そこには、葉羽が見慣れないメッセージアプリが表示されていた。

「葉羽くん！」

彩由美が葉羽の姿に気づき、明るく声をかけた。その声に驚いた葉羽は、彼女の画面から視線を慌てて逸らし、笑顔で応えた。

「やあ、彩由美。ここで何してるの？」

「ちょっと、待ち合わせしてて……って言っても、まだ相手は来てないんだけどね。」

「待ち合わせ？」葉羽は少し興味をそそられた。「誰かと？」

彩由美は一瞬ためらったが、すぐに笑顔を見せた。

「うん、ちょっとね。最近知り合った人なんだけど、偶然いろんなところで顔を合わせるんだ。なんだか不思議な縁って感じでさ。」

その瞬間、葉羽の脳裏にまたしても違和感が浮かんだ。彩由美は、以前から友人関係は狭く、親しい人間以外にはあまり近づかないタイプだった。それが、最近知り合った相手との待ち合わせ？しかも、あの鍵の話をした直後に――。

「どんな人なの？」葉羽は軽く尋ねたが、その声には自然と鋭さが滲んでいた。

「うーん、なんて言えばいいのかな。ちょっと年上なんだけど、すごく話しやすい人で、私のこともすごく気にかけてくれてるの。でも、まだよく知らない部分も多くて……」

彩由美の説明は、明らかに曖昧だった。彼女自身も、その相手について深く考えていないように見える。しかし、葉羽はその「まだよく知らない部分」という言葉に、ひっかかりを覚えた。彩由美ほどの社交性のない人物が、短期間で親しくなった相手がいるということ自体が、すでに異常だ。

「その人と、どこで知り合ったの？」

「えっと……最初は本屋だったかな？それから何度かいろんな場所でばったり会って、話すようになったんだよ。」

「偶然ばったり？」葉羽の心に、また一つの謎が芽生える。偶然がこんなにも頻繁に起こるものだろうか。まるでその相手が意図的に彩由美に接触しているかのように思えた。

葉羽はその場で何かを掴もうとしたが、彩由美の天然な性格がそれをすり抜けていくようだった。彼女自身は特に疑念を抱いていないようだが、葉羽の頭の中では、これまでとは違う推理の糸が張り巡らされていた。

「そういえば、この間の鍵、どうなった？」葉羽は突然話題を切り替えた。

「ああ、あの鍵？まだどこに使うかはわかってないんだけど、実はその人に相談してみたら、『何かに使えるかもしれないから大事にしといた方がいい』って言われたの。」

葉羽の警戒心が一気に高まった。その「知らない誰か」が彩由美の鍵に興味を持ったのだ。葉羽の直感が警鐘を鳴らし始めた。彩由美は、何も気づいていないかもしれないが、彼女はすでに何かの計画の中に巻き込まれているのではないか？

「鍵を見せてくれないか？」

「いいよ、はい。」

彩由美はポケットから例の鍵を取り出した。それは小さく、シンプルな作りでありながらも、どこか古びた風合いがあった。葉羽はその鍵を手に取り、しばらく眺めた後、ふと妙な感覚に襲われた。この鍵、何かに似ている――。だが、それが何なのかはまだはっきりと思い出せない。

「ありがとう。何かの役に立ちそうだよ。」葉羽は慎重に言葉を選んだ。

その時、カフェの入口のベルが鳴り、葉羽と彩由美は同時に振り向いた。そこには、背の高い男性が立っていた。彩由美が待っていた相手だろうか。彼の顔はどこか親しみやすいように見えたが、その目には鋭い光が宿っていた。

「やあ、彩由美さん。お待たせ。」

その声を聞いた瞬間、葉羽は心の中で直感が警告を発するのを感じた。この男、ただの偶然の知り合いではない――。何かが動き出しているのだ。