時間の錯覚と虚偽記憶

2章

謎の転校生

第2章：謎の転校生

朝のホームルームが始まろうとしていた時、担任の先生が珍しく緊張した面持ちで教室に入ってきた。

「みなさん、今日から新しい転校生を迎えることになりました」

クラス中がざわめき始める。葉羽は窓際の席で、いつもの無関心そうな表情を浮かべていたが、内心では興味を抱いていた。

「どうぞ、入ってきてください」

教室の扉が開き、一人の少年が入ってきた。身長は170cm前後、切れ長の目が印象的な顔立ちで、どこか謎めいた雰囲気を漂わせていた。

「初めまして。佐倉量子（さくら りょうし）です」

彼が自己紹介を始めると、教室は静まり返った。

「父の仕事の都合で転校してきました。よろしくお願いします」

淡々とした口調で話す佐倉に、クラスメイトたちは興味津々の眼差しを向けていた。

「佐倉くんのお父さんは、有名な量子物理学者なんですよ」と担任が付け加えた。

その言葉を聞いた瞬間、葉羽の目が光った。量子物理学。それは彼が最近興味を持ち始めていた分野だった。

「佐倉くん、じゃあ空いている...そうだな、神藤くんの隣の席に座ってください」

葉羽の隣の席。それを聞いた彩由美が、少し不安そうな表情を浮かべるのを、葉羽は見逃さなかった。

佐倉が葉羽の隣に座ると、二人は軽く目が合った。その瞬間、葉羽は佐倉の目に何か異質なものを感じた。それは単なる転校生の緊張ではない。何か...秘密を抱えているような眼差しだった。

授業が始まり、佐倉は教科書を開いた。その動作の一つ一つが、どこか不自然に見えた。まるで、普通の高校生の行動を演じているかのように。

昼休み。
「ねえ、葉羽くん。新しい転校生ってどう思う？」
彩由美が葉羽の机に寄ってきた。

「さあ...まだよく分からないな」
葉羽は慎重に答えた。実際のところ、佐倉には普通ではない何かを感じていたが、それを言葉にするのは難しかった。

「そう...」
彩由美は少し心配そうな表情を浮かべた。

その時、佐倉が二人に近づいてきた。
「神藤くん、君が学年トップの成績だって聞いたよ。僕、物理が得意なんだ。もしよかったら一緒に勉強しないか？」

葉羽は一瞬躊躇したが、興味が勝った。
「ああ、いいよ。放課後図書室でどうだ？」

「ありがとう。楽しみにしているよ」
佐倉は微笑んで立ち去った。

その日の放課後、葉羽は図書室で佐倉を待っていた。彩由美は何か言いたげな表情を浮かべていたが、結局何も言わずに帰っていった。

佐倉が現れると、二人は物理の話題で盛り上がった。特に量子力学の話になると、佐倉の目が輝きを増した。

「神藤くん、君は量子もつれって知ってる？」
佐倉が突然質問した。

「ああ、粒子同士が離れていても影響し合う現象だろう？」

「そう。でも、それが時間を超えて起こったらどうなると思う？」

葉羽は眉をひそめた。その質問には、単なる理論上の話以上の何かが含まれているように感じた。

「どういう意味だ？」

佐倉は急に表情を曇らせた。
「ごめん、余計なことを言ってしまった。忘れてくれ」

その夜、葉羽は佐倉の言葉を思い返していた。時間を超えた量子もつれ。それは一体何を意味しているのか。

葉羽の探究心に火がついた。この転校生には、ただならぬ秘密がある。そして、その秘密は葉羽の想像を遥かに超える、驚くべき真実へと繋がっているのだった。