時間の錯覚と虚偽記憶

3章

奇妙な事件の予感

第3章：奇妙な事件の予感

あの日から一週間が経過した。佐倉量子の転校以来、学校の雰囲気が少しずつ変わっていくのを、葉羽は敏感に感じ取っていた。

放課後、葉羽はいつものように図書室で推理小説を読んでいた。そこに彩由美が息を切らして駆け込んできた。

「葉羽くん！大変なの！」

普段は穏やかな彩由美がこれほど動揺している姿を見るのは珍しかった。葉羽は本を閉じ、真剣な眼差しで彩由美を見つめた。

「どうしたんだ？」

「ね、ね、新聞見た？学校の近くの量子物理学研究所で奇妙な現象が起きたんだって！」

彩由美は手に持っていた地元紙を葉羽に差し出した。そこには「量子研究所で謎の光現象 - 科学では説明できない事態に専門家も困惑」という見出しが躍っていた。

葉羽は記事を素早く読み進めた。研究所の中で突如として青白い光が発生し、それが研究所全体を包み込んだという。しかし、光が消えた後、研究所の中は何事もなかったかのように元通りだったという。

「これは...」
葉羽の頭の中で、様々な可能性が駆け巡った。そして、ある一つの考えに行き着いた。

「佐倉の父親の研究所か？」

彩由美は驚いた表情で葉羽を見た。
「え？そうなの？」

「ああ、たぶんな。佐倉の父親が有名な量子物理学者で、この町に来たのも研究のためだろう」

葉羽は立ち上がり、窓の外を見た。研究所のある方向を見つめながら、彼は深く考え込んだ。

「葉羽くん、この事件...調べてみる？」
彩由美の声に、期待と不安が混ざっていた。

葉羽は少し迷ったが、結局うなずいた。
「ああ、面白そうだからな」

その夜、葉羽は自宅で研究所の事件について調べていた。ネット上には様々な憶測が飛び交っていたが、信頼できる情報は少なかった。

そんな中、葉羽のスマートフォンに一通のメッセージが届いた。差出人は「不明」となっていた。

「神藤葉羽くん。君の探究心は素晴らしい。でも、これ以上深入りするのは危険だ。時空の狭間に潜む真実は、君の想像を遥かに超えている」

葉羽は眉をひそめた。この奇妙なメッセージ。送信者は誰なのか？そして、「時空の狭間に潜む真実」とは？

翌日、学校に向かう途中、葉羽は研究所の前を通りかかった。一見すると何の変哲もない建物だったが、葉羽にはなぜか不気味さを感じた。

教室に入ると、佐倉の姿が見当たらなかった。
「佐倉くん、今日は休みなの？」と彩由美が担任に尋ねた。

「ああ、家族の都合だそうだ」
担任の答えに、葉羽は違和感を覚えた。

授業中、葉羽の頭の中はその奇妙な出来事でいっぱいだった。量子物理学研究所の光現象、不可解なメッセージ、そして佐倉の欠席。これらは全て繋がっているのではないか？

放課後、葉羽は彩由美を誘って研究所の周辺を歩いてみることにした。
「ね、葉羽くん。私たち、本当に大丈夫かな？」
彩由美の声には不安が滲んでいた。

「大丈夫だ。ただ周りを見て回るだけだからな」
葉羽はそう言ったものの、内心では何か大きなことが起ころうとしているという予感がしていた。

研究所の裏手に回ったとき、二人は思わず立ち止まった。そこには、青白い光を放つ小さな球体が宙に浮かんでいたのだ。

「あ、あれは...」
彩由美が震える声で言った。

葉羽は球体に近づこうとした瞬間、背後から声がした。

「そこまでだ、神藤葉羽くん」

振り返ると、そこには佐倉量子が立っていた。しかし、その表情は普段の佐倉とは全く違っていた。まるで...別人のようだった。

「君たちに、時空の秘密を知られるわけにはいかないんだ」

その瞬間、青白い光が三人を包み込んだ。葉羽の意識が遠のいていく中、彼は確信した。これが、奇妙な事件の始まりなのだと。